第六話 嫉妬・その二
(言ってしまった・・・・・・!)
夜の帰り道を歩きながら、ユーリは一人頭を抱えた。
先程彼女が言ったことは、今までずっと心の中に抱え込んでいたものだ。それをこのまま黙っておくのは、何ともいえない心苦しさがあった。よって話したこと自体は別に後悔していない。
(しかし・・・)
とユーリは思った。さっき気持ちを伝えたことで、セーラの自分に対する印象が悪くなったのではないか。彼女は笑って許してくれたけど、本当はどう思っているのか。
(ああ、自分は何てことを言ってしまったんだ!)
そんなことを考えながら、ユーリはフラフラと夜の街中を歩いていた。
「おお、ユーリじゃないか。どうしたんだ、こんな時間に」
不意に聞き覚えのある声がしたので、ユーリはそちらを向いた。
そこには彼女の上官であり、幼馴染みでもあるミカエル=サイクロン海軍少佐がいた。
彼の姿を認めると、ユーリはツカツカと彼に近づいた。そしてそのままガバッと彼の胸の中に飛び込んだ。
「お?」
「すいません、しばらくこうしててよろしいでしょうか?」
「え?ああ、うん」
そう言うとミカエルは、おずおずと彼女の背中に手を回した。
二人はそのまま、寒空の下で抱き合った。
「どうだ、少しは落ち着いたか?」
「はい。申し訳ありません」
「子供の頃のことを思い出すなあ。お前はいつも叱られる度に、よく俺の所に来ては抱きついて泣いていたな。その度に俺はお前の頭を撫でて慰めていたもんだ」
「そんなこともありましたね。すいません」
「いや、いいよ。久しぶりにユーリに頼られた気がして、俺は嬉しかったよ。普段ももう少しこうならいいんだけどな」
そう言ってミカエルは、フフッと小さく笑った。
「で、何があったんだ?俺でよければ話を聞くぞ」
「はい」
そう言うとユーリは、今までのことを話した。
「なるほど。つまりお前の話したことで、オルメスがお前のことを嫌いになったんじゃないか、と」
「はい。それを思うと先程から胸が苦しくて、どうしたらいいか分からなくなります」
「お前らしい悩みだな」
ミカエルはそう言うと、一つ息を吐いた。
「まあ誰だって嫌な所や悪い所はあるものだからな。そこまで深刻に考える必要はないと思うぞ」
「そうでしょうか?」
「そうだよ。大体あのオルメスがその程度のことでお前を嫌いになるわけがないだろ。それはお前が一番よく分かっているはずだ」
「そうですよね。すいません」
「それにな」
ミカエルはそう言って、ユーリの方を向いた。
「俺だってその話を聞いた所で、お前に対する印象が変わるわけじゃない。たとえお前がどんなヤツだったとしても、俺はお前の全てを受け入れるぞ」
「少佐・・・」
「まあいくつになっても、俺にとってお前は大切な人だよ。それだけは確かなことだ」
そう言うとミカエルは、照れくさそうに頭をかいた。
「家まで送ろう。こういう時は一人でいるより、誰かといたほうが気がまぎれるぞ」
ミカエルはそう言った。そしてユーリより先に歩き始めた。
その様子を見て、彼女はクスッと笑った。そして小さくこう呟いた。
「そうですね、ミカエル兄さん」
「ふふっ」
夜の街を歩きながら、セーラは一人笑みを浮かべた。
先程ユーリから思いを伝えられた時は、正直驚いた。彼女でもそういうことを考えることがあるのかと、意外にも思った。
それと同時に、ユーリが今までそのことでずっと思い悩んでいたのだなとも感じた。彼女の生真面目な性格を考えると、その苦しみは想像もつかないものだろう。
(嫌だなあ、そんなことで私があなたのことを嫌いになるわけないじゃない)
たとえ胸に暗いものを抱えていたとしても、自分にとって彼女は信頼できる部下だ。今までも、これからもそれは変わらない。
そんなことを考えながら街中を歩いていると、セーラはふと見知った顔が目の前を歩いていることに気付いた。
「ヒデカツ」
セーラがそう声をかけると、彼は驚いたようにこちらを見た。
「セーラ」
「どうしたのこんな時間に?兵舎の方向とは違うわよね」
兵舎や司令部など海軍の施設は、軍港の近くに集中している。そこから歩いて一時間程の首都には、本来用は無いはずである。
「いや、まあ、何となく・・・。それに、ここに来たら君に会えるかもって・・・」
「私に?」
セーラがそう言うと、ヒデカツは真面目な顔をして彼女に向き合った。
「実は僕は、君に謝らないといけない」
「どうして?」
「さっきオリヴァと話していた時、僕は君のことを忘れていた。それで、自分を心配してくれる人はいないと言ってしまった。だから、ごめん」
「ああ、何だ、そんなこと・・・」
今日はよく気持ちを伝えられる日だなと思いながらセーラは答えた。
「ヒデカツはよほど祖国のことを愛しているのね。誰か大切な人でもいるの?」
「まあ、家族かな。友達は・・・あまりいないかな」
「あなたは祖国を大事に思っている。その気持ちはある意味当然のことよ。今回はそれが私より少し強く出てきてしまった、ただそれだけのことよ。だから気にしないで」
「うん・・・」
ヒデカツは頷いたが、どこか浮かない顔である。
「まあでも―」
とセーラは続けた。
「ヒデカツの祖国にあなたの一番を取られたのは、少し悔しいかな。だから―」
彼女はそう言うと、ニッといたずらっぽく笑った。
「そのうち私があなたの一番になって見せるわ」
その真っ直ぐに見つめる表情を見て、ヒデカツはようやく笑みを浮かべた。
「分かった、ありがとう」
「兵舎まで送るわ。もう遅い時間だし、一人だと心配だから」
「いいよ。そんなことしたら、君が帰る時に今度は僕が心配しないといけなくなる」
「大丈夫、私は強いから。それに、今一番誰かにいてほしいのはあなただから」
そう言うとセーラは、ヒデカツの腕に手を回した。
ヒデカツは一つ息を吐いた。そして少し嬉しそうな声で言った。
「じゃあ、お願いしようかな」




