第六話 決行
<ワイバーン>からの指示を待ちながら、セーラは改めて艦橋内を見回した。そして、すぐ隣にいるヒデカツが目に入った。
彼は少し俯いた状態で席に着いていた。その表情は先程より険しくなっており、心なしか青ざめているように見えた。
「緊張してる?」
セーラはそうヒデカツに小声で話しかけた。
「うん、それは、まあ」
彼はか細い声でそう答えた。そしてひきつった笑みを浮かべた。
「まあ作戦の開始が目前に迫りそのような顔になるのは分かるけど、何もあなた一人で戦っているわけではないのだから。もっと肩の力を抜いて、気楽な感じで臨んだ方がいいわよ」
「いや、それは分かってるんだけど・・・」
「それともヒデカツは、私のこと信用してないの?」
セーラはヒデカツへ静かに聞いた。そして彼の顔をそっと覗き込んだ。
「それは・・・」
ヒデカツは一瞬口ごもった。そしてセーラの顔をしっかりと見つめながら答えた。
「ううん、とても信頼しているよ」
「ならいいわ。私だって完全に自信があるわけではないけど、ここまで多くの戦場で経験を積んできたという自負はあるわ。今度の作戦、何としてでも成功させるわよ」
セーラはそう力強く言った。
「艦長、甲板から連絡。作戦準備、全て完了しました」
不意にオリヴァの声が聞こえてきた。
「了解。いよいよね」
セーラは真剣な顔つきになった。そして再び正面を向いた。
「艦長、艦内から連絡。内部の設備・装備にこれまで異常はありません」
「了解。これからも注意して自分たちの職務を続けるように」
艦内の通信を受けて、ロックはそう指示を出した。
現場に到着した後、彼は全艦に停船を命じた。そして作戦の準備を進めながら、艦内の確認や情報の収集を行っていた。
「相手の様子はどうだ?」
「はい、やはり事前の情報通り、かなり堅固な要塞のようです。敵はこの特性を最大限に活用して我々を迎え撃つつもりのようです」
ロックの問いかけに、ララがそう答えた。
「そうか。相手の船団の動きは?」
「現在のところ、目立った動きはないようです。どうやら敵は我々を砲撃して弱体化させた後、船団を繰り出して攻撃する予定のようです」
そうルイスが意見を述べた。
「ふむ。とにかく我々は計画通り作戦を遂行するだけだな。この戦闘、何としてでも勝利するぞ」
ロックはそうはっきりと言った。
「艦長、揚陸艦三隻から通信。作戦準備、全て整ったとのことです」
「よし」
艦外からの連絡を受けてロックは頷いた。そして一度胸に拳を当てた。
やがて彼は拳を胸から離した。そして力強くこう言い放った。
「全艦、前進せよ!」
(ほお、ようやく動き出したか)
要塞の上部にある展望台から海の様子を見つめながら、過激派の首領はそう思った。
彼らは初め軍が空爆や軍艦を並べての砲撃など、力攻めをしてくることを警戒していた。そのため激戦になることも覚悟していたが、実際にやってきたのは少数で編成された艦隊だったので、いささか拍子抜けしていた。
(やはり軍が規模を縮小しているというのは本当だったようだな。それでもこうして少ない艦隊を派遣してくるのは、自分たちの威厳を保つためか?それとも俺たちを侮ってのことか?)
首領はそこまで考えると、フッと笑った。
(まあいいか。いずれにせよ、あの程度の艦隊ではここは落とせん。こちらの射程に入ったところで、一気に砲弾を浴びせかければいい。そして弱ったところを船団で攻撃すれば、軍は面目丸つぶれになるな)
そう考えて首領はニヤリとした。そして艦隊を手にした双眼鏡で覗き込んだ。
しかし艦隊が接近してくるにつれて、彼はある違和感に気づいた。先頭を航行する戦車揚陸艦三隻の前方に、筒状の物体がいくつも設置されているのだ。
(何だ、あんなものを設置して?そんなことをしたら戦車を上陸させられないぞ?)
首領はそう思うと首を傾げた。
揚陸艦の上で兵士たちが動くのが見えた。そして筒の側にしゃがみ込むと、何かの操作をした。
次の瞬間、爆音と共に筒から光弾が発射された。弾は次々と打ち上げられ、空中に無数の線を描いた。
やがて弾は放物線を描いて下降し始めた。そして、要塞の砲台目がけて一斉に襲いかかった。
ヒデカツが提案した作戦、それは海軍が戦争中に秘密裏に開発を進めていた超小型ミサイルを使用することだった。元々海軍は戦局を有利に展開しようと、様々な兵器の開発を推進していた。今回の超小型ミサイルもその中の一つである。その威力は凄まじく、数発で要塞に備え付けられている巨大砲を破壊することが可能であった。しかし完成と同時に戦争が終結したため、使用されることなく海軍の倉庫に保管された。そしていつしか忘れ去られたものになっていた。しかし海軍の装備品を記したリストには記載されていたので、それに偶然目を通したヒデカツによって発見されることになったのである。
通常新型兵器を使用する際は、事前に訓練でその性能を確かめることが行われる。しかし今回はそれをやると相手に気づかれる恐れがある。軍としてはそれだけは何としてでも避けたいところだった。そこでヒデカツは、ユーリに兵器の情報を取り寄せてもらえるようセーラに頼んだ。ユーリは戦後一時期その兵器を開発した軍事企業に勤務していたことがあったので、セーラの頼みを聞くとすぐに企業に掛け合って資料を提供した。兵士たちはその資料を見ながら兵器の性能・効果や使用方法を何度も徹底的に頭に叩き込んだ。そして最終的に厳重な確認を行った後、今回の実戦に臨むことになったのである。




