表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
イセカイロセカイ  作者: Elisu Arina
赤の章
70/130

第69話 決勝戦


 楽坊専用旅館では敷地内のあちらこちらから楽器の音が鳴り響いていた。

弦楽器、吹奏楽器、打楽器、王宮楽坊で使用するありとあらゆる種類の楽器の音色が、屋内からも庭園からも発せられている。

庭園に立った楽坊の主桃色(ももいろ)と参謀パステルはツキソメやハクアの音を合わせ、縁側に一人立つポピーもツキソメをひたすら奏でていた。

(この隙に、あたくしはあなたより上手くなってみせますわ……!)

ポピーはツキソメの弦を弓で擦りながら、謹慎中のライバルに対抗意識を燃やした。

 そのライバルは、旅館内にあてがわれた部屋で正座をし、目を閉じている。

彼女の耳には日頃から聞き慣れた楽器の音たちが至る所から届いて、手の指が自分の意思とは関係なく勝手に動いた。

「じゃあ、行ってくるね」

同室のシェルが声を掛け、マゼンタは友人を見上げる。

「ああ」

「なんかごめん、あたしたちばっかり……」

シェルは申し訳なさそうに言った。

「王宮楽坊の楽師たるもの、練習は必須だろう?」

「そうだけど……」

「私のことは気にしなくていい。ほら、さっさと行け」

「うん」

シェルが後ろ髪を引かれるようにマゼンタに背を向ける。

襖戸が閉まると、残されたマゼンタは溜息をついた。

自分でやらかしたこととは言え、さすがにきつい。

彼女の目はすぐさま壁へと寄せられた。

そこにはすっくと立て掛けてある弦楽器セキエがあった。

ツキソメによく似た楽器、セキエ。

でもその音はツキソメよりも深く、さらに情緒豊かな表現が可能だ。

癖が強くて、弾きこなすには相当時間がかかるが……

マゼンタの瞳はセキエをしばし見つめた。

 が、やがてその楽器の隣にぽつんと置かれた固定電話に視線が動いた。




 「な、なんですと⁈」

男の素っ頓狂な声が室内に響き、その声は廊下にまで漏れた。

 ここは大会会場の側にある病院の一室、試合で背中を刺された男が入院している病室だ。

室内は四人部屋だが、やはり病院側が気を遣ってくれたようで、その男一人が部屋を独占している。

彼、即ち猩々緋(しょうじょうひ)は、窓辺のベッドにうつ伏せ状態で、腰まで布団を掛けていた。

猩々緋のベッドの側には、頭首茜色(あかねいろ)が簡易椅子を置いて座っている。

「だから、明日の決勝におまえを出すわけにはいかないって言ったんだよ」

茜色は再度繰り返す。

「なっ……⁈わ、わしは全然、この通り……!」

猩々緋は体を動かそうとした。

その瞬間、彼の背中に激痛が走る。

「ふおっ……!」

猩々緋は思わず顔を歪めた。

「ほら無理しないで」

「む、無理なんぞしては……!」

「決勝の相手はクリムスン。しかも今回の戦いは王宮守人を決める大事な試合だ。だから万全を期して望みたい。おまえならそれを理解してくれるだろう?」

「そ、それは、最もな話ですが、しかし、そうしたらば……」

 その時、病室の扉が勢いよく開いた。

「猩々緋‼」黄みの鮮やかな赤色の少年が、患者の名を呼びつつ駆け込んでくる。

緋色(ひいろ)様?」

「気がついた⁈大丈夫か⁈」

少年は猩々緋のベッドに近づきながら言った。

「朝早くから見舞いに来ていたんだよ」

茜色が猩々緋に伝える。

「そ、そうだったのですか……そんなに心配をかけてしまったとは……」

「もう、ナイフ刺さった時はどうなることかと思ったよ……!」

緋色がベッドの掛布団をむんずと掴んだ。

「あんなの大したことでは……!」

「ほんとに?」

「ええ当然にござ……!」と、体を動かそうとした猩々緋の背中にまた激痛が走る。

「んがっ……!」彼は痛みを何とか堪える為に奇声を発した。

「猩々緋?」

少年は首を傾げる。

