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洋上の戦士たち  作者: ただかた
第七章 愛
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第三話 オリヴァとエリー

「ふう・・・」


 作業の手を一旦止めて、エリー=ネルソン海軍少尉は溜め息を吐いた。

 彼女は今、<イフリート>の艦橋内にある次席将校の席に着いていた。そして午後からの訓練のために必要な準備をしていた。

 その手を休めながら、エリーは目の前の操舵席で作業をしているオリヴァ=バラック一等兵曹の後ろ姿を見つめた。


(彼は真面目で優秀でよく気配りのできる人だわ。そして何よりとても優しい人物だわ。人間として、ここまでの者はそうそういないんじゃないかしら?)


 ぼんやりと彼女はそのようなことを考えた。


(でも彼の中での一番は、やっぱり先任なのよね)


 実際オリヴァの行動を見ていれば、それはすぐに分かる。彼はヒデカツのことを第一に考えている。そしてヒデカツのために行動し、ヒデカツが過ごしやすい環境を整えている。何よりも彼はヒデカツの幸せを望んでいる。

 そこまで考えるとエリーは、ふとオリヴァに尋ねたいことを思いついた。そしてそれは、これから彼女がしようとしていることの役に立つと思った。


「ねえ、バラック一等兵曹」

「はい、何ですか次席将校?」


 作業の手を止めずにオリヴァは返した。


「あなた、先任のどんなところに惹かれたの?」


 エリーの問いに、オリヴァは手を動かすのをやめた。そして顔だけを彼女の方へ向けた。


「どうしたんですか、いきなり?」

「いやまあ、何となくね。今でこそ立派な人だって分かるけど、先任って結構大人しそうに見えるじゃない?そんな見かけの人に、自分からついていこうなんて人は中々いないんじゃないかと思って」

「まあ、言いたいことは分かりますよ」


 そうオリヴァは苦笑しながら言った。


「そうですね、今まで聞かれることがなかったから話さなかっただけなんですけど。でも別に隠すようなことでもありませんし、丁度いい機会かもしれませんね」


 そしてオリヴァはエリーに後を見せた。そしてそのままの姿勢で話し始めた。


「僕が初めて先任―ワタベ中尉に出会ったのは、去年の夏ごろでした。当時僕は補給艦の操舵員をしていましたが、当時の艦長から新しい次席将校だと紹介されました。その時彼は、ひどく疲れた顔をしていました」


 そうオリヴァは穏やかな口調で語った。


「仕事ぶりは真面目だけど大人しい。特に問題は起こさないけれど見るべき程のものはない。それが当時の幹部たちの中尉への大方の意見でした。でも僕は彼を見た瞬間から、彼は内に優れたものを持っている、それは自分たちにとって必ず役に立つ、だから自分はそれを引き出す手助けをするんだ、そう思いました。今考えると、それはある意味一目惚れに近い感覚だったかもしれませんね」


 そう言ってオリヴァはフフッと笑った。


「僕は中尉に積極的に関わりました。そして彼のために様々なサポートをしました。中尉は初め、僕がどうしてそこまで自分の世話を焼くのか分からずに戸惑った様子でした。だけど段々と同じ時間を過ごす内に、少しずつ心を開いていってくれました。そして時折笑顔を見せるようになりました」


 オリヴァはそう感慨深げに言った。


「だけど中尉はまだ心の底から笑える状態ではありませんでした。彼の抱えているものの重さを考えると、それは当然のことです。だから僕は中尉に気分転換にと、東の街へ行くことを勧めたんです。後でアース中尉が同じことをしていたと知った時は、少し驚きましたけどね」


 オリヴァはそこまで言うと、またフフッと笑った。


「それから中尉は、東の街へ行って帰ってきました。彼は今までとは見違えるように明るくなりました。そして仕事にも主体的に取り組むようになりました。幹部たちは驚いて、僕に何があったのか尋ねました。その度に僕はこう答えました。『あれが中尉の本来の姿ですよ』と」


 そう言うとオリヴァは、今度はおかしそうに笑った。


「やがてしばらくして、彼がオルメス大尉、つまり現在の艦長と交際していると知って、僕は嬉しくなりました。あの人にもようやく大切に思ってくれる人ができたんだな、って。やがて艦長が海軍に復帰して、中尉が請われて先任将校になると聞き、僕は迷わず彼についていきました。そしてこの艦の操舵員となって現在に至るというわけです」


 そこまで話すとオリヴァは、一つ大きく息を吐いた。

 エリーは黙って彼の話を聞いていた。そして彼が話を終えると、フッと口許に笑みを浮かべた。


「中々素敵な話だったわ」

「そ、そうですか?だとしたら嬉しいですけど」

「バラック一等兵曹は、先任のことをとても大事に思っているのね」

「はい、とても尊敬しています」

「彼のことが好きなの?」

「そうですね、そうなりますかね」

「そうね、そこまで大切に考えているのね。だったらさ、その隅の方でいいからさ・・・」


 エリーはそっと席を立ちあがった。そしてゆっくりと彼の隣に近づいた。


「その中に、私を加えてくれない?」




「え?」


 突然のことに、オリヴァは驚いてエリーの顔を見た。


「最初にあなたに会った時、私は不安に思ったわ。こんな子供みたいな見かけの人に、一体何ができるんだろうって。やがてすぐにあなたが優秀な人物だということは分かったけれど、それでも私の懸念は完全には払拭できなかったわ」


 そこまで言うとエリーは、一度言葉を区切った。


「だけど私が友人のことで悩んでいた時、あなたは親身になって寄り添ってくれた。その後私が彼女の前で見苦しい姿を晒した時も、あなたは優しく受け止めてくれた。その時思ったわ、あなたは私のことを理解してくれる、どんな時でも支えてくれる、ってね」


 エリーはオリヴァの右手を取った。そしてそれを両手でしっかりと包み込んだ。


「ねえオリヴァ、私はあなたのことが好き!だから私と付き合って欲しい!そしてこれからもずっと私の側にいてくれない?」


 急に名前で呼ばれて、オリヴァは明らかに慌てた様子になった。その姿を見て、彼もこのような表情をするんだと、エリーは妙に落ち着いた気持ちでそう思った。


「次席将校」


 しばらくして、彼は口を開いた。


「僕は今まで、他人に尽くすことに生き甲斐を感じてきました。しかしそれゆえに、自分の幸せについてあまり考えたことはありませんでした。だからあなたの告白に何と返事をすればよいのか、正直よく分かりません。だけど次席将校が僕のことを必要としてくれているのなら、僕は全力でその期待に応えたいと思います」

「その次席将校というのはやめなさいよ。私は勇気を出して名前で呼んだのに」

「わ、分かりました。ええと・・・エリー、少尉?」

「何で階級付け?まあいいけど」


 そしてエリーは彼の手を離した。そしてピンと背筋を伸ばした。


「まあ今後も色々あるだろうけれど、これからもよろしくね、オリヴァ!」


 そうすっきりとした表情でエリーは言った。

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