フラグ回収必至の彼女。
こんにちは!小窪待春です!
是非ごゆっくり〜〜!
俺の幼馴染には特殊な能力がある。フラグを立てた途端、現実が実際に回収してしまうというものだ。つまり、フラグを立てた途端に彼女の未来は決まる、ということだ。
「よっ!」
登校中に気さくな声で声をかけてきたのは、大田美空だった。幼馴染。
「顔色悪いけど大丈夫か?」
俺は気になったことを訊いた。
「今日小テストじゃん? 勉強してたのよ」
「何時寝よ?」
「2時!」
「マジか? ただでさえ体弱いんだから、徹夜もほどほどにしとけよ?」
「うん。まあ、半分くらいYouTube見てたんだけどね」
「バーカ」そう言うと美空が声を出して笑った。
「それでも勉強してきたし、計算問題だから満点は行けるぜ」
美空はまたきゃははと声を上げて笑ったが、顔を青くしてこうおれに訊いた。
「ね……ねえ、これってフラグかな?」
「……たぶん、そう……そんな感じする。もしそうだったら、これ……お前、赤点かもよ……?」
「私の徹夜が……!」
「半分YouTubeだろ?」
美空が声を立てて笑った。もうこうなってしまったからには諦めるしかない。結果は、ご想像の通り、百点満点中二十五点。見事なる撃沈。
中学校に上がって失言は減ってきてはいたが、今日のような日がたまにあるのが現状だ。
重大な部分でミスをしてしまうと、本人はだいぶヘコむ。
しかし、そんな彼女でも楽しみにしている行事がある。
それは、球技大会。今日から練習が始まる。
俺も球技大会の練習をしていたので、競技は別々だったが、帰りは美空と一緒に帰ることになった。
「どうだった? 俺テニスだけど、全然慣れねえな」
「……終わった……」
「……? 何をやらかしたんだ?」
「わたし、バレーを選んだんだけど、ね。守備についてて、練習中にちょうどボールが飛んできたときに
『任せて!私に任せて!』みたいな感じでこうアンダーハンドで取りに行ったわけ」
彼女は手を組んでアンダーハンドパスの姿勢を作ってみせた。そして続けて、
「そしたらどうなったと思う? 思いっきり空振ったのよ。フラグ回収完了!あざした!こんな世界、生きにくいいいいーーーーっ!」
彼女なりの悩みのタネを俺は吹き出しながら聞いていた。
「ちょっと! 私だって私なりにチームに貢献したいんだから!」
「そーだよなー。フラグで迷惑にならないよう個人競技とかは?」
「やだよ、テニス部も卓球もバド部もエースに勝てるわけないじゃん」
「そうだよな!ごめんごめん」
それからはいつも通り、どうでもいい話で家まで道を辿った。夕日が沈んでいく。きれいな橙色だった。
それから、彼女は結局競技をドッジボールに変えたらしい。口より体が先に動く彼女には最適だとのこと。ドッジボールなんて小学生かよ、と言ったら彼女は怒っていた。
彼女は最近変だ。いや、俺が変なのか。あるいは、俺の目に映る彼女が変なのかもしれない。
つまり俺は――。
朝からのもやもやに、俺は授業に集中することができなかった。適当に聞き流して、球技大会への練習になる。第2体育館へ行くと、美空所属のドッジボール班が練習をしていた。外では三組と四組が練習をしていた。二組一グループ対抗なのだ。
「よう、岡村」
そう声をかけてきたのは三組の二宮だった。
「なんだ二宮? 偵察か?」
俺はふざけて訊いた。
「いや、違うぞ。おりゃそんな卑怯な真似はしねぇ。お前にしばらく会ってなかったから顔を合わせに来ただけだよ」
「そういや、去年ぶりだな」
こいつとはクラス替え以後会っていなかった。
「ところで、お前、あの大田美空にゾッコンかよ?」
二宮はニヤついて訊いた。
「ちがうよ、そんなんじゃないよ。ただの幼なじみだからさ」
「ふん、本当にそれだけか?」
「それだけだって」
それでも二宮はニヤニヤしている。俺は肘で二宮を小突いた。
「……てか」俺は訊いた。
「なんで見てるってわかった?」
「俺はお前が大田美空を見てるなんて一言も言ってないが?」二宮はヘラヘラして言った。
ちっ。やられた。こいつなんでこんな時だけ頭いいんだよ。
「そりゃ、ドッジボールとか、バスケじゃなくて体育館の端っこの女子をみてたんだから、こいつ、あの女子が好きなんだろうなあって思ったわけさ」
「べつに……好きとかじゃないからな……」
図星だった。見ていたのは。
「本当か? ま、相談ならいくらでも乗ってやる。ま、当日は正々堂々戦おうぜBRO」
少しおかしなしゃべり方で二宮はグラウンドへ帰っていった。
美空も、女子中学生っていうイメージにそぐう容姿になってしまった。別に悪いことじゃないけど。
小学生のころは、美空はわんぱくで男子ともよく遊んだし、プールの授業とか、距離が近いこととか、特に抵抗を抱くことはなかった。
