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イセカイロセカイ  作者: Elisu Arina
赤の章
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第4話 ジョーガの都


「え……?」

少女は一瞬何を言われたのか理解出来ないように顔を上げた。

「私たち■もう引き揚げる。今回の任務は終了■」

「引き、揚げ?任務?」

クリムスンは赤紫色の瞳から目を放し、ひび割れた大地に視線を向けた。

「ここ■紛争地帯■マゼンタ地区。いつも周囲■人間■何かと理由■つけ戦い合っている場所■」

「マゼンタ……」

彼女は彼と同じように景色を眺める。

「戦い合う、場所……」

突如、頭の中に一番最初の記憶が流れ込んできて、彼女は眉をひそめた。

「はっきり言って、ここ■おまえ■ような人間■存在している■なんて驚きでしか■■。ここ■人■住めるよう■所で■ないから■」

住んでいた?私はこの場所に住んでいたのか?

少女は心の中で自問自答する。けれども当然ながらその答えは宙を彷徨ってしまった。

「とにかくこの場所■滞在する■■危険すぎる。青の色光(しきこう)■出没する■■」

彼女は目を見開くと巨大な青い光を思い出す。

人なのか、でも全身が機械仕掛けで背中には鋭い翼が生えていた物体を。

クリムスンが少女に顔を戻す。

「だから今■私と共に来ないか?」

クリムスンと、共に……?

彼女は彼を見上げた。表情がほとんど動かないながらも赤紫色の瞳は細かく揺れている。

「私■隣国の(くれない)(こく)に住んでい■。治安■良さ■ここ■■比べ物にならない■」

「クレナイ、コク?」

「もしおまえ■記憶■取り戻し■、その結果次第■またこの場所■帰りたい■思う■■そうすればいい。それ■おまえ■自由だ」

少女が荒野に目を移す。そこには先程と何も変わらないピンク色の空と赤い大地が広がっていた。

それ以外は何もなく誰もいない。

もしかしたら土の中や空気中に何かしらの生命が活動しているのかもしれないが、彼女の瞳は捉えることが出来なかった。

ただ荒い砂粒を含んだ熱風が視界を取り巻いて、一切代わり映えしない景色が続いているだけだ。

「いいのか……?」

彼女は隣の大男を見上げ尋ねる。

「もちろん。紅国で■養子や養女■取ること■よくあることだから■」

彼は微笑むように答えたが、新たな単語に少女は首を傾げた。

「養子、養女?」

「ああ。おまえ■養女として迎える■」

「養女」

彼女は脳内で言葉を吟味する。(養女とは……娘のことか?)

「おまえ■」クリムスンはさらに続けようとした。

しかし、

「名がわからない■不便だな」

鮮やかな赤紫色の彼女はガクッとこうべを垂れる。

私は、自分の名さえ思い出せない……

それだけ、たった一つ、それだけでも思い出せれば……

少女は名前を思い返そうと必死に脳内を探った。ああでもないこうでもないとあるはずであろう記憶を全部掘り返して。

その時だった。

大男の朗らかな声が彼女の耳に届いたのは。

「じゃあ……マゼンタで」

少女は勢いよく顔を上げる。

「へ?」声帯がおかしな声を発した。

だがクリムスンは笑顔で、

「マゼンタ。良い響き■」

ちょっと待て、紛争地帯とやらの名前をそのまま私の名にするのかっ……⁈

彼女は心の中でそう叫んだ。

でもクリムスンは満足そうに、

「今日からおまえ■私の娘、マゼンタだ」

「決定か⁈」間髪入れずに少女が問う。

「よろしくな、マゼンタ」

彼女は反論する術もなくしばし呆然とする。

言葉を理解し上手く操れたならそんな反応はしなかっただろうか。

いや、恐らくこれはそういうことではない。少女は男のセンスにただただ呆れていたのだ。

(紛争地帯の名前が自分の名前って……)

