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イセカイロセカイ  作者: Elisu Arina
橙の章
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第84話 茶系とブラウン系


 彼の身長は父のクリムスンと同じくらいだった。もしかしたら体重も同じくらいあるかもしれない。橙人(だいだいびと)特有のよく焼けた肌に、緩いカールのついた髪の耳上から襟足までを刈り上げさせ、いかつい顔にかなり暗めの茶色の髪と瞳。服装は制服ではなく、タンクトップにダボっとしたパンツを履いている。

その彼がマゼンタとヘンナの後ろで立ち止まり、彼女たちの向かい側に座るコチニールを冷めた目で見下ろしていた。

「え……?」

コチニールは啞然とその彼を見上げる。

コチニールの隣に座っていた葡萄(えび)緋色(ひいろ)も大柄な彼に気づいた。

彼は言う。

「妹のほうが自分より強いとか」

マゼンタとヘンナも背後を振り返った。

「それをヘラヘラ笑ってられるだなんて、超ださっ」

彼の言葉にコチニールは言葉を失う。

「なっ、なんだおまえらっ!」緋色が肉を咀嚼しながら威嚇した。

けれど大柄な彼は小さい少年を無視して続ける。

「しかもどー見てもおまえが兄に見えねえし」

「なんか弟って感じだよな?ビスタ」

大柄な彼の後ろを歩いていたもう一人の男子生徒が言った。

年はビスタと呼ばれた生徒と同じくらいだろうか。しかし身長は彼より低く、葡萄といい勝負だ。体格も平均的で橙人の割にあっさりとした顔立ち、緩くカールした顎までの髪。髪と瞳の色は明るめの茶色で、彼も制服ではなく私服のTシャツとパンツを着用している。

