第85話 体術試合
中央棟の真ん前にあるグラウンドでは、新入生の生徒たちがウロウロしたり、一対一で向かい合ったり、互いを掴んでは投げ飛ばしたりしていた。
太陽はもうすぐ一番高い地点へ到達する。つまり一日の中でも一番暑い時間帯がやって来る。
しかし彼らはもうそれどころではなかった。
まず、戦う相手を見つけなければならない。次にその相手に勝たなければならない。一度で勝つことが出来ればあとは高みの見物だが、そうでなければ次の相手を探さなければならない。そしてまた戦って、勝つまで永遠にそれを繰り返さなければならないのだ。
だからもう暑さ云々などどうでもよかった。
そんな中、鮮やかな赤紫色の少女と、この星で新しく出来た友人が、少し間隔を開けて向かい合っていた。
彼女たちの側では、コチニール、葡萄、緋色の三人がこれから始まる試合の様子を心配そうに見守っている。
コチニールが赤紫色の少女に向けて言う。
「マゼンタ、絶対手加減してあげてね……!」
「オレみたいにボコボコにすんなよっ……!」緋色も叫んだ。
「いくらなんでもしませんよ」葡萄が緋色に呆れる。
マゼンタは相手のヘンナを真っ直ぐに見つめていた。
ヘンナが片手を上げる。
「じゃあ行くよっ!」
「ああ」
ヘンナはマゼンタのほうへ走ろうとした。
その瞬間、緋色がはっとする。
ヘンナは既にその場で地面に尻餅をついていたのだ。
マゼンタはというと、ヘンナのすぐ側に立ち、彼女を見下ろしている。
ヘンナは尻餅をついたまま目をパチクリとさせた。
コチニールがほっと胸をなでおろす。
「今の……」呆然とした葡萄が言った。
「ん?」
「見えました……?」
「ううん、見えなかったけど」
コチニールがさも当然のごとく返した。
彼らの隣に立つ緋色は、マゼンタをじっと見つめた。
「え……今……」
ヘンナがやっとマゼンタを見上げる。
「何した……?」
「おまえを倒した」
赤紫色の少女は自分の右手をヘンナに差し出した。
その手をヘンナが掴むと、マゼンタは彼女を引っ張り上げる。
「えっ……えっ……えっ……?」
ヘンナは困惑していたが、彼女たちを見ていたコチニールは微笑んでいた。
「心配するほどじゃなかったね」
マゼンタはちゃんとわかってる。
兄コチニールは妹が暴走しなかったことに心から安堵していた。
マゼンタがヘンナと体術試合をしている頃、同じグラウンド内では担当教師の丁字茶が生徒たちを見回っていた。
無論、まだ試合をしていない生徒たちのケツを引っ叩くためである。
「あんたたち終わったの⁈もし終わってなかったら居残りだからねっ!この体術クラスは必修なんだから、もし合格しなかったら一生留年になるんだから覚悟しておきなさいよっ!」
「えーっ……!」彼の言葉に生徒たちが反発した。
「〝えーっ〟じゃないっ‼」
丁子茶のその言葉を耳にした一人の女子生徒は、愕然とする。
年齢は十五、小柄でいかにも体力のなさそうな彼女は、名を雀と言った。
クリクリカールの長い髪を低い位置で一つに結び、赤みをおびた茶色の髪と瞳の色をした彼女は、誰にも聞き取れない声で囁く。
「そ、そんな……どうしよう……」
そこへ、誰かが丁子茶の名を呼んだ。勿論、名前の後に〝先生〟を付け足して。
丁子茶はグラウンドに降りる階段のほうを振り返ると、生徒に見せる態度とは一転、とびきりの笑顔を彼に向けた。
「あらっ、チェスナット先生♡!授業はいいんですの♡?」
チェスナットと呼ばれた男性教師が、ちょうど階段を降りてくるところだった。
