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イセカイロセカイ  作者: Elisu Arina
赤の章
72/130

第71話 二人の過去


 観客がそれぞれ今大会最後となる試合の選手を応援している。

最初からどちらかを応援してきた者、途中から応援する相手を変えた者、或いはどちらも応援している者、その様子は様々だが、泣いても笑ってもこれが最後。彼らは皆腹から声を張り上げた。

西側二階客席に座る緋色(ひいろ)も両手を握り拳にして意気込んだ。

「いよいよ父上の出番だ!」

「うんっ!」彼の隣に座るストロベリーも大きく首を縦に振る。

ストロベリーの隣に座るローズは、

(これで王宮守人が決まるのか)と、リングをぼんやり見下ろした。

 反対側の東側二階客席ではクリムスン家の男たちが血眼になっている。

「父上……!」と、カーマイン。

隣に座る葡萄(えび)に関しては「絶対に勝ってください……!」と、両手の平をすり合わせて拝み込んでいた。

 三階の楽坊特別室でも、前列のソファに座ったシェルが隣の少女に顔を向ける。

「いよいよだね……!」

「ああ」

マゼンタがそう答えてリングを見下ろした。


 「長らく続いてきた今大会もそろそろ決着がつく時がやって参りました。果たして今回はどちらのチームが勝利を掴むのか、茜色(あかねいろ)家か、クリムスン家か、その瞬間をしかとご覧ください。それでは決勝戦第二試合、茜色選手対クリムスン選手……はじめっ!」

審判錆色(さびいろ)の声に、会場から大歓声が上がる。

選手の息子たちはそれぞれ自分の父を応援し、二階の通路に立ちっ放しの塾講師アガットと臙脂(えんじ)も試合を見守った。

 三階の紅国(くれないこく)特別室、上段の席に離れて座る執政たちもリングをじっと見つめている。

(さて、どちらが王宮守人を勝ち得るかな)と、灰桜(はいざくら)

