第28話 わからず屋
その日の昼間、マゼンタは縁側に座ってセキエを奏でた。
決して物悲しい曲ではない。どちらかと言えば明るくテンポのよい曲のはずだった。
なのにどうしてか暗くなる。曲がだんだん斜めに伸びていく。
けれど弾いている本人がそれに全く気づいていないようだった。
彼女は弦を弾きながら楽器の全体を見つめる。
(セキエともこれでお別れか……)
塾に通うことになって、アガットのセキエと出逢って、自分も弾くことになって、練習して、練習して、練習して、人前で演奏することになって、やっと最近形になってきたと思ったら、突然別の楽器に転向することになって、家族の皆とも離れることになって……
彼女は自分でも知らぬ間に溜息をついている。
この気持ちはいったい何なのだろうか。
そこへ二つの足音が少女に近づいた。
彼女はセキエの手を止めて彼らを見上げる。
二人の兄が自分と楽器を見下ろしていた。
「マゼンタ、楽坊に行くって決めたの?」
コチニールが尋ねる。
「ああ」
「ありえねえ、マジありえねえ……!」
カーマインは言いながらそっぽを向いた。
「そっか。そうだよね、だってスカウトされるってスゴイことだし、それだけ君の腕が認められたってことだし、行くに決まってるよね」
コチニールが微笑む。
カーマインは、
「なんでこいつが……!」
武術だって敵わないのに、なのになんでこいつばっかり……!
自分でも抑えきれない苛立ちに身を燃やしていた。最近こんなのばっかりだ。
ふと、マゼンタは不思議な感覚を覚える。
それは言葉に出来ない、妙な感じだった。
しかし彼女はそれに抗わず素直に口を開いた。そうして少女から出てきた言葉は、
「ごめん」
「え……」
「は?」
兄たちが固まっている。
「あ……」
「なんで謝るの?」
コチニールが理由をぽつりと聞いてくる。
「いや、なんでだろう。自分でもわからない」
ただなんとなく、そう言ったほうがいいのではないかと思ってしまって……
彼女の全身から何かがサラサラと流れていった。
その何かの正体は彼女自身にも当然わからなかった。
「マゼンタ……」
少女の名をコチニールが呟く。
ところが彼女は何かを振り切るように勢いよく立ち上がると、
「塾に行ってセキエを返してくる」
「もう?」
「これから私が弾くのはセキエではないから」
それだけ兄たちに言い残すと、少女は背中を向けて廊下を歩み始めた。
彼らはしばし呆然とするも我に返ったカーマインが、
「なっ、なんだよ今の……!俺たちはアイツがいないとダメなワケ⁈超胸糞ワリぃんだけどっ‼」
鼻から息を大量に吐いた。もしその息に色がついていたら確実に真っ赤だっただろう。
コチニールはというと、廊下の角を曲がって見えなくなってしまった妹の後姿を尚も追いかけていた。
(どうしてだろう。昨日まではマゼンタが楽坊にスカウトされたことが嬉しくて、僕たちにとってもすごく喜ばしい出来事だったはずなのに、なのに……)
彼は自分の胸を手で押さえた。
同時刻、クリムスンは縁側に立って庭を眺めていた。
その顔はいつもと変わらず冷静で、誰かを威嚇したり嘲笑したりすることは勿論ない。
けれども何かが通常とは違っている。
彼の姿から言うなれば微かに憂いのようなものが漂っているのは、見る者が見れば確実に認識出来た。
彼の右腕は頭首の後姿を眺めながら、
「塾をやめる手続きをしますね」
淡々と告げる。
クリムスンは庭を眺めたまま身動き一つしない。
「不服ですか?」
葡萄は一応確認する。
「いや」
「顔にそう書いてありますよ」
頭首は視線を下げ