しかしながらその時間は一瞬だった。

名前が決まったのならそれでいい。不便じゃないならそれでいいんだ。

彼女はなぜか安心していた。名前がある、名前がわかるだけで何もわからなかった自分が一歩前進した気がしたのだ。

だから軽い溜息はついたものの彼を真っ直ぐ見上げると、

「よろしく、クリムスン」

そう告げた。



 日差しが照りつける荒野に砂煙が上っている。それは延々と長い列をなし遠くから見ると少しずつ移動してまるで蛇のようだった。

ところが実際はかなりスピードを出した何十台もの車が、エンジンを唸らせながら進んでいた。

ほとんどの車はトラックのような外観をしていて、恐らく荷台には例のテントやら家財道具やら武器やらが積まれているのだろう。

しかし長い列の中にはこじんまりとした車も走行していた。四角い窓が四方を囲み大きなタイヤが四つ、扉も四つ、平らで低い屋根が被せられた黒光りするその車は、今は砂埃で汚れてはいるものの一生懸命その身を稼働させている。

ただし車中は相当揺れていた。道なき道を進んでいるせいか、この車が土地に合っていないせいか、はたまた車自体の問題か。

とにかく乗り心地は全くよくない。それでも後部座席に並んだ今にも天井を突き抜けそうな大男と、新しい名を貰った少女は一切動じることなく車に身を委ねていた。

ちなみに運転席と助手席には誰も座っていない。だがハンドルは勝手に動き、足元のアクセルやブレーキもまるで意思があるかのように上下している。そして前を進むトラックの後をちゃんとお行儀よくついていった。

「疲れた■?」

クリムスンがマゼンタに声をかけると、窓の外をぼんやり眺めていた彼女が振り返る。

「いや」

「もう二日■すれば紅国に着くぞ」

「二日」

少女は繰り返し、頭の中で数を数える。

「そうすればあと■早い、道が整備され■いるからな。マゼンタ地区■飛行機は飛ばないから、陸路■行くしかないんだ」

「飛行機?」

「空を移動する乗り物■」

「なんとなく、わかる」

「そうか」

大男は彼女の反応に微笑んだ。

マゼンタはクリムスンから正面に顔を戻すと何やら考え始める。

その言葉が何を意味しているのかは、なんとなくわかるようになったし、相手が何を話しているのか、聞き取ることもかなり出来てきたと思う。しかも声を出すことはもう何も問題はない。なのに……

彼女は膝の上に置いた拳をきゅっと握りしめる。

(記憶だけが、ま……ったく、元に戻らない。なんで、どうしてだ?)

その時、マゼンタの考えを知ってか知らずか大男が不意に話題を変えた。

「紅国に着く前■話しておきたいこと■ある」

彼女は「なんだ?」と、また彼に視線を戻す。

「私に■息子が二人いる。年はお前より下■」

「息子」

年が私より下ということは……弟、というものになる、のか?

「それから私たち家族■身の回りの世話をしている奴■いる」

「世話?」

「普段は私たち四人■暮らしているが、家の敷地内に■たくさんの男たち■いる。彼らも家族■一員だ」

「それは……」

マゼンタは脳を必死に働かせた。

「大家族、というものか?」

「そうだ■、そうかもしれん」

クリムスンは微笑む。

少女はふと思い出した。

あの荒野でクリムスンの側にいたのも全員男だった。彼らも皆家族、なのだろうか。

「それから」

「まだいるのかっ?」

「紅国以外の土地に■拠点があって、そこにも家族と呼べる仲間たち■いる」

彼女は少々げんなりしている。

(クリムスンにはいったい何人の家族がいるんだ……)

大男はマゼンタの反応にふっと笑って、

「まあそこまで言ってしまう■範囲が大きすぎるから、とりあえず息子たち■仲良くしてやって……」

「そうする」少女は即答で答えた。

まずはそこからだ、と心の中で誓うように。



クリムスンとマゼンタが乗った車やトラックの列が小さな砂を巻き起こして荒野を進んでいた。車内はガタガタと揺れ、口の中、鼻の中、耳の中までも砂まみれになっていた。景色は全くもって変わらずただ広大な赤土がどこまでも広がるばかり。

