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イセカイロセカイ  作者: Elisu Arina
橙の章
129/131

第128話 色光化


 色光(しきこう)フィールドはとにかく広い。その広さは学園の中でも随一で、他の学部でもこれほどの敷地面積を誇る施設はないだろう。茶色の土が地面に平たく敷かれ、見上げれば淡い橙色の空と白い雲が漂って、それ以外には本当に何もない。

にも関わらず、フィールドの端と端と言ってもいいくらい距離がある場所に、二人の生徒が立ったまま向き合っている。二人は共に目を閉じて一切動かず、自分の内側に深く集中しているような様子だった。

残りの生徒と担当教師たちは二人のちょうど中間部分、と言っても彼女たちに挟まれる場所ではなく、敷地のずっと手前のほうで二人の動向を見守っている。

「あの二人、とても優秀らしいな」

煙草(たばこ)が大して興味もなさそうに尋ねた。

それでもチェスナットは、かなりの頻度で授業に顔を出してくれる彼に、丁寧に答える。

「はい、この学園始まって以来のスピードで戦闘部のクラスを進んでいます」

「ほお。じゃあこの色光実技クラスも速攻合格するんじゃねえのか」

「どうでしょうね」

チェスナットが遠くに佇むマゼンタと紫星(むらさきぼし)の王子に視線を戻した。

二人共自身に集中しているのは見て取れるが、どちらかというと王子のほうが落ち着いていて、マゼンタのほうからは僅かながら必死さを感じられないでもない。

 そのマゼンタの中には、父クリムスンが色光となった姿が浮かんでいた。

巨大な体幹から頭、腕、脚が伸び、背中には鳥のような翼、腰からは長い尾、頭の先から手の指先、足の爪先までを甲冑が覆い、全身から赤い光を放つ人でもあり動物でもある生き物……確か名前は、クリムスンレーキと言った。

父が変身したクリムスンレーキは、荒野で多くの人を救った。青の色光が突然現れ、それを退散させたのだ。

あんな色光に、私も、なりたい……!


 マゼンタが自分に深く集中している頃、同じく戦闘部の講堂で剣術クラスの筆記試験を受けていた緋色(ひいろ)は、彼女とは真逆の態度を取っていた。

(剣術は実技ができてなんぼだろっ!筆記のテストなんかにすんじゃねーよっ!)

そう思いつつ、目の前に浮かぶ透けるようなテスト画面を睨みまくる。画面には刀に関する問題文と選択肢がつらつらと並んでいた。

にしても落ち着かない、どうにもこうにも落ち着かない。

少年は両脚をカクカクと揺らし、尻をパタパタと持ち上げ、今にも椅子から飛び上がりそうな勢いだった。

アイツは色光になったのだろうか、もう色光になっちまったのだろうか……⁈

 緋色がそんな風に思っている頃、同じく戦闘部の敷地内にある屋外射撃場では、コチニールと葡萄(えび)が他の生徒に交じってライフルの射撃訓練をしていた。

ヘッドフォンを耳に当て、銃を構える。そして遠くの的に向かって撃つ。

コチニールと葡萄がほぼ同時に撃った弾は、ものの見事に大きく外れた。

それから何度か引き金を引いたが、全然的に当たらない。

しかし二人はなぜか弾が当たらなくても、落ち込むどころか次の生徒にさっさと場所を譲り、ソワソワととある方角を眺めたのだった。

「マゼンタ、色光になれるかなぁ」と、コチニール。

「あれはそう簡単になれるものでは。万が一、クリムスンのように才能があれば別ですが」と、葡萄。

二人は色光フィールドがある方角の空を眺めて、大きな溜息をついた。


 彼らが心配するその相手は、未だ瞼を閉じて直立不動のままだった。

深く集中しているのはわかるが色光になる気配も、色光になると全身から漂う小さな光さえ全くと言って湧いていない。

彼女から離れた場所に立つ上級生と、やる気のない教師の煙草はもうすっかり飽きてしまっている。

 だがチェスナットだけは彼女、そして紫星の王子をじっと見つめていた。

(全てのクラスで筆記、実技テスト共に満点。前代未聞の速さでクラスを進んでいる君と王子。私は、さっさと君たちに全てのクラスに合格して卒業してほしいのか。それとももっと柑子(こうじ)殿下のお側にいてほしいのか、どちらが殿下にとってより安全で最適な道なのでしょうか……!)

