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洋上の戦士たち  作者: ただかた
第三章 後押し
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第一話 相談

「本日の訓練はここまで。みんな、お疲れ様」


 戦車揚陸艦<イフリート>の艦長席から、セーラ=オルメスはそう言った。

 月が改まって新しい年になった。戦争が終わり、軍が表立って活動する機会は大幅に減った。とはいえ、まだまだ世の中は戦乱を望む過激派の暗躍によって不安定な状況が続いている。だから軍は万が一の事態に備えて日々訓練を重ねていた。

 今日もセーラたちは自分たちの艦に集まって、指揮や機器の操作の手順を確認する訓練を行った。そしてそれがたった今終わった所である。


「ん~~~~~~っ」


 訓練の終了を告げたセーラの左で、大きく伸びをする人物がいた。

 彼の名はヒデカツ=ワタベ。この艦のナンバー2の先任将校であり、セーラの恋人でもある。

 その様子を見て笑みを浮かべながら、彼女はヒデカツに話しかけた。


「お疲れ様」

「ああ。君こそお疲れ様」

「どう、海軍の訓練にも大分慣れた?」

「まだまだかな。何せ色々やることや覚えることが多過ぎるよ。民間出身者には少し荷が重いかも」

「そう?私には上手くやれてるような気がするけど。まあいいわ、これから少しずつ慣れていけばいいから」

「慣れる、ねえ・・・」


 本当は一生慣れない方がいいんじゃないかと思い、ヒデカツはやや複雑な気持ちになった。


「それじゃ、また後でね」


 そう言うとセーラはヒデカツに笑顔を向け、艦橋の扉から外へ出て行った。


「それでは先任、僕もこれで失礼します。お疲れ様でした」

「ああ、お疲れ様」


 操舵員のオリヴァ=バラック一等兵曹がヒデカツに声をかけた。彼はヒデカツの返事を聞くとにっこりとして、そのままセーラに続いて艦橋を後にした。


(さてと、僕も部屋に戻って残りの仕事を片付けようかな)


 そう思ってヒデカツが腰を上げようとした時、


「あの」


 不意に彼の右側から声がかかった。

 ヒデカツは声のした方に顔を向けた。そこには肩口で切り揃えた金髪が特徴の女性将校が、じっと彼の顔を見つめている姿があった。

 彼女の名はエリー=ネルソン。この艦のナンバー3の次席将校を務める海軍少尉だ。一カ月前、この艦の任務で初めて顔を合わせた。先の戦争でセーラと同じ任務に就いていたこともあって、彼女はセーラを慕っていた。そのためセーラと親しいヒデカツに対して、彼女は嫉妬心を抱いていた。そのせいで一時、ヒデカツとの関係がギクシャクしたが、先日の過激派の襲撃を受けた際のヒデカツの取った行動に感銘を受け、彼女はヒデカツに謝罪した。そして今では良好な関係を築いていた。


「ん?どうしたのネルソン次席将校」


 そうヒデカツが答えると、エリーは立ち上がって彼の近くまで来た。そして真剣な表情でこう言った。


「先任にご相談したいことがあります」




 数分後―。

 ヒデカツとエリーは、会議室に移動していた。ヒデカツは部屋にあった椅子の一つに腰を下ろし、エリーはその隣の椅子に座った。


「それで、相談というのは?」

「実は・・・」


 ヒデカツに尋ねられてエリーは一瞬口ごもった。しかしすぐに彼女は顔を上げると、はっきりとした口調でこう言った。


「先任に私の友人を助けてほしいのです」

「どういうこと?」


 ヒデカツが驚いて聞き返すと、エリーは頷いた。そして彼女の友人のことを語り始めた。


「その子は私の海軍学校の同期生で、歳は私より少し下です。成績は決して優秀とは言えず、座学ではいつも補習を受け、実技でも失敗ばかりしていました。おかげで私が短期間で海軍少尉に昇進したのに対して、彼女は二等兵のままでした」


 そこまで言うとエリーは一度言葉を区切った。その表情はどこか当時を懐かしむように見えた。


「だけど彼女は努力家でした。必死に頑張って、何とか海軍に残れるだけの実力をつけました。そして先の戦争で、私と同じ任務に就くことになりました。彼女は私と同じ艦に乗れることをとても喜んでいました。でも私は・・・今考えるとその時彼女を疎ましく思っていたんでしょうね」


 そう言ってエリーは沈んだ表情でうつむいた。


「そしてとうとうあの事件が起きました。その時彼女は敵との交渉を担当する任務に就いていました。彼女は優しい人です。ですがその時はそれが仇となってしまい、敵の将兵の言う事を彼女は真に受けてしまったのです。そして私たちは敵に捕らえられました」


 ヒデカツは、以前セーラからある乗員のミスで自分たちが敵軍に捕らえられたという話を聞いたことを思い出していた。


(そうか、それが彼女のことだったのか)

「私は彼女を責めました。とても激しい口調で罵りました。彼女はただ泣きながら黙って聞いていました。そして敵に連れていかれる際にポツリと『信じていたのに』そう言いました」


 エリーはそこまで言うと、忌まわしい記憶を紛らわすかのように首を振った。


「私は初め、彼女の言ったことの意味が分かりませんでした。でも後に、何とか逃れて祖国に帰り着いた時に、彼女の生気の抜けた顔を見て私はハッとしました。私にとって彼女は出来の悪い部下だったのに対して、彼女にとって私はどこまでも友人だったのだと。結局私は彼女を裏切ってしまった。そして海軍と共に彼女を傷つけてしまった・・・」


 そこまで話すとエリーは、沈んだ表情のまま押し黙った。




「そして、ここからが本題なのですが」


 しばらくしてエリーは顔を上げ、ヒデカツの方を向きながら言った。


「先任には、ぜひ彼女に会いに行って欲しいのです。そして彼女が再び世の中に出て明るく生きられるよう、手助けをして欲しいのです」

「え?あ、いや、でも・・・」


 突然そのようなことを言われて、ヒデカツは戸惑った。


「僕は男で、しかも国外出身者だよ。そんな人物が会いに行ったら、彼女は警戒して、ますます心を閉ざしてしまうんじゃないかな?」

「大丈夫です!」


 言葉に力を込めて、エリーは言った。


「先任は人を惹きつけるものを持っています。だから艦長も私も、あなたに心を開いたのです」

「う~ん・・・」


 以前オリヴァも似たようなことを言っていたが、ヒデカツは自分がそのようなものを持っているとは、どうしても思えなかった。

 とはいえ、困っている人がいるのならぜひとも力になりたい。それにエリーは自分を信頼して打ち明けてくれたのだから、その期待にも応えたい。


「分かった。結果がどうなるかは分からないけれど、やるだけやってみるよ」

「よろしくお願いします」


 そう言ってエリーはヒデカツの両手を取ると、深く頭を下げた。

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