それが何時間前のことだろう。

少女は揺れることのない後部座席に座りながら窓の外を凝視している。

赤紫色の瞳には細長く無機質な高層ビル群、今自分たちが乗っているのと同じ形をした車の波、そしてやはり自分と同じような格好をした大勢の人々が映し出されていた。

(なんなんだ、ここは……なんなんだ、この人の数は……)

マゼンタは腑抜けた顔でそれらを眺めていた。まるで初めて自分と同じ姿形をした生物と遭遇した時のように。

「ジョーガの都。ここ■紅国の首都■私たちの本拠地だ」

「ジョーガ、都……」

彼女は窓の外から目が離せない。

クリムスンは少女の後頭部に向かって話す。

「この場所は賑やかだ■、私たちの住んでいる所■もう少し落ち着いている」

だが彼女は聞いているのかいないのか「はあ」とだけ口にした。


 大男が言った通り、やがて大量のビルは背の低い瓦屋根の家屋へと変貌し、連なっていた車たちもめっきり数を減らし、歩道を歩く人々もまばらになっていった。

車線が細くなり茶色の幹と枝に赤い葉をつけた木々が両側に並ぶ頃には、クリムスンとマゼンタが乗った車だけが車道を走行して、彼らの前後を走っていたトラックはどこかに消えてしまっている。

それでも後部座席では少女が窓の外をやはり凝視していた。

(なんだか静かな雰囲気になった……)

クリムスンがフロントガラスの奥を指差す。

「あそこ■見えるだろう」

マゼンタは大男が指差した方角に顔を向ける。

彼の指先、道の向こうには白い岩壁と茶色い木々に囲まれた、何やら真っ赤な建物が鎮座していた。豪奢なそれは高さはそれほどでもなかったが、あまりに横幅がありすぎて端はこの場所からは拝めない。

「あそこ■王宮だ」

「王宮?」

彼女は一瞬固まる。

「え、王宮?」

「そう。我が国の王■ご家族が住んでいらっしゃる場所■」

「へえ……」

マゼンタは今の言葉を咀嚼する。(この国の王、というヤツか……)

とここで彼女は何かに気づき、はたとする。

「私たち、その王宮、向かっている、のか?」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……いや」

やっと聞けたクリムスンの返答に、少女は肩から力が抜けるように安堵した。

(なんだったんだ、今の長い溜めは……)

しかし彼は後を続ける。

「でも場所は近い」

「え?」

二人が乗った車が車道を音もなく走っていった。


遥か先まで伸びる白壁が車道の片側を占め、道の反対側は鬱蒼とした茶色い竹藪で覆われていた。

クリムスンとマゼンタが乗った車はその白壁に沿うように直進しているが、他に車道を走る車はなく、誰も座っていない運転席のハンドルは快適に震えている。

やがてアクセルがスピードを落としハンドルが左へくるくると回ると、車体はずっと続くと思われていた壁の一部にぽっかりと開けられた門の中へ、ゆっくりと入っていった。

そしてタイヤの動きを停止させると、

「着いた■」

大男は自分の側にある扉の取手を掴む。

彼がそのまま扉を押し開けると、外の柔らかな空気が車内に入り込んできた。

少女は彼の真似をするように取手に手を掛けて扉を押す。それはあんなにがたついた荒野を散々走ってきたのに軽々と開いた。

彼女は地面に足をつける。そして立ち上がるように車の外へ出ると、目の前の光景に呆然としてしまった。

時間帯は日差しが少し傾きかけた頃だろうか。

明らかに文化的かつ芸術的な技術で植樹された赤・白・茶・黒の庭木が広がり、高低差のある美しい景観を保っている。その隣には灰色の瓦屋根に白壁の立派な屋敷が佇んでいたのだが、二階建てのその建物はとにかく幅が広く奥行きもかなりありそうだった。当然ながら庭に面した縁側も恐ろしく長く、何枚もの障子戸が開け放たれ、室内の畳たちを大いに心地よくさせている。さらには屋敷の奥にも平屋の家屋が軒を連ね、最後尾までは残念ながら見通すことさえ出来ない。また視線をさらに右へ移すと、よく耕された畑に様々な赤い葉を実らせた野菜が植えられており、その面積もかなりの広範囲に達していた。

