第115話 麵と神と肝試し
「強さ?」
マゼンタがマロウに聞き返した。
「ええ、強さがなければ紫星では生き残れませんから」
彼女と彼の間にしんとした時が流れた。
辺りは寺院に参拝する人々で賑わっている。なのに二人の間だけ時が止まったかのようだった。音はせず、相手以外は何も見えない。
「強さ」
マゼンタが呟く。その言葉が彼女の中に反芻していった。
柑子たちはどんどん先へ進んでいく。
だが葡萄だけはふと立ち止まり、背後を振り返った。
マゼンタと紫星の王子が向かい合っている姿が彼の目に入った。
何かを話している?いや、何かを話しているわけではないのか?
「マゼンタ……?」
眼鏡の彼は計り知れない不安の波にまたも襲われて、彼女の名を小さく口にした。
その後柑子は王都の色んな場所を案内してくれた。
例えば市場。肉に魚に野菜、香辛料に果物に花等を広げた露店を現地の人々に交じって見て回った。緋色は美味しそうなものを見つけると、全てたいらげてしまうくらいだった。
次に闘技場に足を延ばした。
中央のリングで二人の男が殴り合い、それを囲む観客席では大勢の人々が盛り上がっている。マゼンタたちも勿論席で観戦したが、蜜柑は格闘技が苦手らしく目を両手でしっかりと覆い、緋色に関しては言わずもがな大いに盛り上がった。
日が傾く頃には水路にも赴いた。
王都の水路では花や食べ物を売るためにいくつもの小舟が行き交うらしく、これが観光名所にもなっているらしい。マゼンタたちは一般の道路よりも低い所に作られたその水路を見下ろし、穏やかに行き交う小舟をのんびりと眺めた。ただ、緋色だけは大はしゃぎで小舟を指差し、柑子が笑顔で彼に説明をしてあげた。
ふと、マゼンタは背後を振り返る。
今自分たちがいる場所は歩道であり、すぐ後ろは車道が占め、その奥は商店が軒を連ねている。自分たちの周りは、現地の人や観光客らしき人間が歩いているだけだ。
なのに、また視線を感じる。
王都を訪れてから、昨日も、今日も、ずっと……
そんな彼女の姿を、すぐ側に立ったマロウ王子がやはり微笑みながら見ていた、というより観察していた。
夜を迎えたサイエイの都では、あちらこちらで柔らかな明かりがいっせいに灯る。
その明かりは昼間仕事を終えた人々が帰宅して家に明かりをつけるというより、かぐわしい匂いを放つ屋台のものが圧倒的に多いらしい。
王都の人間は基本食事は外で取る。
何なら朝食さえも家ではなく、外の屋台で済ませることもあるそうだ。
屋台では現地の名物から家庭料理、ちょっとしたおつまみからデザートまで、ありとあらゆる王都の料理が提供されているとのこと。
無論、王族である柑子や蜜柑は普段は豪勢な宮廷料理をほぼ毎日毎食欠かさずいただいているが、たまにお忍びで屋台に赴くこともあるそうな。
そのため彼らがマゼンタたちを案内したのも、とある屋台だった。
歩道に簡易的なテーブルと椅子がずらりと並び、歩道の両側に続くありとあらゆる屋台の一つからお勧めの一品を選んで、客人に提供する。
これならば間違いない!