チェスナットが心の中で葛藤していると、何やら遠くに立つマゼンタの体から、赤紫色の小さな粒が漂い始めた。

彼はすかさずその光に気づき、隣に立つ煙草も表情すら変えなかったが一応光に気づきはした。

 次の瞬間、マゼンタ自身が眩しく発光したかと思うと、その輝きはみるみるうちに巨大化していく。

彼女と遠く向かい合っていたマロウを演じるモーヴは、やっとか、と思いつつ「モーヴェイン」と口にした。

途端に、モーヴ自身も赤紫色の光を放ち、それがどんどん巨大化していく。

 すっかり元の姿とは異なってしまった二人の生徒を見上げたチェスナットは、口をあんぐりとさせた。

頭には羽がたなびく兜、それが目元までを覆い、首から手先足先にかけては艶めく甲冑、背中には鳥のような翼が生えた、まさしく色光と言える姿に二人は変身していた。

色はマゼンタが鮮やかな赤紫色、紫星の王子が青みを帯びた赤紫色を全体に纏っているが、造形はほぼ一緒である。

「初めての、授業で……⁈」

瞬きを忘れたチェスナットが呟く。

「ま、才能ある奴は簡単になれっからなぁ」煙草は内心酷く驚きつつ、いたって冷静に述べた。

「そ、それはそうですけど……!」

 二人の色光化に驚いているのは、何も教師たちだけではない。

戦闘部の講堂で筆記試験を受けていた緋色はテストをほっぽりだして窓ガラスにへばりついていたし、屋外射撃場のコチニールと葡萄も色光フィールドの方角を呆然と見上げていた。

色光のサイズはかなり大きい。そのため戦闘部内にいれば、ありとあらゆる場所から巨大生物を拝むことが可能だったのだ。

 色光フィールドのチェスナットは、口を呆けさせながら思う。

紫人(むらさきびと)であるマロウ王子が色光になれるのは百歩譲って驚かない。でもマゼンタは、赤人(あかひと)で、女子(じょし)だろう?それが、こうも簡単に、どうして?)

橙星(だいだいぼし)黄星(きぼし)赤星(あかほし)、どの星でも色光になる確率が高いのは、圧倒的に男だった。

女でも色光になれると噂程度に聞いたことはあるが、それでも自分の知っている人間では存在しない。

それが、まさか、自分の教え子が……⁈

チェスナットが啞然とする隣で煙草も確かにマゼンタの変身に驚いてはいたが、その視線は紫星の王子に移り、僅かながらに傾いた。

 ところで、地上の彼らが驚いている頃、マゼンタ自身はどうなっていたかというと、本来あるはずの視点からかなり高い場所で、景色全体をぼんやり見渡していた。

今まで自分が見上げていた建物の類は全て小さく見え、学園全体、さらにはカイクウの都、そして都を囲む未開の森までもが見渡せる。

それに対して空はやけに近く、何なら雲にまで手が届きそうなくらいだ。

(これが、色光……私、色光に、なれた……?)

彼女は試しに自分の右手を持ち上げてみる。感覚は普段肉体を動かすのと何ら変わりない。

その右手に視線を落とすと、やけに図太くしかもごつごつとした鎧で覆われていて、動かすのが相当難儀に見えた。

にも関わらず、指を握ったり開いたりするのは、やはり自分の体を動かすのと全く変わらないのである。

マゼンタは自身の体を見下ろしてみた。こちらも全身が艶めく光を放つ鎧で覆われていて、何だか大層重そうに見える。

それなのに体自体は軽く、まるで大きな光に包まれている感覚で、むしろ重さなど存在していないと言ってもいいくらいだ。

 彼女が呆然と自分の体を見回していると、ふと、目の前に近しい色の存在が立っていることに気がついた。その存在はいかにも色光らしい姿をして、こちらをじっと見ている。

 途端にマゼンタは我に返った。

自分が色光化した、ということは奴も……!

目の前に佇む青みを帯びた赤紫色の色光は、ただ静かにこちら側を見つめていた。



 その夜、学園の食堂はいつになく騒がしかった。

食堂に集まった生徒や職員が本日のニュースと称して大騒ぎをし、赤星から来た少女や紫星の王子に向けて賛辞を送ったせいだ。

新入生で、しかも初めての色光実技クラスの授業で、うち一人は女子生徒で、とにかく紫星の王子は当然この場にはいなかったが、赤星から来た少女は学園中の人間から声を掛けられたのである。

