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イセカイロセカイ  作者: Elisu Arina
橙の章
99/130

第98話 リレー対決の行方


 教師陣専用のテント下で、丁字茶(ちょうじちゃ)の近くに立っていたイケメン教師チェスナットは、苦笑いで同僚の彼(彼女)に顔を向ける。

グラウンドの真ん中で応援中のマゼンタ、マロウ、そしていつの間にか二人の側にやって来た緋色(ひいろ)柑子(こうじ)も、そこら中に響き渡る丁字茶の声に啞然としていた。

「丁字茶先生って、葡萄(えび)さんのことがお好きなんですね」

柑子が苦笑いで言った。

「そーなのっ⁈」と、驚愕する緋色。

「じゃない?体術クラスでも結構葡萄さんに気を遣われているというか……」

たぶん追いかけ回しているというか……

柑子は後半の言葉を口には出さずに飲み込んだ。

が、緋色は納得がいかない。

「でも丁字茶先生男だよ!」女装してるけど……!

するとマロウ王子が緋色を見下ろして言う。

「心は女性なのでは?」

「え゛っ……」

緋色が愕然とするその側で、マゼンタはトラックを必死に走る葡萄を見つめていた。

「というか……」彼女がポツリ呟く。「私たちのチームが最後だな」

緋色、柑子、マロウも葡萄のほうへ視線を向ける。

葡萄は必死に走るも周囲の生徒たちに追い抜かれ、見事に最終走者となっていた。

「そのようですね」

マロウは眼鏡の彼の姿を追いかけながら微笑んだ。

 教師陣のテント下では、実況席から立ちあがったままの丁字茶がマイクを握りしめて叫ぶ。

「葡萄ちゃーんっ!ガンバってっ!負けないでっ!走り続けるのよおーっ‼」

 丁子茶の叫び声はかなりのものだったが、声援を向けられた当の本人は、彼(彼女)の声にも気づかないほど懸命に走っていた。

(もうっ、オッサンには、限界ですよっ……!)

普段なら嫌悪する愛称もどこへやら、葡萄は日差しが照り付け橙星(だいだいぼし)特有の湿気が立ち込める中、全身から汗を吹き出して必死に走る。

御年二十四歳、クラスでは最年長。頭を使うのは得意だが、運動は決して得意ではない彼は、汗で眼鏡を鼻からずり落としながら、とにかく前だけを向いて走り続けた。

 そんな彼の姿を、グラウンドの真ん中にいるマゼンタたちが目で追いかけている。

(葡萄……!)

マゼンタが心の中で彼の名を呼んだ。

「もうーっ、見てらんねえよっ!葡萄ガンバレっ!」たまらず緋色が声を掛ける。

それに対し柑子は呆然と「緋色、葡萄さんたちはライバルチームだよ……」

「はっ!そうだった!オレたちのチームは⁈ラセットはっ⁈」

緋色と柑子はトップを走る選手に目をやるが、そこにラセットの姿はない。

「あれ、ラセットは⁈」

「あ、あそこっ!」

柑子がトップより少し遅れた集団の中に紛れるラセットの姿に気づく。

「ああっ!追い抜かされてるっ!」

 そうこうしている間にも第二走者の生徒たちが次々に第三走者にバトンを渡していく。

一足先に走り終えトラックの側に立っていたビスタは、親友を叱咤激励していた。

「ラセット頑張れっ!気ぃ抜くんじゃねえっ!」

ラセットの耳にビスタの大声は届いていたが、

(そんなこと、言われたって、胃の中身がっ……!)彼はそれどころではなかった。

 第三走者のスタート位置には、マルーンが他の生徒たちに紛れて待機している。

(ラセットさん……!)

マルーンがチームメンバーの彼をひたすら待っていると、ようやくラセットがマルーンに辿り着いた。

「後は任し……っ!」

言葉を振り絞って、ラセットはマルーンにバトンを渡す。

「はい……!」

熱い棒状の筒を受け取ったマルーンは走り出した。


 テント下の実況席で丁字茶が叫ぶ。

「第三走者がもうスタートしてるけど葡萄ちゃーんっ!あと少しよっ!頑張ってーっ‼」

丁子茶は教師でありながら、彼の瞳に他の生徒は映っていないらしい。

テント下の教師たちに交じって椅子に座っている新人の檜皮(ひわだ)は、啞然としながら丁字茶を見上げた。

(丁字茶先生、もはや実況じゃないですね……)