「はいはい、安静にしててね、麻酔が切れたばかりなんだから」

茜色が布団を優しく叩いた。

「くぅぅぅ……」

猩々緋の両目に悔しさの混じった涙が滲んだ。



 その頃、楽坊専用旅館のとある部屋では、マゼンタが固定電話の前に正座をし、受話器を耳に当てている。

彼女は前傾姿勢になり、真剣な顔で電話機本体を見下ろしていたが、電話の相手からはどうにも(かんば)しくない答えばかりが返って来ていた。

「何度も申し訳ございませんが、このお電話は外へお繋ぎすることが出来ません」

「それはわかっている。だがどうしてもクリムスン家の専用旅館に繋いでほしいんだ。あるいは会場側の病院でもいい、頼む……!」

彼女は声を若干荒げた。

もう何度同じやり取りを続けたことか。

「お気持ちはお察しいたしますがこちらも規則ですので、何卒ご了承くださいませ」

「どうしても?」

「どうしてもでございます」

「……絶対に?」

「絶対にでございます」

埒が明かない。この方法ではクリムスンに接触出来ないのか?

少女は受話器をぎゅっと握りしめた。




 その日の夕方、クリムスンの忠実な右腕、葡萄(えび)はコチニールの病室の前に佇んでいた。

ただし彼が向いている方向は病室の扉ではなく、廊下の窓のほうだった。

彼の左手には長方形の携帯端末が握られ、その画面をじっと見下ろしている。

「葡萄」

名前を呼ばれて彼は振り返った。

カーマインとボルドーが廊下の先からこちらへと歩いてくる。

「カーマイン、学校はちゃんと行きましたか?」葡萄が早速尋ねた。

「行ったよ。おまえらが行けって言うから……!」

カーマインは葡萄に近づいて言った。

「学業は大事です、たとえ大会中でもね」

「わーってるよっ……で、兄貴は?」

「それが……」

葡萄の顔に影が差す。

「まだ意識が戻んねえのか……?」

「でも大丈夫です。医者はそんなに心配することではないと言っていましたし」

眼鏡の彼は努めて明るく答えた。

「そいつヤブ医者なんじゃねえの……⁈」

「そんなはずは……!」

「ったく……!」

カーマインが病室の扉を開ける。

「どいつもこいつも……!」

彼はブツブツ呟きながら室内へと入った。

葡萄は閉まる扉を見ながら溜息をつく。

その場に残されたボルドーは、葡萄の携帯端末に視線を向けた。

「マゼンタには繋がったのか?」

「こっちもさっぱりです。何度掛けても門前払いで……」

「せめてコチニールの容体だけでも伝えられればいいんだが……」

「ええ……」

葡萄は廊下にはめ込まれた窓から空を見上げた。




 武闘大会に関係する多くの人間がやきもきとし、赤紫色の少女が眠れぬ夜を過ごすと、鮮やかな太陽が容赦なくウルシヤマ全域を照らし始めた。

と言っても辺りはまだ薄暗く、生き物たちはほとんど活動していない。

 ところが、包帯まみれの少年が入院する病室の扉は、音もなく開いた。

室内から出てきたその人物は廊下に出ると、やはり一切音を立てずに扉を閉める。

廊下のベンチには一人の男が座っていた。

家の男たちは毎日交代で見舞いに来ては、ベンチで寝泊まりしていく。

昨晩はこの男が担当だったらしい。

部屋から出て来た人物は、眠っている彼の名を静かに呼んだ。

「ボルドー」

名前を呼ばれた彼ははっと目を覚ました。

「クリムスン……」

ボルドーの目の前に頭首がぬっと立っていた。

「コチニールを頼む」

頭首クリムスンが言った。

「は、はい」

頭首は誰もいない病院の廊下を歩いていく。

ボルドーはその後姿を目を見開いて見送っていた。

クリムスンの全身から、言葉では形容し難い何かが放たれていた。



 茜色家の男たちが滞在する旅館の縁側では、浴衣姿の緋色が空を見上げていた。

寝起きの彼は両手を挙げて伸びをすると、朝日の昇る空に向かって言った。

「いよいよこの日が来たっ!」

待ちに待ったこの時が!