 しかしながら彼女の側にいるいつものメンバーは、皆それぞれ違った反応を見せていた。

特に男子たちは信じられないほど凹みに凹み、どんよりとした空気を辺りに漂わせている。

原因は勿論、マゼンタとマロウ王子の色光化にあった。

「キャーッ!マゼンタやっぱスゴイっ!あたしが見定めただけのことはあるっ!」

唯一はしゃぐヘンナの隣で、トパーズはつまらなそうに自らの髪の毛先を人差し指でいじっている。

「ありえねぇ、ありえねぇ……」と、ヘンナの向かい側に座った大男のビスタ。

ビスタの隣に掛けるラセットも「ブラウン系の俺を差し置いて……」すっかり魂が抜けている。

「いいなぁ、マゼンタもマロウ王子も……」ビスタと同じ列に座る緋色は、プレートの肉をフォークでずっと突いたまま食べる気配がない。

緋色の隣に座る柑子は「大丈夫、緋色もすぐになれるよ!」と、友人をずっと励まし続けている。

「それは、そうかもしんないけどさぁ……」緋色の肉を突く手は止まらない。

柑子の隣に掛けるマルーンに関しては、口角が僅かに引きつっている。

教師チェスナットの手先として動く彼は、さすがにマゼンタの能力に不安を覚え始めていたのだ。

ヘンナの隣に座る葡萄はというと、何とも言えない微妙な表情で、プレートの芋料理をゆっくりと口に運んでいる。

(マゼンタがクリムスンのように色光になれたことは、我が(いえ)にとってメリットでしかない。それは充分わかっている、わかっているはずなのに、どうしてこうも素直に喜べないのか……)

眼鏡の彼はどうしても彼女にコチニールの側にいてほしかった。コチニールの側で、コチニールのサポートをしてほしかったのだ。色光学科ではなく対人(たいじん)学科に進む葡萄にとって、コチニールが自分の目の届かない場所に行ってしまえば、後は彼女に頼らざるを得ない。だのに……!

 テーブルに着いたメンバーがそれぞれの思いを抱える中、当の本人はいつものようにプレートの豆をスプーンですくっている。

その彼女に対し、隣に座るコチニールはやっと重い口を開いた。

「うん、でも、よかった、色光になることができて……おめでとう、マゼンタ」

コチニールは彼女に笑顔を向ける。もしかしたら頬が若干ぴくついているかもしれない。それでも兄は妹に思い切り微笑んで見せた。

「ありがとう」豆を咀嚼していたマゼンタがコチニールに返す。

自分でもまさかこんなに早く色光になれるとは、実際思っていなかった。

けれど色光になったのは自分だけじゃない……彼女の脳に青みを帯びた赤紫色の色光が思い浮かんだ。

「てか暗っ!」

ぐったりと溜息をつく男子たちを見回して、ヘンナが叫ぶ。

「あんたたちだってマゼンタみたいに頑張ればすぐに色光になんかなれるわよっ!」

「そう簡単に言うなよなっ……!」ビスタだ。

「頑張るとか頑張らないとか、色光になるのはそういう話じゃねえから……」ラセットも反論する。

「そんなこと言ったって……!じゃあ諦めんの?ここで、指くわえて、オレには無理だーって?」

ヘンナの言葉にビスタとラセットが顔を見合わせた。

「そんなの……絶対嫌に決まってるっ‼」

答えたのは緋色だった。

「オレは絶対色光になるっ!そのためにこの学園に来たんだからっ!父上とそう約束したんだからっ!」

緋色は真っ直ぐにマゼンタを見た。

「だからマゼンタ待ってろよっ!オレはソッコー色光クラスに進んで、おまえみたいにすぐ色光になってやっかんなっ‼」

「ああ」

赤紫色の少女は豆をすくう手を止めて少年に答えた。

彼女の答えを聞いた少年は、突いていた肉をガツガツと口に放り始める。先のクラスへ進むためには、まず体力!これがなければ何にもならない!