「ただ、あの子があんな風に思っていたとは」
体内に少女の言葉が繰り返される。
「クリムスン家にとって私は必要か?」
必要か、不要か。そんな風に……
頭首には自分の脳や肉体が普段より一段と重々しく感じられた。
「マゼンタなりにこの家のことを考えて出した結論だということはよくわかっています。だったら、私たちは彼女の思いを尊重して前に進むべきですよ」
クリムスンは眼鏡を掛けている葡萄を振り返る。
「おまえが頭首になったほうがいいのではないか?」
「冗談はやめてください」
「わかってる」
頭首の目元が不意に鋭さを増した。
「これを利用する手はない」
「ええ、これでよかったんです」
クリムスン家頭首は庭園に視線を戻すと、その奥を睨んだ。
塾の教員室ではアガットと臙脂が各々自席に着いて向かい合っていた。今日もそろそろあの子が練習にやって来る時間帯だろうか、そんな風に彼らは思っていた。案の定、彼女は軋む音を響かせる扉を開けるといつものように師匠へ近づいた。その手には勿論セキエがしっかりと握られている。
アガットはこれまたいつものように彼女に声を掛けた。
「いらっしゃい。今日も練習を始めましょうか」
だが彼女から次いで出た言葉は、いつもとは異なっていた。
「私は、楽坊に入ることにした」
二人の講師は同時に少女の顔を見上げる。
彼女は無表情のままセキエを差し出すと、
「だから、これ……今までセキエを教えてくれて、ありがとう」
アガットは彼女が持つセキエを思わず眺めた。
楽坊に入る。だからもうセキエは弾けない……ということか。
「あー、その……セキエはあなたが持っていてください」
アガットの口から思いがけない言葉が飛び出した。
「え?」
少女も目を丸くする。
「な、なんなら、楽坊までお供させて頂けたら幸いです」
楽坊に、持っていく⁇
想像だにしなかった師匠の台詞に彼女の脳が一瞬固まる。
臙脂がちらりアガットを見た。
「でも……」赤紫色の少女は戸惑う。
「ほら、私には自分のセキエがありますから、あなたが持っていても何の不自由もないんですよ」
「いい、のか?」
「もちろん。むしろせっかく教えたのですから、もし可能ならば時々弾いてくださるとセキエも喜ぶと思います」
「そこまで、言うのなら……」
「ええぜひ」
マゼンタは手の中にぴたりと収まる棹の先に視線を送った。
ただ、楽坊に入ってこれからツキソメを練習する私に、セキエも弾く余裕があるだろうか……
心配の種はそこにある。
アガットはツキソメなど楽勝だと言っていたが、弾いたこともない楽器を専門に弾く場所でセキエに構っている時間があるとは到底思えないのだが。
「そうですか、やはり楽坊に」
師匠が残念さを滲ませながら言う。
「ああ、色々考えて決めた。短い間だったが、二人には世話になった」
「いいえとんでもない。こちらこそ、セキエを共に弾けて楽しかったです」
すると臙脂があからさまに咳払いをする。
「そうそう、勉学も学んで頂けてよかったです」
アガットが忘れてたと言わんばかりに付け足した。
「ああ、両方ありがとう」
少女が目を細める。
アガットは何とも言い難い顔で微笑み、臙脂は無表情で彼女を見つめた。
その時、
「今の話、マジ?」
三人が振り返る。
そこには扉の側に立ち尽くしている緋色がいた。
彼はマゼンタに向かってトボトボと近づくと、
「本当に楽坊に入んの?なんで?」
少女は少年を見下ろし、
「なんでって、王宮楽坊にスカウトされたということは命令らしいし、私が入ることがクリムスン家のためになるからだ」
家のため……!
