第三話 特訓
「うわあ・・・」
目の前にある設備を見て、ヒデカツは思わず声を上げた。
ここは海軍の保有する屋外射撃場。海軍の施設に隣接したこの場所は広大な敷地面積をもち、軍関係者だけでなく一般の射撃愛好者にも開放されていた。
その中にある的の一つの前に、ヒデカツとオリヴァは立っていた。
「凄いな。このような施設、今まで見たことないよ」
「あれ、海軍に入隊した時にご覧になったのではないのですか?」
「そうかもしれないけど、その時の僕はふさぎ込んでいてあまり覚えてないんだ」
「そうですか。とにかくここが海軍が誇る練習施設です。我らが海軍の将兵たちは皆ここで訓練を積んで強くなっていくのですよ」
オリヴァからの説明を聞いて、ヒデカツはふ~んと納得した。
「しかしどうしてこのような時期に大会を開催するんだろうね?だいぶ緩んできたとはいえ、まだまだ寒いというのに」
「まあ、当初は様々な時期に開催していたみたいですけどね。何でも将兵の体力と精神力を鍛えるにはこの時期が一番ということで、途中から固定されたみたいですよ」
「ふ~ん、何だかありがた迷惑な感じがするけど」
「いずれにしても、僕たちは決められたことをやるだけですよ。それではとりあえず、一シリーズ一〇発分試しに撃ってみますかね」
そう言ってオリヴァは、ヒデカツに競技用の拳銃を差し出した。
「しかしここからだと随分と遠いな。的がとても小さく見えるよ」
「的の直径は五〇〇ミリメートル、それが五〇メートル先に設置されてるんですからね。かなり小さく見えると思いますよ」
普段利用している屋内射撃場の的までの距離は一〇メートル、東の街で過激派とやり合った時でもせいぜい二〇メートル程だった。このような長い距離にあるものを、ヒデカツは今まで撃ったことがなかった。
「まあ、とにかくやってみるかな」
ヒデカツはそう言ってオリヴァから銃を受け取ると、弾丸を一〇発中に込めた。
「試合の一シリーズの時間は一五分、一発撃つのに平均一分三〇秒の計算ですね」
「それだけ時間があれば充分かな」
そう言うとヒデカツは顔と右肩を的の方へ向けた。そしていつものように銃を額の前まで持っていって目を閉じた。そうすることで彼は集中するだけでなく、頭の中で的をイメージするのだ。
(・・・よしっ)
心の中で叫ぶとヒデカツは目を開いた。そして右腕を的に向かって真っ直ぐに伸ばした。
およそ一五分後―。
「ど、どうかな?」
ヒデカツはそう言ってオリヴァの方を見た。
しかし彼は双眼鏡を覗き込んだままその場に立ち尽くしていた。その表情は、まるでこの世のものでないものを見たような感じだった。
「どうしたの?何かまずいことでもした?」
「いえ・・・。ただ一〇発全ての弾丸を中心に当てたのを生まれて初めて見ましたので・・・」
そう言ってオリヴァは双眼鏡を目から離した。
「いやいや冗談だろ?いくらなんでもそんなことがあるわけないじゃないか」
「冗談も何も、今まさに目の前で起きたことなんですけど・・・」
オリヴァはそう言って双眼鏡を差し出した。
ヒデカツはそれを受け取ると、目に当てて的を覗き込んだ。彼の撃った弾丸は、的の中心即ち一〇点に当たる場所を全て正確に撃ち抜いていた。
(嘘だろ・・・)
ヒデカツはその光景を見て呆然とした。そして双眼鏡を目から離した。
そのように二人が驚いていると、
「やあ、やっぱりここにいたのね」
突然後から声が聞こえた。振り返るとそこにセーラが立っていた。
「セーラ、来てたの?」
「艦長、いつからいらしてたのですか?」
「ん~、ついさっき。ヒデカツが男子五〇メートルピストルに出場を決めたと聞いたから多分ここだろうと思って」
そう言ってセーラは笑みを見せた。
「それでどう、調子は?」
「調子も何も・・・見ての通りですが」
オリヴァはそう言うと、親指で的の方を指した。
セーラはヒデカツから双眼鏡を奪うようにして取った。そして的の方を覗き込むとニヤリとした表情を浮かべた。
「へ~え、中々やるじゃないの。やはりあなたは私の見込んだ通りの人ね」
ヒデカツの方を向きながらセーラは言った。
「偶然だよ、こんなことそう起こるわけないじゃないか」
「そう?今朝の射撃でも六発全部真ん中に当ててたけど?」
「うう・・・。そう言えばセーラはどうなの?かなりの腕前だと聞いたけど?」
「私の出場した種目の的までの距離は二五メートルだから、正直この距離は撃ったことないわね」
そう言ってセーラは肩をすくめた。
「けどまあこの距離の的も中々面白そうね。それでは一つやってみようかな」
そう言うとセーラは顔と右肩を一つ隣の的の方へ向けた。そして腰から拳銃を抜くと、右腕を真っ直ぐに的に向かって伸ばした。その姿勢の美しさに、ヒデカツはしばし見とれた。
そして彼女は的に向かって一発発射した。弾丸は真っ直ぐに的の方へ向かって飛んで行った。
「どう?」
セーラはそうオリヴァに尋ねた。
「ん~・・・。ああ、当たってますね。え~と、八点?」
「残念、一〇点じゃないんだ」
セーラは苦笑すると、銃に弾丸を込め直して腰にしまった。
「まあ私でもこんな感じだから、あなたには才能があるってことよ。これからもさらに精進することを期待してるわよ」
そう言ってセーラは、ヒデカツへにっこりと微笑んだ。
「う~ん・・・」
ヒデカツがそれに対して何と答えていいか迷っていると―、
「あ、いたいた」
向こうから若い男女の兵士が四人やってきた。普段から一緒に活動している<イフリート>の乗員たちである。
「先任、今度の射撃大会に出場されるんですってね?」
「私たち、全力で応援します!」
「みんな、あなたの活躍を望んでいます!」
「先任なら優勝間違いなしですね!」
口々に彼らはそう言った。その目はキラキラと輝いており、ヒデカツに対する期待の大きさがうかがえた。
「う、うん。頑張るよ」
乗員たちに気圧されながらヒデカツはそう答えた。そしてこれは想像以上に責任重大だぞ、と思った。