紅樺(べにかば)は(マゼンタの父君様、どうか、どうか……!)と、座席の肘掛けをぎゅっと握りしめた。

 リング上ではクリムスンが腰から刀を抜き、茜色も同じく刀を抜く。

「おおっと、両選手得意の刀を抜きました!茜色家、クリムスン家、共に刀使いの名家ですが、今大会でもその刀さばきを目にすることが出来そうです!」

錆色が興奮する間にも、クリムスンは刀を構える。

「私はおまえにだけは絶対に負けない」

茜色も刀を構える。

「奇遇だね、私もずっとそう思っているよ、生まれた時から」

二人の頭首が互いを睨んだ。

 楽坊特別室のマゼンタがはっとした。

次の瞬間にはクリムスンと茜色が相手に向かって跳び、斬り合いが始まっていた。

 西側二階客席の緋色も「父上……!」と、息を吞む。

リングでは頭首たちの斬り合いが続き、刀の合わさる音が鳴り響いていた。

「これは物凄い刀の斬り合いです!しかしお互い一歩も譲らず相手を傷つけることが出来ません!」

審判錆色にも選手たちの動きは目で追えた。

しかしその速さはあっという間で、瞬きをすればもう態勢は変わっている。


 東側二階客席のカーマインとワインが叫ぶ。

彼らの隣に座る葡萄の背中に冷汗が流れる。

毎回こうだ。武闘大会でクリムスンと茜色が激突する際は生きた心地がしない。

 楽坊特別室、前列のソファに座った楽坊の主桃色(ももいろ)と参謀パステルも、手に汗を握っていた。

パステルが言う。

「さすが守人同士、毎度緊張させられますね……!」

「ええ……」

桃色の眼差しは不安げだ。

両者共に大怪我など負わなければよいのだが。最悪、命にかかわる可能性も……

端のほうに座ったポピーも、心臓がうるさく音を鳴らしている。

「前の試合みたいに何が起きているのかわからないのも困りものですけど、ちゃんと見えるのもまたハラハラさせられますわ……!」

ポピーが(ひと)()ちた。

前列のソファに掛けたマゼンタは試合をじっと観察していた。

彼女の目は主に父と戦う茜色に注目している。

父上より背も低く体格もそれほどでもない。腕力だって父上のほうが明らかに強いはず。なのに刀の技術は父上と互角……

 その時、茜色が大きく振りかぶった。

クリムスンが咄嗟に構える。

茜色は相手の刀に自分の刀を打ち付けた。

二人は刀を合わせたまま動きを止め、刀で押し合う。

そのせいで目の前の武器からはカチカチと音が鳴った。

「まずは様子見か……!」とクリムスン。

茜色も「そっちこそ……!」

すると二人は同時に後ろへ跳んで、距離を取った。

「両選手の激しい攻防が続いておりましたが、一旦距離を取りました!これはお互いに様子を窺っている模様です!」

錆色がきちんと解説を述べた。

 三階の朱国(しゅこく)特別室では王の朱色(しゅいろ)真朱(しんしゅ)王子が座席に並び座っている。

二人の斜め後ろには洗朱(あらいしゅ)が控えていた。

朱色が溜息をつきつつ言う。

「あんな奴らがウチのチームにもいればな」

「何言ってんだオヤジっ!オレたちの国にだって強いヤツはうじゃうじゃいるぜっ!橙人(だいだいびと)だっていーっぱいいるしなっ!」

真朱がにっと微笑む。

「その橙人に頼ったのが運の尽きだったのかもしれんが」

「はあっ?」

「奴らは元々平和な民、本当の戦いには慣れておらん」

父の言葉を聞いた真朱王子は急に真顔になる。

「オフクロを見ている限りとてもそうは思えない」

朱色と洗朱が目を見開いて固まった。

が、朱色は何とか顔を元に戻すと、

「息子よ、王妃のそのことに関しては一切口にするなよ、わかってるな?」

「うん、よくわかってるよ」

真朱王子はいつになく真剣な表情のまま答えた。

 その頃隣の丹国(にこく)特別室では、丹色(にいろ)王が酒樽を抱えたまま、長机に突っ伏して眠っている。

王の隣では補佐役の鉛丹(えんたん)がリングを見下ろして微笑んでいた。


 リングでは二人の頭首が互いに距離を取ったまま向かい合っている。

「そろそろ本腰を入れてくれないか。君とずっと顔を突き合わせているのは私の目によくないんでね」

茜色がそう言って刀を構える。

「本腰を入れれば貴様など一瞬で吹き飛ぶぞ、それでもいいのか」

クリムスンも刀を構えた。

「ならばやってみるといい、出来ればの話だが……!」

茜色は相手に走り向かい、クリムスンも相手へと走った。

二人の斬り合いが再開する。

しかし今度は茜色の刀の刃先がクリムスンの腕に触れ、クリムスンの刀の刃先もまた茜色の脚に触れ始めた。

彼らの攻撃のスピードが上がったせいで、互いの刀が互いを傷つけ始める。

それでも二人は意にも介さず斬り続けた。

錆色が何度も瞬きをしつつ、

「両選手の猛攻がまた再開されました!しかしながら、なんだかお二人共相手の攻撃を防ぐより、ただ前のめりで斬りかかっているように見えます!これはいったいどうしたことでしょうか⁈」

 東側二階客席のワインの額に汗が滲む。

「まさか頭に血が上ってるなんてことは……!」

「クリムスンに限ってそんなことは有り得ません!」

葡萄が即座に否定する。

「だよな……」

拳を握りしめたカーマインが叫ぶ。

「父上っ!いけっ!」

 反対の西側二階客席では、ローズがリング上の二人を見極めていた。

(二人共タイプは違うが恐ろしく沈着冷静だ。そうでなければこれまでの多種多様な戦場を生き抜いてはこれなかっただろう。だからこれはただ単純に……)

