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イセカイロセカイ  作者: Elisu Arina
橙の章
130/131

第129話 ダンスクラス


 その後、丁子茶(ちょうじちゃ)焦茶(こげちゃ)から一通りサベカダンスのステップを教わった生徒たちは、男女でペアを組み踊ることになった。

と言ってもここは軍事学園。男女比は圧倒的に男のほうが多い。

そのため男子たちは数少ない女子に何とか声を掛けようとするのだが、彼女たちの大半はとある男子生徒に群がっていた。

「マロウ様、わたしと踊ってください!」

「いいえ私が先よっ!」

「何言ってんのっ、あたしが先でしょっ!」

取っ組み合いの喧嘩になりそうな彼女たちを見て、マロウ王子は提案する。

「じゃあ順番にあなたからお一人ずつ」と、一番手前にいた女子生徒に片手を差し伸べた。

「は、はいっ……!」

舞い上がる彼女の手を取った王子は、相手の腰に手を回し踊り始める。

選ばれた彼女は今にも鼻血を出して倒れそうな面持ちだったが、それを見ていた他の女子生徒は彼女に嫉妬し、また、女子生徒たちを狙う男子生徒たちも奥歯をギリギリと嚙みしめていた。

 けれどコチニールは嫉妬など程遠く、むしろ王子のダンスに感心している。

「マロウ王子、さすがだね。ステップが完璧だ」

「そうだな」コチニールの隣に立っていたマゼンタが同意する。

「もしかして、紫星(むらさきぼし)にも似たようなダンスがあるのかな」

「どうだか」

マゼンタとコチニールが踊る紫星の王子を眺めていると、何やらすぐ側が騒がしい。

なんだ?と、二人がそちらに顔を向けると、柑子(こうじ)とマルーンが緋色(ひいろ)からダンスのステップを必死に習っていた。

「だから、こうやってこうやってこうだってば!」

「ちょ、もっとゆっくり……!」

「だから、こう!こう!こうっ!」

「こう、こう、こう?」

「だから違うって!」

緋色は恥ずかしくて女子となんか踊れない、と言いつつ、さすがダンスのステップは一瞬で覚えてしまったのだ。

それに対し柑子とマルーンの足元は何ともおぼつかない。まるで酔っ払ったおっさんのようだ。

「つかマルーン!おまえ王子に教えてあげるんじゃなかったのかよっ⁈」

「てへ、実は僕もダンスは苦手で……」

その言葉に緋色はげんなりとする。体術の次はサベカダンスを教える羽目になるとは……

 緋色が友人たちにステップを教えるのを確認したマゼンタとコチニールは、何とも言えない表情で少年を応援する。なんだかんだ言いつつ緋色は面倒見がいい、ならばここは彼に託そう!

その時だ、丁子茶が爪先立ちで自分たちの前へやって来たのは。

葡萄(えび)ちゃん?あら葡萄ちゃん?葡萄ちゃんは?あんたたち、葡萄ちゃん見なかった?」

「み、見てないです」と、コチニール。

マゼンタもコクコクとうなずく。

「あらそうなの?まだ授業は終わってないのに、トイレかしら?」

そう言って丁子茶は爪先立ちのまま離れていった。

 去りゆく彼の背後で、マゼンタとコチニールは後ろを振り返る。

そこには体育館の左右にいくつか設置された扉の一つがあった。扉は館内の空気を通すため大きく開け放たれていたが、その向こう側で葡萄は息を潜めていたのだ。

(葡萄も大変だ……)

コチニールがそう思った時、今度は自分たちの目の前に、思い切りダンスを楽しむペアがやって来る。

「なんだおまえら、まだ踊ってねえのか?」

「早くしないと、練習時間なくなっちゃうわよ」

彼らは踊りながらマゼンタとコチニールに話しかけた。

「ビスタ、ヘンナ、ダンス上手だね……」

コチニールが目を真ん丸にして言った。やって来たのは大男ビスタと、超ストレート発言女のヘンナだった。二人はいつも小競り合いをしているとは思えないほど、息ピッタリでステップを繰り出している。