年は二十九、高めの身長に程よく鍛えられた体、整った顔、日に焼けた肌、緩くカールした顎までの髪で、髪と瞳の色はほんのり深みのある穏やかな茶色だ。服装はTシャツにジレを重ね、パンツを着用している。
その爽やかさを絵に描いたようなチェスナット先生が、丁子茶に答えた。
「僕の授業はまだ先ですから」
「ああ、そうでしたわね」丁子茶がチェスナットに近づいた。
「それでいかがです?こちらの初授業は」
チェスナットが生徒たちを見回す。
丁字茶は背後を振り返ると、
「毎度お馴染みの恒例行事ですわよ。相手と戦いたがらない新入生たちのケツを叩かなきゃいけないんですもの」
「ははは、でも今年は例年にない生徒たちが入学しましたよね」
「ああ、若干毛色の違う子供たちが入りましたわね。でも別にどうと言ったことはありませんわ」
「しかし彼らだけではなくて……」
ふとチェスナットは丁字茶に視線を向けた。
女装をし、厚化粧を施した相手は、自分を舐めるように眺めてウットリとしている。
「ス・テ・キ……♥」
「は、はい?」
その瞬間、丁字茶が悶えた。
「はううっ‼」
「ど、どうかされました?」
丁字茶は頭を横にぶんぶん振りまくると、
「いやっ、ダメよっ!いくら鼻血が出そうなくらいイイ男でも、あたしは所帯持ちに興味はないんですのよ!ないんですのよ!本当にないんですのよっ!信じてっ!信じてちょうだいっ‼」
「わ、わかりました……」
チェスナットの口角が僅かに引きつった。
「あたしが好きなのは、あたしだけを愛し、あたしだけをずっと永遠に見つめてくれる大人の男……」
そう言って女装をした教師は、自分に酔うようにグラウンドを眺める。
「ちょ、丁字茶先生……?」
「でも……!」
丁子茶のアイシャドウをこれでもかと塗りたくった目が潤んだ。
「あたしが担当するのはいっつもこの何十年もクソガキどもばかりで、ステキな大人の男との出逢いは全く……!」
その時、丁字茶の目が全開になった。
瞼が大きく持ち上がり、それと共につけまつげの先端が眉毛にぶっ刺さっている。
彼の視線の先には、丁子茶が言うところの、ステキな大人の男が立っていたのだ。
「あっ、あれはっ‼」
「せ、先生?」
「紛れもなくっ、大人のオ・ト・コっ‼」
丁子茶の瞳からハートマークが何重にもぶっ飛んだ。
「ちょ、丁字茶先生、大丈夫ですか……?」
「ちょっと待って、今データを!」
チェスナットの心配もよそに、丁子茶は自らの手首の腕時計に思い切り触れた。
そして腕時計から小さな画面が浮かび上がると、彼は慣れた手つきでそれを操作していく。
「誰⁈誰⁈あなたはいったい誰なの⁈」
「あのー……」
丁子茶の背後でチェスナットが啞然としている。
だが彼、いや彼女はそれどころではない。
腕時計の画面に映る顔と名前を確認するのに必死なのだ。
やがて、お目当ての人物の顔と名前が表示される。
丁子茶の表情が歓喜に沸いた。
「葡萄っ‼赤星紅国出身、毛色の珍しいガキどものまとめ役ねっ‼」
大はしゃぎする彼の後ろで、チェスナットは何とも言えない顔をしながらグラウンドを眺めていた。
グラウンドのとある箇所では、試合を終えたマゼンタとヘンナが、コチニール、葡萄、緋色の三人と向かい合っている。
「なんか、よくわかんないうちに倒されてたわ……」
さっきからヘンナはずっと首を傾げっぱなしだ。
「だから言ったでしょう?マゼンタはすごく強いって」
コチニールが自慢げに言う。
「うん。でも、どこも痛くないし、倒されたって気がしないんだけど……」
「彼女の動きはすごく速いからね」
納得いかないヘンナと妹を自慢するコチニールが話す中、側に立っていた緋色は隣のマゼンタを見上げる。
(てか、こいつまた速くなった……!)