 緋色が思わず立ち上がった。

「おい無視すんなこらっ!」

ヘンナも椅子から立ち上がる。

「ちょっと、あんたたちいったい……!」

「戦闘部で怪我する前にさっさと赤星(あかほし)に帰ったほうがいいんじゃ……」

ビスタが鼻で笑いながらそう言おうとした時だった。

手前に座っている異様に鮮やかな赤紫色の女が自分らを見上げていた。

が、その視線の鋭さはあまりに不自然だった。

何もしていなければ非常に整った顔が、恐ろしい殺気のようなものを放っていたのだ。

ビスタとその友人は無意識にビクッと肩を震わせる。

「い、行こうぜ」

「お、おう」

二人の男子生徒はその場からそそくさと退散していく。

「な、なんなんだあの女……」

ビスタは未だ背中に突き刺さる視線を感じながら、友人と共に食堂を後にした。

残されたヘンナは席から立ったままブチ切れる。

「なんなのあれっ!なんのいちゃもん⁈」

「てかオレのこと完全シカトだったんだけどっ!」緋色も怒り心頭だ。

葡萄は鼻から息を深く吐いた。

この学園はどこの星の出身だろうと学びを深めることは許されているのに、差別はそこら中に横行しているのですね……

眼鏡の彼は隣に座るコチニールに視線を向ける。

「気にすることはありませんよ。彼らはまだあなたのことを知らないだけです」

「う、うん……」

でも……

コチニールは向かい側に座るマゼンタを見た。

妹はプレートの豆を一心にスプーンですくっていた。




 その日の夜が明け、軍事学園での授業が正式に始まった。

マゼンタたちは前日と同じ中央棟の講堂に集まり、階段状の席に座って授業を受けている。

マゼンタとコチニール、葡萄が室内中腹辺りの席に横一列に並び、緋色とヘンナはマゼンタたちの前の席に並んで座った。

 授業を受ける生徒たちの前には机の上に一人一つずつ、奥が透けるような画面が浮かび上がっている。

今はこの画面の基本的な操作を教師から学んでいるのだ。

教壇に立った教師が指示し、その通りに画面を指で操作する。この繰り返し。

 一応教師の言う通りに操作していたコチニールは、ふと恐る恐る斜め後ろの席を振り返った。

講堂の一番後ろの席に、昨日食堂で自分のことを〝ださい〟と言ったビスタという生徒と、彼と一緒にいた友人の生徒が並び座って、共に大きなあくびをしている。

コチニールの口から思わず溜息が漏れた。

あの二人と同じクラスだったのか……

絶対同じクラスであってほしくなかった。そう願っていたのに、思惑は見事に外れてしまった。

 すると隣に座っている葡萄が、小声で自分を呼んでいるのに気がついた。

コチニールは眼鏡の彼に顔を向ける。

葡萄が何も言わずに教壇に立つ教師を指で指し示した。

「ごめん」

コチニールは小声で謝ると前へ向き直る。

そう、今は授業中。ちゃんと集中しなくては。

 コチニールはそう思いつつ、左隣に座るマゼンタにちらり視線を向けた。

彼女は机上の画面の前に浮かぶ、透けるようなキーボードに指を置いていた。

キーボードには小さな四角いボタンがただ羅列し、各ボタンには何の記載もない。

しかしマゼンタは手元さえ見ずにそれらを叩きまくっていた。しかもその速さが尋常じゃない。

(は、速っ!)

コチニールが目を見開く間にも、彼女の画面には沢山のコマンドが浮かび上がっている。

どうやらただでたらめに叩いているわけではなく、何かを正確に指示しているらしい。

「なるほど。こうなってこうなってこうなってこうなっているのか」

マゼンタがキーボードを叩きながら呟く。

コチニールは啞然とした。

(いつの間にこんな……)

確かにこの星へ来るまでの間、宇宙船の中でタブレット端末の使い方を教えてあげたけど、こんなにも上達していただなんて……!

 コチニールが妹に舌を巻いているその前の席で、緋色少年は一つ一つ恐ろしく丁寧にキーボードを叩く指を、思わず止めた。

「ん?」

えっと、この次は、どうやるんだっけ?

彼はマゼンタと違って、機械操作があまり得意ではないようだ。

緋色は次にどうしていいかわからず、左右をきょろきょろと見回す。

自分の左隣に座るヘンナは、黒板を凝視しながらキーボードを叩きまくっていて、話を聞いてくれなそうだ……

緋色は反対の右隣に顔を向ける。

自分より少し年上で、細めの体格、身長は自分と同じくらいだろうか。肩までの真っ直ぐな髪と瞳の色は葡萄に近い気もするが、そこまで紫がかってはいない。

勿論自分たちと同じ制服を着て席に座っていたその男子生徒は、緋色の視線にちゃんと気がついた。

「どうしたの?」

彼が小声で緋色に尋ねた。

「この次どうやったらいいかわかんなくて」

緋色も小声で自分の画面を指差す。

「ああ、これはね……」

彼は少年のすぐ側に近づいた。



 ひとまず授業が終了し、短い休み時間を迎えた講堂内では、まばらになった生徒たちがあちらこちらで談笑している。

授業の内容が簡単だったと話したり、案外難しかったと述べたり、あるいは全くそれとは関係のない話で彼らは盛り上がっていた。

 その中には緋色も交じっていた。

窓際の前のほうの席に座っている彼は、隣に座ったクラスメイトに対し両手を合わせて拝んでいる。

「さっきは助かった、マジありがとう」

「ううん、困った時はお互い様だから」

相手は朗らかに微笑んだ。

「あ、オレ緋色、よろしく」

「僕はマルーン、よろしくね」

「オレは赤星紅国(くれないこく)の出身で……」

「うん、わかるよ。君たち目立つから」

マルーンと名乗った彼は微笑んだまま言った。

「そうか?」

「とってもね」

緋色は思う。

(やっぱマゼンタのせいだよな。あのド派手な色が目を引くんだわ)

