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洋上の戦士たち  作者: ただかた
第四章 逢瀬
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第四話 買物

「わあ・・・」


 目の前にある建物を見上げながら、ヒデカツは思わず声を上げた。

 彼は今セーラと共に、首都で一番大きな百貨店の前に立っている。その高さは周りにあるどんな建物よりも大きく、圧倒的な存在感を放っていた。


「どうしたの?百貨店がそんなに珍しいの?」


 隣にいるセーラが、少しおかしそうに言った。


「いや、僕も百貨店くらい知ってるよ。でもこんなに大きいのを見るのは初めてだったから、つい・・・」

「そうなんだ。ここは国内でも最も大きな百貨店だから、色々なお店が入っていてとても面白いわよ」

「何だか緊張してきたな」

「大丈夫、私に任せて」


 それから二人は手を繋いだまま、建物の中に入っていった。




「う~む・・・」


 目の前にある物を見て、ヒデカツは一つ声を出した。

 ここは百貨店の三階にある紳士服売り場。そこには様々な色やデザインの洋服が、所狭しと並べられていた。


「何だか高そうな服がたくさん並んでるんだけど・・・」

「え~、これでも結構普通よ」

「そうなの?」

「そうよ。そういえば、ヒデカツは祖国ではどんな服を着ていたの?」

「う~ん・・・」


 セーラに聞かれて、ヒデカツは少し考え込んだ。


「何ていうか、動きやすい格好かな。生地はそんなに上等じゃなく、機能性を優先したもの」

「機能性ね。ま、確かにそれも悪くないわね」


 そう言ってセーラは、ヒデカツに向かい合った。


「だけど今、あなたは縁あってこの国にやって来た。そして思いっきりお洒落する機会を得た。せっかくなんだから、それは最大限活用しないと」

「セーラ・・・」

「大丈夫。私も正直こういう場にはあまり来たことないけど、それでもあなたよりは慣れてると思うわ。だから今日は、私を信用して」


 セーラの言葉を聞いて、ヒデカツは少し胸が熱くなるのを感じた。


「じゃあ、お願いしようかな」


 彼がそう言うと、セーラはにっこりとして頷いた。そして近くの店員に声をかけた。




 同じ頃―。


「おお、二人はまず紳士服売り場に来たか」


 友人たちの様子を少し離れた場所から見ながら、キューベルはそうつぶやいた。


「そういえばあいつ、私服持ってないとか言ってたな。全く、今頃になって買いにくるとは・・・って、うおっ!?」


 急に腕を引っ張られて、キューベルは婦人服売り場の中に連れ込まれた。


「隊長、駄目ですよ~。そんな露骨にジロジロ見たんじゃ、お二人に気づかれてしまいます」


 彼の腕を掴みながらローラが言った。心なしか嬉しそうである。


「そうかな?」

「そうですよ。それより私たちもデートを装ってここに来たんですから、ちゃんとそのように見せないといけませんよ」

「お?おお」

「というわけで、隊長には私の服を選んでもらいます。どうですか、こんなの?私に似合います?」


 そう言ってローラは近くにあった服を取ってキューベルに押し付けてきた。

 彼としてはすぐにでも二人の観察に戻りたかったのだが、ローラがあまりにグイグイ押してくるので、それに従うしかなかった。




 同じ頃、別の方向―。


「先任と艦長は紳士服売り場に来ましたか。まあ先任のことを考えれば、妥当なところですかね」


 二人の上司の様子を見つめながら、オリヴァはそう言った。


「どうして先任のことを考えるとそうなるの?」


 彼の言葉を聞いて、エリーが尋ねた。


「ああ、次席将校は知りませんでしたね。先任はこちらに逃れてくる際、ほぼその身一つでやって来たんです。その時着ていた服は傷みが激しかったので処分してしまい、今は休日でも軍服を着ています。だから先任は、今私服を一枚も持っていないんですよ」


 オリヴァの言葉に、エリーは驚いた表情を見せた。そしてそっと、上司の一方に視線を向けた。


「どうしました?」

「いや、こちらに逃げてきたことは聞いてたけど、想像以上に苦労してるんだなと思って」

「そうですね。今でも苦しみが完全に消えたわけではないのでしょう。それでも先任は、懸命に今を生きているのですよ」

「そうね。私たちもそのことを胸に刻みながら、これからもしっかりと支えていかないとね」

「全くです。ところで次席将校」

「何?」

「そろそろ離してくれませんか?」


 自分の服の裾を掴んだ手を見ながら、オリヴァは言った。


「全く、しょうがないわね」


 エリーはそう言うと、渋々といった感じで手を離した。


「どうも。ところでお二人の後を、もれなくアース中尉とハワード少尉がついてきてるんですが?」

「やれやれ、どうしようもない二人ね。今のところ、中尉は少尉に気を取られてるみたいだけど・・・。これから一体どうするの?」

「そうですね。とりあえず別に後をつけているあの二人に協力を頼みましょうかね」


 そう言ってオリヴァは、ある方向を顎で指し示した。




 同じ頃、また別の方向―。


「ワタベ中尉とオルメス大尉は、紳士服売り場へ来たか」

「まあ、初デートの場所としては、妥当な線じゃないの?」


 同じ職場の上官たちの様子を眺めながら、アコーとモニカはそう語り合った。


「で、向かいの婦人服売り場には隊長と参謀長がいる、と」

「あ~あ、参謀長、あんなにグイグイ行っちゃって。あまりしつこいと、人に好かれませんよ」

「隊長も完全に困惑してるね。あれは絶対女性の気持ちを分かってないね」

「こりゃあの二人の関係は、まだ当分時間がかかりそうね」


 そんなやり取りを二人がしていると、


「グラント准尉、ランダー曹長」


 不意に後から声をかけられた。

 二人が振り返ると、そこにオリヴァとエリーが立っていた。


「これは、バラック一等兵曹」

「ネルソン少尉もご一緒で」

「はい。お二人もご存じの通り、現在ワタベ先任将校とオルメス艦長はデートの最中です。そしてそれを妨害しかねないアース中尉とハワード少尉の二人が後をつけています。先任と艦長に楽しい時間を送ってもらい、なおかつ中尉と少尉を何とか遠ざけたい気持ちはお二人も同じだと思います。ここは一つ、互いに協力しませんか?」


 そうオリヴァは丁寧に言った。

 アコーとモニカは顔を見合わせた。そして二ッと笑うと、二人同時にオリヴァの方を向いて言った。


「「喜んで!!」」

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