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洋上の戦士たち  作者: ただかた
第一〇章 派遣
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第三話<ナイチンゲール>

「うわあ・・・」


 視界に入ってきた物を見上げながら、ヒデカツは思わず声を上げた。

 彼は今、ボートで港の沿岸を航行している。天気は良く、波は穏やかで、そこには静かな環境が広がっていた。

 そんなヒデカツの前に、アクアフィールド海軍の保有する病院船<ナイチンゲール>が姿を現した。その白い船体は独特の雰囲気をまとい、どこか威厳を感じさせるものがあった。


「凄いなあ。こんな巨大な船、僕は今まで見たことないよ」

「そうでしょう。何せこの船は、海軍がかなりの力を入れて建造したみたいですからね」


 ヒデカツの言葉に、ボートを操縦していた男性兵士が答えた。


「だけど驚くのはまだ早いですよ。この船には、最新鋭の医療設備が様々用意されていますから」

「へえ、それはどんなものだい?」

「それは直接目にした方が分かりやすいですね。何にせよ今回の視察は先任にとって実りのあるものになると思いますので、どうか色々と学んでいってください」


 兵士はそう言うと、フフンと得意げに鼻を鳴らした。

 やがて船体が近くなると、兵士はヒデカツが視察に訪れたことを船に報せた。すぐに連絡が返ってきて、ボートは船体の後に回り込んだ。そしてそのままボートの収納口へと入っていった。




「それでは先任、私はこれで失礼します。一時間程したら、またお迎えに上がります」

「うん、頼んだよ」


 ヒデカツはそう言って、兵士の乗ったボートを見送った。

 ボートの姿が見えなくなると、彼は船の奥の方を向いた。丁度その時、一人の女性将校がこちらへ歩いてくるのが見えた。

 その人は縮れた髪と褐色の肌が特徴の、小柄な女性だった。年齢は二〇代前半くらいで、背筋をぴんと伸ばしている。


「ヒデカツ=ワタベ海軍中尉ですね。お初にお目にかかります。この船の次席将校を務めておりますアリア=セイントフィールド海軍少尉です。本日は私が案内をさせていただきます」

「うん、よろしく」


 そうヒデカツが返すと、アリアは不思議そうな顔をしてじっと彼を見つめた。


「あの、何か?」

「いえ、ワタベ中尉は私の容姿を見て驚かないのかと」

「ああ。いや、まあ確かに少しは気になったけど、そのようなことは表に出してはいけないと思って。それに容姿に関しては僕も同じだから」


 その言葉を聞くと、アリアはぱあっと感激したような表情になった。


「誠実な方だとは聞いておりましたが、まさかそこまで気にかけていてくれたなんて。恐れ入りました、今日は全力で役目を務めさせていただきます」

「いいよ、そこまで力を入れなくても」


 ヒデカツは苦笑した。そしてアリアと並んで船内を歩き出した。


「ところで、今の様子だと、君も僕と同じ移民なの?」

「そうですね。私自身はアクアフィールドの生まれなのですが、両親は南の大陸にある国の出身です。その国は貧しく、政情も不安定で、人々は常に不安と隣り合わせの生活を送っていました。私の両親はそのような生活から抜け出すために、丁度前の戦争が終わった頃にアクアフィールドに移住しました」


 そこまで話すとアリアは、一度言葉を区切った。


「両親が移り住んで数年後に私は生まれました。暮らし向きは決して楽ではありませんでしたが、それでも両親は懸命に働きながら私を育ててくれました。そんな両親のために、私も何かできることはないかと考えました。それで私は海軍に入り、先の戦争でも従軍しました。そして努力の結果、ようやく両親に楽をしてもらえるだけの収入を得ることができました。そのこともあって、今はこうして病院船の次席将校を務めているというわけです」

「それは大変だったね。僕もこの国にやって来て、色々と苦労することはあったけど、君の話を聞いていたら大したことがないように思えるよ」

「いいえ、私は大変だとは思っていません。それに私は、自分を育んでくれた母国を愛していますから」


 アリアはそうはっきりと言った。


「そうなんだ。ごめん」

「謝る必要はありません。ワタベ中尉の方こそ、こちらへ来て色々大変だったのでしょう。その心中、お察しいたします」


 そう言ってアリアは少し頭を下げた。


「何だかしんみりしてしまいました。今日はこの船の視察に来られたのですね。気を取り直していきましょう。我が軍が誇るこの船の設備をご案内いたします」


 アリアは明るくそう言うと、ヒデカツを促して歩き始めた。




 それからおよそ三〇分程、ヒデカツはアリアの案内で様々なものを見て回った。広い船内には、患者を診察する部屋、実際に治療や手術を行う場所、入院患者を診る病室や、最新の医療機器を保管している倉庫などが、それぞれ複数備えられており、そこで働く人員の数もかなりのものだった。


「凄いな。まさに海の上に一つ病院を建設した形なんだね」

「そうですね。何といっても病院船は戦地の医療の要ですから。その使命は負傷した自軍の将兵だけでなく、現地で満足に医療を受けられない人々のためにあります。だから海軍は、この船の運営に力を入れているのです」


 そうアリアは誇らしげに言った。

 その時突然、船内に警報音が鳴り響いた。


「何だ!?」


 ヒデカツが驚いて周囲を見回すと、一人の兵士がこちらへ向かって走って来るのが見えた。


「次席将校、我が軍の寄港する町で武装集団同士の衝突があったらしいです。双方及び地域住民に多数の負傷者が出たもようです」

「了解。すぐに受け入れ体制を整えるように」


 アリアの指示を受けると、兵士はすぐにその場を走り去った。


(我が軍の寄港する町って<イフリート>と<ウルフロード>が滞在している場所じゃないか!)


 ヒデカツはそう思うと、すぐに駆け出そうとした。


「いけません、ワタベ中尉」


 そうアリアは静かに言った。


「今戻っても、危険に身を晒すことになりかねません。今は状況が落ち着くまでここに留まるべきです」

「でも・・・」

「お気持ちは分かります。でも今は待つことが大切です」


 再度アリアに諭され、ヒデカツは押し黙った。そして悔しそうな顔をして、拳を握りしめた。

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