「だって橙人(だいだいびと)だし、ここはカイクウの都だし」

「生まれた時からダンスは身に付いてんだよっ」

「そ、そうなんだ……」

確かに言われてみれば学園祭のメイド喫茶でも、ビスタやヘンナは意気揚々と踊っていた。

「あれ、でもラセットは?」

ビスタとラセットはいつもセットだと思っていたが、サベカダンスとなるとやっぱり違うのだろうか。

コチニールの問いに、ビスタが踊りながら遠くへ視線をやる。

「あいつはあそこ」

ビスタの視線の先を見ると、ラセットはマロウ王子に群がる女子生徒たちに声を掛けていた。しかしどうやら完全に無視されている。

「ガンバレ、ラセット!」

ビスタとヘンナが彼を励ましながら去っていった。

残されたコチニールは苦笑いで、マゼンタは無表情ながら微妙な顔をしている。

「じ、じゃあ、僕たちもそろそろ……」

コチニールがマゼンタにそう言った時だ。甘ったるい声が自分の名を呼んでいる。

二人がその声の主へ顔を向けると、トパーズがこちらへ近づいてくるところだった。

「トパーズ?」

彼女はコチニールの真正面で立ち止まり「あたしと踊ってくれない?」妙にとろりとした声で囁いた。

「あ、でも……」

「私なら後でいい、先に踊ってきてくれ」マゼンタが兄を促す。

「あー……」

コチニールは妹と、やけに艶めかしいクラスメイトの間で揺れ動いた。が、

「ほら、マゼンタもそう言ってるし、あたしと先に踊ろうよ」

トパーズはそう誘ってくるし、マゼンタは自分の背中を手でグイグイ押している。

「じゃあ、トパーズと先に……」

「ヤッタ!ほら早く行こ!」

コチニールが言うが早いか、トパーズは彼の手を取ってさっさと体育館の中央へ向かった。

(コチニールはあたしのものだものっ、そう簡単に返すわけないでしょお)と、思いながら。

 さて、兄のダンスはどうだろうか。

マゼンタがトパーズと向かい合うコチニールを見守っていると、違う方向から自分のほうへ一直線にやって来る人間がいる。その人物はマゼンタの前で立ち止まると、こう言った。

「私と踊っていただけませんか?」

彼女が見返すと、相手は青みを帯びた赤紫色の瞳でこちらを見下ろしている。

「マロウ、王子」

相手は言わずもがな、紫星の王子だった。

王子はいつもと変わらぬ微笑みを浮かべ、決して冗談を言っているわけではなさそうだが……

「踊る相手ならいっぱいいるのでは?」

「ああ、それが……」

マロウが振り返り、マゼンタも彼の視線の先を追う。

そこには例に漏れず、丁子茶の怒りを食らう女子生徒たちの姿があった。

「あんたらっ、何度言ったらわかるワケっ⁈さっさと残りの男子生徒とペアを組んで踊りなさいよっ!」

彼女たちは渋々返事をして丁子茶の指示に従っている。

(なんか、懐かしいな、この光景……)

