第四話 疑問
およそ三〇分後―。
彼女に手を引かれてヒデカツがやってきたのは、とある建物の三階の部屋だった。
「ここは?」
「私の部屋。ひとまず安全よ」
そう言って彼女は、彼を部屋の中に招き入れた。
女性の部屋に入るのは生まれて初めてだったので、ヒデカツは内心ドキドキした。
だがすぐに、今はそんな事を考えている場合じゃないと思い直した。
「あ、あの」
彼は彼女に向って話しかけた。彼女は怪訝そうにこちらを見た。
「その・・・助けてくれてありがとう」
「別に。ただ街中を歩いてたら、たまたま見知った顔のあなたがガラの悪い連中に追いかけられてたから。ただそれだけのことよ」
本当はあの日以来ずっと彼のことが気になっていたのだが、それは表に出さずに彼女は言った。
最もそれはヒデカツも同じだった。本当はかなり落ち着かない気持ちだったのだが、彼はそれを何とか必死に押し殺しながら彼女にこう尋ねた。
「それで・・・さっきの奴らは一体何だったの?見た感じただの不良じゃなさそうだったけど」
「私もはっきりしたことは分からないわ。ただ今の世の中は、平和を快く思わず戦乱を望む過激派があちこちに存在してるからね。その中の一つだったとしてもおかしくないわ」
「な、なるほど」
ヒデカツは状況を理解したといった感じで頷いた。
「それよりもどうしてそんな格好で歩いてたの?それじゃあ私は軍人ですと宣伝しているようなもんじゃないの」
彼女はそう言って彼の制服に目をやった。
すると彼はばつの悪そうな顔をして、こう言った。
「他に服を持っていなくて」
「服を持っていない?どういうこと?」
彼女にそう聞かれて、ヒデカツは少し黙り込んだ。そして意を決して口を開いた。
「僕、祖国から逃げ出してきたんだ」
「そう、あなたも今まで苦労してきたのね」
彼の話を聞き終えて、彼女はそうつぶやいた。
と同時に、彼女は今まで自分が抱えてきた疑問がこれで氷解したと思った。
(そうか、あの時の寂しげな表情はこれのせいだったのか・・・)
「ねえ、今度は僕の方から聞いていい?」
そうヒデカツが言うと、彼女は頷いた。
「君、軍人だよね?あと、地元の人じゃないよね?」
そう彼が言うと、彼女は少し目を見開いた。
(へえ、一見大人しそうに見えて結構鋭いのね)
彼女はそう思うと、一度かぶりを振った。そして静かにこう言った。
「そうよ、私は海軍の元軍人よ。それも首都出身のね」
やはり、とヒデカツは心の中で納得した。
それから彼女は、淡々と自分の過去を語り出した。