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マンドラゴラに転生したけど花の魔女として崇められています。……魔物ってバレたら討伐ですか?  作者: Mikura
三章

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31話余談 レオハルト




 ビット村に滞在中の聖騎士団は空き家を一軒借りて宿としている。十人の共同生活にはやや狭いが、野宿のテント暮らしよりは余程快適だ。

 魔女の気遣いもあり、夜の明かりにランプ草を貰ったり、浄花によって衛生的なトイレが使えたり、住み心地は悪くない。

 魔物を討伐するために人里から離れた未開の土地などに踏み入ることもある騎士団だが、今回の任務では自然の厳しさを味わうこともなく、騎士たちも安心して過ごせている様子だった。


 魔女の調査自体は「ビット村の花の魔女は本物の魔族だ」という結論に達しており、現在もこの村に留まり続けているのは魔境の警戒のためである。魔女が本物ならば彼女と協力体制を築き、来る日の災害に備えるべきだというのが聖騎士団の判断だった。



「魔女ってこんな何でもできるんですね。魔導士殿もすごいですけど……植物に関しては魔女殿が上を行くかと。あの動くマンドラゴラも、なんかもう存在に慣れてきました」


「一応警戒は解くな。魔物だぞ、あれ」


「それはそうなんですけど……だってほら……リッター隊長まであんなですよ」



 部下たちの会話からレオハルトもちらりと同僚の姿に目を向ける。そこには魔女の眷属であるマンドラゴラを相手に、でれでれとした顔を見せるリッターがおり、とてもではないが守るべき市民には見せられない様子だった。



「紫ちゃんは今日もセクシーだな……でも駄目だ、見せつけるだけじゃ。時には恥じらうことも大事だぜ。こうやって、胸を手で隠しながら少し体を捻ってだな……」



 紫色のマンドラゴラは他の眷属たちとは少し様子が違う。まるで女性の様な体つきをしているせいか、リッターはそれがお気に入りらしい。女性に縁がなさ過ぎて、もういっそマンドラゴラでもいいと思っている節がある。

 そして今日はその紫株の前で何やら体を捻って妙なポーズをとるという奇行に走っていた。さすがにこれはどう反応すればいいのか、レオハルトにも分からない。あまり魔女の眷属に妙なことをしないでほしいのだが。



「隊長、気持ち悪いを通り越していっそ怖いです。女性に嫌われる理由が今の姿に詰まってます」


「……う……すまん……」



 部下の一人に苦言を呈されてさすがにその奇行をやめたリッターだが、もの悲しい表情をしている。そしておもむろにマンドラゴラを持ち上げると、ぐっと抱きしめた。……一体何をしているのだろうか。



「…………案外堅いんだな……」


「そりゃ、マンドラゴラですからね。……何を期待したんですか?」


「い、いや、まあ。なんでもないんだよ」



 そう言いながらもマンドラゴラを抱きしめたままのリッターだったが、腕の中の紫株は突然くねくねと動き出し、その手から逃れようとしていた。リッターは酷くショックを受けた顔で、逃げられないように必死にそれを抱きしめている。



「ああ! 紫ちゃん、逃げないでくれ……! 君にまで嫌われたら俺はもう一生女に縁がない!」


「マンドラゴラにそんなこと言ってる時点で一生ないですって」



 マンドラゴラが逃げないように必死に捕まえているリッターと、それに心底呆れた様子の部下を見ながらレオハルトは気付いた。……どうも様子がおかしい。紫株は必死にドアの方向に手足を伸ばしており、外に出たがっている。リッターから逃げたいだけではないのかもしれない。



