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イセカイロセカイ  作者: Elisu Arina
赤の章
12/130

第11話 緋色少年


 教室内はカオスだった。

六、七歳程だろうか、皆同じような形の着物を着て、ある者は席に座りながら両隣の子とベラベラ喋り、ある者は席から立ち上がって騒ぎまくり、ある者たちはもう席を離れじゃれ合いのような喧嘩をしている。

とにかく室内は子供たちの笑いと歓声と怒号に包まれ、良く言えば楽し気、悪く言えば耳をつんざく金切り声で溢れていた。

そんな中明らかに場違いな無表情のマゼンタと、苦笑いをするしかない教師のアガットが教壇にポツンと並び立っていた。

アガットは目の前の惨状を見渡しながら、

「はい、みんな静かにして、静かにっ、静かにっ!」

だが子供たちは彼の声など全く聞こえておらず未だ笑いこけている。

それを見たアガットはもう慣れているかのように、

「はいっ!今日はね、新しいお友達を紹介します!マゼンタと言います!ちょっと大きいお姉さんだけど、みんな仲良くしてくださいねっ!」

すると今まで散々騒ぎまくっていた子供たちが途端に口をつぐんで、教壇へと視線を向けた。

その視線は当然、自分たちより異様に成長した少女を突き刺している。

一瞬しんとした教室内だったが、彼らは彼女を認識するや否や、

「うわー、なにその色!」

「すごいハデ!」

「てかデカイ!」

「てゆーかオバサン!」

素直な感想を何も包み隠さず言葉にした。

(オバサン?)

マゼンタは聞き慣れない単語に首を僅かに傾げる。

隣に立っていたアガットは慌てた様子を見せると、

「もうみんなそういうこと言わないのっ!」

けれども子供たちはキャッキャッと笑いながら少女を吟味し続けた。その目はなぜこんな大人が自分たちと同じ教室で学ぶのだろうかと興味津々に輝いている。

アガットは無邪気な彼らの態度を諦めて彼女のほうを向き、

「それじゃあ、あそこの空いている席に座ってくださいね」

と、窓際最後尾の誰も座っていない席を指し示す。

マゼンタは指示された通りその席へと向かった。

 その光景を教室の前方に設置された扉の窓から眺めている男が二人いた。

一人は勿論葡萄(えび)で、もう一人は塾講師の臙脂(えんじ)だったが、葡萄は内心居ても立っても居られない程うずうずし今にも教室内に突入しそうな雰囲気を醸し出している。

(いやどう見てもみんな小学校低学年ですよね……!マゼンタめっちゃ浮いてますよねっ……!)

彼の頭の中にはその文言だけが渦巻いていた。

本当にこれでよかったのか、本当にこの場所で合っているのか……⁈

そんな彼の様子に気づいた臙脂が口を開く。

「あとは私たちで対応しますので、どうぞお引き取りください」

「はあ」

抑揚(よくよう)のない臙脂の声に一応答えるも、彼の意識は違う所へ飛んでいた。

本当にここでよかったのだろうか……?

何度もそう思いながら室内最後尾の椅子に座ったマゼンタを見つめる。

マゼンタは行儀よく席に着き、教壇に立つアガットの話を一身に聞いていた。

その姿を確認した眼鏡の彼は、

(でも、いくつか塾の候補を上げて、内容的にも距離的にもここが一番彼女に合うんじゃないかと決めたのはクリムスンと私なんですけど……)