 それから彼の父茜色は、旅館の自室でとある男と全く同じ行動を取り始めた。

その男はこの場所から少し離れた旅館に滞在中だが、彼らは互いの姿を全く見ていないにも関わらず、寸分の狂いもない動きをしている。

茜色が帯を締めれば、相手も帯を締め、

相手が旅館に持ち込んだ刀を掴めば、茜色も刀を掴み、

茜色がその刀を腰に差せば、相手も刀を腰に差す……

そうして彼らは戦いへの準備を進めていった。

 数時間後、楽坊専用旅館の玄関から横笛奏者シェルが元気よく飛び出す。

「さあ行くよ!」

彼女は後ろから付いてくる友人に笑顔を向けた。

「ああ」

マゼンタは玄関から外へ出ると、日が昇った空を見上げた。




 会場は今回も大盛況だ。

観客は決勝戦に進んだチームをそれぞれ応援しているようだが、彼らだけではなく、赤星の他の国の者たちも客席を埋めて盛り上がっている。

 二階の客席通路を歩く緋色は、会場を見渡して心臓を高鳴らせていた。

「ヤッベー!なんかめっちゃワクワクしてきた!」

今日が決勝!これで王宮守人が決まるっ!

少年は興奮で震えそうな体を何とか抑えて自分の席を探した。

 盛り上がる二階客席の一箇所に、王宮専属密偵のストロベリーと、彼女の上司であるローズが並んで座っている。

ストロベリーはこれから始まる決勝戦にドキドキとしていが、隣のローズは呆れたように会場を眺めていた。

ローズが言う。

「何も私が会場から見なくたってテレビで生中継やってるじゃない」

「テレビで見るのと生で見るのとじゃ臨場感が全然違うのっ!」

「一緒だよ。どっちにしても結果はわかる」

「そりゃ結果はわかるよ。でも実際に見て感じる緊張感とか感動とか頭で理解するだけじゃなくて体で感じる何かがあるでしょう?」

「君はいったいなんの為にあの子の側にいるんだい?」

「それはもちろん調査のためで……!」

あと応援……

ストロベリーが緋色の側にいるのはあくまで彼を調査する為だった。

その為に十六歳の自分が十歳の緋色と同じ塾に通ったり、仲良くしたり、行事に同行したりしている。

しかし最近はそれが度を越していると、ローズは考えていた。

「調査ねえ」ローズが部下を横目で見る。

ストロベリーはギクッとして、

「ロ、ローズは一日二十四時間ずーっと大量のモニター前に座っててお尻から根っこが生えちゃったんだね」

「なんだいそれは、根っこ?」

「例えだよっ」

「わかってるよ。でも私が根っこを生やしているのは仕事の為だからね」

「なんか床ずれになりそう」

「なんだって?」

 その時、近くから誰かがストロベリーの名を呼んだ。

彼女が周囲に目を向けると、調査対象の少年が階段で両手をブンブンと振っていた。


緋色がストロベリーの隣にやって来る。

「どうも」

少年は彼女の隣に座るローズにぺこりと頭を下げた。

「どうも」一応密偵集団の頭首も挨拶する。

緋色はストロベリーの隣に座りながら、「今日は姉さん一緒に来てくれたんだな」と笑顔で言った。

「うん、なんとか」ストロベリーは苦笑いで答える。

緋色にとってローズはストロベリーの友人の女性、ということになっているが、実際はローズは女装を得意とする男であり上司だ。

緋色少年はローズに顔を向けると、

「ありがとう、ウチの応援に来てくれて」素直に感謝を述べた。

ローズは涼やかに、「どういたしまして」と礼を受け取るも、

君の家の応援というわけではないけれどね。

心の中でしっかりと本音を漏らした。

ローズと緋色の間に挟まれたストロベリーは、

(ローズが心の中で何を思っているかわかる気がするぅぅぅ……!)と、苦笑いのまま叫んだ。


 緋色たちが座る二階客席のちょうど真向いの席一帯を、クリムスン家の男たちが占めていた。

その中にはカーマインや葡萄、ワインも含まれており、彼らは皆無言でリングを睨んでいる。

葡萄が拳を握りしめた。

この決勝で王宮守人が、いえ、紅国(くれないこく)代表守人が決まる……!