マゼンタがそう思いつつ彼女たちを眺めていると、マロウがこちらを振り返った。

「ですので、私と踊っていただけたらと」

王子は彼女に右手を差し伸べた。

マゼンタは無表情のまま、しばしその手を見下ろした。やがて、

「わかった」

彼女は答えると、マロウ王子の手に自分の手を重ねるのだった。


 体育館では至る所でペアを組んだ生徒たちがサベカダンスを踊っている。

女子生徒の数が少ないので、男子生徒は幾人か余ってしまうが、それでも柑子やマルーンのように必死にステップを練習する者もいるにはいた。

しかし彼らのほとんどは自分たちのダンスに身が入らない。なぜなら館内中央で踊るとあるペアが、どうにも人目を引いていたからだ。

彼らのステップはさっき習ったとは思えないほど完璧だった。しかも信じられないほど華がある。

ただ踊っているだけなのに、見た目が整っているせいか手足が長いせいか珍しい色をしているせいか、とにかくまばゆい。

彼らの何が自分たちと違うのか生徒たちはよくわからなかったが、とにかく二人のダンスには魅力が溢れていた。

「やっぱ絵になるわねぇ」

ダンスをひとまず終え体育館の端に寄ったヘンナが、華やかな二人の生徒を眺めて言った。

彼女の隣に立つビスタは、いけ好かないように鼻を鳴らしている。

 館内中央でトパーズと練習を重ねるコチニールも、さっきから二人の生徒に目が行って仕方がない。

「ねえ……ねえってば」

「……ん?」

コチニールの視線がやっとトパーズに戻ってきた。

「ちゃんとこっちを見て」トパーズが頬を膨らませ、ほんの少しコチニールを睨んでいる。

「あ、ごめんっ」

「パートナーはあたしなんだから、ちゃんとあたしに集中してよ」

「すみません……」

コチニールが素直に謝ると、トパーズはにこり笑って見せた。

(いいのよ、いいの。このあたしがあなたをしっかり育ててあ・げ・る・か・ら・っ)

彼女は心の中でコチニールに告げると、握り合う手に力を込めた。

 館内の脇で柑子とマルーンにステップを教えていた緋色も、華やかな二人組のダンスを眺めている。

「やっぱアイツらスゲーなー」

あんなに顔寄せ合って、体密着させて、恥ずかしくねえのか?

少年の感覚では〝恥〟が先に立ち、ステップを完璧に覚えそれを友人に教えられたとしても、実際女子生徒と踊るのには勇気がいる。

「あと何年かしたら、恥ずかしくなくなんのかなー」

緋色が呟くと、二人の友人が汗をかきながら彼の隣に立った。

「何が恥ずかしくなくなるって?」と、柑子王子。

マルーンは体力の限界を超えたのか、息切れしている。

「な、なんでもねーよっ。それよりほら、練習練習っ!」

緋色が柑子とマルーンのステップ練習に戻ったそのすぐ側で、体育館の扉の影に隠れた葡萄が、中央で踊り続ける華やかな二人組をこっそり見つめていた。

 華やかな二人組とは、無論マゼンタとマロウ王子だった。二人は館内中の視線を浴びながらサベカダンスを正確に踊っている。それは丁子茶と焦茶が踊るような情熱的なものではなかったが、完璧なステップと動きで見る者を魅了していた。

「紫星にもダンスの文化があるのか?」

マゼンタは踊りながらマロウ王子に尋ねた。

「いえ、ありませんよ」

「それにしてはステップが完璧だ」

「お褒めいただいて光栄です。これでも一応王子なので」

マロウ王子も弟のモーヴ王子と同じで運動神経はいい。だけど実技クラスはモーヴ王子に任せて自分は受けない。色光(しきこう)クラスに関しては、座学さえ受けない……

マゼンタはマロウ王子についての情報を整理しながら、思っていることを口に出す。

「今日は本人なんだな」

それを聞いた相手は微笑みを絶やさないものの、ほんの微かに纏う空気を変えた。

「だからあまり大きな声で言わないでもらえますか?」

「もうイベントには全部自分で参加することにしたのか?」

「さあ、どうでしょう」

「イベントに参加するなら、色光クラスも自分で受講してみたらどうだ、弟に任せるのではなく」

「前にも言いましたけど、私たちのことはあなたには一切関係ありませんよね。だから口を挟まないでもらえます?」

マロウの声音が冷たくなった。だが彼女はもうめげない。

「確かにそう思った。そう思ったけど、マロウ王子が学園祭やこのダンスクラスに参加するようになって、もしかしたら何かが変わってきているんじゃないかと思った」

モーヴもそんなことを言っていたしな。

マゼンタの脳に、学園祭でモーヴが言っていた台詞が思い返された。

「だとしてもあなたには関係ないでしょう?」マロウの声が一層冷たさを増す。

「いつまでモーヴ王子を自分の身代わりにするつもりなんだ。モーヴ王子にはモーヴ王子の人生があって、マロウ王子にはマロウ王子の人生がある。なのに二人で一人だなんて……」