(ここが、クリムスンの家……)

マゼンタが呆然と立ち尽くしている間、クリムスンはというと久しぶりの帰宅にほっとしていた。何より彼の元には明るく元気な声が届いていたから尚更だ。

屋敷と庭園の間の開けた空間で、二人の少年が互いの肩を掴むように取っ組み合いをしている。

一人はほんのり紫みを帯びた鮮やかな赤色の髪と瞳をし、肩下までの髪をクリムスンのように一つに結っている。年は十代半ばだろうか。

もう一人は彼より少し幼く、真っ赤な髪と瞳でツンツンと跳ねるような短い髪をしていた。

二人は大男と似たような服装をしていたが、地面を転げていたのか土や埃があちこちにくっついている。

クリムスンは彼らのほうへ歩いていきながら、

「ただいま」

すると年上の少年が瞬時に動きを止めて、

「父上!」キラキラした瞳で大男に顔を向ける。

一方年下の少年は不貞腐れたようにクリムスンを一瞥する。

年上の少年は居ても立っても居られないように父親の元へ駆け寄ると、

「おかえりなさい!」満面の笑顔で大男を出迎えた。

年下の少年はというと、その場に留まったまま、

「おかえり」ぼそっと呟く。

しかしクリムスンは二人の反応の違いを大して気に留める風でもなく尋ねた。

「留守中何もなかったか?」

「うん、何もなかったよ。みんな無事」

年上の少年が朗らかに答えた。

「そうか、それはよかった」

大男が安心したように肩の力を抜く。

その時だった。

屋敷と畑の間から眼鏡を掛けた細身の青年がやって来たのだ。

年は二十代前半、クリムスンより少し深みのある赤色の髪と瞳を持ち、髪はお団子結び、服装は彼らより丈の短い上着を着ている。

「おかえりなさい」

彼も大男を出迎えた。

「ただいま。留守の間皆の面倒を見てくれて助かる」

「いいえ、いつものことですから」

そう言うと、年上の少年の近くで立ち止まる。

「二人ともちゃんと学校へ行っていましたし宿題もしていましたし稽古もみっちりしておりましたよ」

眼鏡の彼の言葉に年下の少年が、

「宿題やらなかったら怒るだろ」と、憎まれ口を叩くと、

「当然です」眼鏡の彼は答えた。

それを眺めていた年上の少年はふふっと笑う。

クリムスンが言う。

「皆よくやった。でもたまには休めよ」

年上の少年は「はーい」

年下の少年は「休めとか……」

眼鏡の彼は「私には必要ありませんけどね」

「言うと思った」と、年下の少年が眼鏡の彼に呆れて視線をそらす。

するとここでやっと、年上の少年が車の側に立ちっぱなしの少女に気がつく。

彼女は屋敷をポカンと見上げたまま相変わらず固まっていた。

「父上、あの人は?」年上の少年が問う。

「ああ、紹介する」

クリムスンは振り返って少女に顔を向けた。

「マゼンタ」

呼ばれた彼女ははっと我に返る。

「こっち■」

呼ばれてる……少女は促されるままに大男のほうへと歩く。

が、彼女の姿に少年二人は啞然とし、

「わあ……」

「すっげー色」

眼鏡の彼も口にはしないが驚きを隠せなかった。

少女は言われた通り大柄な男の隣で立ち止まる。

「この子■マゼンタ」

眼鏡の彼が咄嗟に尋ねた。

「マゼンタ?紛争地帯■?」

彼女はやるせない顔になると、

(やっぱりそこに反応するよな……)