少年は一瞬言葉を失った。
「でも、だからって、楽坊に入るってことはここもやめるってことだろ⁈そしたらオレたちもう会えなくなるってことで……!」
「そうなるな」
「そうなるなって、そんなサラッと!」
「ん?」
彼女には彼の意図が読めない。
「おまえ、おまえは、なんとも思わないのか⁈」
「なんともとは?」
「ぬあっ⁈」
緋色の脳天が撃ち抜かれた瞬間だった。
「だいたい、クリムスン家と茜色家は元々ライバルで、互いの親からも接することを止められていただろう?だったらこれはいい機会になる」
彼女の口から出たものに対し少年は拳を震わせると、
「この……わからず屋あっ‼」
そのまま走って教員室を出ていった。
「緋色?」
残されたマゼンタはわけがわからない。
わからず屋?それはいったい何屋だ?
アガットと臙脂だけは少年の気持ちを察して、やれやれと首を振った。
黄みの赤い少年は草がぼうぼうと生えた道をひたすら走った。足元は舗装されておらずとにかく走りにくい。それでも全力で走った。真っ昼間だというのになぜか人は誰もいない。おかげで何も気にしなくていい。
アイツが楽坊に入ったら、もう会えない……!会えるとしても、一年に一度……!
そんなの、そんなのってどっかのおとぎ話だろーがっ……!
なんでこうなった?なんでこうなったんだ⁈
アイツが楽器を始めたから⁈アイツがめっちゃ上手くなっちまったから⁈楽坊のヤツが目を付けてアイツをさらってしまうのか⁈
なんで、なんで……オレはまだアイツに勝ってないのに!負けたままなのにっ‼
何より、アイツがオレに会えなくなることを何とも思ってないのが……一番腹立つっっ‼
緋色は湧き上がる感情を風の中に紛れ込ませて走り続けた。
クリムスン家の道場では男たちが体術の稽古をしている。しかし彼らの気迫はどことなくいつもより薄れ、やる気はあるのだが体がついていかない、具合が悪いわけではないのに気持ちが乗らない、そんな風だった。
ワインとボルドーは彼らの脇を通るように道場の端を歩いていた。
普段の二人なら男衆の様子に気づくことも出来ただろうが、本人たちも何か別のことに気を取られただただ相手と会話のやり取りしている。
ワインが言う。
「お嬢が楽坊へ入ることが決まったらしい」
「寂しくなるな」
ボルドーが溜息をついた。
「まあ、クリムスン家の為にはなるだろうけど」
「本当に?」
ボルドーは信じられないといった顔で相棒を見やる。
長い付き合いだがこれには同意しかねる、そんな表情だ。
「なるだろ、すごい出世だぞ」
「でも俺たちの為にはならない」
ワインは頭首の考えを察しようとしていた。葡萄ほど細かく気は使えなくても、家のことを思えばマゼンタの選択は決して間違ってはいない。
「いずれなる時が来るさ」
彼が先を見越してボルドーにそう告げた時、側にぶら下げてあるサンドバッグが激しく揺れた。
サンドバッグは右へ左へ怒りの感情を受けて跳びまくる。
それを揺らしていたのはカーマインで、自分でも理解出来ない思いをこれでもかと当たり散らしていた。
「まだ持っていくのか?」
夜の静けさが迫る頃、マゼンタの自室に大きな木箱が一つ置かれた。その箱は人が折り曲がれば二人は入れそうな位大きい。その中に葡萄が少女の服を畳んで入れていく。これがいいだろうか、こっちのほうがいいだろうか。彼は箪笥からありとあらゆる物を引っ張り出し吟味していた。
その光景をマゼンタは畳に正座して呆然と眺めている。
どの服も似たり寄ったりだと思うのだが。
「まだって、楽坊に入るのに着替え一枚って足りるわけないでしょ」
「そうか?」
「そうですっ、誰が身一つで来いなんて言いました?」
「誰も言ってない」
「ええ、ですからこれとこれとこれとこれと……」
