第八話 攻略
「艦長、護衛艦二隻から連絡。敵船団、全て無力化したとのことです」
「ふむ」
艦外からの報告を受けて、ロックは一つ頷いた。
要塞正面にある砲台を全て破壊されて、過激派は恐慌に陥った。それでも旗艦を落とせば何とかなると考えたのか、多くの船団を差し向けた。しかし当初の計画が狂って無傷の艦隊を相手にすることとなり、船団はたちまち二隻の護衛艦に行く手を遮られた。そして、護衛艦からの砲撃によって次々と航行不能になっていった。
「艦長、艦内から連絡。砲撃準備全て整いました」
「艦長、島に上陸した三つの戦車部隊から通信。要塞の機能のほぼ九割を制圧したそうです」
艦内外からの報せが次々と艦橋に届いた。
「よし、総仕上げといくぞ!要塞へ向かって砲撃を開始しろ!」
ロックがそう叫ぶのと同時に、<ワイバーン>の艦載砲が一斉に火を噴いた。弾は次々と飛んでいき、要塞の主要部分に相次いで着弾した。
そして戦闘が始まって数時間が経過した頃―。
過激派集団は、遂に降伏を申し出た。
そこからは怒涛の展開だった。
あれから要塞を陥落させたことを連絡してすぐに、近くの海域で待機していた海上警察の船団がやって来た。そして、過激派の戦闘員たちを全員拘束するとそのまま連行していった。
それから入れ替わりに海軍の事後処理部隊が到着した。彼らは上陸するとすぐに、現場の様子や状況、戦闘の経過などの調査、確認を始めた。船は<ワイバーン>にも横付けされ、ロックたちは様々な事情を聴かれた。その間ヒデカツやセーラたちは、自分たちの艦や部隊で待機させられることになった。
やがてそれが終わると引き継ぎが行われた。要塞は解体され、新たに海上警察の詰所が設置されることが決まった。それまでは海軍が責任を持って管理することになった。
そのような一連の手続きが済むと、ヒデカツたちはやっと任務から解放された。そして全艦揃って帰還の途についた。
「艦長、もうすぐ港に着きます。今夜はゆっくり休めそうですね」
「うむ」
オリヴァの言葉を聞きながらセーラは頷いた。
時刻は午後九時を回ったところ。日はすっかり暮れており、周囲は夜の闇に包まれている。
セーラは艦橋内を見渡した。そしてふと、空の先任将校の席に目がいった。
「そういえば、ヒデカツはどうしたの?自分の部屋に戻ったようだけど?」
そうセーラはオリヴァに尋ねた。
「先程部屋を覗きに行きましたら、スヤスヤと寝息を立てて眠っていましたよ。余程お疲れになったのでしょうね」
「それは、まあ、分かるけど」
そう言ってセーラは、少し考えるような顔をした。
「どうします?起こしますか?」
「う~ん。でもせっかく寝ているのだし、それは少し気の毒よ」
「しかしそれだと艦に誰かが残らないといけません。朝からの戦闘で疲れている乗員たちにそれを頼むのは、いささか気が引けます」
そうエリーが、困ったような顔で言った。
「いいわ、私が残るから。だからみんなは、安心して帰っていいわよ」
セーラはそう幹部たちに言った。
「大丈夫ですか?」
「ええ。丁度溜まっていた仕事もあるしね」
そうセーラは答えると、二人に向かって笑顔を見せた。
「・・・ん」
窓から差し込む光を顔に受けて、ヒデカツは目を覚ました。
(ああ、そういえばあの後すぐに寝ちゃったんだっけ・・・)
自分の部屋の天井を眺めながら彼は思った。
任務からようやく解放されて軍港に戻る途中、ヒデカツはセーラに休憩を取るように言われた。それを受けて彼は部屋に戻り、ベッドに横になった。そしてそのまま深く寝入ってしまったのである。そのくらい今回の作戦は、彼に身体的・精神的な疲労を与えたのである。
「ふう・・・」
ヒデカツは一つ息を吐いた。そしてゴロンと寝返りを打った。
すると、とても整った顔が彼の視界に入ってきた。
ヒデカツはぼんやりとそれを見つめた。やがてそれが何かを認識した時、彼の脳は一気に覚醒した。
「うわっ!?」
彼は驚いてベッドから飛び退いた。そしてそのまま下に転げ落ちた。
「せ、せ、セーラぁ~~~っ!?」
打ちつけた頭をさすりながら、ヒデカツは叫んだ。
そこにはベッドの上に横たわり、目を瞑ったセーラの姿があった。
「んん・・・」
セーラは小さく声を漏らした。そしてゆっくりと目を開いた。
「ああ・・・、おはよう、ヒデカツ」
「おはようって、え?何で僕の部屋にいるの?」
「だってヒデカツ、あの後ぐっすり眠ってしまったから。だけど一人だけ残していくのは危ないから、私が残るって言ったの。そしたらお互い別の部屋で寝るというのも何だか寂しい気がして、それで―」
「だからって、僕のベッドで寝ることはないだろ?」
「別にいいじゃないの。それともヒデカツは、恋人を床の上に寝かせるつもりなの?」
セーラは少し不満そうに言った。
「あ、いや、別にそういうわけじゃ・・・」
ヒデカツは顔を逸らすと、指で頬を掻いた。
「冗談よ。私も少し驚かせ過ぎたわね」
そう言うとセーラは、ベッドの上で身体を起こした。
「それで、どうだった?初めての作戦は?」
「う~ん・・・」
セーラからの問いかけに、ヒデカツは少し考え込んだ。
「まあ、色々と大変だったけれど、何とかやり遂げたって感じかな。あと、不思議と充実した気分だ」
「なら良かった。この後あなたがもう作戦に参加するのは嫌だと言うのかと心配してたけど、今の言葉を聞いて安心したわ」
「嫌なものか。君と一緒ならね」
今後もこのような任務を受けることがあるだろう。その中には今回よりも過酷なものもあるかもしれない。でも彼女と共にいれば、どんな苦難も乗り越えられる。そうヒデカツは思った。
「見て、ヒデカツ。夜が明けていくわよ」
セーラの声を聞いて、ヒデカツは窓の外を見た。
朝日は世の中を照らし出し、新しい一日の始まりを告げていた。