その時緋色が呟く。

「父上、なんか、楽しそう?」

少年の隣に座るストロベリーがぎょっとした。

「エッ、ナニソレ……?」

斬り合ってるのに楽しそうだなんて、齢十六の少女には意味不明だった。


 クリムスンと茜色の全身に相手の刀が触れていく。

二人の体からは各々の髪や瞳と同じ色の血が飛び出し、舞っていた。

けれども彼らは防御さえせず相手に突っこんでいく。

茜色が叫んだ。

「私は君に必ず勝つ!それが茜色家の使命だ!」

クリムスンも叫ぶ。

「その台詞を何億回聞いたことか!今更言わんでも充分染み込んでるわ!」

「我が父も、そのまた父も、そのまた父も、君の家を倒すためだけに生きてきた!だからっ!」

「くどい!先祖の重い枷など言い訳にしかならん!私はただおまえという存在に虫唾が走るんだよ!生まれる前からなっ!」

 西側二階客席の緋色が呆然とする。

「父上、もしかして」

楽坊特別室のマゼンタにも一つの考えが思い浮かんだ。

「二人が互いを嫌う理由、ライバルである理由、それは……」

リング上の頭首たちが大きく振りかぶる。

そして互いの刀をガチッと合わせた。


 春麗らかなとある公園の広場で、子供たちが走り回って遊んでいた。

特に何か目的があるわけでも、決まりがあるわけでもなく、彼らはただ笑顔で走り回っていたのだ。

彼らの中には同年代ながら、少し背丈の飛び抜けた幼児も交じっていた。

年は四歳程か、紫みを帯びた深い赤色の彼もただ楽しく走っていた。

ところが、ふと彼は立ち止まる。

広場の端のところにポツンと立って、自分たちを眺めている子供がいたのだ。

年齢は自分と同じくらいだろうか。

黄みの穏やか赤色をした彼は、羨ましそうな顔で自分たちを見つめている。

「なあっ!」

紫みを帯びた男児が黄みの子供に声を掛けた。

「あそぼ!」

立ち尽くしている彼に近づいて紫みの男児は言った。

「え?」

相手が目を丸くする。

しかしそんなことは無視して紫みの男児は相手の手を取った。

「こっち」

「あっ」

黄みの子供が戸惑うのも気づかず、紫みの男児は相手の手を引っ張った。

仲間に入れてほしいならそう言えばいいのに、と思いながら。

が、突然自分たちの手は引き裂かれた。

紫みの男児が驚いて振り返ると、自分と相手の間に大きな男が立っている。

その男は自分たちの手をグイッと放した。

「おいっ!」

紫みの男児が子供ながらに怒鳴った。

でも大きな男は黄みの子供のほうしか見ていない。

「茜色様、お怪我はございませんか?」

男は紫みの男児から黄みの子供を守るように言った。

「え?」

茜色と呼ばれた彼はポカンとしつつ男を見上げる。

「この者はクリムスン家の者です、決して近づいてはなりません」

「クリムスンけ?」

紫みの男児、即ちクリムスンが男を睨む。

「おまえなんなんだ?なんでわたしのことをしっている?」

だが男はまるで聞こえないように茜色の背中を押した。

「さあ参りましょう」

「え、あ……」

茜色はクリムスンを振り返る。

「おいっ!こたえろ!わたしはクリムスンけのあととりだぞっ!」

クリムスンは口を尖らせて地団太を踏んでいた。


 その夜、屋敷のとある一室に呼び出されたクリムスンは、正座をして父と向かい合った。

話の内容は勿論、日中にアカネイロとかいう子供と会ったことだ。

父は言った。

クリムスン家と茜色家は因縁の相手であり、遥か昔よりそりが合わずいつも争ってきた。

だから自分たちは絶対に奴らに勝たなければならない。どんな分野でも必ず。

要約するとつまりはそういうことだった。

正直クリムスンは頭に来ていた。

自分が一緒に遊ぼうとした相手を引き離した大人にも、何の反論もしなかったアカネイロ本人にも。

自分はクリムスン家の跡取りなのに……!その自分の言うことを聞かないヤツがいるだなんて……!