葡萄は意を決したように少女から隣に立つ塾講師臙脂に視線を移すと、

「わかりました。それでは、マゼンタをよろしくお願いします」

頭を下げた。

臙脂は感情のこもっていない声音で、

「はい……」

とだけ答えた。



アガットが教科書を開いてそこに書かれた縦書きの文字を読みつつ教壇に立っている。

しかし子供たちは先程の喧騒程ではないが、絶えずキャッキャッとふざけ合い全く授業どころではない。

ところがだ。

窓際最後尾の席に着いているマゼンタだけは彼らとは打って変わって手元の教科書をめくりながら、何とか授業を成り立たせようとするアガットの話を真剣に聞いていた。

早く学問を習得したい、相手の思いをちゃんと認識し、自由自在に言葉を操って自分の考えを正確に伝えたい、そんな姿勢が全身から溢れ出ているようだった。

少女はアガットのなぞる言葉の通りに教科書の文字を追う。

理解出来ない単語もある、それでも食らいつく、絶対に置いて行かれるものか、と必死になっていたその時、

彼女の隣席の椅子がガタンと音を立て、勢いよく後ろに引かれたと思ったら、

「終わったー!」

マゼンタより頭一つ分は背の低い少年が両手を掲げて立ち上がったのだ。

年齢は十歳程?年齢に相応(ふさわ)しい身長と体格、けれどもまくり上げた袖から伸びる腕は年の割に異様に鍛えられている。黄みがかった真っ赤な瞳に、それと同じ色の長い髪をぼっさぼさの寝癖まみれにしてはいたものの、服だけは子供たちと同じようなものを着こなし、素直で純粋そうな愛嬌のある顔をしていた。

彼の行動に教室内はしんと静まり返る。

マゼンタも教科書の文字を追うのを忘れ、突然ガッツポーズをしながら立ち上がった隣の彼を呆然と見上げていた。

「宿題成功!」

黄みの真っ赤な少年はそう言って自分の腰に両手を当てると満足そうに笑ったが、教壇に立っていたアガットはコホンと咳払いをし、

緋色(ひいろ)、宿題を今ここでやってどうするんですか、家でやりなさい家でっ。まあやってるだけ素晴らしいですけどもっ」

「だろっ?オレスゲー!」

「文末だけ取り込むんじゃないのっ!」

「あははははっ」

豪快に笑う緋色と呼ばれた少年はふと、自分の視界に入った赤紫色の何かに目を留めた。

その激しい色の女子生徒は表情を一切変えることなく彼をじっと見上げている。

「ゲッ!誰っ⁈てかなんだその色!」

緋色は思わずのけぞった。

だから(・・・)っ、さっき紹介したでしょう?今日からこのクラスで一緒に勉強するマゼンタですっ。聞いてなかったんですかっ?」

アガットが教壇から唾を飛ばす。

「マゼンタぁ?」

次の瞬間、少年はブッと吹き出した。

そして、

「ぎゃはははははははっ‼」

室内中、いや窓の外まで、何なら塾の敷地外まで彼の大笑いが響き渡る。

マゼンタは少年の大爆笑が理解出来ず、口を少しだけポカンと開けるしかなかった。

「コイツ超浮いてんだけど!おまえいくつ⁈どう見ても十六とか十七じゃねーのっ⁈あはははははははっ!」

腹を抱えて笑い転げる彼の姿に、少女はイラッとする。

それは新たな感情が生まれた瞬間でもあった。が、そんなことに気づく余裕はない。

ただ彼女は、

(なんだか、あまりいい感じがしない……)とだけ思っていた。

「じゃあ言わせてもらいますけど」

二人の近くにアガットがやって来ていた。

「この小学校低学年クラスに通っている君はどうなんですかね、浮いてないんですかね」

「うっ」

アガットの指摘を受けて緋色は急に言葉に詰まる。

「そ、それは、だってほら、オレたちはまだ年が近いし……」

「今年四年生なんじゃないですか?」

「だからそれは……」

自分を覗き込む教師から顔をそらすように窓の外へ目を移す。

すると塾の敷地から出て行く一人の青年の姿が緋色少年の視界に入った。

その人は眼鏡を掛けすらりとした背格好、いかにも勉強だけは出来ますといった風貌をしている。

(アイツ……)