「食欲が戻ったね」柑子がほっとしたように言うと、隣のマルーンも一応相槌を打った。

それに対しビスタとラセットは(単純なヤツ……)と、横目で緋色を眺めている。

緋色よりも少し大人であり、色光のことを素人より知っている彼らは、色光化が簡単ではないことを知っていたのだ。

 その時、稀に現れる例の男がマゼンタたちのテーブルへとやって来た。

「こんばんは!今夜のお食事はどうですか?楽しんでますか?あっ!」

彼はマゼンタを見つけると、瞳をキラキラと輝かせる。

「色光化、おめでとうございます!やっぱりあなたはそんじょそこらの生徒とはなんか違う、と私は最初っから思ってましたよっ!」

「ど、どうも」マゼンタはとりあえず相手に礼を述べた。

彼女を祝福したのは他でもない、洗柿(あらいがき)だ。この学食を仕切る柿渋(かきしぶ)渋紙(しぶがみ)夫妻の息子である。

「他の皆さんもどうぞ彼女を見習って、さっさと色光になっちゃってくださいねえっ!」

洗柿の悪気ないその台詞に、コチニール、葡萄、ビスタ、ラセットはげんなりとし、柑子とマルーンは苦笑いで、緋色だけはむしゃむしゃと肉を口に突っ込み続ける。

「あら、オレなんかマズった?」洗柿が目の前の生徒たちを見回す。

「少しは空気読もっかー」と、髪の毛先を指でいじり続けるトパーズ。

「へ?」

ポカンとする洗柿にヘンナは顔を近づけて、

「なんか、面白い話題ないですか?」

「え、なんで?」

「いいからっ!なんか、元気出るヤツっ!」

「ええっ?」

ヘンナに小声でせかされ、洗柿は何かを考えるように食堂の天井を見上げた。

「ああっ!そういえば今度、仮面舞踏会があるよね?」

突然、今まで退屈そうにしていたトパーズの瞳に光が灯った。

「仮面舞踏会?」聞き慣れぬ言葉に、コチニールが洗柿へ聞き返す。

「あー、そんなイベントあったわ、もうすぐだっけ?」と、ヘンナ。

「そうそう、学園の生徒なら誰でも自由に参加できるっていう」洗柿が説明した。

するとマルーンが情報を付け加える。

「参加する生徒は各教科のレポート百枚が免除されるそうです」

「やっぱりそうなるんですね……」葡萄は呆れた。

運動会にしても学園祭にしても、上位入賞しなかったり参加しなければレポート提出が相場と決まっていたからだ。

「仮面舞踏会ではみんなゴージャスな衣装を着て、仮面をつけて、たくさんの相手と一晩中踊りまくる、でも踊る相手が何者なのかわからない、そのドキドキがたまらないっつー毎年恒例のイベントさっ」と、洗柿。

「え、ちょっと待ってください」コチニールが早速気づいた。「踊りって、僕たちが踊るんですか?」

「そだよ、舞踏会だもの」きょとんとした洗柿が答える。

「マジ、ですか……」コチニールの声がかすれていく。

赤星紅国(くれないこく)出身の彼にとって踊りと言えば、知っているのは夏祭りの盆踊りぐらいだ。橙星の舞踏会で踊る踊りとは、いったいどんなものなのか……

 コチニールの不安げな表情を読み取ったヘンナが言う。

「大丈夫大丈夫、イベントの前にちゃんとダンスクラスがあるから」

「ダンスクラス?」と、コチニール。

「そんなものまでカリキュラムに組まれているんですね」葡萄は呆れ果てるしかない。

「必修クラスの生徒たちがそれぞれ集められて、ダンスの練習に時間を割いてくれるはずよ」

ヘンナの言葉を聞いて、トパーズの瞳はさらに煌めいた。

(ダンス、それは勿論……)

トパーズは自分と同じ列に座るコチニールに視線を送る。

付け睫毛を何度もはためかせる彼女にコチニールは気づいたが、その理由がいまいちよくわからない。だからとりあえず彼女に微笑みだけを返しておいた。

 彼らの向かい側に座る柑子はというと、

「ダンスですか……」なぜか妙に気乗りしない様子だった。

「どした?」相変わらず肉にかぶりつく緋色が柑子に尋ねる。

「ダンスは、その、あまり、得意なほうでは、なくて……」

「そなの?王子なのに?」

「うん……」

すると、ここぞとばかりにマルーンが両手で握り拳を作った。

「大丈夫です、一緒に練習しましょう殿下!」

「あ、ありがとう」

「いえ、友人ですからっ、ねっ、緋色」

「お、おう」

オレ、さっきマゼンタにソッコー色光クラスに進むって言ったばっかなんだけどな……

緋色がそう思いつつ向かい側のマゼンタを見ると、彼女も豆を咀嚼しながら何かを考えているようだった。

(ダンスクラスと仮面舞踏会。果たしてどちらの王子が顔を出すのか……)

彼女の脳裏には、紫星の王子、つまりマロウ王子とモーヴ王子の姿がちらついていた。




 ダンスクラスはとある平日、生徒たちが各部の各授業を受講する予定だったのにも関わらず、突然午前中の授業時間全てに充てられた。場所は中央棟に併設された体育館。この場所が仮面舞踏会当日の会場にもなるらしい。