しかしクリムスンは全く気にしていないようで、

「ああ、そこ■族に襲われそうなところ■助けた」

その言葉に少年たちと眼鏡の彼は一瞬で表情を変える。

空気が少しだけひりついた。

大男は続ける。

「彼女に■記憶がない。自分がどこ■誰かも、なぜあの場所■いたのかも。だから私■便宜上名をつけた」

少年二人と眼鏡の彼はじっとマゼンタを見つめる。

「出逢った当初■ショックで言葉■話せなかったし理解■出来なかった」

「え……」年上の少年が声を漏らす。

「でも今■どんどん回復してきてい■ゆっくり話せば通じるし、発話■問題ない」

それを聞いた年上の彼はほっとしたように、「そうなんだ」

「マゼンタ」

名を呼ばれた少女は隣に立つクリムスンを見上げる。

「息子■コチニールとカーマイン、そして私たち■世話をしている葡萄(えび)だ」

彼女が彼らを順番に眺めていくと、コチニールは笑顔で、カーマインは顔をそらし、葡萄はマゼンタを観察し、と三者三様の反応を見せた。

(年上の彼がコチニール、年下の彼がカーマイン、そして眼鏡の彼が葡萄、と)

マゼンタは三人の顔と名前を把握する。

「というわけ■互いによろしく頼む」

葡萄が「え?」

カーマインが「よろしく頼む■て……」

二人の疑問に大男は答えた。

「彼女を養女とし■迎えることにした」

コチニールたちは瞬間的に言葉に詰まる。

だが、

「ええっ⁈」と、カーマイン、

「はいっ⁈」と、葡萄が仰天し、

コチニールは父の台詞が信じられず「わー……!」

と、呆けた顔になった。

マゼンタは冷静に状況を判断しようとするものの理解が追いつかず、

(なんだかとても驚かれている)とだけ分析した。

カーマインが言葉を振り絞るように「養女って……!」

葡萄は「この、男しかいな■クリムスン家の敷地の中■一緒に暮らす■ですかっ⁈」

コチニールは尚も呆けた顔で「すごーい」となぜか感心している。

クリムスンは葡萄に答える。

「別に男衆がいても構わんだろ■。食事は共に取るとしても寝所、風呂、手洗いはここの■使えば顔を合わせることもない■」

「いや一歩外に出れ■そこら中に男ども■うようよ……」

「だからってそれで何か■起きるわけではないだろう」

「しかし……!」

「じゃあ何か。自分がどこの誰か■わからないこの子を紛争地帯に置き去りにすればよかったのか?」

「そ、そうは言ってません■……!」

「それにおまえが心配していること■男衆を信頼していないと言っているようなものだぞ」

「それは……!」

「この国で養子養女を取ること■珍しくない。ごく当たり前にあることだ」

「ですが……」

眼鏡の彼は今一度確認するようにマゼンタを見る。

ところが当の本人は二人の会話について行けずポカンとしていた。

(話すのが早くてよくわからなかったが、私が養女になることを反対しているのか?)

「葡萄」コチニールが彼の名を呼ぶ。

「諦めなよ」

「コチニール……」

「父上が決めたことだもん。それに僕たちがついているからそんなに心配しなくて■大丈夫だよ」

それを聞いた眼鏡の彼は溜息をつくと、

「そうですね」

頭首であるクリムスンを見上げる。

「あなたが決めたのなら私■従います」

「助かる」

大男は葡萄に微笑んだ。

「でも言いたいこと■言わせてもらいますけどねっ」

「それで構わんよ」

ふんと鼻息を荒くする眼鏡の彼を見て、マゼンタは今の状況を何とか把握しようとした。

(上手く収まった、のか?)

そんな少女の姿を(おもんぱか)ったのか、コチニールは彼女に体を向けると、

「はじめまして、コチニールです。よろしく」

少女はそれに応えるように少年を直視する。

「よろしく」

「マゼンタは……十七歳くらい?」

コチニールは確認するように父親を見上げた。

「そうだろうな。だから一応おまえたちの姉という位置付け■なる」

「そっか、お姉さんになるんだ」

マゼンタも再度把握して、

(私が姉で、コチニールとカーマインが、弟……)

その時、しばらく黙りこくっていた真っ赤な彼が一歩歩み出る。

「そんなの……冗談じゃねえっ‼」


















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