自身の髪や瞳の色も相当目立つ色なのだが、彼はそのことに気づいていない。

「君たちは赤人(あかひと)なんでしょう?」

マルーンが尋ねる。

「えっ?あー……」

緋色の目が泳いだ。

瞬間、少年の脳内にコチニールが言った言葉が思い出される。


「誰かにマゼンタのことを聞かれたら、彼女は赤人だって言ってほしいんだ」


緋色はうなずいて言う。

「おう、そう」

そう答えるって決めたんだっけ。

彼はコチニールとの約束をしっかりと果たした。

「僕は橙星(だいだいぼし)サイエイの都出身の橙人だよ」

マルーンが自己紹介を始めた。

「サイエイの都?」

「えっと、王都(おうと)。王族の方々が住まう都のことだよ」

「ああ、じゃああの柑子(こうじ)王子とおんなじ所から来たのか?」

「うん」

「へえ」

「柑子殿下はお心の広いとってもお優しい方だから、橙人だろうと赤人だろうとどんな星の方だろうと分け隔てなく接して下さると思うよ」

「ふーん」

 緋色には昨日から気になっていることがあった。

だからそれをたった今出来た友人に聞いてみることにした。

「なんでそのお優しい王子様がこんな軍事学園に入学したんだ?」

その純粋な質問にマルーンは首を傾げると、

「それは、僕にもちょっとわからないけど……」

やはり現地の橙人でもわからないらしい。

確かにヘンナも理由はわからないと言っていた。

 その時、講堂の入口から緋色を呼ぶ声がした。

名を呼ばれた少年とマルーンが講堂の扉に顔を向けると、鮮やかな赤紫色の少女が入口に立っている。

「次、外だぞ」

マゼンタが緋色に向けてそう言った。



 中央棟の目の前には広大な大地が広がっている。大地と言っても、一応茶色の土で整備はされており、新入生がいくら暴れてもへこたれないくらいの頑丈さは持ち合わせていた。

通称グラウンドと呼ばれるこの場所に、約四十名の生徒がだらりと立ったり、その場にだらしなく座り込んでいる。

その中にはマゼンタ一行も交じって、もわんと漂う熱気を感じながら、ひたすらに立っていた。

「暑……」

コチニール、葡萄、緋色の三人がぐったりと声を揃えた。

橙星の日中、屋外。日を遮るものは何もなく、ただただ直射日光を頭のてっぺんから全身に浴びている。

これを暑いと言わず、何と表現すればよいものか。

「そう?橙星なんてどこもこんなもんよ」

ヘンナが汗一つかいていない顔で言った。

「なんでこんなクソ暑いのに外で授業……」

緋色が文句を垂れる。

「慣れよ慣れ、そのうちなんともなくなるから、あーこれが普通だなーってね。ほら、マゼンタを見なさい」

男たちが赤紫色の少女に視線をやる。

マゼンタは相変わらずの無表情ですぐ側に立っていた。

「もうすっかり橙星の気候に慣れ切ってるじゃん?」ヘンナが口角を上げる。

「マゼンタ、暑くないの?」

コチニールが妹に尋ねた。

「暑い」

「暑いんじゃん……」緋色は呆れる。

「全然汗かいてないみたいだけど、大丈夫?」

「大丈夫だ」

「ほんとに?」

「本当に」

兄は妹を心配した。けれど緋色は、

「こいつはタフだから大丈夫だって」

「そうだけど……」

コチニールが額の汗を手首で拭う。

でも確かに緋色が言う通り、マゼンタより自分たちのほうが先にバテてしまいそうだ。

すると葡萄が辺りを見回して尋ねた。

「それより、もう授業の開始時刻はとっくに過ぎてますよね。なのにどうして先生はまだいらっしゃらないのでしょうか……」

それに対しヘンナが答える。

「あのねえ、この星で物事が時間通りに進むなんてありえないの」

「なっ……⁈」葡萄の眼鏡が一瞬で曇った。

「授業が遅れるのは当たり前、お店の開店時間が遅れるのは当たり前、交通機関が遅れるのは当たり前、人と会う約束をしたら待ち合わせに遅れるのは当たり前、それが橙星のルールだよ」

「なんとっ……⁈」

「というか、橙星の文化について習った時、葡萄自身がそう言ってたよね」

愕然とする葡萄にコチニールが補足する。

「暑くてやられたんじゃね」と、緋色。

「赤星でそんなことはありえません……!もし仮にそんなことが起きたら信用問題に発展しますよ……!」

「葡萄」

マゼンタが眼鏡の彼の名を呼んだ。

葡萄ははっとして赤紫色の少女に顔を向ける。

「ここは橙星だ」

彼女の言葉に葡萄は言葉を失った。

そう、ここは橙星。

赤星ではないのだ……!

そんなことはわかっていた、充分すぎるほどわかっていた、わかってはいたけれどもっ!