 その頃、トラックからグラウンド中央へ戻ってきたラセットは、異様にフラフラとしていた。しかもどことなく顔色が悪い。

トラックの側に控えていたビスタが早速近づいて、

「おう、おかえ……」と、親友に声を掛けようとした時だった。

「おえーーーーーーーっっ!」

ラセットの口からビスタの胸元に向かって、昼に食べた肉や揚げ物や菓子類が盛大にぶち巻けられた。勿論、未消化のままで。

「ぅおおおおおおおいっっ‼」

ビスタとラセットは幼い頃からの親友だ。だから当然相手を信頼している。

だがビスタは悲鳴を上げずにはいられない。

彼の茶色いジャージはものの見事に親友の汚物で汚された。

 まさかビスタとラセットがそんなことになっているとは知らない緋色と柑子は、グラウンドの真ん中のマゼンタとマロウの側で、第三走者のマルーンの姿を目で追っている。

「マルーンっ!」と、緋色。

柑子も「頑張っ……!」と、友人を応援しようとした。

しかし二人は突然、固まってしまう。

(遅っそ……)

緋色も柑子も決して口には出さないが、同時に同じことを思った。

マルーンはマルーンなりに必死に走っているようだが、周囲の生徒たちにどんどん追い抜かされていたのだ。

 「えっさ、ほいさっ……」

マルーンは妙な掛け声を呟きながら、淡々と走る。

しかも周りに追い抜かされているというのに、全く動じていない。

 その姿を緋色と柑子は何とも言えない顔で眺めた。

「葡萄といい勝負かも……」緋色が言った。

「き、きっと、彼は彼なりに、頑張って走ってるんだよ……!」柑子が冷汗を垂らす。

「お、おう、そうだなっ……!マルーンガンバレーっ!」

「マルーンファイトーっ!」

気を取り直した緋色と柑子が友人を再度応援し始める。

彼らの側に立っていたマゼンタは、その時点で既に緋色たちをじっと観察していた。

(この二人が第四走者と第五走者。恐らく緋色が最終走者だろうか。ということは……)

その時、また妙な視線を感じた。

何者かがすぐ側で、自分を見つめている。

マゼンタは緋色と柑子から目を離すと、妙な視線の方角へ顔を向けた。

すぐ側に立つ紫星(むらさきぼし)の王子が、自分をじっと見下ろしている。

背丈は少ししか変わらないはずなのに、なぜか見下されている、そんな感じを受けた。

「なんだ?」

「いえ。葡萄さんがもうすぐ到着されますよ」

マロウの言葉にマゼンタははっとして、眼鏡の彼の姿を追う。

 葡萄がちょうど第三走者のコチニールに、バトンを渡そうとしているところだった。


「はあっ、はあっ……!」

息も絶え絶えの葡萄がコチニールの目前に迫っている。

「葡萄っ!あと少しっ!」

「お願い、しますっ……!」

葡萄は最後の力を振り絞って、コチニールにバトンを手渡した。

「任せてっ!」

そう口にするなり、コチニールは颯爽と走り出す。

 テント下の実況席では丁字茶が歓喜の雄叫びを上げた。

「きゃああああっ‼葡萄ちゃんゴーーーーーールっっ‼おめでとーーーーーっ‼」

 トラックの側に立っていた焦茶(こげちゃ)先生は、同僚の丁字茶に呆れている。

(なんで特定の生徒だけ応援してるの……)

 焦茶がそう思う頃、第三走者のコチニールはどんどん他の生徒たちを追い抜いて走っていた。

(ちょっとでもトップと差を縮めなきゃ……!)

コチニールが軽々と生徒を追い抜く姿を、グラウンドの真ん中に立つマゼンタと緋色はじっと見つめている。

「ヤベえ、コチニール速えぇ……!」

これじゃマルーンが追いつかれる……!

緋色がさすがに焦りを見せた。

「コチニール……!」マゼンタも兄の走りを見て、彼の名を口にする。

 そこへ、ヘンナがマゼンタの元にフラフラ状態で戻ってきた。

「あーいたいた」

「ヘンナ、お疲れ様」

「ほんと疲れた……」

ヘンナはぐったりした顔でトラックに視線を向ける。

「おー、さすがコチニール。私と葡萄の分を取り返してくれてるのね」

「ああ」

「あれ?ところでビスタたちは?」緋色がヘンナに尋ねた。

「あー、あっちでラセットがビスタに吐いてた」

「え……」緋色とマゼンタの反応が見事に揃った。


 テント下の実況席では「さあ、気を取り直してっ」と、丁子茶がテーブルの前に置かれた椅子に座る。

彼は何度か喉を鳴らすとグラウンドを眺めて、

「第三走者が第四走者にもう到着しているわね。みんな、最後まで気を抜くんじゃないわよ」マイクを通して穏やかに告げた。

丁子茶の近くに座っている新人教師の檜皮は啞然とする。(すごい温度差……)

