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洋上の戦士たち  作者: ただかた
第一〇章 派遣
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第四話 不安

 帰りのボートの上で、ヒデカツは一人考え込んでいた。

 あの後、戦闘によって負傷した多くの人々が、次々と<ナイチンゲール>に搬送されてきた。その現場はとても過酷で、彼は改めてここが戦場であることを思い知らされた。

 その後しばらくして、予定よりやや遅れて迎えのボートがやって来た。操縦している兵士の報告によると、衝突は<イフリート>の停泊する港から遥か遠い場所で発生し、<ウルフロード>が宿営する所からも離れていたため、全員無事とのことだった。

 それを聞いて安心すると同時に、ヒデカツの心の中にある感情が渦巻いた。そしてその正体が何なのか分からず、モヤモヤした気持ちを抱えながら彼はずっと黙り込んでいた。

 そんなヒデカツの様子を、同乗の兵士は心配そうに見つめていた。




「あのさ、ちょっといいかな?」


 会議が終わって二人きりになった部屋の中で、ヒデカツはセーラに声をかけた。


「何?」


 セーラはそう穏やかに返した。


「君は今日、僕に病院船へ視察に行くように言ったよね?」

「うん」

「それってさ、衝突が起こるのを見越して僕を現場から遠ざけるためだったの?」


 ヒデカツの問いかけに、セーラは一瞬押し黙った。やがて彼女は、小さくかぶりを振って答えた。


「ええそうよ」

「一体どうして・・・」

「だってあなた、これまで色々と無茶してきたでしょ?今回はあなたにとって初めての戦地だし、何かあって取り返しのつかないことになったらいけないから。だから視察に向かわせたの」

「だからって!」


 思わずヒデカツは叫んだ。


「それならそうと僕に伝えてくれればよかったじゃないか!君たちと離れていて状況が分からない中、僕がどんなに不安に思っていたか・・・」

「ヒデカツ・・・?」


 彼の突然の言葉に、セーラは困惑した表情を浮かべた。

 その顔を見て、ヒデカツは大きな声を出したことに気づきハッとした。


「ご、ごめん・・・」


 そう彼はポツリと言った。そして扉を開けると逃げるように部屋から出ていった。

 セーラはその様子を黙って見つめていた。




 それからの変化は劇的だった。

 二人は一応真面目に仕事をこなしていたが、その態度はどこかよそよそしかった。そして視線を決して合わせようとせず、お互いを何とか避けようとしているように見えた。

 そして二人とも、暗く沈んだ表情をしていた。

 その空気は、当然のことながら艦内に伝わるわけであり―。




「ねえ、オリヴァ?」


 二人きりになった艦橋内で、エリーはオリヴァに尋ねた。


「はい、何ですかエリー少尉?」

「艦長と先任、何かあったの?」


 そう聞かれて、オリヴァは複雑な表情を見せた。


「ああ、やっぱり気づきますよね。いや喧嘩という程のものではないのですが、どうもあのお二人、さっき感情のすれ違いがあったらしいのですよ」

「へえ珍しいわね、いつも仲睦まじいあのお二人が。それで原因は何だったの?」

「ほら艦長、今日先任に病院船の視察に向かわせたでしょう?あれ艦長が先任に無茶をさせないためにしたことなんですよ。艦長としてはよかれと思ってやったことなんですけど、それがかえって先任の不安に火をつけてしまったようですね」

「あ~、何か分かるような気がするわね」


 苦笑しながらエリーは答えた。


「それでどうするの?このままだとお二人の関係だけでなく、艦内の士気にも関わるわよ?」

「既に手は打ってあります。僕は先任を何とかしますので、少尉は艦長をお願いします」

「えっ?どうして私なの?」

「だってこの艦で一番階級が高いのは少尉ですし。それに少尉は艦長のことをお慕いしてるでしょ?」

「う~む・・・」


 エリーは考えた。確かに現在この艦内にいる者の中で、彼女はあの二人を除けば最高位の軍人である。さらにユーリには叶わないとはいえ、エリーはセーラを尊敬する気持ちは誰にも負けないつもりである。


「分かった。結果がどうなるかは分からないけれど、とにかくやるだけやってみるわ」

「よろしくお願いします」


 そう言ってオリヴァは深々と頭を下げた。




 同じ頃―。


「あれ参謀長、隊長は?」


 アコー=グラント准尉は、周囲を見回しながら尋ねた。


「ああ、隊長ならさっきちょっと<イフリート>に戻るといって出て行ったわよ。一先ず危険は去ったし、しばらくは私たちだけで大丈夫だろうって」


<ウルフロード>参謀長のローラ=ハワード陸軍少尉は答えた。


「しかしどうしてまた?」

「何でもワタベ中尉が大変だそうよ。隊長にとって、中尉は大切なご友人だから。きっと何よりも重要なことなのね」

「なるほど」


 そう言って頷くアコーの隣で、モニカはポツリと呟いた。


「つまりは予感的中というわけですね?」

「え?何だって?」

「ううん、何でもないわ。ただ隊長は優れた方ということよ」


 モニカはそう言うと、部隊のいる方へ向かって歩いていった。


「何なのでしょうか?」

「さあ?」


 アコーとローラは顔を見合わせた。そして互いに首を傾げた。




 また同じ頃―。


(あ~あ、まさかとは思っていたが現実になるとはな・・・)


<イフリート>に戻る車内で揺られながら、キューベルは苦笑いした。

 彼らが宿営地に到着して少し経った後、町中で武装集団同士の衝突が起きたという報せが届いた。幸い現場はここから遠く離れており、部隊から怪我人は出なかったが、それでもすぐ近くにいた別の部隊が戦闘に巻き込まれ、何人かの負傷者が出た。

 それらの事後処理が終わり一段落したところで、オリヴァから突然自分に連絡が入った。彼はキューベルが到着したら詳細を説明すると言っていたが、その声の調子でキューベルにはどのような内容か分かった。


(さてと、戻ったらあいつに何て声をかけてやるかな・・・)


 キューベルはそんなことを考えながら、窓の外を見た。

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