眼鏡の彼は畳むのを急に諦めたのか、乱雑に服を放っていく。
どうしたのだろう、葡萄らしくない。
いつもきっちり作法にうるさくて、服に皺一つ作らせない彼が物をこんな風に扱うなんて。
マゼンタは少し呆れつつも首を傾げた。
そんな二人の様子を兄コチニールは障子の陰からこっそり窺っていた。
彼は何も言わずに溜息だけを残すと、その場を立ち去った。
服も靴も小物も引っ張り出した葡萄が不意に手を止める。
「マゼンタ」
「なんだ?」
「真面目な話をします」
「葡萄の話はだいたいいつも真面目だ」
「いいから聞いてください」
彼は彼女と向かい合うように正座をした。
「楽坊での心得をお話ししておきます」
マゼンタの部屋から立ち去ったコチニールはしょんぼりとしながら廊下を歩いた。
廊下はいつの間にか縁側に辿り着き、彼はそこで立ち止まるとぼんやり庭に目をやった。
夜の庭はいつもと同じで何も変わらない。
が、彼の脳にはとある景色が思い出されていた。
それは自分が妹に木刀で稽古を挑んだ時のこと。
何度も何度も向かっていって、結局一本も取れなかった。けど、
もうあんなことは出来ないんだ、二度と……
コチニールの肩が大きく沈み込む。
その時だ。
「辛気臭ぇ」
背後からの声にコチニールが振り返る。
「カーマイン」
弟カーマインが畳部屋に立って自分を眺めていた。
真っ赤な少年は落ち窪んだ兄に近づくと、
「つい最近までアイツが楽坊に行くことあんなに喜んでたのに何そんな塞いでんだよ」
「だって、マゼンタがこの家を出て行っちゃうんだよ、もう毎日会えないんだよ。一緒にご飯食べたり、普通に話したり、稽古してもらったり、セキエの音を聞いたり……!」
「んんなの最初っからわかり切ってたことじゃんか!それをなんだよ今さら」
「だって……!」
確かに弟の言う通りだ。
マゼンタが楽坊に行くということはつまり僕たちとはもう、会えないということだ。
なのに僕は……
「俺はせいせいするけどね、アイツがここから出て行ってくれて」
「嘘。そんな風に思ってるわけない」
「思ってるよ」
「だってマゼンタがいなくなったら倒す相手がいなくなっちゃうじゃない」
「うっ……!」
「負けないんでしょ?マゼンタに」
「くっそ……!」
カーマインは拳を握りしめ、コチニールはもう何度目かわからない溜息をついた。
「なんでこんなことになっちゃったんだろ」
兄が視界には映らない庭を見やる。
「知らねえよ」
弟はコチニールの隣に立って彼と同じような姿勢を取った。
「てかさ」
「ん」
「王宮、目と鼻の先なんだけど」
カーマインが庭の奥を睨みながら言った。
クリムスン家は王宮の敷地の割と近くに存在していた。
「うん、そうだよ」と、コチニール。
「それがなんでこんな大げさな話になってんの?」
「目と鼻の先だけど会うことが出来ないからだよ!」
弟は途端に呆れ果て、
「アホくさぁ」
兄弟は相反する感情で庭の先にあるであろう建物を見つめた。
その日の教室内は閑散としていた。
正確にはたいして人数に変わりはないのだが、鮮やかな何かが欠けている。二つほど。
子供たちがそれぞれ席に着いて珍しく落ち着いている中、アガットは教壇に立ちとあるお知らせを話し始めた。
「急なお話ですが、マゼンタがこの塾をやめることになりました」
何かを感じ取っていたのか、それまで大人しくしていた彼らが騒ぎ出す。
「えー、なんでー?」
「なんかあったのー?」
「それを今から説明しますね」
塾講師が事の説明をわかりやすく伝える。
窓際最後尾、マゼンタがいつも座る席の一つ前。ストロベリーが背後を振り返った。
赤紫色の少女の席と隣の少年の席はしんと静けさを保っていた。
緋色は屋敷の庭でカッパーと体術の稽古をしている。
カッパー。茜色家の守人でいつも庭の木に寝そべりやる気を全く見せない男だ。
