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洋上の戦士たち  作者: ただかた
第四章 逢瀬
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第五話 買物・その二

「全く。ローラのヤツ、一体何を考えているのやら」


 婦人服売り場の真ん中で、キューベルはそうひとりごちた。

 先程まで彼は、ローラにどんな服が似合うか散々聞かれていた。彼にとってそのようなことは、正直よく分からなかったしどうでもいいことだった。しかしそんな態度をとれば彼女の機嫌を損なうことになりかねないので、とりあえず適当な服を数着見繕った。ローラは今それらを持って試着室の中に入っている。


(さてと、あいつがそうしている間にこちらは本来の目的を果たすとするか)


 そう思ってキューベルが紳士服売り場の方へ足を向けようとした時―。


「おや隊長」

「こんな所に来ていたのですか」


 彼の部下であるアコーとモニカが目の前に現れた。


「お、おう。お前たちも来ていたのか」

「ええ。僕たちは休日の買い物に」

「まさかこんな場所で出会うなんて奇遇ですね」


 そう言って二人は笑顔を見せた。心なしか少しひきつっているように見える。


「お前たち、俺に何か隠してないか?」


 キューベルはいぶかしげな顔をして言った。


「え?まさかぁ」

「そんなことないですよぉ」


 そう言って二人はわざとらしく笑った。


「ふ~ん、まあいいけどな。それはそうと、俺はヒデカツとオルメスの様子を見に・・・」

「隊長ーっ、この服どうですか?私に似合います?」


 突然キューベルの後からローラの大声がした。


「さささ、隊長。参謀長がお呼びですよ」

「こういう時はきちんと意見を言ってあげないとだめですよ」


 モニカはそう言うとキューベルの身体を反転させ、背中をグイグイと押し始めた。


「あ、おいこら。お前らやっぱり、俺に何か隠してるだろ~!」

「そんなことはございません。さ、急ぎましょう」


 そう言ってモニカは、キューベルの背中をどんどん押していく。

 その様子を見ながらアコーは、後に向かって親指を立てた。




 同じ頃―。


「ど、どうかな?」

「うわ~」


 試着室から出てきたヒデカツの姿を見て、セーラは思わず声を上げた。

 彼は今、白いシャツの上に茶色の上着をはおり、黒いズボンに茶色い動きやすそうな靴を身につけていた。


「いいね、すごくよく似合ってるわ。ヒデカツの私服姿は初めて見るから、何か新鮮ね」

「セーラの服の選び方がいいからだよ」

「まあそれもあるけど、やっぱり着ている人間がいいからだと私は思うわよ」

「そ、そうかな?大丈夫?変じゃないかな?」

「大丈夫大丈夫、ヒデカツはもっと自分に自信を持ちなさい。よし決めた、今日のデートはこの格好でいくわよ」


 それから二人は普段使いの衣服を何着か購入した。そして店に頼んで兵舎に配達してもらうように手配した。軍服もその時一緒に送ってもらうことになった。




 また同じ頃―。


「おお~。先任、遂に私服を手に入れましたか」

「今まで軍服姿しか見たことなかったから、何か不思議な感じがするわね」


 二人の上司の様子を見ながら、オリヴァとエリーはそう言った。


「これで先任もようやく、この国の住人になったような気がしますね」

「そうね。これまではあの軍服がこの国との距離を感じさせてた気がするからね。これで少しは気分が変わればいいけどね」


 そう言うとエリーは、ちらりと視線を別の方向へやった。


「それにしてもグラント准尉とランダー曹長、あの二人ちゃんと上手くやってくれてるの?」

「まあ二人とも優秀ですし、何とかしてくれるんじゃないですか?」

「そう?優秀なのは認めるけど、私には何だか動きが少しぎこちなく見えたんだけど?」

「まあまあ。あ、お二人が店を出ますよ」


 そう言われてエリーが視線を元に戻すと、丁度二人が売り場を後にする所だった。


「これからどうするの?」

「もちろんついていきますよ。僕たちにはお二人のデートを最後まで見届ける義務がありますからね。そしてお二人に今日一日快適に過ごしてもらうためにも、僕たちはやり遂げなければなりませんからね」

「そうね」


 エリーはそう言った。その声は少し寂しそうだった。

 やがて二人は周囲の状況を確認した。そして二人の上司を追ってその場を後にした。




「あ~くそ、見失った」


 三〇分ほどたった後、キューベルはそう声を出した。

 彼はさっきまで、ローラの試着した服の感想を言わされていた。その度に彼女は、喜んだり不満そうな顔をしたりした。そのようなやり取りを何度か繰り返した後、今ようやく解放されたところである。


「いやあ、すいません。僕たちとしたことがつい・・・」

「少し悪ノリし過ぎましたかね」


 そう言ってアコーとモニカは笑いながら頭をかいた。その顔は、やはり少しひきつっている。

 ちなみにローラはキューベルの後で、どこか満ち足りたような表情をしていた。


「やっぱりお前たち、俺に何か隠してただろ?」


 キューベルはそう言うと、二人の部下を睨みつけた。


「ナハハ、申し訳ありません」

「少しバラック一等兵曹に頼まれましてね」

「全く。まあいいけどな」

「これからどうしますか?」

「もちろん追跡は続けるぞ。なに、見失ったのならまた別の方法を考えればいいだけの話だからな」

「別の方法?」


 そう言ってアコーは首を傾げた。


「しかしそうは言っても、これからどうするつもりなんですか?」

「そうですよ。大体お二人の居場所も分からないのに」


 アコーとモニカは、口々にそう言った。


「何を言ってるんだ、お前たち。何も直接あの二人を追いかける必要はないだろ?」

「「はあ!?」」


 二人の下士官は、そう言って顔を見合わせた。

 その様子を見て、キューベルはフフンと鼻を鳴らした。そしてニッと笑顔を見せた。

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