第七話 足止め
ヒデカツとセーラが通信を送ってからおよそ三〇分後―。
昼前だというのに、街の中は閑散として静まり返っていた。
そして通りには、何人もの人相の悪い男たちが海軍の制服を着た青年を探してうろついていた。
その中には前日にヒデカツに叩きのめされた三人もいた。
「くそっ、一体どこいきやがったんだあいつ」
一人がそう言って通りの脇道を覗き込もうとしたその時―。
パンッ!
「ん?」
乾いた音が聞こえたので振り返ると、そこには撃たれた仲間が脚を抱えて道を転げ回っていた。
「おい、どうした?」
別の仲間が驚いて駆け寄ろうとすると―。
パンッ!
「痛っ!」
その男も脚を撃たれて通りに転がった。
「何がどうなってるんだ?」
振り返った男が弾丸が飛んできたと思われる方へ向かおうとして―。
パンッ!
「ギャッ!」
その男もまた同じ運命をたどった。
「いいね、ここまで順調だわ」
「大丈夫かな、こんなことして?」
セーラとヒデカツは、先程から銃を片手に物陰から過激派を狙撃しては素早く移動することを繰り返していた。
「そんなこと言ってないでヒデカツも撃って」
「え?あ、うん」
とはいえ、実戦で撃つのはこれが初めてだったので、ヒデカツは極度に緊張していた。
そんな彼を見てセーラは静かに言った。
「落ち着いて。当てようと思わないで。相手の足下の地面を狙うつもりで。最悪相手の動きを一瞬止められればそれでいいわ」
「当てようと思わず・・・相手の足下の地面を狙う・・・」
ヒデカツは彼女の言葉を繰り返した。そして一つ大きく息をすると、両手で銃を構えて通りにいた男の足下に向かって狙いを定めた。
パンッ!
「痛っ!」
「あっ、当たった」
「いいね、あなたセンスあるんじゃないの?」
そんなこと褒められても、と思ったのだがセーラから言われたので特に悪い気はしなかった。
このようなことを繰り返しながら、二人は街の中を駆け回った。
どのくらいの時間が経過しただろうか。
過激派のうち、既におよそ半数が負傷し行動不能に陥っていた。
(このままいけば、そのうち全員を足止めできるんじゃないだろうか?)
ヒデカツがそのような事を考えていた時―。
「あっ!」
不意に足を取られ、彼は地面に手を付いた。
「大丈夫?」
セーラがそう言って振り返った時―。
「いたぞ!」
「こっちだ!」
数人の男たちがこちらへ向かって走ってくるのが見えた。
セーラはヒデカツの腕を掴んだ。そして急いで彼を引き起こすとそのまま全速力で駆け出した。
その後からは男たちが叫びながら追いかけてきた―。
数分後―。
二人はとある廃屋の中に逃げ込み、扉を閉めた。
全力で走ってきたせいで二人とも肩で息をしていた。
「ごめん・・・僕がミスをしたから・・・こんなことに・・・」
「ううん・・・慣れないことをさせた・・・私が悪いわ・・・」
そう言ってセーラは、大きく息を吐いた。
「だけどまずいわね、もう弾丸が残り少ないわ」
銃に弾丸を込め直しながら彼女は言った。
考えてみれば、こちらの装備は限られている。相手が数で押してきたら、ひとたまりもない。
(どうしたものかな―)
ヒデカツは天を仰ぎながら思った。
「帽子と上着を貸して」
扉の脇に立ちながらセーラが言った。
「どうして?」
「私が囮になって奴らを引き付ける。その間にあなたは裏から逃げて。そうすれば少なくともあなたは助かる」
「駄目だよそんなの!」
ヒデカツは叫んだ。
「君を置いて逃げるなんて絶対にできない。それに僕はさっき必ず君を守り抜くと言った。だから君と最後まで行動する」
「ヒデカツ・・・」
それからヒデカツは扉の反対側の脇に立ち、こう言った。
「君が死ぬなら僕も一緒に死ぬよ」