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マンドラゴラに転生したけど花の魔女として崇められています。……魔物ってバレたら討伐ですか?  作者: Mikura
三章

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36.6話 ニコラウス 後編



 眼帯の騎士の姿に化けてきたものの、玄関に向けて鏡を配置されては意味がない。【解除】と小さく唱えて魔法をかき消した。

 そんなニコラウスを獣人の子供が感心したように見つめている。



「魔法だったんですね。レオハルトさんとはにおいが違うと思いました」


「へぇ、なるほど。においまでは考えてなかった。それで正体が分かることもあるよね」



 魔族同士だと魔力量が大きいため、近くに来れば存在を感知できる。前回それが分かったので今回は魔力を抑え、姿を変えてきたがにおいまでは想定していなかった。


(他の何かに化けるっていうのは相当難しいからな。……あれも化けた姿じゃないみたいだし)


 花の魔女がニコラウスを歓迎するように笑っていたため、彼女の座るテーブルの向かい側に腰を下ろした。視界の端には自分が贈った鏡がちらりと入る。確かにこの配置なら、玄関から入ってきた相手を確認できるだろう。……これだけ活用しているなら、気に入ったに違いない。



「僕からの贈り物、使ってるってことは気に入った?」



 そうは思いつつも確認してみた。魔女は肯定するように微笑んでいるが、首を傾げる。魔法を込めた鏡を作ったのがニコラウスなのは気づいているだろうから、おそらくこれを贈った意図を尋ねているのだ。



「なんでかって? それはもちろんお前が余計な贈り物をしてきたから、お返しだよ。……城に戻った後、ちょうどいい商人がいると知ったんでね。お前のおかげで魔力は有り余ってたから転移魔法も余裕で使えた」



 ただ回復薬を受け取るだけでは、本当に子ども扱いだ。だから等価交換になるよう、価値のあるものを贈り返したのである。

 城に戻ったところでこのエルナト領地の領主からちょうど連絡を受け取ったのだ。魔女の監視をさせている商人から報告を受ける予定だが何かあるか、と。


(……新しく作るのは間に合わなかったからな。使えそうでそれなりに価値のあるものがこれ以外ですぐには思いつかなかっただけで……)


 ニコラウスの技量も伝わり、かつ魔女も普段から使えそうなものだ。しかもこの鏡を作ったのはしばらく前であり、ニコラウスの魔法技術はかなり洗練されていることが分かるはずだ。これでもう子ども扱いはしないだろう。


(おっと、これも忘れないように見せないとな)


 魔族が一人前になった証として作る、魔力回復薬。この魔女のように最高級とまではいかなかったが、高品質の回復薬が入った瓶を取り出して見せた。初めて作った時は低品質だったから、薬術も素人レベルではない。

 ニコラウスが見せたものが魔力回復薬であると気づいたらしい彼女は、今まで以上に笑みを深めて嬉しそうにしていた。……子供の成長に喜んでいる親のような顔だ。


(僕は一人で何でもできる。……できるようになった)


 魔族はあらゆる専門家が寄り集まったような種族だった。寿命が長いからこそ、一つの分野を研究、追及して極めることができる。命の短い他の人種と違って、急いで後継を育てる必要もなく、専門知識を持った者たちが集まってあらゆることに対処ができた。

 しかし生き残りはニコラウスだけとなってしまったため、同族たちの代わりに――彼ら全員の残した知識を吸収し、専門家とまではいかずとも、一人で多くの物事に対応できるようになったのだ。


(まあ……もう、薬学と植物関連はこれ以上学ぶ必要もないのかもしれないけど)


 花の魔女が本物の魔族であれば、彼女の寿命はないに等しい。それにニコラウスが彼女の知識や技量に追いつくことは絶対にないので、それならば別のことを学んでおいた方が効率がいいだろう。



「魔法使いさま、お茶をどうぞ。魔女さまもお代わりをどうぞ」



 ノエルという子供がテーブルの上に茶と菓子を並べた。魔境植物で作られたジャムを魔女が多めにカップの中に落としていたので、ニコラウスも出されたクッキーでジャムを攫って口にする。


(……甘いな……あんなに入れたら相当な甘さだと思うけど、この女は甘いものが好きなのか。……ふぅん)


 五百年山の奥にこもっていた彼女は、品種改良を重ねて糖度を上げた現代の果物を知らないはずだ。持ってきてやれば喜――いや、見せびらかして自慢すれば多少悔しがるかもしれない。次に来る時はそんなものを手土産にしてもいいだろう。

 もしくは王都の職人の作った菓子でもいい。ニコラウスも甘いものは好んで食べるので、いい店を知っている。五百年で文化も技術も大きく発展しているため、都会の様子など何も知らないはずだ。いつか店に連れて行って驚かせてやるのも悪くないかもしれない。


 大事な話があるならと、話の邪魔をしないように下がると自ら申し出た子供を、花の魔女は頭を撫でることで褒めていた。……なぜかその様子から目が離せない。


(この女は話せないからな。……絵版があれば……僕にも何か一言くらい……)


 わざわざ土産として用意した絵版を取り出し、魔女に見せた。案の定知らないようだったので使い方も説明する。

 絵版を受け取った魔女は一度線を引いたあと、何やら絵を描き始めた。透明な絵版のため反対側のニコラウスにも何を描いているのは分かりやすい。まるで問題集を解いた子供の正解を褒める時に記すような丸を重ねて、その周囲に花びらのようにさらに円を増やしていく。


(何それ。……褒めてるつもり?)