「リッター、何か妙です。……もしや魔女殿に何かあったのでは?」


「え? ……そうなのか、紫ちゃん」



 こくりこくりと頷いたマンドラゴラの反応に不安が募っていく。リッターが放した途端、外に向かって走り出したそれを追いかけながら、レオハルトは声を張り上げた。



「私が様子を見に行きます、皆は待機を!」


「分かった! 何かあったらすぐ応援呼べよ!」



 紫株を追って宿を出る。勢いよく走っていくマンドラゴラの足には追いつけなかったが、確実に魔女の家の方向へと走り去っていた。やはり彼女に何かあったのだろう、あんなに急いで走る姿は初めて見た。


(魔女殿の身に何が起きた? 魔物が現れ、あの家を襲ったのか。それとも……声を誰かに聞かれて、襲われたとか……)


 レオハルトにとって唯一の理解者が花の魔女だ。彼女に何があったのかと気が気でないまま、息を切らしながら水車小屋の隣の家へと駆けつけた。

 開きっぱなしの扉から声を掛けつつ家の中を覗き、魔女の姿を見てまずはその無事を確かめようと声をかけた。



「魔女殿、ご無事で……っ魔導士殿がなぜここに……?」



 そこにいた予想外の人物に目を見開く。魔物にしか興味がないような、変わり者の宮廷魔道士。これまで世界で唯一の魔族とされていた人間だ。

 彼は王城の警護の一部を任されているので、そうやすやすと城を離れられないはずである。それなのになぜ、こんな辺境にいるのか。



「偽物を調べに来たんだよ、当たり前でしょ」



 花の魔女が現れるまで、彼が魔族の最後の一人だった。同族の話を聞いて真偽を確かめたいと思うのは当然の事だろう。


(……魔女殿にとっても唯一の同族、か)


 ニコラウスが少し羨ましい。そう思ってしまった自分に驚いた。

 花の魔女はレオハルトと同種の呪いを持つ理解者で、お互いだけが呪いに侵されない。だからこそお互いが唯一無二の存在なのである。しかしこの関係は、魔女とニコラウスにも成り立つのだ。


 同じ呪いの苦しみを分かち合う者同士と、お互いが唯一の同族である者同士。どちらが重いかといえば、きっと後者だろう。優しい魔女はレオハルトを蔑ろにすることはないだろうが、同族であるニコラウスのことは殊更に大事に思っているはずだ。……それが少し羨ましく思えてしまった。



「今のところは偽物と断定できない。……本物かどうかも分からないけどね。まだ信じてないし、偽物だと分かった時は許さないからな。正体が分かるまで何度でも来るぞ」


(魔女殿はあんなにもお優しいのに、失礼ではないか? 五百年の空白があるとはいえそこまで言わずともいいだろうに)



 ニコラウスが魔女に対し攻撃的な言葉を使うせいで、言葉の端々から彼を魔女に近づけたくないという感情が出てしまった。

 五百年生きた魔族がまるで反抗期の子供のようにも見える。だからなのか、魔女もあまり近づいてくることはなく、少し離れた位置からニコラウスを見守っていた。


(魔女殿が傷ついていそうで心配だ。……五百年は長いが、会おうにも会えぬ理由があったのだから。彼女は言い訳など、しないだろうが……)


 彼女とて声の呪いがなければすぐに赤子のニコラウスを引き取ったはずだ。それができずに五百年も離れていれば、気にしていても今更迷惑かと考えて身を引くことは予想できる。それでニコラウスから恨み言を言われても、彼女は笑って受け入れるだろう。


(暴言を吐きに来るなら来なくていい。魔女殿が悲しむだけだ)


 そう思ってもう来なくとも良いと暗に告げたのだが、しかし村を去ろうとしたニコラウスへ、魔女はどうやら魔力を回復する薬を渡したようだった。二つ分、ということは今使うものと、次に来るためのもの。


(魔女殿にとっても大事な存在を遠ざけたいなどと……傲慢が過ぎたな。魔女殿からすれば魔導士殿は子供にも見えるのかもしれない……悪態を吐いていても、可愛いのだろう)