まあ確かに今現在もやる気があるのかと言われれば決してあるとは言えないが、猩々緋の命により仕方なく、本当に仕方なく緋色の相手をしてやっていた。
やる気はない、熱意もない、根気もない。だがその強さは事実だった。
カッパーが少年の胸元を片手で突く。
相手は衝撃でさらりと吹き飛んだ。
やる気のない男はそれでも無意識に体勢を整える。もう癖だ。
「クソっ……もっかい!」
緋色も乱れた体勢を整えた。
カッパーはうんざりしつつ、
「いったいいつまで続けるつもりだよ」
「オレが勝つまでだっ!」
少年は相手に走り向かっていく。
「やれやれ」
「とりゃああっ!」
緋色がカッパーに殴りかかる、が、相手はその拳を軽くよけた。
「おりゃおりゃおりゃおりゃおりゃおりゃおりゃああっっ‼」
少年が続けざまに拳を振り上げるが相手には全く効き目がない。全てよけられてしまう。
けれど緋色はやめない。勝つまでやる。それは本気だった。
そんな彼らを屋敷の縁側に立った頭首茜色が、いつになく感情の読めない顔で眺めていた。
木そのものの色を活かした室内には大きな窓もなく明るい照明があるわけでもなかったが、天窓から差し込む光が眩しく、天気の良い日は人工の光が必要ないほどだった。部屋の両側には背丈のある棚が置かれ、中身は教本がぎっしり詰め込まれている。室内奥には長方形の机とそれに合わせた一脚の椅子、机の上にはふっくらとした花瓶に何本もの花が挿し込まれ、まるで部屋の主人を表すかの如く優雅で華やかだった。
蛍火の宴でツキソメを演奏していた女は丁度その机の椅子に座っていた。彼女の隣にはやはり宴で共に主軸を握っていた女が立っている。確か彼女からパステルと呼ばれていたか。
彼女たちは机上にぼんやりと浮かんで発光する画面を見つめている。
そこには男とも女とも判断しかねる容姿の人間が映し出されていた。年齢は二十代中盤、肩までの真っ直ぐな髪に何の特徴もない顔立ち。色はほんのり紫がかった明るい赤色だ。
「例の件、クリムスン家から承諾の連絡があったぞ。だがしかし、その子が本当にこの王宮楽坊にふさわしい楽師なのか?」
パステルが画面に映る中性的な、一応〝彼〟に尋ねる。
「私どもの調べに間違いはございません」
発光画面から男女どちらとも取れる声が返ってきた。平均的な身長、平均的な体重、平均的な体格から響くその声にも何ら特徴がない。
「パステル、既にもう何度も確認したではありませんか」ツキソメ奏者が自分の隣に立つ彼女を見上げて言った。
「ですが」
「それにクリムスン家息女の噂の真意を依頼したのは他ならぬ私たちなのですよ」
パステルはその言葉に眉をしかめ、
「欠員が出たわけでもなく、試験も受けず楽坊に入るなど前代未聞です。しかも相手は生まれも育ちもわからぬ記憶喪失の女子と来ているのですよ。さらにはツキソメを弾いたことさえないというではありませんか。そんな人間を楽坊でスカウトとは……!」
有り得ぬ。
スカウトする側さえそう思っていた。
「しかし彼女が操るセキエという楽器はツキソメに限りなく近いと聞いています」
「ですが……!」
「あなたの心配もよくわかります。ならば、楽坊で通用するかどうかは、実際ツキソメを持たせて私たちの耳で聞いて判断しましょう。それならよいでしょう?」
「それならばまあ……」
ツキソメ奏者は微笑むと、
「なにせあの方の手前もありますからね」
途端にパステルは拳を握りしめ、
「紅樺めええっ」
楽師らしからぬ地を這うような声を発した。
ツキソメ奏者は隣で罵る彼女を一旦置いておくと画面に向き直り、
「ローズ、この度は調査をして頂きありがとう。とても為になりましたよ」
「またいつでもご所望くださいませ」
中性的な彼、ローズは楽坊の主に微笑みを返した。




