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洋上の戦士たち  作者: ただかた
第四章 逢瀬
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第七話 散策

「わあ・・・」


 周りの景色を眺めながら、ヒデカツは思わず声を出した。

 彼は今、セーラと並んで街の中を歩いていた。道端には様々な店が立ち並び、通りは多くの人たちが行き交っている。


「どうしたの?何か面白いものでもあった?」


 セーラがヒデカツの顔を覗き込むようにして言った。


「いや、そういうわけじゃないけど。ただ僕はこの国に来て初めて首都を本格的に歩いているけど、見るもの感じるもの全てが新鮮で、何だか不思議な気持ちなんだ」

「そうなんだ。私も街中はあまり出歩いたことはないけど、こうしてヒデカツと一緒に歩いていると、今まで感じたことのない気分になるわ」

「どうやら僕たちは、これまでこういう体験が足りなかったみたいだね」

「そうね。これから二人でそういう機会をもっと作っていきましょう」


 そう言ってセーラは、にっこりと笑った。


「これからどこへ行こうか?」

「ヒデカツはどうするか決めてないの?」

「う~ん、実はそうなんだよ。一応オリヴァからもらった資料は頭の中に入れておいたんだけど、正直どこへ行けばいいか分からないんだよね」

「それなら私に任せてくれない?一度行ってみたかった場所があるの」


 セーラはそう言うと、ヒデカツの手を引いて歩き出した。




 およそ三〇分後―。


「ここよ」


 そうセーラは言うと、目の前の古代の神殿のような建物を指し示した。


「ここは?」

「ここはアクアフィールドの中で最も大きな国立美術館よ。この国のあらゆる芸術・文化活動の中心と言っても過言ではないわね」

「何というか・・・風格があるね」

「そうでしょう。ここは国内外からあらゆる美術品が集まってきているからね、周辺地域にも広くその名を知られているのよ。この辺りの歴史や文化を知るにはうってつけの場所なの」

「大丈夫かな?何だか敷居が高そうだけど」

「大丈夫よ。国民はみんな普通に利用してるから。それに・・・」

「それに?」

「私もここに来るのは初めてだから。今日は楽しみましょう」


 そう言ってセーラは笑みを浮かべた。

 それを見るとヒデカツも何だか嬉しくなって、思わず笑みを返した。

 二人は連れ立って、美術館の中に入っていった。




 およそ一時間後―。


「どうだった?」


 美術館の外に出てすぐにセーラはそう尋ねた。


「うん、凄かった。何というか・・・圧倒されたね」


 そうヒデカツは答えた。

 あれから二人で、美術館の展示品を色々と見て回った。それらはどれも美しく、この地域の文化水準の高さを示していた。またその収蔵品の数も膨大で、この美術館がいかに美術品の収集に力を入れているのかを見て取ることができた。


「だけど一部の収蔵品は、館内にはなかったみたいだね」


 ヒデカツはポツリとそう言った。


「そうね。戦争が激しくなって、首都も度々空襲を受けるようになったからね。その時多くの収蔵品が、空爆を避けるために地方の別の場所に疎開したの。戦争が終わって、ほとんどのものは戻ってきたけど、まだ一部は地方に留め置かれたままになっているの」

「そっかあ。戦争が終わって今は平和になったけど、まだ戦争の爪痕はここにも残ってるんだな・・・」


 そうヒデカツは言うと、表情を曇らせた。


「でも!」


 と、セーラが明るい口調で言った。


「これから時間が経てば、残りの収蔵品も全部戻ってくるわ。そうすればもっと色々なものを目にすることができるわ。その時にまた二人で来ましょう」


 そう言ってセーラは、ヒデカツを真っ直ぐな目で見つめた。

 ヒデカツはそれを正面から受け止めた。そしてフッと笑みをこぼした。


「分かった、そうしよう」


 そして二人は腕を組むと、敷地の外に向かって歩き始めた。




 それから二人は近くのレストランに入り、昼食を食べた。ヒデカツはあまりそのような場所に慣れていなかったが、セーラが高級過ぎずそれでいて上品な店を選んでくれたおかげで居心地は悪くなかった。その店で出された料理は、どれも美味しかった。

 食事が終わると二人は、首都の人々が集まるという大きな公園を訪れた。そこには大きな広場があり、寒い季節にもかかわらず多くの人たちが腰掛けてお喋りをしたり、周囲に設けられた道を走ったりと、思い思いの時間を過ごしていた。二人はそれを見て、今が平和であることを実感した。




 やがてヒデカツとセーラは、首都を流れる大きな川に架かる、巨大な橋の上にたたずんでいた。ここは首都に架かる橋の中でも特に交通量が多く、今も人々や車が途切れることなく行き交っていた。

 その橋の欄干のたもとに立って、ヒデカツはずっと川面を見つめていた。その表情は、どこか憂いを帯びていた。


「どうしたの?気分でも悪いの?」


 そうセーラが心配そうに尋ねた。


「いや、大丈夫。心配かけてごめん。ただ僕は今日一日街中を少し回っただけだけど、一見平和でもまだ戦争の傷跡はいろんな所に残ってるんだな、って」


 実際ここまでたどり着くまでに、ヒデカツは様々なものを目にしてきた。その時空爆で焼け落ちた建物の跡などが街の中に所々あるのを見つけた。


「そうね。でも首都はまだいい方で、地方ではもっと被害の大きな町がたくさんあるわ。その中には多くの犠牲者を出した場所もあるわ」

「そうなんだ。それを聞いたら今僕たちが享受している平和は、多くの人たちの犠牲の上に成り立ってるんだなって、つくづくそう思うよ」


 そう言ってヒデカツは沈んだ表情になった。


「ヒデカツ」


 セーラは静かに言った。


「確かに先の戦争で私たちは傷ついたし、多くの犠牲を出した。その事は、いつまでも消えるものではないわ。だけど私たちは今こうして生きていて、平和な世の中を作る機会を得た。それを大切にすることが、犠牲になった人たちへの私たちの義務なんじゃないかな?」

「セーラ」

「それに今はデート中よ。あなたの責任感の強さは知ってるけど、今はその事は一旦忘れてこの時間を楽しみましょう。そして、これからも二人で支え合って生きていきましょう」


 セーラはそう言って、穏やかな表情でヒデカツの顔を見た。

 それを見てヒデカツも、心が穏やかになっていくのを感じた。


「分かった、ごめん」


 そう言ってヒデカツは笑った。そして晴れやかな表情で再び川面を見つめた。

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