第五話 出撃
翌朝―。
駆逐艦<ワイバーン>が停泊している船着き場の前に、三〇名程の軍人たちが集められた。
通常、任務に赴く前の集会には、それに参加する将兵全員が出席することが大半である。しかし今回は多くの人数が加わることになるので、兵士たちはそれぞれの艦や部隊で待機し、幹部のみが召集されることとなった。ヒデカツとセーラもその中にいた。
軍人たちの前には、自分たちの艦を背にして<ワイバーン>の幹部六人が横に並んで立っていた。その顔は皆引き締まっており、数々の戦場をくぐり抜けてきた威厳に満ちていた。
彼らを代表してロックが、一歩前に進み出た。
「諸君らは、これからこの国とその周辺地域の命運を賭けた作戦に向かうことになる」
そう彼は語り始めた。
「皆も知っての通り、今回の任務は重要なものとなる。これによって世の中の未来が決まるといっても過言ではない。その道のりは険しく、多くの困難と苦しみが我々を待ち構えているだろう」
ロックはそう言葉を続けた。
「しかしそれを乗り越えてこその我らの軍である。どうか我々に諸君らの力を貸して欲しい。そして人々の平和のために共に戦おうではないか!」
最後に彼はそう言って演説を締めくくった。
その場にいた軍人たちは、黙って彼の話に耳を傾けていた。その表情は、皆緊張に満ちていた。
「艦長、機関室から連絡。出航準備が全て完了したとのことです」
「ふむ」
オリヴァからの報告を聞いて、セーラは一つ頷いた。
あれから幹部たちは、それぞれの艦や部隊に戻った。そして出撃のための最後の準備と確認に急いで取りかかっていた。
(いよいよだわ。この感覚を味わうのは久しぶりね。何だか気分が高揚するのを感じるわ)
そう思いながら、彼女は艦橋の中を見渡した。そしてすぐ左にいるヒデカツが目に入った。
彼は先任将校の席に黙って座っていた。その表情は硬く、明らかに緊張した様子だった。
「大丈夫?」
セーラはそっとヒデカツに話しかけた。
「うん、まあ、何とか」
そう彼は答えた。そしてぎこちない笑みを見せた。
「そう心配しないで。確かにあなたにとって初めての作戦だし、今回は色々と責任を負っているからそのような顔になるのは分かるけど、私たちも一緒だから」
セーラはそう言うと、他の幹部たちの方へ目を向けた。
「そうですよ先任。僕たちはあなたを助けるためにここにいるのですから。もし先任に何かあった時は、僕たちは全力でお支えします」
そうオリヴァが、微笑を浮かべながら力強く言った。
「それに今回の我々の任務は戦車部隊を上陸させることですから、実際に戦闘には参加しません。もちろん上陸させる際には危険が伴いますが、それは私たちでカバーします。ですから先任は、落ち着いて自分の仕事を行ってください」
エリーがそう穏やかに言った。
「みんな・・・」
ヒデカツは幹部たちの顔を見回した。
「うん、ありがとう」
そう彼は言うと、少しだけ安心した表情を見せた。
「艦長、揚陸艦二隻から連絡。どちらも出航準備が完了したそうです」
オリヴァが正面に向き直ってそう言った。
「艦長、<ワイバーン>から通信。他の二隻と共に速やかに港を出よとのことです」
艦外からの指示をエリーが伝えた。
「よし」
セーラはそう言って真っ直ぐに前を見た。そして一度目をつぶった。
やがて彼女は目を開けた。そしてはっきりとした口調で言い放った。
「戦車揚陸艦<イフリート>、出撃する!」
駆動音を立てて艦は船着き場を離れた。そして他の揚陸艦二隻と共に、ゆっくりと軍港の外に向かって動き出した。
「艦長、戦車揚陸艦三隻、先に港の外へ出たことを確認しました」
通信室からの報告を受けて、ドラゴがロックにそう伝えた。
「了解。ここまでは順調だな」
そう言って彼は、フッと笑みを浮かべた。
ロックは今、<ワイバーン>の艦長席に座っている。そして、今回の作戦に参加する全ての艦や部隊からのあらゆる報告を受けていた。彼の両隣にはララとルイスが、すぐ前の操舵席にはメアリが、その両脇にはイザベルとドラゴがそれぞれ席に着いていた。
(今回の作戦には、国の行く末と軍の威信が懸かっている。失敗することは許されない。それに・・・)
ロックはふと、今度の戦闘において献策を行った二人の軍人の顔を思い浮かべた。
(あの二人は、これから軍の将来を担っていく方々だ。そのような人たちを失うわけにはいかない。何としてでも成功させなければ)
そう思うとロックは、グッと拳を握りしめた。
「艦長、出航準備全て整いました」
メアリの声が艦橋内に響いた。
「艦長、護衛艦二隻から連絡。どちらも出航可能だそうです」
艦外の通信を受けてイザベルが答えた。
「うむ」
ロックは頷くと正面を見据えた。そしてはっきりとこう宣言した。
「駆逐艦<ワイバーン>、出撃する!」
轟音を響かせて艦は動き出した。そして二隻の護衛艦を両脇に従えて、揚陸艦三隻の後を追った。
およそ六時間後―。
「あれが要塞島?」
前方に小さく見える島に目をやりながら、セーラは尋ねた。
「ええ、そのようですね。見張り台からの報告によると、事前の情報通りかなり強固な造りをしているようです」
そうオリヴァが淡々と伝えた。
セーラたちの艦隊は、現在相手の大砲の射程の範囲外で停船している。そして攻撃の準備を整えながら、旗艦からの指示を待っていた。
「やはりまずはあの砲台を何とかしないと駄目みたいね。敵の船団の動きは?」
「今のところは、まだないようですね。以前我々の艦を襲撃した集団が撃退されたことを聞いて、向こうもかなり警戒しているようです」
「そう」
セーラはそう言って頷いた。




