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洋上の戦士たち  作者: ただかた
第六章 休暇
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第一話 予定

「しかし驚いたな。まさかお前にあんな特技があったなんて」


 戦車揚陸艦<イフリート>内にある食堂で、幹部たちと食事をとりながら、キューベル=アース陸軍中尉は目の前の人物に語りかけた。

 およそ一カ月前、キューベルの友人ヒデカツ=ワタベは、毎年行われる陸海軍合同の射撃大会に参加した。その時彼は、初出場ながら男子五〇メートルピストルで見事準優勝を果たしたのである。


「それほどでもないよ。自分でもどうしてできたのか分からないし」


 そう言ってヒデカツは苦笑いをした。


「でも初めて大会に出てここまでの成績を収めるのだから、やっぱりあなたは大した人だと思うわよ」


 彼の隣に座っていた上司で恋人のセーラ=オルメスは、そう言った後微笑んだ。


「まあ、セーラがそう言ってくれるのならそうかもしれないけど・・・」

「それにしてもヒデカツ、あなた随分と少食ね。それでちゃんと海軍でやっていけてるの?」


 ヒデカツの食器を覗き込みながら、セーラはそう口にした。


「そうかな?これでも以前より食べる量は増えたんだけど。何せこの国の食事は脂っこいものが多くて、最初は全然食べられなかったんだから」

「まあ、それは確かに」


 そう言うとセーラは、沈んだ表情になった。


「私もこちらに戻ってきた直後は全く食べられなかったわね。あの時の戦場での体験は、私にとって地獄以外の何物でもなかったから・・・」


 そうセーラは言って、深い溜め息を吐いた。


「ごめん、また嫌な事を思い出させたね」

「ううん、気にしないで」


 セーラはそう答えたが、その場は重苦しい空気に包まれた。

 その雰囲気を打ち破るように、明るい声でキューベルが切り出した。


「そうだ、今度の休暇にみんなでどこかに出かけないか?このメンバーで一緒に仕事をするようになって初めての休みだ。そろそろ親睦を深めたいと思うんだが」

「いいわね。みんなで一緒に山に行くなんてどう?」


 そうセーラが、明るい口調で提案した。


「何言ってるんだ。休みにみんなで行く場所といったら海だろう?」

「ん?海?」


 キューベルの言葉に、ヒデカツは首を傾げた。


「ああ、ヒデカツは知らないのか。この国の人間は休みになると、山か海に家族や友人と出かけて過ごすことが多いんだ」

「だけど今は春だよ?暖かくなってきたとはいえ、まだ海水浴の季節じゃないだろ?」

「南の方は暖かいんだよ」

「この国の南に海なんかないだろ?」

「もっと南だよ」

「それはつまり越境するってこと?」


 アクアフィールドの南には、南方の海域に面した国々がある。その地域は一年中比較的温暖で、観光地として有名な場所もある。


「そんな余裕ないわよ。大体軍人が何日も軍を空けて海外に旅行に行けるわけないじゃない」

「そんなことないだろ。そもそも戦争が終わって軍は今暇なんだ。少しばかり長く休みを取ったって、罰は当たらないと思うぞ」

「そもそもあなたたち、海なんて普段から見飽きてるんじゃないの?」

「確かにそうだが、やっぱり休みの日は海に行かないと始まらないだろ?」


 そのような事を言いながら、セーラとキューベルはしばらく睨み合った。


「ねえ、あなたたちはどう思う?」


 そうセーラは、傍らにいる部下たちに尋ねた。


「私は艦長の意見に賛同して、山に行くことをお薦めします」


 次席将校のエリー=ネルソン海軍少尉は、はっきりとした口調で言った。


「そうですね。僕も艦長の意見に従うことにしますかね」


 操舵員のオリヴァ=バラック一等兵曹も、エリーに続けて答えた。


「はい隊長!私は隊長の意見に賛成します!みんなで海に行きましょう!あなたたちも同意するわよね?」


 戦車小隊<ウルフロード>で参謀長を務めるローラ=ハワード陸軍少尉が、そう勢いよく言った。


「そうですね・・・。ここは隊長の言うことを聞いた方がよさそうですかね」

「逆らったら、後が怖そうですし・・・」


 先任参謀のアコー=グラント准尉と、経理参謀のモニカ=ランダー曹長が消極的ながら同意した。

 こうして<イフリート>と<ウルフロード>のメンバーの間で意見が割れ、両者はお互いに向かい合う形になった。


「ヒデカツはどっち!?」

「えっ!?」


 急にセーラに話を振られて、ヒデカツは心底驚いた。


「そうだ!今度の休暇の行き先はヒデカツに決めてもらおう」

「そうですね。先任なら全員が納得する答えを出せそうですし」

「なかなかの名案だと思います」

「そうね、ワタベ中尉なら上手く事を収められるかも」

「今回はお任せします、中尉」

「あなたはきっと英雄になれますよ」


 その場にいた七人の視線が全てヒデカツに注がれた。


「うう・・・」


 その視線に気圧されそうになりながら、ヒデカツは必死に思考を巡らせた。


(参ったなあ・・・。本来ならば<イフリート>のみんなの意見に賛同すべきなんだろうか?だけど<ウルフロード>のみんなも大事な仲間だ。そんなことをして後で任務に支障が出たら困るし・・・。う~ん、一体どうしたらいいんだろう?)


 散々悩んだ末、ヒデカツはある答えにたどり着いた。


「あ、じゃあこんなのはどうかな?みんなで山へ行って、川べりでキャンプをするというのは?」

「「「はあ?川?」」」

「「「キャンプ?」」」


 その場にいた七人は、そう言って沈黙した。


「そうだよ。こうすれば泳ぎたい人は泳ぐことができるし、山歩きをしたい人は山歩きをすることができる。どちらにとってもいいことだと思うんだけど・・・。駄目かな?」


 七人は今度は、互いの顔を見つめ合った。


「あの・・・」


 その沈黙に耐えられなくなって、ヒデカツは思わず声をかけた。


「ええと・・・」


 すると突然、七人は同時に立ち上がった。


「「「いいんじゃない!!」」」


 そう言って彼らは、口々にヒデカツを称賛した。その言葉に彼は安心すると同時に、どこか拍子抜けした気分になった。


「ところで中尉は、キャンプに行ったことあるんですか?」


 ふとローラが、ヒデカツにそう尋ねてきた。


「え?ないけど?」

「ふ~ん・・・」


 彼の答えにローラはそう口にしただけで、それ以上聞いてくることはなかった。


「ま、後のことは私とモニカに任せて、皆さんはどうぞ自分の準備をしてください」


 最後にローラがそう言って、この場はお開きになった。

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