マゼンタたちはテーブルを囲むように椅子に座って、大きな丼に盛られた太い麺を豪快にすすった。
肉と魚の出汁が効いて、王都独特の香辛料も効いて、美味しい以外の何物でもない。
ところが、だ。
やはりマロウ王子だけは麵を断り、小さなカップに入った飲み物だけをひたすら味わっている。中身はただの水、だ……
本人が食欲がないというのだから、それを無理矢理召し上がっていただくわけにはいかない。
でも、王都へ来てからというもの、マロウ王子はほとんど何も口にしてはいないのではなかろうか。
朝も昼も夜も、何も。摂取するのは水分のみ。
柑子は勿論のこと、蜜柑も心配してあれやこれや気を利かせてはみた。しかし紫星の王子はご自分の意志を曲げなかった。
それならばもう仕方ない。今自分の目の前に湯気を湛えたかぐわしい麵料理が置かれているのだ。これを食さずに橙星の王子と言えるだろうか。
柑子はマロウ王子を気にしつつも、自分の食欲と作ってくれた料理人の愛情を優先させた。
フォイーユモルト、土色に関しては当然、柑子と蜜柑の背後に立って警戒を怠らない。
「んまーっ!これ超うまっ!赤星にもほしいっ!」
緋色が汁を飛ばしながら麵をすすった。
「そう言ってもらえて私たちも嬉しいよ」
ヴェールを取った柑子が隣席の蜜柑と視線を合わせる。彼女もにこりと微笑んだ。
葡萄が眼鏡を曇らせつつ、緋色の食べっぷりを呆然と眺めて聞いた。
「それはいったい私たちの何倍の辛さなんですか……?」
麺の汁は辛さを自由に選ぶことが出来る。当然葡萄やコチニール、マゼンタは一切辛味を追加していない。
「えっとー」緋色が口ごもる。
「緋色さんのは五十倍ですね」と、蜜柑王女。
「五十⁈」
「それから兄君様のは三十倍で私のは二十倍です」
「今日はちょっと控えめにしてみたよ」と、柑子王子。
「私もです」と、蜜柑王女。
葡萄は橙星の王子と王女に啞然とした。
(緋色の舌はイカれてるから置いておいたとしても、王都の方々は本当に辛さにお強いですね……)
葡萄の隣でコチニールも苦笑いだ。
すると緋色が丼のスープをちょうど飲み干して叫ぶ。
「食ったーっ!ごちそうさまーっ!」
少年は丼をテーブルに豪快に置いた。
「早っ!」葡萄が目を見張る。
コチニールも「もう食べたのっ?」
「おうっ!おまえらまだなのか?」
「うん、まだだよ」コチニールが頬を引きつらせる。
葡萄は「あなたが早すぎるんですよっ……!」
「そか?」
その時、
「ごちそうさまでした」両手を合わせたマゼンタが言った。
「ええっ⁈」と、コチニール。
「マゼンタもですかっ⁈」と、葡萄。
「食べた」
彼女はいつも通りの無表情で報告した。
(いつの間に早食いに……⁈)心の中でコチニールが問う。
(緋色の影響でしょうか……!そうですね、きっとそうですよね……!)と、葡萄。
周囲が賑やかになってきた。
仕事を終えた人々が屋台を訪れ、席に着き、食事を始めている。
柑子も蜜柑もマロウも既にヴェールを脱いでいるが、まさかこんな側に王族がいるとも知らずに。
マゼンタは麺を上品に食べている柑子の名を呼んだ。彼女にはどうしても彼に尋ねたいことがあったのだ。
「聞きたいことがあるんだがいいか?」
「なんでしょうか?」
麺を飲み込んだ柑子が僅かに首を傾げる。
「〝神〟についてなんだが」
蜜柑が箸を止め、ひたすら水を嗜んでいたマロウもマゼンタに視線を向けた。
「どーした急に?」と、緋色。
「気になることがあって」
「なんでしょう」柑子は真っ直ぐにマゼンタを見る。
「神とはそれぞれの人の心の中にいる存在だ、とマロウ王子が以前言っていたが」そう言いつつ彼女はマロウを一瞥した。
マロウは微笑んで「ええ、もちろん憶えていますよ」
あの時、実際それを言ったのは今目の前にいる王子ではなく偽物のほうだが、本物と偽物の間で情報交換は抜かりないらしい。
「ならあの寺院の中にあった銅像はなんなんだ?あれが神なのか?」
「えっと……」
マゼンタの質問に柑子の喉がゴクリと鳴った。
柑子の隣で妹の蜜柑が心配そうに兄を見上げている。
さらに二人の背後に立つフォイーユモルトと土色も、こちらをちらり振り返った。
マゼンタには疑問だった。
(柑子が自分自身で軍事学園に入学すると決めたのではなく、あの銅像が学園に入るよう言ったということなのか?)
その時、緋色が不敵な笑みを浮かべて話し始める。
「オレは気づいちゃったぜ」
「何に?」
「だからつまりさ、あの銅像が、神を表現したものってことじゃね?」
「緋色」コチニールが思わず目を見開く。
「ん?」
コチニールは感動しつつ心の中で叫んだ。(いつになく冴えてる!)
