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洋上の戦士たち  作者: ただかた
第五章 大会
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第五話 叱責

 同じ頃、客席の別の場所―。


「私たちの隊長が、射撃大会に出るなんてワクワクするわね」


 ローラ=ハワード陸軍少尉は、そう言って子供のような笑顔を見せた。


「ワクワクしますかねぇ・・・」


 彼女の右隣に座っているアコー=グラント准尉が、頬杖をつきながら答えた。


「何よ、あなたは隊長の晴れ姿に感動しないの?」

「いや別にそういうわけじゃありませんけど、しかし隊長の銃の腕といえば・・・」

「分かってるわよ。だけどせっかく自分たちの隊の隊長が試合に出るんだから、これはもう全力で応援するしかないじゃないの」


 そう言ってローラは、いかにも楽しそうに笑った。


「それにしても、参謀長は出場しなくてよかったんですか?そこそこの腕と聞いてますけど」


 ローラの左隣に座っているモニカ=ランダー曹長が、聡明そうな顔を向けて尋ねた。


「馬鹿ね。隊長の一世一代の大勝負の時に、自分が出場している暇なんてないでしょ?あなたたちもそう思うから、今ここにいるんじゃないの?」

「いや別にそういうわけでは・・・」

「ただ他に重要なことがありましたので・・・」


 二人の下士官はそう言うと、同時に顔を背けた。


(本当は参謀長が何をしでかすか気が気じゃなかったからなんだけど・・・)

(とにかく、今日もしっかり見張っておかないとね)


 二人はそう思って決意を新たにした。その様子を見たローラは、一人首を傾げていた。

 そのようなやり取りをしている内に、キューベルが会場に入ってくるのが見えた。

 それを見つけたローラは一気に気分が高まった。そして思わず立ち上がってこう叫んだ。


「隊長ぉぉぉぉぉぉ、頑張ってぇぇぇぇぇぇ!!」

「わっ、参謀長」

「声が大き過ぎます」


 アコーとモニカが慌ててローラを引きずり下ろすように座らせる。


「何よ、いいじゃないの別にこのくらい」

「そうですか?私には何だか不吉な予感がするんですけど・・・」


 モニカはそう言って、表情を曇らせた。

 そしてそれは果たして現実のものとなった。


「ハワード少尉」


 一人の人物が三人の側に立って声をかけた。陸軍司令部付きの女性将校だ。


「何ですか、このような時に?」


 鬱陶しそうにローラが答えた。


「第二師団長がお呼びです」


 それを聞いた瞬間、ローラの顔からサーッと血の気が引いた。

 第二師団長というのは、五〇代半ばくらいの女性中将で、ローラたちの部隊である戦車小隊<ウルフロード>が所属する師団の長である。したがってローラにとって、彼女は恐ろしい存在である。ローラは助けを求めるように部下たちの顔を見たが、二人共哀れみの表情を浮かべていた。


「行ってきなさい」

「戻ったら慰めてあげますので」

「そんなぁぁぁ・・・」


 ローラは絶望の声を上げた。そして女性将校に引きずられるようにして連れていかれた。




 およそ一五分後―。

 フラついた足取りでローラは戻ってきた。その顔はげっそりとした表情をしており、彼女が受けた苦痛を如実に物語っていた。

 さすがに気の毒に思ったので、アコーとモニカはローラの両脇を抱えるようにして席に座らせた。


「だ、大丈夫ですか参謀長?」


 そうアコーが恐る恐る尋ねた。


「大丈夫じゃないわよ!ひ~ん、一体私が何をしたっていうのよ~っ!いやしたんだけどさ」

「まあまあ、第二師団長は若い人を捕まえて説教をするのがお好きだと聞きます。だからそこまで気にすることはないのでは?」


 モニカはそう言って慰めたが、ローラは今まで見たことがないくらい落ち込んでいた。


(ていうか、ここまで弱っている参謀長を見るのは初めてね。何だか心配になってきたわ)


 キューベルのことになると馬鹿なことをするローラだが、それ以外ではしっかりと隊をまとめている。その中心となる人物が凹んでいては、部下として不安になるのは当然である。

 モニカは顔を上げた。そして既に双眼鏡を覗いているアコーに向かって尋ねた。


「どう、隊長の調子は?」

「苦戦しているね。端っこが多いかな?あ、外した」

「参ったなあ。腕が悪いのは知ってたけど、今日くらいは格好いいところを見せてほしいわね」


 そう言うとモニカは、未だに気持ちが沈みこんでいる上司の顔を覗き込んだ。




 同じ頃、会場の出入口付近―。


「ふう・・・」


 自分の胸に右手を当てながら、ヒデカツは一つ大きく息を吐いた。

 彼にとってこのような大きな大会に出場することは、人生で初めての経験だった。それゆえ彼は今、極度の緊張に襲われていた。


(それにしても・・・)


 ヒデカツは先程、オリヴァから言われたことを思い返していた。

 彼はヒデカツに、もっと自分を信じるべきだと言った。そしてこの大会が、そのための重要なステップになるとも言った。果たして自分は、この機会をものにすることができるのだろうか―。

 少し考えた末、ヒデカツは一つの結論を出した。

 自分は祖国を捨てた罪悪感から海軍に入隊した。その後ろめたさは、これからも消えることはないだろう。しかしこの国に来て、自分は大切な人に出会った。そして自分はその人を必ず守り抜くと誓った。一度そう言い切った以上、それは守り通さなければならない。


(そうだよな。確かにこの大会を通してあらゆることに対する自信がつくかは自分でも分からない。だけど少なくともセーラを守り抜くくらいの自信は持てるようにしないといけないな。そうでないと彼女に申し訳ないよ)


 ヒデカツはグッと右手の拳を握りしめた。そして真っ直ぐに正面を見据えた。


(大丈夫、いける・・・。よしっ!)


 そう彼は心の中で気合を入れた。そして会場の中へ足を踏み入れた。

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