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洋上の戦士たち  作者: ただかた
第九章 帰省
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第四話 その夜

「ワア・・・」


 目の前の光景を見て、思わずセーラは声を上げた。

 あの後、みんなが来たことを喜んだヒデカツの母・勝子は、夕食の買い出しに出かけると言った。それを聞いたセーラは、彼女に同行を申し出た。そして二人の部下と共に街までやって来た。ちなみにヒデカツは、<ウルフロード>の面々の通訳のために残してきた。


「成程、コレガコノ国ノ市場ナノデスネ」


 周囲の様子を見回しながら、セーラは言った。


「まあ、この国というかこの街かな。この市場も戦争が終わった直後は品物が少なくて大変だったけれど、今は大分品揃えも充実してきたわね。この辺りの人たちにとって、ここは欠かせない場所なの」


 そう勝子は微笑みながら答えた。


「セーラちゃんは、料理とかするの?」

「イエ、正直アマリ得意デハアリマセン。デスガコノヨウナ場所ニ来ルト、私達ノ生活ハココニイル多クノ人達ニヨッテ支エラレテイル事ヲ実感シマス」

「そう、誠実なのね。きっと秀勝もそういうところに惹かれたのね」


 勝子はそう言ってフフッと笑った。


「それなら今日は張り切らないとね。セーラちゃんたちは、お魚とか食べる?」

「ハイ、大丈夫デス」

「それじゃあ、私が選ぶのを見ててくれる?」


 そう勝子は言うと、セーラと一緒に魚売り場の方へ足を向けた。




「凄いわね、艦長」


 二人の後を歩きながら、エリーはオリヴァにそう囁いた。


「そうですね。先任のお母様と上手に打ち解けていますね」


 そう言いながらオリヴァも頷いた。


「誤解されることもあるけど、艦長は本当はとても優しくて社交的な方なのよね。だから大抵の人たちは、すぐに艦長の人柄に魅了されて心を開いてくれるわ」

「元々艦長は海軍の名門の出です。公の場での礼儀作法は、自然と身についているんでしょうね」


 オリヴァはそう言うと、納得した表情を浮かべた。


「だけど戦争中はもっと厳しい人だったような気がしたわね。今は大分丸くなった感じがするわ。これも先任に出会ったおかげかしら?」

「そうかもしれませんね」


 二人はそう言って、顔を見合わせて笑った。


「エリー!バラック一等兵曹!荷物を運ぶから手伝って!」


 前方からセーラの声が聞こえてきた。


「はい、ただいま」


 エリーはそう答えた。そしてオリヴァと共に二人のもとへ駆けていった。




 同じ頃―。


「やれやれ。参ったな、こりゃ」


 竹塀の修理をする部下たちの様子を見ながら、キューベルはそう呟いた。


「全くだよ。とんでもないことをしてくれたな」


 彼の隣に立っているヒデカツが言った。


「まあそう言うな。悪かったと思ってるよ。それよりも―」


 と、キューベルはチラッと家の方を見た。


「あれがヒデカツの親父さんか?」

「うん」

「ふむ、中々威厳がありそうだな。ここは一つ挨拶をしておかないと。ヒデカツ、通訳を頼む」


 そう言うとキューベルは、ヒデカツを連れて一人居間に座っている盛秀の方へ向かった。


「お初にお目にかかります。私はキューベル=アースと申します。ヒデカツ君とはこちらの国に来た時から仲良くさせていただいております」


 そうヒデカツは、キューベルの言葉を盛秀に伝えた。


「秀勝の向こうでの友達か。見たところ随分と親しげに見えたんだが?」


 盛秀はそうキューベルに伝えた。


「はい、ヒデカツ君にはいつもお世話になっています。彼は少し大人しいところがありますが、いつも周囲の人たちのことを気にかけてくれます。そして時に勇敢な姿を見せることもあります。私たちは、彼に随分と助けられています」