緋色が最後にマゼンタと戦ったのは赤星武闘大会の最終戦だ。その時よりも彼女の動きのスピードが明らかに上がっている。
緋色は無意識に焦りのようなものを感じ始めた。
「じゃあ、僕たちもそろそろやろうか」
ヘンナとの会話を終えたコチニールが、葡萄と緋色に視線を移す。
「ええ、ずっと立ちっぱなしだとあの先生に怒られそうですし」と葡萄。
「どうする?最初に葡萄と僕で……」
コチニールがそう提案した時だ。
「あれぇ」
低い声が自分たちのほうに近づいてきた。
コチニールたちが声の主を確認すると、それはクラスで一番大柄なビスタと、彼の腰巾着ラセットだった。
二人はだらけた足取りでコチニールたちに近づくと、
「おまえらまだいたんだ。とっくに元いた星に帰ったんだと思った」ビスタが嫌味たっぷりに言った。
それに対しラセットも「だなー」ヘラヘラと同意する。
(こいつら……)マゼンタが目を細める。
(ビスタとラセット!)コチニールの心臓が一度だけ飛び跳ねた。
ビスタが言う。
「ここは、おまえらみたいなひ弱な奴が受けていいクラスじゃねえんだよ。さっさと失せな」
「失せなっ」ラセットがビスタの言葉をまねる。
ひ弱……?
マゼンタとコチニールがポカンとなった。
(やれやれ、とんだ子供っぽい洗礼ですね)葡萄は呆れて何も言えない。
ところがこの二人は黙ってなどいられなかった。
緋色が「なんだおまえらっ!昨日からいちいちオレたちに絡みやがって!」ビスタとラセットに食ってかかれば、
「そーよっ、今時赤人差別だなんて流行んないんだからねっ」ヘンナもものの見事に反論する。
それに対しビスタは冷めた目で二人を見下ろして「ガキと女は黙ってろ」と言い、
「黙ってろっ」ラセットもやはりビスタの言葉を強調した。
「ぬあっ⁈」緋色とヘンナの反応が揃う。
ビスタは主にコチニールを見やると、
「とにかく、さっさと消えろよ。俺の拳で吹っ飛ばされたくなければな」
「なければなっ」と、ラセット。
マゼンタは大柄なクラスメイトとその腰巾着をじっと見つめた。
彼らの様子を見守る葡萄は溜息をつく。
(はてさて、どうしますか?クリムスン家次期頭首)
眼鏡の彼はコチニールに顔を向けた。
ここでどう返すかで、今後の力量が問われてくる。
葡萄の思いを知ってか知らずか、コチニールはぎゅっと拳を握りしめた。
すると緋色が彼らを鼻で笑う。
「はっはー、おまえごときの拳でやられるようなオレらじゃ……!」
その時、コチニールが緋色を呼び止めた。
「なんだよっ」緋色がコチニールを振り返る。
台詞の先を言いたいのに止められて、若干イラッとしているようだ。
それでもコチニールは彼を止めた。
そしてビスタとラセットを見上げると、
「僕たちには僕たちの学ぶべきものがあるから、今すぐ赤星へ帰るわけにはいかない。たとえ君たちが僕たちを忌み嫌ってもね」正々堂々と言い切った。
葡萄が感動のあまり、心の中で拍手を送る。
(コチニール、さすがです……!)
やはり次期クリムスン家頭首!こうでなければっ!