また緋色も(言葉にして言ってっ!)と、コチニールに心の中で突っ込む。
ただ一人、話の内容に置いてけぼりにされている葡萄は、麺を食べながら呆けた顔をした。
「神を表現したもの。神とはこんな姿だろうと想像し作ったもの」
「そうそう」
マゼンタの呟きに緋色が大いにうなずいた。
「ならそもそもなぜ表現しなければならない?なぜ銅像として作らなければならない?」
「へ?」
「そうですね、神が自分自身だというのであればわざわざ銅像にしたりする必要はありません。なぜなら自分は今ここに存在しているのだから」
マロウ王子がマゼンタの肩を持った。
「そりゃまあ」と、緋色。
「そうですが……」コチニールの相槌も立ち消えになる。
彼らの会話を聞いていた柑子も「えっと、それはですね……」以前の勢いはどこへやら、戸惑いを隠せない。柑子の隣に座る蜜柑も、先程からなぜかオロオロしっぱなしだ。
すると思いがけない人物がマゼンタたちの会話に割って入った。
「恐れながら、柑子殿下がお困りのようなので口を挟ませていただいてもよろしいでしょうか?」
「フォイーユ……!」
柑子が振り返ると、ボディーガードのフォイーユモルトがこちら側を向いている。
彼は席に着く全員を見回して話し始めた。
「確かに、神とは人々の心の中にいる存在だ、という考え方もございます。そしてそれが自分自身だという考え方も勿論ございます。しかしこの星の民は、それを実際に目に見える形として寺院の中の銅像を生み出し、崇め奉りました。それは日々生活する中で起きる様々な出来事によって心が折れそうな時、何か達成したい目標がある時、目に見えるほうがそこにいる、そこに存在して願いを叶えてくださるという安心感を得ることで自らの勇気や希望を奮い立たせるためだと、私は理解しております。なのでどんな考え方も正しいと思いますし、それらを否定することはいたしません。ですから柑子殿下や蜜柑殿下、私どもにとってはあの銅像も神であり、自分自身でさえも神だと、そのように私は考えております」
「フォイーユ……」柑子がほっとしたように胸を撫で下ろした。
「誠に勝手を申しまして大変失礼いたしました」
そうして文字を湛えた男は体の向きを百八十度変えると、また周囲の警戒に当たった。
その彼に対し、隣に立つ土色が小声で呟く。
「よく言うわ」
けれどもフォイーユモルトは土色を無視して辺りに注意を向け続けた。
ボディーガードたちの背後では、
「と、いうことなんですけど……」柑子が弱々しく言葉を発する。
「なるほど、寺院の銅像は民の心の拠り所だったのですね」マロウが納得したように微笑む。
「は、はい」
マゼンタも「どんな考え方も正しい。全てが神」と、大きくうなずいた。
彼女は頭の中で考えを整理する。
(つまり柑子自身とあの銅像が軍事学園に入学するよう言ったということになるのか。ふうん、あの銅像は喋れるんだな。いったいどういう仕組みなのか……)
反対に緋色は「うーん、オレ、よくわかんなかった」あっけらかんと言った。
「緋色ーっ!」コチニールがさすがに突っ込む。せっかくフォイーユモルトさんが詳しく説明してくださったのにっ!
