第二話 立案
「沖の島にあった海軍の拠点に立て籠った過激派を掃討する?」
軍港の敷地内を歩きながら、ヒデカツ=ワタベはそう言った。
「うん、近く海軍は大がかりな作戦を行う予定で、それに私たちの艦も参加することになったわ」
ヒデカツの上司で恋人であるセーラ=オルメスは、彼の隣を歩きながらそう答えた。
「何でも今回の作戦は今までの掃討とは少し違うみたいよ。これが無事成功すれば、我が国だけでなく周辺諸国の過激派の活動も沈静化できるかもしれない、そのくらい重要な任務らしいわ」
「そうかぁ。今まで実戦の経験は何度かあったけど、今回は初めて本格的な作戦に加わるんだな・・・」
そう言ってヒデカツは、硬い表情で俯いた。
「ヒデカツ、緊張してるの?」
セーラが彼の顔を覗き込みながら言った。
「それは、まあ」
「大丈夫。初めは誰だって初めての作戦には緊張するものよ。私だって最初の戦闘に参加した時は、恐怖で身体が動かなかったわ」
「セーラでも緊張することがあるの?」
「そりゃあ、私だって人間だから、そういうことは何度も経験しているわ。今だって少しは緊張しているし」
「そうは見えないけど・・・」
とはいえ、セーラでも緊張することがあるのかと思って、ヒデカツは少しだけホッとした。
「そういえば、今回の作戦の指揮はブリザード大尉が執るそうよ」
「ブリザード大尉か。彼なら上手くやり遂げられる気がするな」
「そうね。私たちは彼らを信じて、自分たちの役目を果たすだけね」
セーラはそうポツリと言った。
そのようなことを話しながら二人が歩いていると、
「オルメス大尉、ワタベ中尉」
不意に後から声をかけられた。
二人が振り返ると、そこには長い茶色の髪を後でまとめ、黒縁眼鏡をかけた、二〇代半ば程の女性将校が立っていた。その顔に二人は見覚えがあった。
「ええと、あなたは確か・・・」
「駆逐艦<ワイバーン>先任将校・ララ=ストーム海軍中尉です。東アクアフィールドでの過激派の掃討でご一緒しました」
「そうそう、ストーム中尉。こちらこそあの時はお世話になりました」
「それで何事だ、ストーム中尉?」
ヒデカツの後に続けてセーラが言った。
「ブリザード艦長がお二人のことをお呼びです。今回の作戦について、ご意見を伺いたいとのことです」
「意見を?」
ヒデカツとセーラは一瞬驚いた表情を見せ、互いに顔を見合わせた。
「分かった、案内してくれ」
やがてセーラがそう口にした。
「こちらです」
ララはそう答えると、二人に背中を向けた。そして先に立って歩き出した。
およそ二〇分後―。
ヒデカツとセーラは、<ワイバーン>の会議室に通された。二人の姿を見ると、既に中にいた幹部たちは一斉に立ち上がって出迎えた。
「お連れしました」
「うむ、ご苦労」
ララの報告に、ロックは短く返した。そしてセーラの顔を見て微笑んだ。
「お久しぶりです、オルメス大尉」
「うむ、久しいな、ブリザード大尉」
「あの時は我々の任務にご協力いただきありがとうございます。そして今回もまたこうして同じ作戦に参加していただけることを嬉しく思っています。ぜひ我々にあなたの知恵を貸していただけたらと思います」
「あの、ブリザード大尉?」
ヒデカツはロックにおずおずと話を切り出した。
「何でしょうか、ワタベ中尉?」
「オルメス大尉は歴戦の方です。だからこの場に呼ばれたことは分かるのですが、僕が呼ばれた理由は何でしょうか?」
「何をおっしゃいますか!?あなたの過激派の襲撃を受けた際の判断の報告を聞きました。それは現場の経験の長い私から見ても見事なものでした。今回もあなたの発想に期待しております」
「それにワタベ中尉は生まれながらの軍人でないと聞いております。それゆえに我々には思いつかないような考えが浮かぶかもしれません。私たちはそれもあてにしています」
次席将校のルイス=シルヴァ海軍少尉が言った。
「オルメス大尉は勇敢で、戦場で数々の経験を積んでいます。ワタベ中尉はそのような方が認める人物なのですから、この場に呼ばれるのは当然です」
航海長のイザベル=マリナー兵曹長が続けて言った。
「先日は弟たちがお世話になりました。ワタベ中尉のおかげで、あの二人は生きる希望を取り戻しました。そのような方の意見を聞くことに、我々は何の迷いもありません」
掌帆長のドラゴ=サンダー上等兵曹が答えた。
「とにかく今回は、我々の作戦にどうぞ遠慮なく意見を聞かせてください」
最後に操舵員のメアリ=スミス一等兵曹が短くそう口にした。
「うむ、あなた方がそう言うのならば私たちも全力で手を貸そう」
そうセーラは短く返した。
「それで、今回の軍事目標についてだが・・・」
「ああ、それならこちらに」
そう言って指し示された地図に、セーラは目を落とした。
「ふむ、中々強固な造りをしているな。まずはこの砲台を何とかしなければならないな」
そしてセーラは先程ロックたちが議論した空爆を提案し、ロックは先程ララが述べた意見を言った。次にセーラは駆逐艦数隻による砲撃を提案し、やはりロックは却下したことを告げた。
一通り話を聞いた後、セーラは質問した。
「そもそも今回の作戦におけるこちらの戦力はどのくらいなのか?」
すぐにララが新しい資料を差し出した。
「ふむ、駆逐艦が一隻に護衛艦が二隻、それに戦車揚陸艦が三隻に戦車が一五台か・・・。かなりギリギリの戦力のようだな」
「陸海軍としてはできるだけ損害を抑えたいようで、これで何とかしろということらしいです」
「ううむ・・・」
状況を把握した後、セーラは唸った。そしてそのまま押し黙った。