 三階客席にせり出す紅国特別室では、紅国の王、紅色(べにいろ)が微笑みながら上段中央の席に着き、王の斜め後ろには世話役の退紅(あらぞめ)が控えている。

第二王女の韓紅花(からくれない)姫は会場全体を見渡せる窓際の床に座って、リズムを取るように体を左右に動かし、女官の栗梅(くりうめ)はハラハラしながら姫を側で見守っていた。

執政灰桜(はいざくら)は上段端の席に座って、「いよいよか」と、舌なめずりをし、

同じく執政の紅樺(べにかば)は灰桜と距離を取るように上段の席に座って、会場を見つめていた。

(願わくばマゼンタの家が王宮守人になりますように……!そしてなんとか彼女の現在の状況を覆す足掛かりとなりますように……!)

紅樺はマゼンタの処分がさらに軽くなる方法を、ずっと考えていた。

彼女が兄コチニールを助ける為に丹国(にこく)の王子に銃口を向け、そのせいで一年間楽師としての活動を禁止されてしまったのだが、その処分をもっと軽くする為には、彼女の実家、即ち守人一族クリムスン家が優勝することなのではなかろうかと、思い始めたのだ。

だから彼は心からクリムスン家を応援していた。

大切な人を今の状況から救う為に。

 三階の楽坊特別室では、楽師たちが二列に並んだソファに腰を下ろしてリングを見つめている。

楽坊の主桃色、参謀パステル、離れた席に座ったポピー、さらに離れた所に座ったシェルとマゼンタも、試合開始を今か今かと待ち望んでいた。

 それは朱国(しゅこく)特別室の朱色(しゅいろ)王と真朱(しんしゅ)王子も同様で、二人は今回は大人しく席に着き、真朱は手に持った肉巻きをむしゃむしゃと頬張っている。

彼らの斜め後ろには洗朱(あらいしゅ)がやはり控えていた。

 隣の丹国特別室では王の丹色(にいろ)が席にどっかと座り、大きな瓶から直接酒を煽っている。

「ぶはっ!我が王子らが出ん試合など酒を飲まねばやっておれんわ!」

王が次々と瓶を空にする隣で、補佐役の鉛丹(えんたん)がちょこんと立って相変わらず微笑んでいた。

 その時、リングに一人の男が上がる。

もうお馴染みとなった彼が中央に立つと、

「大変お待たせいたしました!これより大会最終日、決勝戦を開催いたしたいと思います!」

司会者兼審判の錆色(さびいろ)の声に、会場からは大歓声が上がった。


 錆色が続ける。

「決勝戦は茜色チーム対クリムスンチームの紅国守人同士の戦いとなります。両チーム共に大会決勝の常連であり、今まで何度も勝敗を分け合ってきました」

 二階客席の緋色がワクワクとし、反対側の客席ではカーマインと葡萄がリングを睨む。

「果たして今回の試合はどんな結末を迎えるのか、それでは両チーム、選手入場です!」

司会者が言うと、東側の選手入場口からクリムスンが、西側の選手入場口から茜色がゆっくりと歩いてきた。

二人共腰に刀を一本差し込んでいる。

 三階の紅国特別室で紅色王が首を傾げる。「おや」

窓ガラスの側に座っている韓紅花姫も「一人?」と口にした。

 観客がざわめき、二階客席のローズは冷めたように言う。

「両チームとも頭首だけか」

「だからそれはね……」ストロベリーが必死に説明しようとする。

彼女の隣で緋色は呟いた。

「ウチの猩々緋も出れないし、コチニールも出れる状態じゃないんだろうし……」

 朱国特別室では真朱王子がのんびりと綿飴を頬張っている。

王子の隣で朱色王は、

「茜色チームのジジイは(とび)が相手だったからな。そう簡単に復帰は出来まい」と冷静に述べた。

丹国特別室では、

「クリムスンチームのガキは我が王子がコテンパンにしてやったからな。決勝には望めんだろ……!」

丹色王が酒を煽りつつ言った。

 楽坊特別室、前列のソファに座るシェルは啞然とする。

「けど残りの人たちは元気だよね。とするとまた……!」

彼女の隣でマゼンタはクリムスンと茜色を見つめた。

 リング上で司会者錆色が、「あのぉ、もしかして……」東側と西側に立つ両選手を見比べる。

「そのもしかしてだ」と、クリムスン。

「先に進めてください」と、茜色。

「ですよねぇ……」錆色はそう答えるしかない。

 二階客席、クリムスン家の男たちが唸る。

「カーディナルのヤツ……!」カーマインが奥歯を嚙みしめる。

こんな時でも遅刻しやがって……!