 つい笑ってしまわないように表情を引き締めて話題を変えた。王太子セドリックにも、魔女の協力を取り付けてくると宣言したからだ。

 言質が取れれば魔女は王国の味方である。王国から敵視されなければ彼女の身を守ることにもつながるだろう。……せっかく、同じ国内にいるのだから追い出されてはかなわない。逃げられたら本当に魔族かどうか確かめるのが困難になる。



「……魔境の変化は続いてる。もし、あそこから魔物が出てくるようなことがあれば……」



 やがてあの魔境から魔物が溢れてくる可能性は否定できない。その話をしても魔女は表情一つ変えずに微笑んでいるため、想定内なのだろう。……だからこそビット村に居を構えた。元から人類のために戦うつもりなのだ。


(竜と戦ったんだから当然か。……あの時の魔族も、人類のために厄災に立ち向かった。誰も彼もこいつみたいなお人よしだったんだろうな)


 だからきっと、魔物災害が起きた時。この女は一人でもその厄災へと向かっていくだろうと想像ができた。



「……まあ、お前なら自分で処理できるんだろうけど。でも、僕も国防の一端を担う宮廷魔導士だから一人でやるなよ」



 魔女が不思議そうにニコラウスを見ている気がしたので補足しておく。……察しが悪くて困ったものだ。



「手柄を独り占めするなって意味。ちゃんと僕を呼べ。騎士は…………時間稼ぎくらいにはなるかもしれないけど、僕の方が強いからな」



 ニコラウスとて魔法の研鑽を重ねた魔族だ。他の人種よりはずっと戦力として優れているし、間違っても眼帯の騎士の方を頼られては困るというか、魔族としての名折れなのだ。……この魔女は五百年生きたニコラウスを子ども扱いする節があるため、釘を刺しておかなければならない。まあ、実際もっと長い期間を生きている魔女からすれば子供の様なものかもしれないが。

 魔女は何も言わずにニコニコと笑っているので、絵版を使って話すように促しても感謝の一言くらいしか書かなかった。


(このままだと前線に立ちそうだな。実際、それができるくらい強いんだろうが……もし……)


 ――もし。この女がそこから帰ってくることなく、また一人になったら。……想像するだけで吐き気がした。


(……だめだ。前線に出さないようしたい。薬を作れるなら後方支援でも役に立つ。得意分野みたいだから、そこで有用性が示せれば……)


 彼女の作った魔力回復薬は最高級品質で、ニコラウスが作る物よりも効果が高い。あれを飲めば転移魔法の使用難易度すら下げられる。

 一日に十本でも作れれば充分な後方戦力になる。手土産にぽんと二本も渡してくるのだから、それくらいは作れないかと期待して尋ねてみた。



『100本程度なら』


「……は? 化け物かよ」



 あまりにも想定外の規格外で、つい口が悪くなってしまった。……だがしかし、あの品質の薬を日に100本作れる能力があるなら、後方支援に徹してもらっても悪くないと判断されるだろう。

 それだけの魔力回復薬があれば余裕で軍隊とその装備を辺境に送り込める。この魔女は安全な後方に待機させて、ニコラウスが前線に立つこともできるだろう。



「あの魔境は変化が早い。災害が起こる可能性は少なくないしもし何か異常に気づいたら、すぐ…………騎士にでも言えばいいんじゃない」



 災害の予兆に気づけばすぐに伝えろと言おうとして、さすがに親身になり過ぎだと思いなおした。この魔女は五百年もの間、同族を放置していたのだ。簡単に気を許してなるものか。

 別れを告げて帰ろうとすると、必要もないのに彼女はわざわざ転移陣まで見送りにきた。



「…………ここまでついてこなくていいのに、呆れた」



 言葉を持たない魔女は嬉しそうに笑ってニコラウスを見るばかりだ。お互いが最後の同胞であることを考えれば、魔女がニコラウスに対し親しみを持つのも当然だろう。

 だから馴染みの騎士の姿で現れるより、ニコラウスが来たと分かった時の方が喜んでいた。


(全く……僕が気を許したとでも思ってるんだろうな。勘違いするなって言わないと……)


 だがしかし、ふと思う。……結局ニコラウスは、この花の魔女を同胞だと認めてしまっているのだ。別に好きだとか親しみを覚えているとかそんな好意はないにせよ、魔族は魔族に違いない。



「……じゃあな、花の魔女」



 転移の呪文を唱えて去る間際にそう呼んだ。……魔女がどんな反応をしたかは確認しなかったけれど、きっと喜んだだろう。


(……ふん。これでもし僕を騙していたら絶対に許さないけどな)



勘違いしているのはお前だ……


寂しい幼少期を過ごした人って甘党になりやすいらしいです。

ニコラウスは甘党、レオハルトは辛党ですね。魔女は敵党てきとうかな。

……推し党に一票いかがです?


という訳でいつも応援いただきありがとうございます、更新の励みにさせていただいてます!

作者党にも是非…。


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お暇がありましたらこちらもいかがでしょうか。転生したら鳥だった。体は最強、頭脳は鳥頭
『お喋りバードは自由に生きたい』
― 新着の感想 ―
はい!私、チョコミン党です!(笑) 我が党が隆盛を迎える夏販売の時期が過ぎ去ろうとしていることに寂しさと、暑さがちょっとでもマシになることへの安堵を感じる今日このごろです。
全ては、「蓋」と「笑み」のおかげ(……の、せい)でいい具合に拗れていく……
マザコン…いやきれいなお姉さんによちよちされたい願望は魔族も人類も同じか 同志よ、いつか魔法で時空の壁を破ったら地球の日本においで 君の好きそうな書物がたくさんあるよ まぁそっちの世界の書物と違って薄…
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