緋色はよく知っているその彼の姿を目で追った。

「とにかく、これ以上自分のことを棚に上げてマゼンタを馬鹿にしないこと、いいですね?」

「はーい」

少年はアガットを見上げてとりあえず返事をする。

やれやれと言った風に肩を下ろしながらアガットが教壇へ戻っていくと、緋色は突然真面目な表情になり鮮やかな赤紫色を見下ろした。

「おまえさ」

声を掛けられたマゼンタは今一度少年に顔を向ける。

「もしかしてクリムスン家のヤツ?」

「……そうだが」

黄みの真っ赤な髪と瞳を持った彼に衝撃が走る。

それは背骨を稲妻で打たれたような感覚で、体の末端まで(しび)れがしっかり行き届いた。

「マジかよ……‼」

マゼンタには少年の反応が本当に理解不能で、目を開き観察するしかなかった。



日の光が優しく庭を温めている。

そこで生きている植物や石や土たちは心地よさそうに全身を日光に浸からせ、共に生活している虫たちも楽しげに飛び跳ねていた。

この屋敷の主クリムスンも彼らを眺めながら縁側の柱にもたれかかっている。その姿は一見穏やかで心の平安を保っているようにも見えた。

そんな彼の元へ一直線に近づく静かな足音が聞こえてくる。

スタスタとやって来るその足音は、廊下奥から迷うことなく頭首の側で立ち止まった。

「戻りました」

眼鏡を掛けた彼の右腕が、いの一番に告げる。

頭首は柱から背中を起こすと、

「ご苦労。マゼンタはどうだった?」

「まあ、なんとか。あの素晴らしい光景をあなたにも見せたかったですよ」

葡萄は少女が小さな子供たちに囲まれている場面を思い返した。

「あの子にとっては酷かもしれないが、少しずつ慣れるしかあるまい。そうすればいずれ学校へも通えるようになる」

クリムスンの楽観的な反応に葡萄は反論したかった。

あの自分より十は年下の少年少女と一緒に学んで本当に上手くいくのだろうか、と。

だがそう決めたのは他でもない頭首と自分自身なのだ。

今更ここで引き下がるわけには……

だから結局こう答えるしかない。

「だといいですけどね」

当たり障りのない返答だがこれが今は最適だろう。

クリムスンはふうと鼻から息を吐くとまた庭へ目を向け、自らの腕を抱えるように組んだ。

その様子に眼鏡の彼はいち早く気づき、

「何か、ありました?」

恐れ半分、興味半分で頭首に尋ねた。

「……茜色(あかねいろ)の躍進が止まらん」

茜色家(あかねいろけ)?」

二人の脳裏に同じ姿が流れる。

それは翼と尾が生え、人とも動物ともとれる赤い巨大生物だった。

ところがその色はクリムスンとは違って、もっと黄みがかっている。

「今も紛争地帯に?」葡萄が問う。

「奴の色光(しきこう)だけで国を取る勢いだそうだ」

「彼の色光、アカネですか」

「まったく、何でもかんでも破壊すればいいものではない」

「しかし、私たちも何かしらの手立てを考えなければ……!」

珍しく葡萄のこめかみに汗が滲み、クリムスンは庭を思い切り睨んで唸った。



自分の背中より大きな鞄を背負った子供たちが塾の玄関から次々と出て来る。

彼らははしゃぎ飛び跳ねながら今日あった面白い出来事を友人と話し合い、大声で笑って言いたいことを言いまくりそれぞれの家路につくようだ。

その中に彼らとは色も背丈も年齢も違う少女が一人、交じっていた。

子供たちは彼女を振り返りきゃっきゃと指を差していくが、そんなことなど全く気にも留めていない当の本人は、今日習ったことを頭の中で巡らせつつ塾を後にしようとしている。

