第六話 邂逅
百貨店を出てしばらく行った所にある通りを、ヒデカツとセーラは連れ立って歩いていた。ヒデカツは慣れない私服に戸惑いつつも、こちらに来てから初めての街歩きに目を輝かせていた。セーラの方も、初めての私服姿の彼との外出に胸をときめかせ、高揚感に満ちていた。二人の姿はとても楽しそうに見え、これ以上ないくらい幸せそうだった。
そんな二人を少し離れた場所から追いかける一組の男女がいた。
「先任と艦長、二人並んで歩いてますね」
二人の上司の様子を見つめながら、オリヴァは言った。
「うん。あのお二人、とても仲が良さそうね」
オリヴァの言葉に続ける形で、エリーが言った。
「そうですね、今までも仲むつまじいことは知っていました。だけどこうして改めて見てみると、お二人は本当に愛し合ってるんだなとつくづく感じますね」
「そうね。お二人にはそういう関係を、いつまでも続けてほしいわね」
エリーはぽつりとそうつぶやいた。
「だから僕たちは、その幸せな時間を守るためにここにいるんですよ」
「そ、そうね。お二人には今日一日、最後まで楽しんでもらわないとね」
オリヴァとエリーがそんなやり取りをしていると、丁度ヒデカツとセーラが通りの角を曲がるところだった。
二人は周囲の様子をさっと見回した。そして後を追うために小走りに駆け出した。
丁度その時、曲がり角の向こうから一組の男女がやって来た。
その女性の方の姿を見て、エリーは思わず声を上げた。
「レイニー!」
それはエリーのかつての同期で友人、そして戦争中に彼女が傷つけてしまった相手でもある、レイニー=クラウド海軍二等兵だった。
「エリーちゃん・・・」
レイニーの方も彼女の姿を認めて声を出した。その顔は少しひきつっていた。
「次席将校」
すぐに事情を察したオリヴァが、そっとエリーの背中を押した。
「う、うん」
エリーは緊張した面持ちでうなずいた。そして静かにレイニーに近づいた。
そして彼女は、そっとレイニーを抱きしめた。
「ごめん、あの時は言い過ぎた。あの事件は別に、あなただけの責任じゃない」
「エリーちゃん」
レイニーはそうつぶやいた。そしてそっとエリーの背中に手を回した。その目元は、微かに濡れていた。
「ううん・・・私・・・これからもっと頑張るから」
そして二人は、通りの中央で抱き合った。
その様子を見て、オリヴァはフッと微笑んだ。そして抱き合う二人の脇に、少し緊張した面持ちで立っている少年に向かって声をかけた。
「レオン=サンダー一等兵だね。初めまして、僕はオリヴァ=バラック一等兵曹。君も見ての通り、ネルソン少尉とクラウド二等兵はたった今和解された。同期として、そして友人としてそのことを確認してくれないかい?」
「りょ、了解しました」
レオンはそう言って敬礼した。
(やれやれ。これで次席将校も少しは肩の荷が下りるんじゃないのかな)
そうオリヴァが思って一息ついた時―。
「ひゃああああ!?どうしたのエリーちゃん、大丈夫?」
突然レイニーの叫び声が聞こえた。
オリヴァが振り向くと、そこにはレイニーに抱きついたまま号泣するエリーの姿があった。
(あ、やば)
オリヴァは咄嗟にそう思った。そしてレオンを促すと、二人を通りの脇に移動させ始めた。
およそ三〇分後―。
「どうですか?少しは落ち着きましたか?」
「うん・・・すまない」
オリヴァの問いかけに、エリーはそう答えた。その目は赤くなっている。
彼女は今、通りに面した場所にある店の前のオープンカフェの座席に腰を下ろしていた。寒い季節なので利用している客は少ないが、それでも席は用意してあったので、オリヴァはエリーを座らせることができた。
「あの二人は?」
「解放してあげましたよ。せっかくの休みを、このようなことで使わせるわけにはいきませんからね」
「そう」
エリーはそう言って、申し訳なさそうに俯いた。
「しかしさっきは驚きましたね。いつも冷静な次席将校が、あんなに感情をあらわにすることがあるなんて」
「う・・・すまない」
「いえいえ。むしろ次席将校の新しい一面が見られて、僕は嬉しかったですよ。思うにあなたは、普段から自分の感情を色々抑え込んでいるような気がします。だからこれからは、もっと自分の気持ちを表に出してほしいと思っています。僕はただそれを全力で受け止めるだけです」
「一体何を」
馬鹿なことを、と言おうとしてエリーは口をつぐんだ。
「しかし参ったな、今ので完全にお二人を見失いましたね」
「ううっ、本当にすまない」
「いえ、別に。それにお二人の行先は、大体分かりますから」
「どういうこと?」
「先任には、事前に首都の名所や施設を調べた資料を渡しました。それは先任に頼まれて、僕が作成したものです。だから僕には、お二人が次どこへ行くのか大方の予想がつくんですよ」
「まさかそうなるように仕組んだんじゃないわよね?」
「まさか。僕はただ判断材料を提供だけです。それからどこを選択するのかはお二人の自由です。もっともその中には中心部から比較的遠い場所もあるので、今日一日では回り切れないでしょうね。これからもその資料を活用してもらえればと思っています。それでは―」
そう言ってオリヴァは、エリーの方へさりげなく手を差し出した。
「そろそろ参りましょうか」
「・・・馬鹿」
顔をそらしながらエリーは言った。そしてオリヴァの手をそっと掴んだ。
同じ頃―。
「お、いたいた」
遠くの店の前にいる二人の姿を見つけて、キューベルは言った。
「ネルソン少尉とバラック一等兵曹ですか。なるほどあの二人なら、ワタベ中尉とオルメス大尉の近くにいても不思議ではありませんね」
そうローラがつぶやいた。
「ていうか隊長、あの二人の存在に気づいてたんですか?」
「てっきり知らないものだとばかり・・・」
そうアコーとモニカが口々に言った。
「俺を誰だと思ってるんだ。服売り場にいた時から、あの二人には気づいてたぞ。でなければ小隊長なんて務まらんよ」
「そうでした」
「おみそれしました」
二人の下士官はそう言って恐縮した。
「だけどあの二人何かあったんですかね?私には何だかいい雰囲気に見えるのですが・・・」
ローラがそう言って首を傾げた。
キューベルは遠くの二人の様子を見てフッと笑った。そして一言、
「さあな」
そう口にした。