しかし、心からだ両方おとなになり、色気付き、かわいい女子中学生、みたいな感じになった。そして俺も変わった。美空に特別感を抱くようになった。美空と目が合うと恥ずかしくなった。美空と話しているときは顔が赤くなるようになった。
これはもう……。いつか、いつか決行すべき時が来るのだろう。……今ではないはずだ。
美空と目が合った。美空はそれからニッコリと笑って、ちょっとまってて、と口パクで俺に伝えた。
その日の帰りの美空は少し変だった。いつもは練習のあとは疲れたー!みたいなことしか言わないのに、全然投げれなかった、とか、足が遅くなったみたいな、ネガティブなことを俺に愚痴った。いままで美空の相談にならいくらで持ったことはあったから、大丈夫だよ、と励ました。よほど悔しくてドッジボールに力を入れて取り組んだらしい。顔が少し火照っていた。
そんなことがあって競技大会当日になった。
美空曰く、準備万端とのこと。フラグもなく、ちゃんとプレイできるらしい。
しかし、俺たち五・六組は厳しい展開に悩まされていた。個人競技では僅差で追いかける形となり、バスケットボールで男女が勝利し、バレーボールが男子はギリギリで勝利するも、女子は惜敗。ドッジボール男子は引き分けとなり、難局に瀕していた。すなわち、この女子ドッジボールが五・六組チームと一・二組チームの勝負の決着をつけることとなる。
個人競技の部はもう終わったので、観客席からドッジボール戦を固唾をのんで見守っていた。
最初のうちは、当てたり当たられるなりして、激しい攻防が続いていたが、最終的には数名が残る状態となり、一・二組チーム残り四人、五・六組チームは残り美空含め三人。やや不利のこの状況。美空はどう動かすか。
そこで、一・二組チームのリーダー的存在、吉浦さんが、美空に声をかけた。吉浦さんは、美空がただのぶりっ子だと勘違いして、美空を目の敵にしている。
「まあ、よくここまで勝てたわね」
「ああ……ありがとうございます」
二人は面識はほとんどないから、吉浦さんもひどい人だ。
「私のチームの残っている人たちは全員攻撃を得意としているわ。あなたたちはどう?よけてよけてよけてよけて…………。もう時間の無駄よ」
吉浦さんはそういうなりボールを投げて美空でないもう一人にあたり、外野に渡ってもう一人もアウト。
四対一。
「どうする? 降参なら今のうちよ」
「ふん、私が、あんたなんかに降参しないわよ!私なんてったって、豪運の負け知らず、大田美空ですから♡」
あ。これは…………。
勝ちフラグだ。
そういうなり、相手外野のボールをキャッチ、シュンッと腕をしならせて剛速球をどんどんぶつけていった。
一対一。大田美空と吉浦さんの一騎打ち。
吉浦さんがボールを外野に渡したと思ったら、外野がコートの横側に駆け出してきた。
まさか、横投げ?
「ひきょうだぞ!横投げなんか!ルール違反だ!」
「ルールブックにそんな記述があったかしら?私は勝てればいい」
外野が美空に後ろから三メートほどの至近距離でボールを放った。
バシン、と音がする。美空に当たった。
吉浦さんがニヤニヤと笑って見ている。
美空が動いた。
ボールの落下地点へ駆け出し、すんでのところでボールをダイビングキャッチした。
そのまますくっと立ち上がり、
「いっきまーす♡」
と、その屈託ない笑顔とは裏腹の剛速球を吉浦さんにぶつけた。
勝利のホイッスルが鳴り響く。
俺たちは、勝った。総合優勝。勝てた。圧倒的不利だったのに。
教室に帰ってみんなで喜びあった。すごいすごいと美空は称賛の的だった。
「帰り、体育館に集合しよう」
俺にはやることがあった。俺は美空にこうLINEを送った。
「うん」と返信が来たので大丈夫だろう。
冬の前の少し冷たい空気が辺りを覆っていた。夕暮れだった。
俺は美空の前に向かい合っていた。
「俺は、ずっと美空に言えていなかったことがある」
「うん」
「おまえは、ほんとにすごい。フラグに縛られても、絶対に屈しない。いつも乗り切っている。俺だったら無理だ。
それでな、俺、ずっと、美空のことが好きだったんだ」
一瞬だけときが止まって美空の顔が輝いた。
「私も。まさくんがいてくれてよかった」
「大大大好き!」
美空が俺に抱きついた。これはプラグなんかじゃない。俺たちの意思だ。
「こんにちは、まさです!」
「美空です!」
「この小説は、ちょっと、読みにくいかもだけど、俺たちのこと、ちゃんと見ててくれてありがとな!」
「すべての行動は、君がアクションしなきゃ、動かない。君の友達も、好きな人も、何かしないと、何も起こらない!」
「俺たちはずっとここにいるぜ!また来てくれよな!」
「「またね〜〜!!」」