しかしそうは言っても、クリムスン自身は当然父に頭が上がらない。

父の言うことは絶対守らなければならない、今は。

だから彼は答えた。

「つまりなんでもアイツにかてばいいんだろ?」

父は言った。

負けることは絶対に許されない、と。

でもクリムスンの中に負けるという文字はない。

今はまだ体力的に勝てない家の男たちにだって、いずれ全員に勝ってみせる。

だから自分と同じ年齢のアカネイロに負けるなど、あるはずがなかったのだ。

父は喜んだ。

それでこそ私の息子だ、と。


 それからヤツに再会したのは、小学校に入った時だった。

六歳になったクリムスンが頭の後ろで手を組んで、つまらなそうに席に座っていると、いつか見かけたことのある黄みの少年が、自分の目の前にやって来たのである。

「久しぶり」

茜色は笑顔でそう言った。

「おまえ……!」

クリムスンは思わず頭の後ろの手を(ほど)いた。

相手は涼し気に続ける。

「君はクリムスン家の子なんでしょう?」

「おまえは茜色家のヤツなんだろ?」

クリムスンは茜色を睨んだ。

「うん、よろしく」

「よろしくなんかしない」

「ふふっ、言っただけだよ、よろしくするわけないもん」

「じゃあ言うな」

「ぼくはね、どんなことでも君にかつことにしたんだ、そうしろって父上に言われたから」

「は?センセンフコクかよ」

「そう思ってもらってもいいよ。だからかくごしておいてね」

「かくごするのはおまえのほうだ」

「ふっ、楽しみにしてるよ」

茜色は笑顔を残して去っていった。

「アイツ……!」

クリムスンは相手の後姿を睨み続けた。


 その後、学校という場所は二人にとって戦場となった。

クラスが同じになった場合は特に最悪で、授業に必死に向き合い、必死に発言し、必死に良い点数を取り、体育の授業では競技という名の喧嘩に発展した。

 中学に進んでもそれは同様で、彼らはいつも競い合い、放課後は殴り合い、常に生傷が絶えなかった。

例えば、生徒たちが廊下に貼られた成績順位表の貼紙を見上げているとする。

十四歳になった茜色は顔に絆創膏を貼りつけながらも、ニコニコと微笑んでいた。

が、その背後で同じく絆創膏を顔に貼ったクリムスンは、貼紙を見ながらムスッとしている。

ふと茜色がクリムスンを振り返った。

「君は何位だったの?」

相変わらず涼やかな声で彼は尋ねた。

「おまえはガキなのにもう老眼なのか」

クリムスンがぼそりと呟く。

「ああ、また二位か。残念だったね、いつも僕に勝てなくて」

「徒競走で万年二位の誰かに言われても全然悔しくもなんともないがな」

「あははは、負け惜しみにしか聞こえないよ」

「それよりツラ貸せ、今日こそ決着をつけてやる」

茜色がふうと溜息をつく。

「昨日先生に止められたばっかりでしょ」

「だったら見つからない所でやればいい。放課後、逃げるなよ」

「そっちもね」

クリムスンと茜色は顔を突き合わせたまま互いを睨んだ。


 赤星武闘大会会場のリングで、彼らが刀を合わせたまま押し合っている。

その姿は小学生の頃から、中学生の頃から、何も変わっていなかった。

ただ自分の父の期待に応える為に、家の為に、相手を倒す。

絶対に勝たなければいけない。負けるわけにはいかない。

それだけの為に今こうして、相手と向かい合っていた。

 楽坊特別室のマゼンタは呆然としている。

父上たちの親が、ライバルであると教えたから。そしてその親たちも彼らの親から、そしてその親もまた……その運命がずっと回り回っているのか。

当然最初は単なる仲違いだったのかもしれないが、時を経てもなお二つの家に絶えることなく続いてきてしまった運命。でも、父上と茜色は……

 西側二階客席の緋色も、

「ライバルであることが楽しいのか?腕を競い合える相手がいることが嬉しいのか?だからあんな風に……!」マゼンタと同じ顔でそう言った。

 楽坊特別室のマゼンタはふうと息を吐く。

「まったく」

「え?」隣に座ったシェルが友人を振り向く。

シェルの目に映った彼女は何だか呆れていた。

(王宮守人が決まる赤星武闘大会。それでさえ二人にとってはただの祭でしかなかったのか)