緋色もさっきまでの苛立ちなど忘れてコチニールを後押しする。
「そーだそーだっ!てかおまえらがオレたちに指図すんじゃねーよっ!」
「そーよそーよっ!」ヘンナも彼らに言い返す。
と、今度鼻で笑うのはビスタのほうだった。
「だったら、俺たちがおまえらの対戦相手になってやるよ」
「え?」と、コチニール。
「おまえら?」葡萄も目を丸くする。
「おまえとおまえ」
ビスタが指差したのはコチニールと葡萄の二人だった。
(私もですかっ⁈)
葡萄が途端にビビり始める。
今まで自分は蚊帳の外だと思っていたのに、まさかまさか自分も含まれていたとは⁈
「二対二、ちょうどいいだろ」
「それはいいなっ!」
ラセットがやっぱりビスタに同意した。
コチニールが心配そうに眼鏡の彼を見る。
「葡萄、大丈夫?」
「えっと……」
葡萄の額に大粒の汗が浮かんだ。
もうこの暑さで汗は全て流れ落ちたと思っていたが、まだ体はちゃんと反応している。
すると緋色がビスタに食ってかかった。
「ちょっと!オレもまぜろよっ!」
ビスタが啞然とする。「さすがのオレでもガキを相手にする気はねえ」
「なんでっ⁈」
コチニールは内心思った。(緋色の強さは相当だと思うけどなぁ)
けれどビスタがそれを知る由はない。
「そんなにここで学びたいんだろ?だったら俺らがその手伝いをしてやるよ」
ビスタの狙いはあくまでコチニールのようだ。
「僕はいいけど……」コチニールが隣の葡萄を見る。
眼鏡の彼は冷汗が止まらない。
(私はどうなるのでしょうか……)
一応、クリムスン家の人間として、基礎的な運動はしてきたつもりだ。
しかしそれがこの大柄な男子生徒と、色光になれる男子生徒に通用するとは到底思えない。
葡萄の全身に震えが起きそうになった。その時、
「コチニールと葡萄がやる必要はない」
「え?」
マゼンタがコチニールと葡萄の前に立ってビスタを見上げた。
「私一人でおまえたちの相手をする」
「ええっ⁈」彼女の言葉にコチニールと緋色とヘンナはそれぞれ違った意味で驚いた。
その背後で葡萄は心底ほっとしている。
「何言ってんだおまえ」
ビスタが怪訝そうな顔をする。
「そうだよ、マゼンタやめてっ!」とコチニール。
「なんでオレがダメでおまえがやんだよ!」と緋色。
「マゼンタ、ここはコチニールに任せたほうがまだマシなんじゃない⁈」ヘンナも叫んだ。
それを聞いた葡萄は呆然とする。
なんか、全員マゼンタへの所見がバラバラ……まあわからなくもないですが。
ビスタが言う。
「女とケンカなんかやれるかよ」
「マゼンタ手加減しないつもりでしょ⁈」とコチニール。
「おまえがやるならオレがやるよっ!」と緋色。
「こんな大男とやり合ったらどうなるかわかったもんじゃないって!ねっ⁈」とヘンナ。
マゼンタは安心させるように背後を振り返った。「大丈夫、ちゃんと手加減する」
彼女のその言葉にビスタが僅かにキレた。「は?手加減?」
「もう何言ってんの⁈」ヘンナが首を横に振る。
マゼンタは、「コチニールは葡萄とやれ。そうすれば入学早々問題になったりはしない」と二人を促す。
「だけど……!」とコチニール。
「面倒なのは私が片づける」
赤紫色の少女はそう言って人のいないほうへ歩き始めた。
「あの女……!」
ビスタの額に筋が浮かび上がった。
マゼンタが立ち止まって彼を振り返る。
「どうする、やらないのか?」
「くっそ……!」
苛立つビスタにラセットが小声で助言する。
「でもあいつ、確か妹だけど強いって……」
「そんなのもう関係ねえ……!」
「え?」
「ボコボコにしてやる……!」
ビスタはラセットの助言を無視してマゼンタの後を追った。
「ちょ、ビスタ!」
ラセットも慌てて友人の後を追いかける。
それを見ていた緋色は啞然とした。
「うっそ、なんでマゼンタなんだよっ!オレが相手したかったのにっ!てかマゼンタはもうヘンナに勝ってんじゃん!オレはまだ誰とも戦ってないんだけどっ!」
「マゼンタ、ちゃんと手加減してくれるかな……⁈」コチニールは散々自分を馬鹿にした相手のほうを心配した。