すると突然、マロウが彼女の言葉を遮った。

「いいえ、私たちは二人で一人なんですよ。紫星にいた時からずっと、生まれる前からずっとね」

王子はそう言ってマゼンタの手を離す。その反動で彼女と王子の体も離れ、二人の間には少しの距離が生まれた。

しかし距離は生まれたものの、お互い相手から視線を外さない。

「それは、どういう……」

マゼンタは王子が言った言葉の意味を聞きたかった。二人で一人とは、いったいどういう意味なのか?単純に双子だから、というわけではないだろう。

が、それを許さないかのように、相手に女子生徒たちがわんさか群がった。

次は自分の番だと血相を変える彼女たちに、マロウ王子は微笑みを向ける。その顔はいつもの優しい微笑みに戻っていた。

 マゼンタは何ともしっくりこないまま、緋色たちのほうへ引き返す。

緋色は柑子とマルーンにステップを教えながら、帰ってきたマゼンタを労った。

同時に館内中央で踊っていたコチニールも、トパーズに詫びを入れて妹たちの元へと向かった。当然トパーズは不服そうだったが、さすがにマゼンタのことが気になって仕方がない。

「お、コチニールも戻ってきた」と、緋色。

「マゼンタ、緋色、お疲れ」

「ホント疲れてます」言いつつ緋色が後ろを振り返る。緋色の背後では柑子とマルーンが必死にステップを練習中だった。

コチニールは苦笑いを緋色に返すと、早速マゼンタに尋ねる。

「マロウ王子とのダンス、どうだった?」

「どうだった、と言われても……」

マゼンタは今まで踊っていた館内中央を振り返る。そこでは未だマロウ王子が血相を変えて騒ぐ女子生徒たちに囲まれていた。

「なんかスゴかったよな、王子とのダンス」

「うん、なんかすごく惹きつけられた……!」

褒める緋色とコチニールに対し、マゼンタは内心溜息をつく。

マロウ王子が最後に言った言葉の意味、それが気になっていたのだ。

「どうしたの?浮かない顔して」

無表情でいったい何を考えているのか傍目からは全くわからない妹に、コチニールが聞いた。

さすが紅国人(くれないこくじん)かつ彼女の兄であるコチニールは、妹の心情がある程度読み取れるようになっていたのだ。

「いや、それが……」

マゼンタが言いかけた、その時。

「あ、あ、あの……」

すぐ側でそれはそれは小さな囁き声がした。

その声はあまりに細々として、声量も当然なく、普通の人間なら聞き逃してしまうくらい小さかった。

でも元楽師である彼女にはちゃんと届いたのだ。

マゼンタがその囁き声のほうを振り返ると、そこには一人の女子生徒が立っていた。

(すずめ)?」

自分の背後でうつむきながら立っていたのは、他でもない、研究開発部武器開発学科の雀だった。学園祭の休憩時間に訪れた場所で、武器に関する研究をあろうことか橙星語(だいだいぼしご)ではなく黄星語(きぼしご)で発表し、慌てふためいていたあの、雀である。

そういえば彼女とは必修クラスが同じだった。ということは当然最初からこのダンスクラスにも参加していたはず……今の今まで気づかなかったが……

雀は学園祭の時と同じように、額に汗を浮かべ、全身を強張らせている、というよりプルプルと小刻みに震えている?

これはいったい、どうしたことか。

「誰?知り合い?」緋色がマゼンタに尋ねた。

「同じクラスの雀だ」

「同じクラス?」緋色とコチニールの声が揃う。

どうやら二人の印象にも彼女は残っていなかったらしい。

「あ、あ、あのっ……」

雀は今にも呼吸困難になりそうな声を出した。

「どうした?」と、マゼンタ。

彼女はしばし体育館の床と睨めっこをしていたが、やがてガバッと顔を上げると、

「わっ、わたしとっ、い、一緒にっ、踊ってくれませんかっっ――⁈」

雀の今まで聞いたこともない大声が館内中に響き渡った。

その声に踊ったりステップの練習をしていた生徒全員が動きを止める。体育館の扉の陰に隠れていた葡萄でさえ、驚いた表情でこちらを覗いていた。

「え……マゼンタと……?」

コチニールが一応確認する。

雀は潤んだ瞳で二度大きくうなずいた。

その場の全員が一瞬固まる。

「マゼンタとおっ――⁈」

緋色の叫びで、全員の呪縛が解かれたのは言うまでもない。




 マゼンタの色光化は日に日に安定していった。色光に変身するタイムラグはもうほとんどなかったし、色光というものが自らの体にすっかり馴染んで、歩いたり走ったり普段の自分と同じように動くのは造作もない。

通常の人間と変わらない、ただ体がちょっと大きくなっただけ。

そんな風に彼女は思っていたが、今日の色光クラスで担当のチェスナットが出した課題に、マゼンタは一瞬戸惑った。

「色光の姿で空に浮いてください」

空に、浮く……?

