第八話 その後
翌日―。
その日の川面は、太陽の光を反射してキラキラと輝いていた。
時刻は昼を少し過ぎた頃。今日も河川敷には多くの人が集まっていて、それぞれ思い思いの時間を過ごしていた。
その中を一緒に並んで歩く一組の男女の姿があった。一人は短い金髪が特徴の少年で、もう一人はツインテールの黒髪が特徴の少女。年齢は、共に一〇代の後半くらい。
そして二人の手は、お互いの信頼関係を表すように、しっかりと繋がれていた。
「いい天気だね」
と、レオンは言った。
「うん、ちょっと寒いけどね」
と、レイニーは答えた。その声は少し弾んでいるように聞こえた。
「しかしまさかレオンがあんな熱い気持ちを語るなんてね。私、少しびっくりしちゃった」
「ちょ、やめてよ。今思い出しても恥ずかしいんだから。何であんなこと言っちゃったんだろう」
そう言うとレオンは、少し顔を赤らめて俯いた。
「でも私、レオンにああ言ってもらえて嬉しかったよ」
レイニーはそう言うと、フフッと口元をほころばせた。
「私、これまで自分は価値のないものだと思ってた。あんな事件を引き起こしてしまって、周りに大変な迷惑をかけた。もう自分はこの世にいてはいけない、そう考えたこともあったわ」
そこまで言うとレイニーは、一度言葉を区切った。
「そんな時、あなたの声が聞こえてきた。その時思ったの、私を気にかけてくれる人はこの世界にいるんだ、私はまだ生きててもいいんだってね。だから私、レオンには本当に感謝してるんだよ。それでその・・・ありがとう」
最後は少し照れたように、レイニーは言った。
「それでね、私決めたよ!」
彼女はそう言うと、足を止めた。レオンも一緒に足を止める。
「決めたって、何を?」
「私、もう一度海軍に戻ることにする!そしてレオンと同じ一等兵を目指す!そうすれば、私はあなたを側で見守ることができるからね」
「レイニー・・・!」
レオンは思わず声を出した。それはどこか嬉しそうに聞こえた。
「その・・・僕も今まで君がいなくなって張り合いがなかったんだ。君のいない人生なんて考えられなかったし、もう自分のことなんてどうでもいいやと、そんなことを思ったりもした。だけど今君の言葉を聞いて、僕にも新しい目標ができたよ。よし、じゃあ僕は上等兵を目指す!そしてもっと出世して、最終的にはレイニーに命令する立場になってやるんだ!」
「負けないんだから!」
「お互いにね!」
そう言うと二人は、顔を見合わせてフフッと笑った。そして一緒に川の方に目を向けた。
そんな二人を、川岸のベンチから見つめる一組の影があった。
「いいなあ、若いって」
河川敷に立つ二人の様子を見ながら、ヒデカツはポツリとつぶやいた。
「突然どうしたの、ヒデカツ?私たちだって充分若いじゃない」
隣に座っていたセーラが、少し呆れたような口調で言った。
「うん、まあ、そうなんだけど。だけど一〇代の頃の、あのはつらつとした雰囲気は、今の僕たちにはないものだからさ」
「まあ、それは確かに・・・」
そう言ってセーラは、二人の方を見た。
「目標に向かってひたすら突き進むのは、ある意味一〇代の特権よね。そこで彼らは様々な困難に直面し、時には傷つき、くじけそうになる。その度に自分の力や周りの人の助けを借りながら克服し、成長していく。あの二人は、今まさにそのただ中にいるのね」
「そうだね。これから二人がどんな体験をして、どんな人生を送っていくのか。今はただ、二人の幸運を祈るだけだよ」
そう言ってヒデカツは、フッと微笑んだ。
「エリーにはもう結果を報せたの?」
「うん。彼女はただ一言『そうですか』と言っただけだったけど、どこかホッとしているように見えたよ」
「そう、ならよかった」
「その・・・ネルソン次席将校とクラウド元二等兵は、この後仲直りできるのかな?」
「まあ、今すぐには無理だろうけれど、そのうち顔を合わせて笑い合える日が来ると思うわよ。エリーがあれだけ気にかけていたんだから、必ず上手くいくわ」
「そうだね、そう信じよう」
ヒデカツはそう言うと、一つ溜め息を吐いた。
「結局今回、僕は何もできなかったな。クラウド元二等兵の心を開いたのもサンダー一等兵だったし。僕は彼女に寄り添うことすらできなかった」
「いや、それは違うわ」
そうセーラは言うと、ヒデカツの方を向いた。
「確かに最後にレイニーを救ったのはサンダー一等兵だったけれど、それはあなたがその前に力を尽くしたからよ。あなたの働きかけがあったからこそ、サンダー一等兵はレイニーを助けようと思ったし、彼女も心を開く気になった。だから今回は、あなたの役割も大きかったのよ」
「そうかな?」
「これまでも感じていたけれど、あなたには人を惹きつける力がある。今回も、それがあの二人の人生を変えたのよ」
「う~ん・・・」
自分に本当にそんな力があるのか、今でもヒデカツは分からない。だけど今回、自分が関わった二人の生き方はその後大きく変化した。それに困っている人が目の前にいるのなら、何か力になりたいとはいつも思っている。今後何か困難に直面している人がいて、自分が関わることによってその人の心が救われるというのであれば、これからも続けていきたいと考えている。
不意に身体に何かの感触が伝わってきた。見るとセーラがヒデカツに寄りかかってきていた。
彼女は彼の肩の上に頭を乗せた。そして上目遣いに彼を見てフフッと笑った。そしてそのまま目をつぶった。
その様子を見てヒデカツも笑みがこぼれた。そしてセーラの肩に手を回すと、川面の方に静かに目を向けた。
川は光を反射しながら、穏やかにそこを流れていた。




