第四話 前夜
それから数日間、ヒデカツとセーラたちは作戦の準備に時間を費やした。陸海軍にとっては戦争が終わってから初めての軍事活動のため、とりわけ慎重に進められた。その内容は多岐に渡り、必要な装備の準備や訓練、他の艦や部隊との連携や手順の確認などが行われた。
そのようなことをしている間に日数は過ぎ、作戦の前日の夜になった。
「綺麗だな・・・」
満天の星空を見つめながら、キューベル=アース陸軍中尉は言った。
「そうですね。街中ではこのような夜空はまず見られませんからね」
ローラ=ハワード陸軍少尉は、彼の隣でそう答えた。
二人は今、戦車揚陸艦<イフリート>の甲板の上に立っていた。艦上には彼らの部隊<ウルフロード>の戦車が積まれており、明日の作戦に備えていた。
その最終確認をキューベルはローラと一緒に行っていた。そして今、二人は休憩のため並んで空を見上げていた。
「しかし本格的な戦闘なんて久しぶりだな。何だか気持ちが高ぶってきているよ」
「そうですか。しかし戦場では何が起こるか予測できませんから、やはりそこは注意しなければなりませんよ」
「ああ、分かってる」
そう言ってキューベルは、少し真面目な顔になった。
「今回の作戦は、陸海軍にとって重要なものだそうだな」
「ええ。これが成功すれば、この地域の過激派の動きを一気に抑え込むことができるそうです」
「そしてその作戦にヒデカツが献策をした。そしてそれが採用された」
そこまで言うとキューベルは、一度首を振った。
「初めに聞いた時、俺は大丈夫かと正直思ったよ。こんな重大な作戦に、ある意味不確実ともいえる方法で臨むんだからな」
「でも今回の作戦の性格上、それは仕方ないと思います。それにワタベ中尉も、いい加減な考えで提言したわけではないでしょうし」
「それは、まあ、確かに」
「大丈夫です。兵士たちには今日までしっかりと手順を確認させました。そして最後はご友人を信じることが、隊長の役目ではないでしょうか?」
ローラはそう言うと、キューベルに微笑みかけた。
「そうだな。今回の作戦は何としても成功させないとな。国のため、そして何よりあいつのためにな」
キューベルはそうポツリと言った。
「それで隊長、このような時にあれですけど・・・」
「ん?何だ?」
「今回の作戦が終了したら、二人でどこかに出かけませんか?せっかくお付き合いを始めたのに、これまでどこにも行っていませんから・・・」
そうローラは、顔を赤らめながら言った。
「ああ、まあ、考えておく」
そう言ってキューベルは、そっとローラの肩を抱いた。そして二人でまた星空を見上げた。
同じ頃―。
「静かだな・・・」
<イフリート>内の陸軍の部屋で作業をしながら、アコー=グラント准尉は呟いた。
「全くね。明日戦闘があるとは思えないくらい、平穏な時間よね」
モニカ=ランダー曹長は、彼の方を向きながら言った。
彼らは明日の作戦に備えて備品の確認をしていた。その作業は普段より入念に行われ、今も何度目かのチェックをしている。
「しかしかなりの重大事でありながら、これだけの戦力でやり遂げろとは、陸海軍は何を考えているんだろうね?」
「まあ軍には軍の考えがあるみたいだけどね。司令部としては、大がかりな作戦を少数で成功させることによって、自分たちの精強さを示したいみたいよ」
「そんなものなのか?」
「まあいずれにせよ私たちは私たちの役割を果たすだけよ。それが人々の、とりわけ隊長のご友人のためになるのだからね」
「まあね。ところで隊長は?」
「隊長なら参謀長と一緒に甲板で戦車の確認をしているわ。今のお二人にとって、ある意味ぴったりの作業かもね」
「だけどあの二人、付き合ってしばらく経つのにいまだに職場で顔を合わせるだけの関係なんだろ?そろそろ一緒に外出すればいいのに」
「そうね。そのためにも今回の作戦は重要になるわよ」
そう言ってモニカはフフッと笑った。そして自分の作業を続けた。
また同じ頃―。
「穏やかね・・・」
<イフリート>の艦橋で自分の席に着きながら、エリー=ネルソン海軍少尉は言った。
「そうですね。こんな時間がいつまでも続けばいいと、ついそう考えてしまいますね」
操舵席に座るオリヴァ=バラック一等兵曹が答えた。
「だけど現実はそうではないわ」
エリーははっきりとそう口にした。
「勿論です。明日になれば僕たちは、海軍の重要拠点だった場所に立て籠る過激派の掃討に赴くことになるのですから」
オリヴァはそう静かに返した。
「これが我が国と周辺諸国にとって、重要な意味をもつ作戦だというのは分かるわ。だけど私たちにとって、今回は別の重大さを持ち合わせているのよね」
「ええ。今回の作戦は、艦長と先任の進退がかかっているのですから」
そうオリヴァは、真面目な顔をして言った。
「まあ艦長は数々の戦場で経験を積んできたから大丈夫だと思うけど、先任はどうなの?本格的な作戦参加は、これが初めてなんでしょ?」
「まあ慣れないことで色々緊張しているみたいですけど、先任はいざという時に行動できる人です。ですから僕は、今回も特に心配はしていません」
「そういうものなの?」
「はい。それに何かあった時にお二人を助けるのが僕たちの役目ですから」
「そうね。お二人の成功は、私たちにもかかっているのね」
エリーはそう言うと、一つ頷いた。
「それじゃあ、私は部屋で休むわ。オリヴァも適当に切り上げて、明日のためにちゃんと備えなさいよ」
「はい。エリー少尉も、明日に備えてしっかりと体調を整えてください」
オリヴァの言葉にエリーはフッと微笑んだ。そして艦橋を後にした。