薄い灰色の盛り上がった天井に、白い壁、足元は明るい茶色の板張りで、室内奥には木造のステージがある。

 入学当初、救命措置クラスで使用したきりこの場所を訪れることはなかったが、今日久々に必修クラスの生徒たちはこの場に集められた。そしてダンスクラスの担当は、

「はーい、皆さーんお久しぶり、元気にしてたぁ?」

今日もゴージャスな刺繍を全身に施した制服姿に厚化粧、チリチリカールの長い髪を頭全体で細かなお団子にした体術クラス男性教師、丁子茶(ちょうじちゃ)だった。

 さらに彼の隣には相棒がいた。

肩下までのチリチリとした髪を適当に一つに結び、Tシャツとラフなパンツ姿の銃術クラス担当教師、焦茶(こげちゃ)だ。

二人はステージの前に並んで立って、館内にばらける生徒たちと向かい合っている。

しかしやる気満々の丁子茶に対して、なぜか焦茶のほうはここに無理矢理連れてこられた雰囲気を醸し出していた。

「それじゃあ早速、今度開催される仮面舞踏会のためのサベカダンスをみんなに伝授するわよっ」

「サベカ?」コチニールと緋色の声が揃う。

「サベカとは、このカイクウの都に昔っ……から伝わる伝統的なダンスのことで、愛する男女がお互いの思いを激しくぶつけ合う、とても情熱的でファンタスティックなダンスのことよっ」

丁子茶の説明にコチニールと緋色は言葉を失った。葡萄に関してはもはや血の気が引いている。

「まあ、聞くより見るほうが早いわね。まずはあたくしと焦茶先生で実際に踊ってみるから、それが終わったらみんなでステップを練習するわよ!」

そう言うと丁子茶は焦茶を振り返った。

焦茶は何とも言い難い微妙な顔をしていたが、相手に促されるように渋々体育館の中央へ歩を進める。

 そして二人の教師が向かい合うと、丁字茶が自分の左手を焦茶の右肩に乗せ、もう一方の手で焦茶の左手を鷲掴みにした。反対に焦茶はというと、残った自分の右手を丁子茶の腰に回している。もはや抱き合うような形だ。

「さっ、行きましょうか」

「はい……」

意気消沈とした声で焦茶が丁子茶に答えると、二人はその場でステップを踏み、踊り始めた。

 丁子茶と焦茶、最初は二人共同じステップを踏んでいるのかと思ったが、どうやらそうではないらしい。二人それぞれに役割があるようで、決められた足の動きをしながら、体育館の中を移動していく。

しかも所々で焦茶が丁子茶の手を離し、それに合わせて丁子茶がくるくると回って見せたりするのだ。かと思ったらまたすぐ焦茶の元に戻ってきて手を繋ぎ、二人でステップを合わせたりしている。この一連の動きがどうやらサベカダンスというものらしい。

 二人の教師を囲んでいた生徒たちは、そのほとんどがよく見慣れたようにダンスを確認していたが、赤星出身の、特に男子生徒たちはそれどころじゃなかった。

(あ、相手と顔が近けえっ……!)と、真っ赤になった緋色。

(というか上半身も近いよねっ……!)と、自らの頬に両手を当てるコチニール。

葡萄はこれから起こるであろうことを予測して、今にも卒倒しそうな勢いだ。

対して柑子王子は人知れず溜息をつき、隣に立つマルーンが握り拳を作って王子を鼓舞している。

生徒の中には教師たちのダンスを見て、ステップを真似したり隣の人間と踊り始める者まで出てきた。そのくらい橙人(だいだいびと)にとってダンスというのは、日常に組み込まれているものらしい。

 ところがだ。

全員の中心で踊っている丁子茶と焦茶は、どうしてか先程からずっと何かについて揉めている。

足や体は情熱的なダンスを披露しているのに、口と表情だけは険悪なムードを漂わせていたのだ。

「ちょっと、焦茶センセが男役なんだからちゃんとリードしてよっ」

「だって丁子茶先生がずっとリードしてるからだろっ?」

「あなたがリードしてくれないからでしょっ?」

「あのねぇ、学園祭も今も君が俺にリードを任せた時は一度たりともないからねっ」

「よく言うわよっ、あたしがやらなかったらちゃんと出来ないくせにっ」

「そんなことないよっ」

「あーあ、学園祭の時は息ピッタリだと思ったのにっ」

「いや、俺は君に振り回されてただけだから」

焦茶のその言葉に丁子茶はカチンときたのか、自分から手を離し、相手からも距離を取った。

同時に焦茶も疲れたように丁子茶から離れると、二人は互いを睨み合う。しかしながら生徒たちの手前、ここで喧嘩を勃発させるわけにはいかない。

丁子茶は何とか感情を抑え、生徒たちを見回すと言った。

「はい、じゃあとりあえず基礎のステップ練習始めるわよ!」




















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