「い、いいよ、よくわからなくても」柑子は苦笑いだ。
「そかー?」
彼らの会話を眺めながら、全く話についていけない葡萄は首をしきりに捻っていた。
元々柑子王子がなぜ軍事学園に入学したかの理由を述べた時、その場に居合わせなかった葡萄は、柑子の思いを知る由もない。
だから彼はただ単純にポカンとしていた。
(橙星の民が信心深いとは知っていましたが、なぜマゼンタたちまでこんなに神様談義に花を咲かせるのでしょう)と。
夜の湖には人っ子一人いない。ただ静かに夜空を湖面に湛え、微かな波を岸に打ち上げ、水の香りを周辺に漂わせている。
夕食を終えたマゼンタたちは、屋台が並ぶ場所から少しばかり離れた湖の側をのんびりと歩いていた。湖には岸辺をぐるりと囲むように舗装された歩道が敷かれている。彼女たちはどこか目的地へ向かうというより、ただ食後の腹を落ち着かせるために何となく散歩をしていた。
誰かがそうしようと提案したわけではない。
ただこの辺りを歩いてみようかとなって、誰もそれに異議を唱えなかったから、彼女たちはこの道を歩いているのだ。人の姿がなく、車の通りもなく、街灯もほぼない夜の歩道はひたすらに静かで、湖の波の音だけがちゃぷちゃぷと岸辺にぶつかっていた。
歩道を挟んで湖の反対側は小高い丘になっており、真っ黒な木々が鬱蒼と生い茂っている。
昼間であれば橙星らしい茶色い木々が出迎えてくれるのだろうが、今の時間帯は黒い塊がこちらへ迫ってくるような雰囲気さえ醸し出していた。
けれどその丘と湖の間を通る彼女たちは、そんなことなど全く気にしない。
特に最後尾を歩く柑子は、同じく隣を歩く蜜柑に大切な思いを伝えている最中だったから尚更だ。
「私は、チョウサイ軍事学園に通うことになって、よかったよ」
「え?」
蜜柑は驚いたように兄柑子を見上げた。
二人のすぐ側には、勿論フォイーユモルトと土色がぴたりとついている。
「確かに大変なこともいっぱいあるし、いつも安全かって言われたら、そうだとは答えられない。けど」
柑子は言いつつ自分の前を歩くマゼンタたちに目を向けた。
「彼らに出逢えて、一緒に色んなことを学んで、いっぱい助けてもらって、ものすごく充実してるし、それに少しだけ、成長出来てると思うんだ。だから、最初は絶対嫌だったし戸惑ったけど、でも今は、みんなと同じ学園に通えてよかったって思ってる」
「兄君様……」
そんな風に思っていらっしゃるとは……微笑みと共に蜜柑の瞳が潤んだ。
柑子の思いを耳にしたフォイーユモルトも、主を護りつつ口元を僅かに緩ませる。
その時、先頭を歩いていた緋色が立ち止まり、湖とは反対の丘を見上げ声を弾ませた。
「お、なんだこれ?」
緋色の後に続いていたマゼンタたちも立ち止まり、少年の視線の先を見上げる。
そこには丘を覆う木々の真ん中を割くように、地上から上まで真っ直ぐな階段が伸びていた。階段に灯りの類は一切ないが、星の光を受けて何とか一段一段確認出来ないこともない。
「階段だね、どこに続いているんだろう」
コチニールが言うと、フォイーユモルトが答える。
「この上には小さな寺があったはずですが」
また寺……!緋色は内心大いに萎えた。
すると突然、紫星の王子が両手をパチンと叩き鳴らす。
「そうだ、いいことを思いつきました」
全員が何事かとマロウ王子に注目すると、彼はいつも以上に口角を上げて話し始める。
「せっかく夏休みなのですから、風流なことをいたしませんか?」
「フーリュー?」と緋色。
「赤星には〝肝試し〟というものがあると伺ったことがあります。それに是非チャレンジしてみましょう」
「肝?」と、マゼンタ。
「試?」と、柑子。
「し?」と、蜜柑。
首を傾げるマゼンタや橙星の王族たちとは打って変わって、緋色は途端に盛り上がる。
「おーっ!いいねやろーっ!」
ただしコチニールと葡萄だけは絶句していた。
フォイーユモルトに関してはマロウ王子を静かに見つめている。
「肝試しとは?」
マゼンタがマロウに尋ねた。
「おや、ご存知ありません?」
不意にマゼンタははっとする。「あ、いや……」
彼女の反応にマロウは微笑んで返した。「って、私もよくは存じ上げないのですがね」
「王子ーっ!」緋色がマロウに突っ込んだ。
マロウはくすっと笑わずにはいられない。
紫人であるマロウ王子に代わって、本家本元の緋色が意気揚々と説明を始める。
「肝試しとは、暗くていかにも何か出てきそうな道を進んで、恐怖心を試すことですっ!」
「え……」柑子と蜜柑が愕然とした。
「へー」と、相変わらず無表情のマゼンタ。
「なるほど、それが肝試しなんですね」と、マロウ。
マゼンタは緋色に質問する。
「何か出てくるって何が出てくるんだ?」
「え?例えば、幽霊とか、お化けとか」
「ユーレイ?オバケ?」
聞き慣れない単語にマゼンタが口を呆けさせると、
「こんな話があります」急にマロウが緋色の後を継いだ。
「以前この辺りでとある若い女性が事故に遭い、命を落とされたそうです」
途端にコチニールと葡萄はすくみ上がり、互いの手を握り合う。守人にも関わらず。
「それ以来夜になるとその女性の幽霊が辺りをうろつき〝助けて、助けて〟と道行く人に声を掛けるそうな……」
柑子と蜜柑も互いの両手を握り合って固唾を飲んだ。が、
「で、ユーレイとはなんだ?」
マゼンタは素朴な疑問を投げかける。
「そこっ⁈」と緋色。
「人が亡くなると肉体は滅びますが、何らかの理由で自らが死んだことに気づいていない、あるいはこの世に未練のある方のことを幽霊と呼ぶそうです」マロウが赤紫色の少女に丁寧に解説した。
「ほー」
「と、いうか、マロウ殿下、お詳しい、ですね……」若干身を震わせたコチニールが頬を引きつらせて感心する。
「ああ、先程地元の方がお話していたのを耳に挟んだのです」
「な、なるほど……」
なんてことを吹き込んでくれたんだ地元民っ……!