 その頃トラックでは確かに丁子茶が言うように、第三走者の生徒たちが第四走者にバトンを渡していた。

第三走者のマルーンも中盤の彼らに交じって、第四走者の柑子の元へと必死に向かっている。

「マルーンっ!」

柑子が友人の姿を確認して名前を呼んだ、その時だ。

自分の隣に紫色の何かがすっくと立った。

柑子ははっとして隣の人物を見上げる。

紫星の王子が自分に向かってにこりと微笑んでいた。

「もうすぐ私たちのチームもコチニールさんが到着しそうなので」

彼の言葉に柑子は驚いて、固まりながら走ってくる第三走者の背後に目を向ける。

そこには赤星(あかほし)の少年が物凄い勢いで中盤の第三走者のすぐ後ろに迫っていた。

(コチニールさんっ⁈)

柑子は目を見開いた。

確か第二走者の葡萄さんが一番最後を走っていたはずなのに……⁈

するとマロウ王子が丁寧に述べる。

「どうぞよろしくお願いいたします、柑子殿下」

「こ、こちらこそ、お願いいたします……」

相手の対応に思わず柑子は頭を下げてしまったが、彼の脳裏ではごちゃごちゃとした思いが駆け巡っていた。

(もう、なんでこんな所で萎縮してるんだ……!これはチーム戦、私だけの戦いじゃない……!本気で頑張らなきゃ、本気で挑まなきゃ、たとえ相手がマロウ殿下でも……!)

何を考えているのか、焦りを見せる柑子を見透かすように、マロウ王子は微笑んだ。

そうこうしているうちに、第三走者のマルーンが柑子に辿り着く。

「殿下っ……!」

マルーンは柑子にバトンを手渡した。

それと同時に「はいっ!」と、柑子が走り出す。

 しかしマルーンが柑子にバトンを渡してすぐ、コチニールがマロウの元へと駆けてきた。

「マロウ殿下っ!」

コチニールがマロウにバトンを渡す。

「はい」

バトンを受け取ったマロウは、柑子を追って走り出す。

コチニールは勢い余ってトラックに回転しながら倒れ込んだ。

そこへイケメン教師のチェスナットがどこからやって来たのか、コチニールに駆け寄った。

「大丈夫かい⁈」

だがコチニールは自分が転がったことも、チェスナットが自分の側にいることにも気づかず、マロウ王子が走っていく後姿を目で追った。

「殿下……!」


 テント下の実況席では丁字茶が首を傾げている。

「あらぁ?これはぁ?」

トラックを走る第四走者の中に、軍事学園では物珍しい人物が二人いた。

一人は橙星の王子、柑子。もう一人は紫星の王子、マロウ。

先を走っていたのは柑子だが、その後すぐマロウは柑子に追いついた。

 柑子は走りながら横をちらりと見て、紫星の王子に気がつく。

(マロウ殿下……!)

マロウは柑子に微笑むとそのまま走り続け、二人は並行しながら他の生徒たちを追い抜いていった。

 テント下の実況席で丁字茶が椅子から立ち上がる。

「あたしらの王子様と紫星の王子様が一緒に走ってるじゃないのっ!」

 丁子茶の叫びを聞きながら、第五走者の待機位置に立ったマゼンタが柑子とマロウの姿を見つめていた。

(あいつ……)

マゼンタがマロウを微かに睨むと、隣にお馴染みの少年がやって来た。

「やっぱこうなるか、マゼンタ!」

少女は半ば呆れたように緋色を見下ろす。

少年は例に漏れず宣言した。

「今日こそ決着をつけてやるぞっ!覚悟しておけっ!」

「蛇掴み競争で決着はついている。なんなら武闘大会でもついている」

「あれはあれっ、これはこれだっ!」

「なんなんだその言い草は」

「とにかく、オレはこの勝負で絶対おまえに負けない!絶対にだっ!」

「はいはい」

「〝はい〟は一回っ!」

 毎度のやり取りにマゼンタが溜息をつくと、実況席の丁字茶がさらに叫ぶ。

「ちょっと待ってっ!ウチらの王子様と紫星の王子様がトップに立っちゃったじゃないのっ‼」

 確かに柑子とマロウは他の生徒全員を追い抜き、二人並ぶようにトップに躍り出ていた。

(マロウ殿下、やっぱり足も速いっ……!)

柑子が隣のマロウを気にするも、相手は微笑んだまま走り続けている。

やがて二人は第五走者のスタートラインへ真っ直ぐ向かってきた。

「来た来たあっ!」

興奮した緋色がトラックに立つ。

マゼンタも渋々ながら緋色の隣に立った。

彼女は自分に向かってくるマロウに視線をやる。

マロウは相変わらず微笑みながらマゼンタの元へ向かっていた。

(こいつはまったく……)

彼女が緋色だけでなく、マロウにも呆れた時だ。

「緋色っ!」柑子が緋色にバトンを渡す。

「お願いしますっ」マロウもマゼンタにバトンを手渡した。

「おーよっ!」バトンを受け取った緋色は思い切り走り出す。

マゼンタも受け取ったバトンを手に、緋色の後を追いかけた。




















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