マゼンタは再度深く息を吐いた。


 クリムスンと茜色による刀の押し合いが続き、刀がカチカチと音を鳴らしている。

だがどちらも先に引く気はないようで、先程からずっとその体勢を保ち続けていた。ところが、

「貴様に、一つ提案がある……!」

茜色を見下ろしたクリムスンが言った。

「今この状況で……?」

「なら一旦離れるか?」

茜色が鼻で笑うように息をすると、二人の頭首はそれぞれ後ろへと跳んだ。

「おおっと、またもや様子見でしょうか⁈両選手共に再び距離を取りました!」

審判錆色が解説をした。

 二階客席の通路に立つ臙脂が無表情で言う。

「なかなか決着がつかないな」

それに対しアガットが答える。

「力が拮抗してるんじゃない?」

 リング上の頭首たちはそれまで構えていた刀を下に下ろす。

錆色が思わず目をぱちくりとさせた。

「おや、お二人共刀を下ろしてしまいましたが……」

 観客がざわつき、東側二階客席のクリムスン家の男たちも戸惑う。

「なんだ?」と、カーマイン。

「クリムスン?」

葡萄も僅かに首を傾げる。

 西側二階客席の緋色も「父上……⁈」と呟いた。


 大会会場の側に立つ病院のとある談話室には、テレビが一台と小さなソファがいくつか置いてあった。

決して広いスペースではないが、入院患者数人とその家族がやはり数人程度なら、充分話をしたり、ぼんやりテレビを眺めることは出来た。

しかしそのテレビ画面に患者たち、そしてその家族、さらには病院のスタッフまでもが群がっている。

皆最初は何となく武闘大会の試合でも見ようか、とテレビの電源を入れ、そうしたら熱中してしまい、たまたまそこを通りかかった患者や家族やスタッフも、一度目にしたらどうにも気になって足を止めていたのだ。

 そこへ、車椅子に乗ったある患者がやって来る。

彼はつい最近この病棟に入院し、体の回復を待っているところだった。

「病室の中で試合中継が見れればよいものを、わざわざここまで足を延ばさねばならんとは……」

彼はぶつくさ文句を言いながらテレビの画面に目を向ける。

画面には紅国を代表する守人一族の長たちが映し出されていた。

「おお、これは茜色様、やはりあやつと戦うことになりましたか……!これぞ運命ですな……!」

茜色の右腕である猩々緋(しょうじょうひ)が目を輝かせた。


 リング上で刀を下ろした茜色がクリムスンに尋ねる。

「それで、こんな大事な試合の最中に提案とは?まさか私に勝てそうもないから負けを認めるとか言い出すんじゃないだろうね」

 東側二階客席に座るクリムスン家の男たちが殺気を放った。

「あんの野郎っ……!」と、カーマイン。

ワインも「ふざけたことをっ!」

けれど葡萄だけは彼らを振り返って、

「ちょっ、みんな落ち着いてっ……!」何とかなだめようとする。

今茜色が口にした〝提案〟という文言。

それはつまりクリムスンが茜色に何かを提案したい、ということ。

そんな話は聞いていない。いったい我らが頭首は何を考えているのか……!

葡萄の脳裏に嫌な予感がよぎった。

 反対に西側二階客席の緋色少年は父の言葉を受け、素直に喜んでいた。

「もしそうなら話は早いな!オレたち優勝だ!」

「あはは、そうだといいけど」

ストロベリーの顔が引きつる。

彼女の隣でローズは首を傾げた。

(提案?クリムスンが茜色に?)

こんな大会の決勝戦の試合中のど真ん中でする提案とはいったい……

 リング上のクリムスンが茜色に答える。

「それは冗談だろうが全くウケない」

「いいからさっさと本題に入りなよ」

茜色が先を促す。

「いいだろう」

クリムスンは一呼吸置いた。そして、

「率直に言う。この試合で負けたほうは勝ったほうの傘下に入る、という提案だ」


















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