「けど仮にもここは軍事学園でしょう?これでいいの?」

コチニールがヘンナに尋ねる。

「そんなことあたしに言われたって……」

 その時、グラウンドに降りる僅かな段数の階段の上から、図太い声が響いた。

「はーい、皆さーん!」

生徒たち全員が声の主を見上げる。

そこには、三十歳くらいだろうか。髪と瞳の色はほんのり灰色がかった淡い茶色で、背が高く大柄、筋肉も盛り上がった男(?)が自らの腰に手を当てて、何やらポーズを決めていた。

なぜ男の後にハテナマークがつくかというと、彼はチリチリカールの長い髪を頭全体で細かなお団子にし、見事な厚化粧を施して、生徒の制服とは似ても似つかない派手な刺繡で覆われた、女性用のゴージャスな制服を着込んでいたからだ。

がしかし、どこからどう見ても彼?彼女?は、男にしか見えないのである。

コチニールも葡萄も緋色もヘンナも生徒たち全員が啞然とする中、マゼンタだけは冷静に彼を観察していた。

「これから体術クラスを始めるわよ!準備はオーケー⁈」

彼が図太い声で生徒たちに告げる。

「あ、あれ……」と緋色。

コチニールも「せ、先生……?」

教師らしきその男は階段をすたすたと降りてきた。

「あたしはこの必修の体術クラス担当、丁字茶(ちょうじちゃ)です。どうぞよろしくねっ」

丁子茶と名乗った彼は、極太のつけまつげでウインクをする。

生徒たちが啞然としたまま固まっていると、彼らの後方から笑いを必死にこらえる声が聞こえてきた。

「あれが教師とか……!」

「ありえねえ……!」

それを耳にした丁字茶が一転、ドスの効いた声で後方を指差す。

「おらっそこっ!」

指を差された生徒はビスタとその友人だった。

昨日コチニールを〝ださい〟呼ばわりした男子生徒である。

「このあたしをバカにするような態度は絶対に許さないわよっ!いいわねっ⁈」

激変した丁子茶の態度に、ビスタとその友人が思わず姿勢を正した。

丁字茶は地面にだらしなく座っている生徒たちにも牙をむく。

「おらっ!おまえたちいつまで座ってんだ!さっさと立たんかボケっ!」

座っていた彼らは慌てて立ち上がった。

「なるほど……」

コチニールが啞然としつつもうなずく。

「外見はどうあれ、体術の先生らしいですね……」

葡萄も呆れながら納得した。


 丁子茶の指示で、生徒たちはグラウンドに綺麗に整列した。

彼らの前に仁王立ちで立った丁字茶は、

「じゃあこれから二人一組になって戦ってちょうだい」

笑顔をたたえながらさらりと言った。

生徒たちの誰もが言葉を失い、ヘンナでさえも、

「え……」と息を吞む。

丁字茶が続ける。

「ルールは簡単。どんな方法でもいいから相手のケツを地面につけたら勝ち。ああでもここはもちろん体術クラスだから、武器の使用は一切ダメよ。体術だけで相手を倒したらそこで試合終了。勝ったほうはその辺で好きに見学してて。負けたほうは次の相手を探して、勝つまで戦うこと、いいわね?はい、じゃあペアを組んで!」