 赤星(あかほし)紅国にいた頃、たまたま出場することになった武闘大会で、自分は生身のまま宙に浮いた。浮いたというより、そこら中を自由に飛び回っていたらしい。

らしいというのは、実際その時の記憶がマゼンタにはなく、後から見た映像でそれを知ったからだ。

その後、何度か宙に浮いてみようと挑戦してはみたものの、全く実行できなかった。

だからあれは映像に何らかの仕掛けが施されたのではなかろうか、と彼女自身は思っている。

 しかし荒野で父クリムスンが自分を助けてくれた時、父は物の見事に空を飛んでいた。

空を飛んでどんどん上空を目指して、青の色光と戦った。

ということはつまり、自分も色光であれば空を飛べる、ということになる。

ならばやってみるしかない……!

 色光フィールドで巨大な生物へと早速変身した彼女は、意識を自らの背中へ向けた。

人間の姿では生えていない翼が、色光の姿では生えている。

この鮮やかな赤紫色の翼を動かして、空へ飛び立つ……マゼンタがそう思い描くと、何となく神経が翼の根元へと伝わる感覚がした。そうこうしているうちに、その感覚は根元から羽根の一本一本にまで到達し、気づけば彼女の翼は大きくはためいていく。

 彼女から離れた地面に佇むチェスナットは、やはり今回も啞然としていたし、ピンチヒッターの煙草(たばこ)も彼の隣でポカンと口を開けている。

(は、初めて与えた課題を、たった数秒で叶えてしまうとは……)

チェスナットと煙草の瞳には、地上から足裏を離し、徐々に空へと浮かんでいく鮮やかな赤紫色の色光が映し出されていた。

 その頃当の本人はどうなっていたかというと、

(飛んでる……⁈)翼をパタパタと動かしながら地面を見回していた。

まだ翼の動きはぎこちないが、それでも確実に浮かんでいるのは確かだ。

甲冑を纏った自分を翼で持ち上げるのはかなり力が要りそうだが、まさしく羽一枚の重みとでも言おうか、全く重量を感じない。

これなら楽に飛べるのではないだろうか……マゼンタが楽観的に思えば思うほど、翼は彼女の意思を汲み取り、羽ばたきを上達させていく。足元を見下ろすと、既に学園からかなり空の高い所にまで到達していた。

 彼女は思いのままに辺りを飛び回ってみた。

橙星の空気は暑くて潤いをふんだんに閉じ込めている。それでも風を切ると、少しは涼しく感じられた。

生身の私もこんな風に飛んでいたのだろうか……そんなことをのんびり思っていると、すぐ近くに今の自分と似たような気配を感じた。

それは同じような大きさ、同じような色、同じような形をし、背中から生えた両翼を大きく羽ばたかせている。

マゼンタがその方向を見やると、当然ながら紫星のモーヴ王子が色光の姿で空を自由に飛び回っていた。

(私が出来ることはあいつにも出来る、しかも私より軽々とやっているようにも見える……)

なら、私はもっと上達しなければならない。奴よりも早く、奴よりも確実に、色光を自分のものにしなければ……!

 彼女がモーヴ王子に対抗意識を燃やしているその頃、地上で啞然と上空を見上げているのは、教師陣たちだけではなかった。

戦闘部の敷地内にあるベンチに腰掛けたビスタとラセットも、上空で羽ばたく二体の色光をあんぐりと見上げていたのである。

「あれ、初めての飛行訓練だろ……?」

「そうらしいね」

「こんなこと言うのは不本意だが、アイツらに追いつく自信が、俺にはもうねえよ……」

ビスタ、まだ追いつくつもりだったんだ……ラセットはそう思ったが、決して口には出さない。なぜなら自分らは親友だからだ。

「しかも、あの女が俺より先にラブレターもらいやがってたし……!」

そこおっ⁈

ラセットは思わず心の中で親友に突っ込みを入れた。

「でもあれ、相手、女だよね……?」

「え……?」

ビスタが上空から顔を下ろし、隣に座るラセットを見る。

「え……?」

ビスタの視線を受け取ったラセットもまた、彼を見返すのだった。




















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