コチニールは心の中でその地元民を罵った。
緋色がやる気満々で宣言する。
「んじゃ早速やろーぜっ!この階段を上って上で合流、以上!」
「合流?」マゼンタがまた首を傾げる。
「肝試しは少人数で行くから楽しいんだよっ!」
(た、楽しい……?)コチニール、葡萄、柑子の三人は少年の考えに甚だ疑問だ。
するとマロウが提案する。
「では二人ずつペアを作りましょうか」
「おう、賛成!」と緋色。
「それだと一人余る」マゼンタが指摘した。
黙って聞いていたフォイーユモルトもさすがに口を挟む。
「それに私は柑子殿下から、土色は蜜柑殿下から離れるわけには参りません」
「そそそそうだよね……!」フォ、フォイーユがいてくれれば、とにかく安心……!
柑子は心の中で必死に自分を落ち着かせようとした。
彼らの意見に対してマロウ王子は少しばかり考えを巡らせると、
「ならば……」
丘の上に続く階段の下で、マゼンタたちが輪になるように向かい合っている。
その中でマゼンタ、コチニール、葡萄、緋色、マロウ、柑子、蜜柑は、先端に数字の書かれた細い紙切れを手にしていた。
緋色は皆が持つ紙切れを確認し、
「えっと、一番がオレと柑子王子と、あとフォイーユのオッサンか」
緋色の言葉に土色が思わず吹き出し、フォイーユモルトが土色を一瞥した。
「二番が蜜柑殿下と土色さんになります」と、マロウ。
「で、三番がコチニールと葡萄」と緋色。
「そしてラストがマゼンタさんと私ですね」
マロウがそう言い終えると、葡萄がはっとなった。これは……!
マゼンタはというと、手に持った紙切れをまじまじと見つめている。
(マロウ王子はいつからこの紙を準備していたんだ?)
肝試しで二人ペアを作るにあたって、くじ引きをしようと持ち掛けたのはマロウだった。しかもその為のくじを前もって準備してあったのだ。
「それでは……」
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっとお待ちください……!」
マロウが早速始めようとすると、葡萄が止めに入る。
「どうかされました?」
「こんな暗い森の中の階段を、マロウ殿下とマゼンタだけで進まれるのですか……⁈」
葡萄の疑問にマゼンタは首を傾げた。
マロウは葡萄に答える。「それを言うなら蜜柑殿下も土色さんと二人きりですが」
「そ、それは……」
「まー柑子王子にはオレとフォイーユのオッサンがついてるから鬼に金棒だけどな!」と、笑顔の緋色。
(助かります……)柑子は心の中で礼を述べた。
「私が言いたいのはそういうことではなくてですね……!」
葡萄が尚もマロウ王子に食い下がる。マゼンタがマロウ王子と二人きりになるのはよくない……!絶対に……!
そこへマゼンタが「葡萄、私なら大丈夫だ。必ずマロウ王子を護ってみせる」眼鏡の彼に素直に誓った。
「だからそういうことでは……!」
必死に否定する葡萄に、マロウはふっと笑う。
「と、ご本人もおっしゃっていらっしゃいますし、私も一応心得はございますので問題ありませんよ」
「っ……!」
葡萄は相手が紫星の王子にも関わらず、拳を強く握りしめた。
そうして葡萄の抵抗も虚しく、肝試しは幕を開けた。
まず一番手の緋色、柑子、フォイーユモルトが丘の階段を上り始める。
「行ってきまーす!」
緋色は階段の下で待つマゼンタたちに元気よく手を振った。