生徒たちが啞然としたまま固まっている。

それを見た丁字茶は、

「さっさと組めこらあっ‼」

ドスの効いた声をグラウンド中に響かせた。

生徒たちはざわつきながらも周囲に声をかけ始める。

人一倍大柄なビスタが、いつもの友人に言う。

「よっしゃ、やろーぜラセット!」

「オッケー!」

その二人の様子をマゼンタたちが離れた所から眺めていた。

「アイツら、昨日の!」

緋色が彼らを指差した。

「僕たちと同じクラスだったんだよ」コチニールががっくりしたように言う。

「マジかよ⁈」

「というか気づいてなかったの?さっきの授業も一緒に受けてたのに」

「私は気づいてましたよ」と葡萄。

「私も」とマゼンタ。

「ゲッ!一言言えよっ!」

「当然気づいてると思ったから」マゼンタが緋色を横目で見た。

「ぬあっ⁈」

「まあ緋色の洞察力なら無理もありませんが」葡萄も目を細める。

「なんですとぉっ?」

緋色と葡萄の小競り合いが始まる前に、ヘンナが解説をする。

「おっきいほうがビスタ、ちっさいほうがラセットね」

大柄のビスタと、彼よりはほっそりしたラセットが向かい合い、構えの姿勢を取っていた。

「ビスタはウチのクラスで一番体格いいし、実際力も相当強いって噂だよ。ラセットのほうはブラウン系のヤツだから色光(しきこう)になれるだろうし」

「え?」

マゼンタがヘンナを振り向く。

「なっ……⁈」と、緋色とコチニール。

「あの生徒はもう色光化(しきこうか)が可能なんですか……⁈」葡萄も目を丸くした。

「え、出来んじゃない?だってブラウン系だし」

「ブラウン系とはなんだ?」

マゼンタがヘンナに尋ねた。

「うーん、言うなれば一族、みたいな?」

「オレたち守人(もりひと)みたいなってこと⁈」緋色も聞く。

「守人がどういうのかはわかんないけど、一種の血筋、みたいな?」

「血筋……」コチニールが息を吞む。

「その一族の人間は、みんな色光使(しきこうつか)いなんだって。だからきっと小っちゃい頃から色光になれるんじゃない?てかあたしもよく知らないんだけどさ」

マゼンタは思った。

(クリムスン家や茜色(あかねいろ)家が刀使(かたなつか)いと呼ばれるのと同じ感じか?)

緋色とコチニールはラセットを見て溜息をついている。

「アイツすげー……!」

「う、うん……」

が、そのラセットはあっという間にビスタに殴り飛ばされてしまった。

「あ」マゼンタ、コチニール、緋色、葡萄の声が揃う。

ラセットは地面を引きずるように倒れた。それと共に茶色い土埃が舞う。

「おっしゃあ!もらったあっ!」ビスタが右腕を高々と掲げた。

「お、おまえ、手ぇ抜けよ……!」

倒れたラセットがよろよろと上体を起こす。

「悪りぃ悪りぃ」

ビスタがラセットに腕を伸ばし、彼を立ち上がらせようとしている。

その光景をマゼンタたちは呆然と眺めていた。

緋色が言う。

「体術はあんま得意じゃねえみたいだな」

「そ、そうだね」とコチニール。

「ちなみにあの先生」

ヘンナが後ろを振り返り丁字茶に視線を向けると、マゼンタたちも彼女に倣った。

丁字茶は、まだ一人ぼっちでウロウロとする生徒たちを()かしまくっている。

「ほらっ!さっさとペアを組んで戦いなさいよっ!」

コチニールと葡萄と緋色は、彼の様子を何とも言えない顔で見た。

本人の趣味趣向だからそれをどうこう言うわけではないが、なぜにどうしてああなったのだろうか……

「あの丁字茶先生は茶系(ちゃけい)ね」ヘンナが説明する。

「茶系?」と、マゼンタ。

対人(たいひと)との戦いが得意な一族よ。だからこのクラスも受け持ってるんだと思う。まあ見た目はあんなだけど、きっと相当強いんじゃない?」

「ああ」マゼンタ、コチニール、緋色の声が揃った。

しかもそれまで啞然としていた緋色とコチニールさえ、表情は真剣そのものだった。

「え、ハモった?」ヘンナが驚く。

葡萄がふっと微笑んだ。(わかる人にはわかるんですね)

 すると少し離れた所にいた丁字茶が、マゼンタたちに向かって叫ぶ。

「おらそこっ!いつまで立ち話してんのっ!さっさとパートナーを見つけて戦いなさいっ!」

「ヤベっ、オレたちも早くやんなきゃ!じゃあマゼンタ、オレと……!」緋色がすぐ側に立つ彼女を見上げた時だ。

既にヘンナがマゼンタの右腕をがっしりと抱え込んでいた。

「え」男たちの目が点になる。

ところがヘンナはにっこり微笑むと、

「あたしたちは女子同士やるからさ、そっちは男子同士適当にやってよ、ね」

「あ、でも……!」

コチニールはヘンナを引き留めようとした。しかし彼女は「じゃ行こ行こー」とマゼンタをどんどん引っ張っていく。

「ちょっ、マジっ⁈」と緋色。

「マゼンタ……!」

コチニールが心配そうに妹の名を呼んだ。

兄の声にマゼンタが振り返る。「大丈夫、ちゃんと手加減する」

というか、私をなんだと思っているんだ。

憤慨する彼女の背中に向かって、

「うん、してよ!絶対してよっ!」コチニールが必死に叫んだ。

「ヘンナ、大丈夫か……?」

緋色が啞然として言う。

「だ、大丈夫だと思うよ……」

兄は一応、妹のことを信じていた。




















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