第七話 帰路
翌朝―。
「ただいま戻りました」
部屋に入るとすぐにユーリはそう言った。
「お、おう。意外と早かったな」
机の前に座っていたミカエルは、少し驚いた表情を見せた。
「無事に国の南西部の刑務所から脱走した過激派の発見及び捕獲を完了いたしました」
そうユーリは淡々と答えた。
あの後拘束した過激派の男は、州の中央警察署に引き渡された。そして脱走したのとは別の刑務所に収監された。男は自分が襲った一行が現役軍人の集まりだったと聞いて、ひどく驚いた様子だった。
「何だよ、せっかく地方へ行ったんだから、もう少しゆっくりしてきてもよかったんだぞ?」
「私は任務で現地を訪れたのです。遊びに行ったわけではありません」
「やれやれ、相変わらずお堅いヤツだな。まあそこがいいところなんだけど」
ミカエルはそう苦笑しながら言った。
「それでどうだったんだ?オルメスに会ったんだろう?」
そう聞かれてユーリは少し天井を見つめた。そしてセーラの美しい肢体を思い浮かべた。
「そうですね。まあ、良かったですかね」
「ん?どうした?何だか顔が赤いような気がするんだが?」
「何でもありません!これが今回の報告書です!」
ユーリは大声でそう言った。そして報告書のファイルを半ば叩きつけるように机に置いた。
「あ、ああ。拝見させてもらうよ」
ミカエルは少し気圧されながらファイルを受け取った。そして中身に目を通し始めた。
ユーリは窓の外に目をやった。そしてフッと笑みを浮かべた。
同じ頃―。
「あ~、何か今回は凄いことになったな」
帰りの車の後の席で、キューベルはそう呟いた。
「そうですね。でも何とか予定をこなせて良かったじゃないですか」
そう助手席に座っていたアコーが答えた。
あの後地元の警察がやってきて、色々と事情を聴かれた。それが終わって警察が引き上げた頃には、すっかり日付が変わっていた。みんなで話し合って一応キャンプは続けることになったが、それでも念のため夜は各自交代で見張りをした。やがて夜が明けて朝食を済ませると、みんなはまたそれぞれ思い思いの時間を過ごした。ヒデカツとセーラは前日できなかった山歩きに出かけ、とても満足した様子だった。そして今、彼らは休暇を終え、首都に向かって車を走らせていた。
「ていうか、お前らの情報網で何とかならなかったのか?」
キューベルは隣に座っているローラに尋ねた。
「私たちの情報収集能力にも限界があります。今回の事に関しては全く知ることができませんでした」
そうローラは、少し申し訳なさそうに答えた。
「まあ私たちがもう少し注意しておけばよかったのかもしれませんが・・・。まだまだ経験が足りませんね」
運転席に座っているモニカが言った。
「いや、別にお前たちを責めているわけじゃない。どうも俺は普段から、お前たちに頼りすぎていたようだ。これからは俺が、もっと気をつけないとな」
「全く、あれがなかったらもっと隊長と親密になれたかもしれないのに・・・」
そうローラがボソッとささやいた。
「ん?何か言ったか?」
「いいえ、別に」
ローラはそう言うと、フイッと窓の外を見た。
それを見たキューベルは、訳が分からないといった様子で首を傾げた。
その様子を見て、アコーとモニカは密かに苦笑した。
また同じ頃、後の車両―。
「何か今回は、大変なことになってしまったわね」
ポツリと助手席のローラが言った。
「そうですね、僕もこの展開は全く予測していませんでした」
隣で運転しているオリヴァが、そうエリーに返した。
騒ぎが収まった後、みんなはすぐに休むことにした。それでも何かあった時のためにと、交代で夜の番をすることになった。今まで実戦を重ねてきたエリーにとって、この程度のことは苦痛にならなかった。しかしそれでも見張りをしている間は、極度の緊張に襲われた。
「やれやれ、戦争が終わったとは言っても、まだまだ世の中は不安定ね。私たちには、真の平穏なんてものは訪れないのかもね」
そうエリーは、自嘲気味に呟いた。
「いや、それはどうでしょうか?」
オリヴァが静かな口調で答えた。
「確かに僕たちは国を守るという重要な使命を帯びています。だから僕たちの平穏はもう少し先のことなのかもしれません。しかし僕は軍人も含めて誰もが平和に暮らせる世の中がきっと来る。そしてそれはそう遠くないことだと信じています」
「そんなものかしらね」
エリーが少し釈然としない様子で言った。
「艦長はどう思いますか・・・ってあれ?」
「どうしましたか?」
エリーの様子を見て、オリヴァは後に視線を送った。
そこには後の席で肩を寄せ合いながら、静かに寝息を立てているヒデカツとセーラの姿があった。その顔は、とても穏やかな表情をしていた。
「全く、こんな悪路でよく眠れるわね」
「まあまあ、よほどはしゃぎ疲れたのでしょう。何せ今回の事は、お二人にとって色々と初めての経験でしたからね」
「そういえば艦長って、結構どこでも眠れたわよね」
エリーはセーラの戦場での様子を思い出しながら言った。
「戦士にも休息が必要です。お二人は軍の将来を背負っていく方たちです。僕たちはこれからも、お二人が過ごしやすい環境を作っていかなければなりません」
「そうね。あなたの言うような、軍人も平穏に暮らせる世の中が来るかどうかは分からない。だけど少なくとも、あのお二人が幸せに暮らせる世の中を作る手伝いはしていきたいわね」
そうエリーは呟いた。そしてそっと窓の外の景色を眺めた。
春の日差しが降り注ぐ中、しばしの休息を終えた戦士たちは、いつもの日常に向かって車を走らせていた。




