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#2 初恋の人が妹になった日・interlude


「やっぱり、そうしてくれると思った」

 少女の声。

 耳朶を打ったその声に、僕は目を見開く。

「ありがとね。セリカちゃんを助けてくれて」

 見開いても、目を凝らしても、視界は暗い闇のまま。ただ、聞き覚えのある声を探して、僕は虚空に手を伸ばす。

「これで、わたしも――ッ!?」

 安堵から突如、苦悶に変わる声。ノイズ。

「どうしたっ!」

 思わず叫んだ僕。大人の男の声にもまた、ノイズが混じっていて。

 困惑する僕の耳に、ため息が届いた。

「……また、だめだった」

 なにがだめだったのだろう。意味不明が脳内を渦巻いている僕を置き去りにして、少女の声は告げる。

「でも、たぶん、セリカちゃんは『戻った』はず。今までにない進歩だよ」

「なにがなんだかわからないんだけど……」

「すぐにわかるよ」

 なにもわからない。なにもわからないよ。――話したいことは、山ほどあるってのに。

 無情にも、少女の声は告げる。

「じゃあね。また――」

「待って!」

 ノイズ交じりになる声。僕は手を伸ばし。

「――また、あとで」

 叫んだ。その声の主――初恋の少女の名を。


「待ってくれ――なずな!」


 ガバっと上体を起こした。

 はあはあと息を吐き、ベッドの上。右手を宙に伸ばしたまま。

 成人男性の僕――青木 (ハコベ)は、目を覚ましたのだった。


 ……夢、か。

 夢にしてはリアルだったけれど。

 薄暗い部屋。ぶーん、という音が鼓膜を静かに揺らす。

 部屋の隅、デスクに置かれたノートパソコン。画面を切ってたたずむそれに僕はため息をついた。多分パソコンを付けたまま寝落ちしたんだろう。

 そういえば、課題を提出しなきゃいけないんだっけか。

 冷えてきた頭。あくびを一つ。スリープ中のパソコンを叩き起こし、課題のファイルに手を付けようとした。

「おはよう、お兄ちゃん!」

 びくりとした。――僕をお兄ちゃんと呼ぶ存在はいないはずなのに。

 声の主を探して辺りを見渡すと「ここだよ、ここ! パソコンの中!」とヒントを与える声。

 パソコンに視線を落とすと、開いた覚えのないウィンドウが開いていて。

 それを開くと――僕は背筋を凍らせた。


 ――初恋の少女が、そこにいた。


 慌てて右上の×をクリックしてウィンドウを消す。が。

「もう、お兄ちゃんってば。消さないでよー。やっと話せるようになったんだから、さ」

 新手のウィルス? 変なサイトにでも引っかかったか? それとも幻覚?

 もう一度勝手に開いたそのウィンドウ。表示されてるのは、どう見たって僕の初恋の人――のような、二次元の立ち絵。昨晩インストールしたものすごく安いエロゲの、なずなちゃん。

「それとも、こう呼んだほうがいい? ――はーくん」

「やかましいわ」

「お兄ちゃんのばかー!」

 思わずツッコミを入れた僕に子供っぽい語彙で返すパソコンの中のなずな。

 ――その実、心の中はぐちゃぐちゃだった。驚きと、感動と、混乱とで。

 パソコンの中で頬を膨らます彼女に、僕は問いかける。

「なあ、お前ってなんなんだ?」

「なんなんだってなによ」

「だから――お前は何者なんだ?」

「ナニモノって。それ聞いちゃう? はあ、まあいいか」

 彼女は微笑んで告げた。


「私はなずな。『東御 なずな』――君が小学四年生の時に死んじゃった、ね」


 自己紹介。僕は生唾を呑む。

 彼女――なずなは、カメラ越しに真っ直ぐ僕を見つめて、告げた。

「ね、お兄ちゃん。もし、君の行動で誰かを生き返らせられるとしたら、どうする?」

「……は?」

 思わず口からこぼれた声に、「まあそうなるよね……」と嘆息するなずな。

「詳しく説明したいけど……時間、だいじょうぶ?」

 その指摘に、僕はモニターの右下を見た。

 二十四時間制で八時過ぎを示す時計に、僕は「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」と叫びをあげた。そろそろ家を出なきゃ一限に間に合わねぇ!


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