第二話 思惑、再び
「お~い、お前たち!」
少し離れた場所にいる自分の部隊に駆け寄りながら、キューベル=アース陸軍中尉は声をかけた。
「隊長、どこ行ってたんですか?まだ仕事はたくさん残ってますよ」
参謀長のローラ=ハワード陸軍少尉が、少し責めるような口調で言った。
ここは戦車揚陸艦<イフリート>の甲板の上。キューベルたちの部隊である戦車小隊<ウルフロード>は、先程まで海軍と合同で戦車の積載訓練を行っていた。今はそれが終わって撤収作業をしているところである。
「すまんすまん。少し艦内に用があってな、ちょっとだけ現場を離れさせてもらったよ。それよりお前たち、面白い話があるぞ」
「面白い話?」
「どうせまたしょうもない話でしょ?」
先任参謀のアコー=グラント准尉が言った。
「隊長が面白いと言う時は、大体ろくな話がありませんからね。そろそろ学習した方がいいんじゃないですか?」
「う、うるさいな」
経理参謀のモニカ=ランダー曹長に言われて、キューベルは少し口を尖らせた。
「で、面白い話って何ですか?」
そうローラが聞き返した。
「おお、そうだ。さっき小耳に挟んだのだが、今度の日曜にヒデカツがオルメスとデートをするらしいぞ」
「はあ」
「へえ」
「ふ~ん」
「何だお前たち、反応薄いな?」
「そりゃお付き合いされているんですから、そういうこともあるでしょう」
「別に取り立てて騒ぐようなことでもないでしょうに」
「むしろ今までそういう話がなかったことの方が不思議だったくらいです」
部下たちは口々にそう言った。
「で、それのどこが面白いんですか?」
再びローラが聞き返した。
「分からないかな、お前たち。あの人付き合いが、特に女性と話すのが苦手そうなヒデカツがデートをするんだぞ。これを面白いと言わずして何と言おう」
「馬鹿にしてるんですか?」
「違う、喜んでるんだよ。いやあ、あいつもようやくここまで来たのか、友としてこんなに嬉しいことはないぞ」
「まあ、隊長が友人思いであることは分かりますけど・・・」
「というわけで今度の日曜日、俺たちもあいつらの後についていくぞ!」
「またまたあ・・・」
ローラが少し呆れた口調で言った。
「そんなことして何になるんですか?お二人の邪魔になるだけですよ」
「いや別に邪魔をしようってわけじゃない。ただ二人の様子を遠くから見守るだけさ。それにお前たちも二人のことを観察すれば、後々役に立つかもしれないぞ」
「役に立つって、そんなことあるわけないでしょ」
そう言ってアコーは苦笑した。
「そうですよ。大体相手もいないのに、ねえ・・・ってあれ?」
横を向いたモニカは怪訝な顔をした。そこには俯いて何かをつぶやくローラの姿があった。
「後々・・・役に立つかも・・・」
「あ、あの~、参謀長?」
モニカは恐る恐る声をかけた。
突然ローラは顔をガバッとあげた。そして勢いよくこう口にした。
「わ、分かりました!今度の日曜日私もお供します!」
「おおそうか、そうしてくれるか!」
キューベルは嬉しそうにそう言うと、ローラの手を取ってブンブンと縦に振った。
(グフフフフ。成り行きとはいえ、隊長とお出かけすることになったわ。よし、日曜日、私は隊長と仲良くなる。そして今度こそ、隊長のハートを射止めてやるんだ~~~!)
そんなことを考えながら、ローラは目の前で満面の笑みを見せているキューベルの顔を見つめた。
二人の様子を眺めながら、モニカはアコーに話しかけた。
「ねえ、どうしちゃったの参謀長?」
「ん?またいつもの悪い癖が出たんじゃないのか」
「だよねえ。全く、あれさえなければ優秀な軍人だっていうのにね」
「何だか僕は参謀長の方が心配になってきたな」
「だよね。あの二人が何か騒動を起こして、せっかくのワタベ中尉とオルメス大尉のデートが台無しになったら大変だものね」
「お二人には、何としてでも楽しんでいただかないといけないね」
「そうね。よし、今度の日曜日私たちも出かけるわよ。そしてあの二人が迷惑をかけないか、しっかり見張っておかないとね」
そうモニカは決意した。そして改めて、微妙に思惑の異なる二人が笑顔で手を取り合っている姿を眺めた。
その様子を、少し離れた所から見ている人物がいた。
「バラック一等兵曹」
<イフリート>内の食堂で一人お茶を飲んでいたオリヴァに向かって、エリー=ネルソン海軍少尉は声をかけた。
「はい、何ですか次席将校?」
「いや、さっき<ウルフロード>の面々が騒いでるのを聞いたんだけど、今度の日曜日、艦長と先任がデートするんですって?」
「おや、もうそんなところまで話が行ってましたか、参ったな」
そう言ってオリヴァは苦笑した。
「それで今度全員でついていくみたいなこと言ってたけど」
「ああ、そう来ましたか、全く・・・。別に彼らのことですから邪魔をするようなことはないと思います。だけど、何らかのトラブルがないとも限りませんからね。まあ後のことは僕が何とかしますから、次席将校は何も心配しなくていいですよ」
それじゃあと言ってオリヴァは立ち上がった。そしてその場を去ろうとして、
「お?」
不意に腕を引っ張られた。見るとエリーが彼の袖を掴んで立っている。
「待ちなさい、バラック一等兵曹」
彼女は静かにそう言った。
「今度の日曜日、私も同行させなさい」
「え?でも次席将校、関係ないのでは?」
「そ、そんなことないわよ。仮にも私の上司なわけだし、私にはお二人を見守る義務があるわ。それに・・・」
「それに?」
「う、うるさい!とにかく今度の日曜、私も一緒に連れていきなさい!上官命令よ!」
「はあ、まあ、いいですけど・・・」
そう答えながらオリヴァは首を傾げた。
ひとしきり話し終えると、彼の目を避けるようにエリーは俯いた。その顔は赤く染まっていた。




