第一話 要塞島
「要塞島?」
その言葉を口にした瞬間、ユーリ=カッター海軍中尉は首を傾げた。
「うん、アクアフィールドの沖に小さな島があってな。そこに海軍の要塞が置かれていたのでそう呼ばれているんだ」
ミカエル=サイクロン海軍少佐は、彼女に対してそう答えた。
「その歴史は古く、帝政時代に海軍の拠点を作ったことに始まる。その効果は大きく、前の戦争では我が国が北方海域で勝利を収めることに一役買った。共和政移行後もその重要性は変わらず、設備は徐々に増強されていった。そして先の戦争でも海軍が周辺海域で優位を保つのに大事な役割を果たした。しかし戦争が終わると部隊は撤収し、要塞は放棄され無人になった」
そこまで話すとミカエルは、一度押し黙った。
「それで、その重要拠点だった場所がどうかしたのですか?」
「うむ、その要塞島に過激派の武装集団が立て籠ったという情報が入った。何せ戦闘が終結したことにより我が国だけでなく周辺地域全体が気の緩んだ状態になっていた。加えて海軍は先の不祥事への対応に追われていてそこまで気を回す余裕はなかったからな。奴らはその隙を突いたらしい」
「それはまた、大変ですね」
「そうなのだ。既に影響は出始めている。周辺海域を航行する商船や漁船は、襲撃を恐れて迂回するようになった。おかげで余分な時間や燃費がかかるようになり、物流も滞りがちになっている。また近くを飛行していた海軍の偵察機が砲撃を受けた。幸い被害は出なかったが、放置しておくと重大な事態に陥る。海上警察では太刀打ちできない。そこで海軍に掃討するよう政府から命令が下ったというわけだ」
「確かに、早急に対処しないと周辺地域の安定に関わりますね」
ユーリの言葉に、ミカエルは頷いた。
「今回の掃討は今までのものとは次元が異なる。これが成功すれば、我が国だけでなく周辺諸国の過激派の活動を一気に鎮圧することができるかもしれない」
「だとしたらますます重要ですね。海軍の威信に賭けてでも、何としてもやり遂げなければなりませんね」
「そうだな。そうなるとそれだけの重大事を任せられるだけの指揮官といえば・・・」
ミカエルはそう言って少し思案した。
「うん、ブリザード大尉がいい」
やがて彼はそう言った。
「ええ、私も彼が適任だと思います」
「すぐにブリザード大尉に指令を出し、必要な人員と装備を手配するように」
「了解しました」
ミカエルの指示にユーリはすぐに返事をし、準備のため部屋を後にした。
「指令が下りました、艦長。要塞島に立て籠った過激派の掃討を行えとのことです」
ララ=ストーム海軍中尉は、艦長室に入ってくるなりそう言った。
「それはまた光栄なことだな」
駆逐艦<ワイバーン>の艦長・ロック=ブリザード海軍大尉は、椅子に座りながらそう答えた。
「何でも今回の作戦は今までのものとは少し違うようです。これが済めば国内外の過激派の動きを一気に抑えられるかもしれないと」
「ほう、それはまた名誉なことだな。もっとも俺にとってはそのようなことは関係なく目の前の仕事をこなすだけだがな」
「艦長は欲がなくて困ります。先の海軍の不祥事だって、艦長がサンダー上等兵曹の要請を受けてサイクロン少佐に上申したからこそ明るみに出たのでしょう?もっと自分のことを誇っていいのですよ」
「あれはただ人間として当然のことをしただけだ。別に誇るようなことじゃない」
「そんな感じでは、いつまでも出世できませんよ」
「いいんだ。それに俺は現場が好きなんだ。できることならこのままで軍人生活を終えたいよ」
「それだと私たちが困るんですけど・・・」
ララはそう言って口ごもった。
「まあそれはそれとして、それでその要塞島というのは一体どんな場所なのだ?」
「ああ、それならここに」
そう言うとララは、机の上に地図を広げた。
「ふむ。正面に砲台が複数、裏側にもいくつかあるな。中々堅牢な造りをしているようだな」
「設備自体はかなり古いようですが、それでも大砲はかなりの威力があります。まずはこれを無力化しなければなりません」
「そしてそれから陸軍の部隊を上陸させて制圧する。大まかな作戦の流れはそんなところだな」
ロックはそう言って頷いた。
「それで無力化の方法だが、どうする?一気に空爆して砲台を叩くか?」
「私もそれは考えました。ですが当然相手も反撃しますから、こちらにもかなりの被害が出ます。軍としてはできるだけ損害を抑えたいようですから、したがって空爆は行えません」
「そうか。では駆逐艦を数隻並べて砲撃するのはどうだ?これなら確実に落とせるし、被害も最小限に抑えられると思うんだが」
「それも考えました。ですが戦争終結後、海軍は多くの退職者を出して規模は今縮小しています。そして軍は今いる人数を効果的に使うことで最大限の成果を上げることを求めています。よって駆逐艦は我らの艦一隻だけです」
ララの話を聞くと、ロックは天井を見上げた。
「どうやら今回の任務は、想像以上に厄介なもののようだな」
そう言って彼は、う~んと唸った。
「どうします?他の幹部たちからも意見を聞きますか?」
「そうだな。彼らは優秀だ。皆で話し合えば、一つくらいは何か妙案が思い浮かぶかもしれない・・・」
と、そこでロックの頭の中にある考えが閃いた。
(待てよ、あの二人ならひょっとして)
そして幹部たちを召集するために部屋を出ていこうとしていたララに、ロックは声をかけた。
「なあララ、一つ頼みがあるんだが」