教科書の内容、アガットが教えてくれたこと、赤星語、算数、理科、社会、それから……

少女が学んだものを脳内で復習していると、黄みの強い真っ赤な瞳の少年が背後にぴたりとくっついてきている。

彼はなぜかはわからないが、教室を出る前から彼女に(まと)わりついてずっと同じ質問を浴びせていたのだ。

「おまえマジここに通うつもりなの?」

「そうだ、ずっと言ってる」

「やめとけって、ここはおまえみたいのが来るとこじゃないからさ」

マゼンタは振り返る。

「おまえみたいの、とは?」

「だから、その……」

緋色はもごもごと言い淀んだ、かと思ったら、

「わかんだろっ?」

突然同意を求めた。

でも彼女の答えは当然の如く、

「わからない」

「わかんねーのかよっ⁈」

少年は呆れたように突っかかる。

赤紫色の少女はお決まりの仕草、つまり首を傾げた。

おまえは一体何を言いたいんだ?と、全身で表現したつもりだった。

「と、とにかくここは、オレの塾だから、おまえは来ちゃダメなのっ!」

「だからなぜ?」

「だーかーらっ!」

その時、

「マゼンタ!」

よく通るその声に二人が反応し顔を向ける。

声の主はほんのり紫みを帯びた鮮やかな赤色の髪をした少年だった。彼は塾の敷地を囲む塀の近くに姿勢よく立ち、玄関前に佇む妹を笑顔で出迎えている。

「ヤバっ、コチニールじゃん……!」

「え?」

マゼンタが驚いて緋色を見下ろすと、彼はどうしてか虫唾(むしず)が走るような顔をしていた。

そしてそれまでの態度とは百八十度変わり少女をその場に残すと、一人でさっさと敷地の外へ向かっていく。

黄みの真っ赤な少年は本当は今すぐ走って立ち去りたかった。

でもそうしなかったのは彼の中にプライドというものがあったからだろう。

だから塾の敷地を出る際、彼はコチニールを出来得(できう)る限りの横目で睨み上げた。

これで何とか面目(めんぼく)は保てるはず、幼い少年はそう考えたのだ。

反対にコチニールはというと、黄みの真っ赤な少年に息を吞んだ。

(今の……!)

コチニールが目を見開く間も、黄みの真っ赤な少年は睨むことをやめずに歩き続け、だんだん遠ざかっていった。

そこへマゼンタが兄の元へやってくる。

「コチニール、来たのか」

だが兄は心ここにあらずと言った様子で愕然としている。

「コチニール?」

少女は今一度声を掛けた。

すると兄は愕然としたまま妹に向き直り、

「君は、緋色と同じ塾に通うことにしたの……⁈」

「緋色?」



背の低い茶色の葉が地面に生い茂り、それが景色全体を占めていた。

勿論遠くには黒い山々も見える。けれど視界のほとんどは地面に生えた茶色の葉だった。

その葉はきっと、たぶん、恐らく、美味しい作物となるのだろうが、少女にはどう育ちどの部分をどう調理し、どんな料理となり、どんな味がするのか想像もつかない。

彼女は自分が歩いている歩道に視線を落とす。

足元には小さな石ころが敷かれ、所々赤い草の根や茎が顔を出している。

二人は広大な敷地に茶色の葉が植えられた間の細い歩道を並んで歩いていた。ここはコチニールやカーマインの通学路であり、マゼンタにとっては塾へ通う道の途中でもある。

今人通りはほとんどない。まるで貸切状態だ。

そんな中マゼンタとコチニールが夕日に照らされながら帰路につき、少女は思い出したかのように話を切り出した。

「緋色……そういえば塾の先生、彼のことそう呼んでた」

「あの子は茜色家の人間なんだよ……!」

「茜色家?」

「僕たちと同じ守人の一族でクリムスン家最大のライバルなんだ」

「ライバル」

兄は前方には何もないのに何かをじっと見据(みす)えるような表情になる。

「緋色は茜色家頭首、茜色の一人息子で、まだあんな子供だけど力も強いし体術も相当上手(うわて)だって聞いてる」

「へえ」

「一般の男性なら一捻(ひとひね)り、何かしら武道経験のある人が相手でも簡単に投げ飛ばせるっていう噂もあるくらいだし」

「ほお」

「とにかく、あの子には充分注意をしなくちゃ……!」

コチニールが言ったことを理解出来たかどうかは定かではないが、彼女には別の疑問が湧いていた。

「緋色の家のヤツ、色光(しきこう)なれる?」

兄は予想外の質問に一瞬きょとんとする。

「え、色光?」

「そう、色光。父上はなれるだろう?」

「それは、父上はもちろん変身出来るけど……でもあれは誰でも出来るわけじゃないし」

「葡萄もそう言ってた。クリムスン家でも限られた人間しかなれない」

「うん。だから、茜色家でも限られているはずだよ」

「そうか」

「でもさすがに頭首の茜色はなれるだろうけど」

少女は歩きながら腕組をした。

(頭首の茜色。緋色の父親、か)