「どうでしょうか……!」葡萄にもこればかりは判断がつかない。
彼らの台詞を聞いていたヘンナが叫ぶ。
「てかおまえらっ!ちょっとはマゼンタの心配してよっ!」
彼女は当たり前の抗議をした。
これからか弱い女子が大柄な男子生徒と色光になれる男子生徒をたった一人で相手にするのだ。それを心配の一つもせず、何をほざいてんだこいつらはっ⁈
が、
「え?」とコチニール。
緋色も「なんで?」と首を傾げる。
「なんでって、マゼンタは女子でしょっ⁈妹なんでしょ⁈なのにあんないけ好かない大男と戦わせるなんてどーかしてるでしょーがっ‼」ヘンナが唾を飛ばして言う。
ところが緋色は、「んなもん大丈夫だよ」と呆れた表情だ。
「大丈夫じゃないよっ‼」負けじとヘンナは叫ぶ。
何が大丈夫なんだ、どこが大丈夫なんだ、こいつらは頭がおかしいのかっ⁈
「あのね、昨日から言ってるけど、マゼンタは僕より強い……ううん、たぶんこの学園の生徒の中でも一番強いと思うよ」
「あんた何言って……‼」
ヘンナがマゼンタの兄であるコチニールに食ってかかろうとした。でも、
「だからこそ心配なんです、ビスタとラセットという生徒のことが」
「はあっ?」
年長者である葡萄までもがコチニールを後押しし、ヘンナはもうわけがわからなかった。
グラウンドの一角で赤紫色の少女がビスタ、ラセットの二人と向かい合っている。
彼らから少し離れた所ではコチニール、緋色、葡萄、ヘンナがこれから始まる試合の行方をそれぞれの思いで見守っていた。
「遠慮はいらないぜ、どっからでも好きにかかってきな」
「かかって、こいよ……!」
ビスタは自信満々の様子だが、ラセットは若干ビビっている。
昨日コチニールが言っていた〝妹は強い〟という言葉を鵜吞みにしたわけではないが、今目の前にいる少女から、何か異様な雰囲気を感じ取っていたのは事実だった。
その彼女はただただ静かに二人を見つめている。
そこへ試合を終えたり、まだ戦う相手さえ見つけていない生徒たちがわらわらと集まってきた。
ただでさえ目立つ赤星から来た少女が、クラス一の大男とその友人と向かい合っているのだ。これは気になって仕方がないだろう。
彼らは興味津々で少女たちを囲み始めた。
その様子に、グラウンドに続く階段下に立っていた教師たちも気づいた。
「ちょっとあんたたち何やってんの⁈ちゃんと相手を倒したのっ⁈」
担当教師の丁子茶が生徒たちに喚く。
彼の隣でチェスナットも生徒たちを眺めていた。
マゼンタ、ビスタ、ラセットの三人を見て緋色が言う。
「あーもーいいなー。まあでもあの二人じゃオレの相手にはなんないけどさ」
マゼンタの相手にもな。
でも試合が出来るのはやっぱ羨ましい……!
緋色が歯をカチカチと鳴らす隣でコチニールは、
「マゼンタ、絶対手加減してあげてね……!」両手を合わせて何やら拝むポーズを取っている。
隣に立つ葡萄も心配そうな表情だ。相手の男子生徒たちのことが。
ヘンナはそんなコチニールたちに呆然としている。
「なんなのあんたたちは……」
そりゃさっきマゼンタと対戦した時は一瞬で勝負がついたけど、でもあの子がビスタたちより強いだなんて、そんなことありえるわけ……!
と、ビスタが赤紫色の少女に向けてふっと笑った。
「どうした、怖気づいたか?なんならやめてやってもいいんだぞ」
「い、いいんだぞ……!」と、冷汗を垂らすラセット。
「でもその場合は這いつくばって謝れ、手加減するだのなんだのほざいて申し訳ありませんでしたってな!」
「なぁっ……!」と、もはやビスタの言葉をまねる余裕のないラセット。
すると相手はきっぱりと言い放った。
「いや、その必要はない」
「はっ、せっかく引き返すチャンスを与えてやったのに自ら棒に振るんだな」
「ふ、振るんだな……!」
「というか」マゼンタが呆れて言う。「もういいか?」
「何が」とビスタ。
「無駄話」
「おまえ何言って……」ビスタが笑おうとした時だ。
相手はラセットの腹を殴り、ビスタを蹴り飛ばしていた。




