年末のひとときに
ゆったりとした年末も良いかもしれないよ
ニトリで買ったこぢんまりした炬燵で恋人のレミと二人並んで温々している。天板の上には定番のみかんの籠盛りが置いてある。
「お休みだねぇ」
「そうだな。年末だしな」
「あっという間だったねぇ」
「それはホントそう思う。ついこの前まで夏だと思っていたのにもう年も暮れちまってる」
チカをルームメイトとして迎えて早くも半年が過ぎた。
チカとはもう2年近く付き合っているけど、一緒に住むなんてことは考えていなかった。ただ、いざ住んでみると存外に心地良いことに気づく。
彼女が「同棲っていうとなんかエッチな気がする」という意味不明なことを言うので、この状況は同棲ではなくあくまで互いにルームメイト同士ってことになっている。
俺の部屋は1LDKなのでベッドはチカと共にしているし、彼女はかなりエッチなことが好きな方なので余計にわからない。
「おみかん食べる?」
「そうだな、食うかな」
「じゃぁ、剥いてあげる」
「ん」
チカはかなりの甘やかしたがりのようで、こうやって二人きりでいると何でも世話を焼いてきてくれる。多分このみかんも剥いたあと俺の口まで運んでくれるのだろう。
「美味い。チカも食べなよ」
「うん、カズが食べ終わったら食べるよ」
俺が食べ終わるまではあくまでも俺につきっきりで世話をするつもりらしい。
「そうだ。来年には引っ越そうと思うんだけど」
「えーそうなの。この部屋は狭いけどわたし好きなんだけどなぁ」
「でもあくまでもこの部屋、というかこのマンション自体単身者専用みたいなものだから何かと不自由だし、この先も二人で一緒に暮らすとなると、ね」
「……うん」
このタイミングが正解なのかはわからないけれど、俺たちはこういう風にゆったりとしていた中にいるのがお似合いだと思っているから。
「チカ、そこの箪笥の一番上の左側、開けてみて。紙袋があるから取ってくれないか?」
「うん……これ?」
「そう、それ。開けてみて。できれば包み紙は破らない方向で」
「はーい」
チカは言われた通りに包をそっと剥がして中身を取り出す。そしてそのまま固まる。その姿がなんか面白い。
「これって?」
「その箱も開けてみて」
「指輪……」
「まあその、これからも俺とずっと一緒に入れくれないかな」
チカは飛び込むように抱きついて来て全身で了承の旨を伝えてきてくれるし俺のみかん味の口内も十二分に堪能している。
因みに包み紙にしていたのは婚姻届の用紙。
元旦の役所に提出するのも良いかな。