 彼女は同族との再会を喜んでいるのだろう。ならば、レオハルトもそれを喜ぶべきだ。……この人に嫌われるようなことはしたくなかった。



「魔女殿。……同族と再会できて、よかったですね」



 魔女は優しく微笑んでいる。ニコラウスがいる間もずっと、こうして笑っていた。優しい人なので、やはり人族に預けられた同族が元気に育った姿を見て安心したに違いない。

 ニコラウスはいまだに魔女を本物だと認めていないが、その理由はおそらく彼女の行動にある。「呪い」のせいで人と関われず、ニコラウスを育てることもできなかった。それを明かせばニコラウスも全面的に協力してくれるようになるのではないか。彼女もそう考えているかもしれない。



「そういえば……魔女殿の悩みは、魔導士殿にもお伝えいたしますか?」



 いままでは二人だけの秘密だった。しかし魔女が望むなら、自分からニコラウスに説明をしよう。話せばニコラウスも態度を改めて――たった二人の生き残りとして仲を深めるかもしれないが、それでも彼女のために行動したい。そう思いながら提案したが、彼女は首を振った。


(……そうか。これは、同族にも明かせない秘密か。……それを私だけが知っている)


 大事な同族にも明かせない、重大な秘密を分け合っている。レオハルトが知ってしまったのは偶然でしかなかったが、魔女もレオハルトが秘密を守ると信頼してくれているようだ。

 これからもこの呪いの苦しみを、分かち合えるのは二人だけ。……その特別感に喜ぶな、と言う方が無理な話だ。



「……では、引き続き私たちだけの秘密ということで。家までお送りしましょう、魔女殿」



 心から笑って魔女を家まで送り届けた。これで心置きなく、ニコラウスからも彼女の秘密を守る騎士でいられる。

 家で待っていた従者のノエルに彼女を任せたあとは安心して騎士団の宿へと戻った。何故か紫株のマンドラゴラも一緒についてきたため、それをリッターが大喜びで出迎える。



「紫ちゃん! 戻ってきてくれたんだな……!」


「……レオハルト隊長、お疲れ様です。魔女さまはご無事でしたか?」


「ええ。……魔導士殿がいらっしゃっていましたので、マンドラゴラたちも集まったのでしょうね」


「えっあの魔導士殿が? ……紫ちゃんが連れていかれずに済んで良かったぜ……な、紫ちゃん」



 レオハルトはマンドラゴラに頬ずりする同僚は視界に入れないようにし、部下も苦言を呈するのをあきらめたのかそちらを見ていない。

 ただ見ていなくても声は聞こえてくる。レオハルトは同僚の未来が心配になってきた。



「あ、いけねぇ。露出部分に触るとちょっと魔力吸われるな……まあ紫ちゃんの栄養になるならそれもアリか?」



 ……しかしさすがにこれは、多少の元気をマンドラゴラに吸われた方が大人しくなっていいのではないだろうか?


ニコラウスはBSS(僕が先に育てたのに)


蛇足かなとも思っていましたが、感想欄で是非というコメントをいくつかいただいたのでレオハルト視点です。リッターと紫株の様子も書けてよかったかな。


感想もついに1000件を突破いたしまして、四桁はあまりにもすごいな…ってなっています。感想だけでなく、1万3千人もの方がブクマを、評価してくださった方も4000名越えと…いつもたくさん応援いただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます…!書籍にいいマンドラゴラ生やせるよう頑張ります…!

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お暇がありましたらこちらもいかがでしょうか。転生したら鳥だった。体は最強、頭脳は鳥頭
『お喋りバードは自由に生きたい』
― 新着の感想 ―
三枚目がたまには報われる話もいいですよね。 ちょっとやそっと吸われたくらいでは死ななそうですし紫ちゃんも報いるべく進化したら面白そうです。
リッターと紫株の未来がめっちゃ気になる(っ ॑꒳ ॑c)ワクワク
なんか昔話に大根だか蕪だかと致して子供ができる話がありましたね… 頑張れリッター!
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