コチニールは不意に立ち止まると、

「ねえマゼンタ」

赤紫色の彼女も兄に合わせて立ち止まる。

「緋色のこと、父上に話して塾を変えてもらったほうがいいと思う」

「……なぜ?」

「なぜって、だから今言ったでしょ?クリムスン家と茜色家はライバルなんだ。だから茜色家の人間と同じ塾に通うのは危険すぎるって……!」

「うーん」

彼女は腕組をしたまましばし熟考した。

ライバル、だから危険?だから塾を変える?なんでそうなる?

少女は熟考のポーズのまま微動だにしない。

そんな妹の様子を見ていたコチニールは不安げに、

(僕が言ったことちゃんと理解出来てるかな……⁈)

一人悶々と考えていた。

しかしマゼンタは組んでいた腕を解くと、

「いや、いい」

「ええっ⁈」

「確かにヤツは嫌な感じした、でも授業面白かった、だからこのままでいい」

「ちょっ、本気⁈」

「ああ、だから父上に言わなくていい」

「そんな……!」

「大丈夫、なんとかなる」

そう言って先に歩き出した。

「なんとかって……!」

コチニールは妹を追いかける。

が、彼女は(さえぎ)るように、

「それより、クリムスン家で色光になれるの、父上以外、誰?」

またもや以前の話題に引き戻した。

「え?」

兄はすぐ側にある記憶を手繰寄(たぐりよ)せる。

「色光になれるのは、僕たちの身近にいる人だと……ワインとか」

「ワイン?」

少女は立ち止まり、それに合わせコチニールも立ち止まる。

マゼンタは荒野でクリムスンが巨大な色光になり空を進んでいく光景を思い起こした。

その時自分の隣に立っていたのは……

(あいつも色光になれるのか……)

兄コチニールは妹の様子に首を(かし)げっぱなしだった。



「ただいま」

夕闇迫る屋敷の玄関を兄と妹が(また)ぎ、兄はいつもの調子で帰宅を告げる。

すると()がり(かまち)に葡萄が仁王立ちで待ち構えていて、

「おかえりなさいマゼンタ塾はどうでした?」

間髪入れず少女に尋ねた。

「塾は……」

彼女は一瞬言葉に詰まる。

「楽しかった」

と、答えておいたほうがいいだろう、と判断しそのように口を動かした。

コチニールはそんな妹を横目で見ながら心底呆れている。

「授業にはついていけましたか?」

葡萄の尋問は続く。

「ああ」

「本当に?」

「本当に」

「ならいいのですが、何かわからないことがあったり気になる箇所があったら先生たちに必ず確認するんですよ。いいですね?」

「わかった」

隣で聞いている兄は内心冷や汗を流し、

(いや、授業以前の大問題があるんだけどな……)

と、苦々しく微笑んだ。

マゼンタがコチニールに視線を投げかけると、彼は心配そうに彼女を見返す。

その時だった。

廊下の奥からバタバタとこちらへ向かう足音が聞こえてきたかと思うと、その足音の持ち主は葡萄の横で勢いよく立ち止まり、

「マゼンタ!」

少女にとってはもう一人の兄、カーマインが妹を見下ろした。

「カーマイン、どうしたの?」と、目を丸くしたコチニール。

けれどもコチニールの言葉など聞こえないように、

「俺と勝負しろ!」カーマインは彼女に人差し指を突き出す。

「……え?」コチニールと葡萄は同時に声を漏らした。

マゼンタはというとカーマインの台詞に呆然とするしかなかった。


















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