 そのようなことを伝えると、盛秀は小さくフッと笑った。


「秀勝はこちらにいた時、友達があまりいなかった。だから正直心配してたんだが、今の話を聞いて安心したよ。いい友達を持ったんだな」


 それを聞いたヒデカツは、少し頬を赤らめて俯いた。その様子を見てキューベルは首を傾げた。

 やがてローラたちが塀の修理を終えてこちらにやって来た。彼女たちはすぐに盛秀に代わる代わる挨拶をした。そしてヒデカツを通じて語り合った。その場はしばし、穏やかな空気に包まれた。




 その内買い出しに行っていた四人が帰ってきた。そしてしばらくして夕食の時間になった。


「おい、これは何だ?」


 目の前にある二本の棒を手に取りながら、キューベルは隣のアコーに尋ねた。


「ああ、それはこの国で使用されている『ハシ』という食器らしいですよ」

「ハシ?どうやって使うんだ?」

「え~と、確かこうして・・・。あれ、難しいな?」


 そう言いながら、アコーは困惑した表情を浮かべた。


「はは、まあ初めての人に箸は難しいかな?」


 そうヒデカツは苦笑しながら言った。そしてチラリとセーラの方を見た。

 彼女は特に苦労することなく箸を使いこなしていた。そして自然に食事を口へ運んでいた。


(これは、陰で相当練習したんだろうな)


 セーラの様子を見ながら、ヒデカツは密かに感心した。

 夕食の時間は終始和やかに進んだ。仲間たちは、初めて口にするこの国の食事に少し戸惑いつつも、とても満足した様子だった。




 やがて夕食が終わると、仲間たちは明日の朝迎えに来ることを告げて船に戻っていった。


「ああ、今日は疲れたな」


 庭に面した自分の部屋の縁側から夜空を見上げながら、ヒデカツはそう呟いた。辺りは静けさに包まれ、空には星が瞬いている。


「ここにいたのね」


 声がした方へ振り返ると、セーラがそこに立っていた。

 当初、彼女はみんなと一緒に船へ戻る予定だった。しかし勝子から泊まっていくように勧められ、ヒデカツの部屋に宿泊することにした。

 今彼女は白い浴衣を着ていた。その姿を見て、ヒデカツは一瞬ドキッとした。


「お母様、優しい方だったわね」


 ヒデカツの隣に座りながら、セーラは言った。


「そうかな?結構天然なところもあるんだけど・・・」


 そう言ってヒデカツは苦笑した。


「お父様も、温厚そうな方だったじゃないの」

「どうかな?僕にとっては厳しい人という印象なんだけど・・・」

「でもヒデカツがいなくなってからずっとあなたのことを心配していたのだから、やはり優しい方なんじゃないの?」

「それは、まあ、そうかも・・・」


 ヒデカツはそう言うと、頬を掻いた。


「ねえ、ヒデカツはこの国が好き?」


 セーラがそう尋ねてきた。


「そうだね。ここに来るまでは後ろめたさで一杯だったけど、今日ここで過ごしてみて、やっぱり僕はこの国が好きなんだなと思った」

「それならさ・・・」


 と、セーラは一度言葉を区切った。


「もしヒデカツがこの国で暮らしたいというのなら、私はそれを受け入れる。その時は私も一緒にここで暮らすから」


 ヒデカツは驚いた。そして振り返ってセーラの顔をじっと見つめた。


「えっ!?でも君は名門の宗家の出身で、しかも跡取りと聞いたよ?そんなことして大丈夫なの?」

「平気よ。叔父や叔母、従弟妹たちだっているし」

「それに君がいなくなったら、海軍が困るんじゃないの?」

「関係ないわ。それを言えばあなたも同じよ」


 セーラは事もなげに言った。


「まあ今すぐ答えを出す必要はないわ。よく考えて、心が決まったら報せてほしい。今はここでの滞在を楽しみましょう。それじゃあ、お休み」


 そう言ってセーラは立ち上がった。そして部屋の中に入ると衝立ついたての向こうへ消えた。

 ヒデカツはしばらく、彼女の去った方を見つめていた。

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