「ウチもですが向こうだって……!」葡萄が西側に顔を向けた。

 その西側二階客席では緋色がガクリと頭を下げている。

「カッパーってば……!」

「これ決勝じゃないのかい?」

呆然としたローズが隣のストロベリーに尋ねる。

「あははは、そのはずなんだけど……」

彼女は顔を引きつらせるしかない。


 もう慣れっこになった司会者が叫ぶ。

「では気を取り直しまして、第一試合の選手を大会のシステムで選出したいと思います!」

三階の天井からぶら下がる大型モニターが選出を始める。

クリムスンと茜色はその画面を静かに見上げた。

画面のプログラムは上手く出来ているのか、コチニールと猩々緋の顔と名前は既に省いてあった。

つまり残されたのはクリムスンチームが頭首クリムスンと、カーディナル。茜色チームが頭首茜色と、カッパーだけだ。

やがて画面の動きが停止する。

それを確認した錆色は、

「第一試合はカッパー選手対カーディナル選手となります!が……」と、おどおどする。

司会者の声に観客がざわついた。

 三階の朱国特別室では朱色王がイラついている。

「カッパー……!」

王は腹の底から憎々し気に声を出した。

 丹国特別室でも丹色王が、

「カーディナルだとぉ……⁈」

瓶の酒を飲み干して言った。

丹色の口髭から酒の滴がボタボタとこぼれる。

 会場内の多くが、また呆れたり苛立ったりしそうになった時だ。

東側選手入場口前のクリムスンと、西側選手入場口前の茜色がそれぞれ背後に気配を感じて、はっとする。

 二階客席のローズは呆れていた。

「選出された割に二人ともいないけどね」

「紅国人なのに珍しいよね、遅刻魔だなんて」

ストロベリーが苦笑いを続けながら言う。

緋色は両手を合わせてひたすら拝んでいた。

「カッパーぁぁぁもう頼むよぉぉぉ!」

これ決勝なんだからぁぁぁっ!

すると少年はリング脇の光景に気づいて動きを止める。

「あっ!」

 東側選手入場口からはカーディナルが、西側選手入場口からはカッパーが、それぞれ姿を現したのだ。

しかもカーディナルの手には薙刀(なぎなた)が握られ、カッパーの手には柄の部分が鎖で繋がった二つ斧が握られている。

 二階客席のストロベリーがほっと息を吐く。

「よかった、出てきた!今日は意外と早かったね」

「意外とって……」

前はどれだけ待たせたんだ?

ローズは呆れるあまり言葉を失った。

けれども二人の隣で緋色少年は、彼女たちとは真逆の反応を見せていた。

「てかあんな武器、初めて見た!」

いつもオレの相手をする時は木刀だったけど、あれがカッパーの得意なヤツなのか……⁈

緋色はカッパーの両手に握られた二つの斧に目を輝かせる。

 緋色たちとは反対の東側二階客席で、クリムスン家の男たちはざわついていた。

「薙刀なんてアイツ使えんのか?」

カーマインがワインに尋ねる。

しかしワインは首を捻るばかりだ。

葡萄が言う。

「そもそも彼は私たちの前に姿を現すことがありませんから、どんな武器を使うか誰も知らないのでは?」

クリムスン以外は……!

 三階の楽坊特別室ではマゼンタがポカンとしていた。

「薙刀と、斧……?」

彼らが持っている武器の名称は知っている。

その使い方も何となくわかる。

でもあれで戦うのか?

彼女の隣ではシェルがなぜか感動していた。

「うぅぅぅぅ、なんか決勝戦らしいよねっ」

 リング脇ではカーディナルがクリムスンの隣で、カッパーが茜色の隣で立ち止まった。


















評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