第六話 和解
自分の部屋で、彼女は自分の机に頭を付けて座っていた。
彼女は先程から、部下に言われた言葉を思い返していた。そして、自分なりにその意味を理解し、考えを整理しようと努めた。
やがて彼女は上体を起こし、一度首を振った。それからさっと髪を整えると、傍らにあった帽子を身に着けた。
そして彼女は席を立つと、そのまま部屋を出て行った。
誰もいない見張り台の上で、ヒデカツは一人佇んでいた。
相変わらず彼は、町の風景を眺めていた。そして、さっき友人が言ったことに思いを巡らせていた。
「へえ、ここからは町の景色がよく見えるのね」
不意に声がしたのでそちらへ目をやると、隣にセーラが立っていた。
「静かね。このような様子を見てると、今ここが戦地であることが信じられないわね」
「そうだね。本当にこんな穏やかな時間が、いつまでも続いてほしいよ」
二人はそのようなことを話しながら、目の前の光景を見つめていた。
「・・・ごめん」
ふとヒデカツが、ポツリとそう言った。
「君は僕のことを心配して現場から離れさせたのに、僕は何だか疎外された気持ちになって・・・。本当は君の考えを分かっていたのに、つい大声を出してしまって・・・。すまなかったと思っている」
「ヒデカツ・・・」
彼の言葉に、セーラは小さく声を返した。
「ううん、私の方こそ悪かったわ。このような状況になれば、あなたがそのように考えることなんてすぐに分かるのに・・・。だけど私は自分の気持ちを優先して、結局あなたのことを考えていなかったわ。本当に申し訳なく思ってる」
「セーラ・・・」
彼女の言葉に、ヒデカツも短く返した。
「どうも僕は、今まで一人で何でも抱え込み過ぎてたみたいだ。すぐ隣を見れば、みんなが近くにいるのに・・・。これからは、もっとみんなの力を借りたいと思う。そうすれば、君のことをより一層大切にできるような気がするから」
「そうね。私もこれまで何かを守ることに懸命で、自分が守られることなんて想像もしていなかったわ。だけど私にも自分を大切に思ってくれる人がいるのだから、その辺りは心に留めておかないとね。これからはもっとお互いの気持ちを確かめ合いましょう。そして、もっとお互いのことを深く知っていきましょう」
そう二人は言葉を交わすと、真っ直ぐに互いを見つめ合った。
そして二人は、しっかりと抱き合った。
「やれやれ、どうやら上手くいったみたいだな」
見張り台の梯子の下で、キューベルはそう呟いた。
「全く、一時はどうなることかと思いましたよ」
彼の隣にいたオリヴァが、心底ほっとした様子で答えた。
「まあ俺も初めはそう思ったけどな。だけどあの二人のことだから、きっと仲を取り戻せると考えていたぞ」
「そうですね。あのお二人に限って、決裂するとは思えませんね」
「これから色々あるんだろうけど、あの二人ならおそらく大丈夫だろう。そしてこれから、更に関係を深めていくんだろうな」
「僕もそう願っていますよ」
そう言って二人は、顔を見合わせてフフッと笑った。
「さて、それでは俺はそろそろ現地へ戻るとするか。いつまでも隊長が部隊を離れているわけにはいかないからな」
「お気を付けて。僕は今回の結果を艦橋にいるエリー少尉に報せにいきますので」
「ああ」
キューベルはそう言って親指を立てた。そして艦の外へ向かって歩いて行った。
「大変申し訳ありませんでした!」
ヒデカツに会ってすぐに、アリアは深々と頭を下げた。
「え?ちょっと、何で謝るの?」
突然の謝罪の意味が分からず、ヒデカツは戸惑った。
あれから数日、<イフリート><ウルフロード>の面々は、順調に任務をこなしていた。この間小さな武力衝突は何度かあったが、いずれも大事には至らず犠牲者も出なかった。
そしてヒデカツは、今度は自分の意思で<ナイチンゲール>を訪れた。そこでアリアに再会した途端に、いきなり謝られたのである。
「風の噂で聞きました。何でもあの後、艦に戻ってからオルメス大尉と喧嘩をされたとか・・・」
心底申し訳ないといった感じでアリアが言った。
「もしかしてあの時私が中尉をお引き留めしたからそのようなことになったのかと・・・。あのまま行かせておけばそのようなことにはならなかったのかと思いまして・・・」
「ああ、別に気にしてないよ。あの時君は正しい判断をした。それに喧嘩じゃなくて、ちょっと気持ちが擦れ違っただけだから。あの後二人で話し合って、ちゃんと関係は元に戻ったから」
「本当ですか?」
「うん、だから君が気にする必要はないよ」
「ワタベ中尉・・・」
そこでようやくアリアは穏やかな表情になった。
「やはりあなたは評判通りの人格者です!」
アリアはにっこりと笑った。そしてヒデカツを促すと、船の案内のために率先して歩き出した。
そのような日々を過ごしているうちに時間が経ち、遂にヒデカツたちは約一〇日間の任務を終えて帰国の途についた。
それから更に一〇日程後―。
「あ~、いい気持ち~」
甲板の上で風に当たりながら、ローラは大きく伸びをした。
<イフリート>は現在、アクアフィールドの東の軍港の沖合いに停泊していた。そして入港の順番を待っているところであった。
「そうだな。今まで戦地にいたから、こんなに穏やかな気持ちになるのは久しぶりだな」
彼女の隣にいたキューベルが言った。
「そうですね。ついこの間までは緊張で気が抜けない状態だったですけど、これからは少しはホッとできますね」
「だがこれからもいつ何が起こるか分からないから、俺たちはきちんと心構えをしておかなければならないぞ」
「そうですね。ところで隊長・・・」
ローラはそう言うと、いきなりキューベルの腕にまとわりついた。
「これからしばらく休暇でしょ?これから二人で思いっきり楽しみましょうよ~!」
「おい、まだ任務中だぞ?」
「まあそんな固い事言わないで」
そう言ってローラは嬉しそうに笑った。
その様子を後で見ながら、
「やれやれ・・・」
「相変わらずね・・・」
アコーとモニカは大きな溜め息を吐いた。
同じ頃―。
「帰ってきたんだ・・・」
艦橋の外の景色を眺めながら、ポツリとヒデカツは言った。
「そうね、私たちの母国よ」
それを聞いたセーラが、明るい口調で答えた。
「それでどうだった?初めての海外任務は?」
セーラの問いかけに、ヒデカツは彼女の方を向いた。そして微笑を浮かべながら言った。
「そうだね、色々あったけど充実してたかな。今回のことで、僕は様々なことを学んだ。そしてそのことは、これからの僕の人生においてとても大事なものになっていく。そんな気がするよ」
「ならいいわ。私も今回の任務にあなたを連れて行って、とても良かったと思っている」
そう言ってセーラは、満面の笑みを浮かべた。
「何だかあのお二人、前より仲良くなってない?」
「ええ、そうですね」
エリーの問いかけに、オリヴァは苦笑しながら答えた。
「艦長、許可が下りました。いつでも入港できます」
「了解。よし、戦車揚陸艦<イフリート>入港する」
オリヴァの言葉に、セーラは力強く言った。
艦はゆっくりと、港の中へ入っていった。




