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洋上の戦士たち  作者: ただかた
第九章 帰省
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第五話 観光

「ん・・・」


 眩しさを顔に感じて、ヒデカツは目を覚ました。

 朝日は障子を通して部屋の中へ差し込んでいた。そしてボーッとした頭で天井を見つめているうちに、ここが補給艦の自分の部屋でないことに気づいた。


(ああ・・・。そういえば僕、帰ってきたんだっけ)


 昨晩、セーラの告白を受けて、ヒデカツは中々寝付けないのではないかと思った。しかしその日一日の疲れが勝ったらしく、彼はすぐに深い眠りについた。そして今、こうして朝を迎えていた。

 ヒデカツは布団の上で身体を起こした。そしてゆっくりと立ち上がった。ひょいと衝立の向こう側を覗いてみると、そこには誰もいなかった。

 ヒデカツは部屋の扉を開けた。そして廊下に出ると、丁度セーラがこちらへ向かって歩いてくるところだった。


「おはよう、ヒデカツ。今日もいい天気ね」


 そう言って彼女は笑顔を見せた。その様子は、特に普段と変わりなかった。


「おはよう」


 ヒデカツはそう答えた。そして続けてこう口にした。


「あのさ、セーラ、昨夜のことなんだけど・・・」


 しかしヒデカツが何か言う前に、セーラは彼の前にビシッと人差し指を立てた。


「言ったでしょ、すぐには返事をしなくていいって。今はこの旅行を満喫しましょ。後のことはそれから考えるといいわ」


 彼女はそう言うとにっこりと笑った。それを見て、ヒデカツは思わず頷いた。


「よろしい。今日も色々と楽しみね。一体何が待っているのかしら」


 そう嬉しそうに言いながら、セーラはヒデカツの横を通り抜けた。

 ヒデカツは苦笑しながら首を振った。そしてセーラの後を追って歩き出した。




 二人が朝食を済ませた頃、仲間たちが迎えにやって来た。昨日は全員夏用の軍服を着ていたが、今日は私服に着替えていた。そしてオリヴァとエリーが着替えを持ってきてくれたので、ヒデカツとセーラはそれで身支度をした。セーラはいつもの動きやすい格好をし、ヒデカツは向こうで手に入れた服を身に着けた。息子の少しお洒落な服装を見ることができて、勝子はとても喜んでいた。

 やがて準備が整ったので、みんなは連れ立って家を出た。


「さて、これから色々見て回りたいのだけど・・・。ヒデカツはどこかお薦めの場所とかある?」

「お薦め?う~ん・・・」


 セーラに聞かれてヒデカツは少し考え込んだ。


「じゃあお薦めとは少し違うけど、まずは僕の家が何をしているのか分かる場所へ行こうか」


 そう言ってヒデカツは先に立って歩き始めた。




「「「おお~~~・・・!!」」」


 目の前の景色に、みんなは一斉に感嘆の声を上げた。

 そこには広い敷地の中に、同じ種類の木が何本も植わっていた。木は等間隔に植えられており、明らかに計画性が感じられた。


「ヒデカツ、ここは?」


 セーラがそうヒデカツに尋ねた。


「ここは僕の実家が所有しているミカン畑だよ。僕の家は昔からミカンを育てていて、それを市場に卸すなどして生計を立てているんだ。僕も時々、仕事を手伝ったりしていたよ」

「へえ、ヒデカツの実家はオレンジ農家だったのね。あなたが海軍に来ても、過酷な任務に耐えられるのはそれと関係しているのかもね」


 セーラはそう言うと、ミカンの木々を眺めた。


「そういえばアクアフィールドでは、ミカンは栽培されていないのかな?」

「いや、アクアフィールドでもオレンジは生産されているわよ。でもこのように畑を目にするのは初めてかもしれないわね。こうして見ると、やっぱり世の中は多くの人の努力で成り立っているのね」


 そうセーラは感慨深げに言った。


「ねえ、これ海外に輸出していないの?」


 不意にセーラがヒデカツにそう聞いてきた。


「僕の家はしていないかな。だけど同業者の中には、海外と取引をしている人もいると聞いたことがあるよ」

「ふむ。エリー、あなたの実家はこの国の農産物を扱っていないの?」


 そうセーラは、傍らにいるエリーに聞いた。


「さあ?私の実家がこの国と取引があるという話は聞いたことがありません。ただこの地域との交易には興味を示しているみたいでしたよ」

「ん?実家?何の話?」


 二人の会話を聞いてヒデカツは首を傾げた。


「ああ、ヒデカツは知らないのね。エリーの実家は、国を代表する大企業なのよ」

「えっ、ネルソン次席将校って職業軍人の家の出じゃないの!?」


 思わずヒデカツは声を上げた。

 アクアフィールドを代表する大企業・ネルソン財閥。統一前の旧王国時代のネルソン商会を母体とするこの企業は、王家と結びつきを強めることでその存在感を高めていった。やがて帝政の世になると、その影響力は国全体に広まり、前の戦争では多額の寄付をしてその遂行を支えた。共和政に移行した後もそれは変わらず、先の戦争でも政府や軍を財政的に支援した。その事業は多岐にわたり、軍事産業の他、日用品や農産物などあらゆる方面に及び、まさに国だけでなく周辺地域を代表する企業体なのである。エリーはそこの社長の娘で、しかも跡取りである。

 そこまで話を聞くと、ヒデカツは驚いて天を仰いだ。そして横にいたオリヴァの方を向いた。


「このことを、君は知っていたの?」

「もちろん知っていました。だから少尉に告白された時、本当に自分でいいのかと一瞬思いましたよ」


 そうオリヴァは淡々と答えた。

 ヒデカツは一度大きく息を吐いた。そして気を取り直してエリーに尋ねた。


「ええと、そんな大企業のお嬢様がどうして海軍にいるの?別にそうしなくても、何不自由なく暮らせたと思うんだけど?」

「まあ色々理由はありますけど、やはり自立したかったからですかね。確かにそのまま実家にいても、生活には困らなかったでしょうけど、やっぱり私は自分の力で人生を切り開いていきたいと思ったんです」


 エリーはそう言うと、一度言葉を区切った。


「私は父の反対を押し切って海軍に入りました。私としては、そこで実家と縁を切ったつもりでした。だけど父にとって、私はやっぱり大事な跡取りだったみたいです。先の戦争で私が行方不明になったと聞くと、捜索をするよう政府に強く要請したそうです。私が戻ってきた時も、父は実家に連れ戻すつもりだったみたいです。でも私はそれを拒否して陸軍に入隊しました。そしてアース中尉の元でお世話になった後、艦長が復帰したという話を聞いて海軍に戻りました。そして今、こうして皆さんと一緒にいられるわけです」


 そこまで話すとエリーは、フッと微笑んだ。


「でも丁度いい機会かもしれません。この旅行が終わって帰国したら、久しぶりに連絡を取ってみようと思います。取引の話も、そこでしてみましょう」


 そう言ってエリーは前を向いた。そして植えられているミカンの木々をじっと見つめた。

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