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洋上の戦士たち  作者: ただかた
第二章 絆
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第一話 港にて

「ん・・・」


 朝の冷気を全身に浴びて、ヒデカツ=ワタベは思わず声を出した。

 時刻は午前八時頃。太陽はとっくに顔を出し、人々も日々の活動を始めている時である。

 ヒデカツは今、アクアフィールド海軍の港にある岸壁の一つに腰掛けて、ぼんやりと海を眺めていた。彼にとってのこの時間は、この国に来てから何事にも代えがたい至福のひと時であった。


「こんな所にいたのね」


 不意に後から声をかけられたので、ヒデカツは振り返った。

 そこには、彼と同じ白い帽子に黒の制服といった海軍の軍人の格好をした、金髪の美しい女性が立っていた。歳は若く、二〇代の半ば程。

 その姿を見たヒデカツは、にっこりと彼女に微笑みかけた。


「おはよう、セーラ」


 セーラと呼ばれた彼女も、にっこりと彼に微笑み返した。


「おはよう、ヒデカツ」




 ヒデカツ=ワタベとセーラ=オルメス―。二人が初めて出会ったのは、今から一カ月程前のことだった。当時戦争を避けてこの国に逃れてきたヒデカツは、東方にある祖国を捨てた罪悪感から海軍に入隊し、一人孤独な日々を送っていた。だから彼は気を紛らわすため、首都から遠く離れた東アクアフィールドにある地方都市へ赴いた。

 一方のセーラは、若くして海軍将校となり、戦場で数々の功績をあげたが、先の戦争で敵軍に捕らえられ、さらに海軍から見捨てられるという苦痛を経験した。絶望した彼女は海軍を辞め、逃げるように東の街へやってきて隠遁生活を始めた。

 そのような境遇の二人が、ある日運命的な出会いを果たした。それぞれの過去を知った二人は、お互いの気持ちに共感し、惹かれ合った。そして協力して、その街に潜伏していた戦乱を望む過激派を制圧することに一役買った。

 それからセーラは首都に戻り、海軍に復帰した。そしてヒデカツとセーラは、正式に交際を始めることになった―。




「何が見えるの?」


 セーラはヒデカツの側に近づきながら、そう尋ねた。


「別に。ただ朝の海の景色が見えるだけさ」

「ふ~ん」


 そう言いながら彼女は彼の隣に立った。そして、そのまま横にちょこんと腰掛けた。


「どうしたの?君にとって海なんて珍しくもないだろう?」

「そうだけど、ヒデカツが見ているのだからきっと素晴らしい物に違いないわ」


 そう言ってセーラはちらっとヒデカツを見て微笑んだ。


「私はねヒデカツ、あなたと同じものが見たい。あなたと同じことをして、同じことを感じたい。そうして二人の思いを共有し、積み上げていきたい。最近そう強く願っているの」

「そっかあ・・・」


 そうヒデカツは答えて、セーラに微笑んだ。そして再び海の方向へ視線を移した。二人はしばらくそうして、同じ光景を見つめていた。

 どのくらい時間が経っただろうか―。


「あーっ、いたいたーっ!」


 突然後から大声が聞こえてきたので、二人は振り返った。

 そこには小柄で短い金髪が特徴の青年下士官が立っていた。まだ若く、年齢は二〇歳前後と思われる。


「艦長ーっ、先任ーっ、そろそろ集合のお時間ですー!」

「分かった、今行く」


 そう答えてセーラは立ち上がった。そしてヒデカツに向かって手を差し伸べた。


「行こうか、ヒデカツ」

「うん」


 そう頷いて、彼は彼女の手を取った。




「しかし意外でしたねえ」


 軍港の広大な敷地をヒデカツと並んで歩きながら、オリヴァ=バラック一等操舵兵曹は言った。


「何がだい?」

「東の街に行く前までは、無口でいつも憂鬱な顔をして人とあまり関わろうとしなかったあのワタベ先任将校が、戻ってきた後はすっかり元気になって、しかも恋人まで連れて帰ってきたことですよ。これを意外と言わずして何と言うんですか」

「意外かあ・・・まあ僕も予想してたわけじゃないんだけどね」


 そう答えながらヒデカツは、少し前を歩くセーラの背中を見た。


「それよりも、僕は君がついてきたことの方が意外だな」


 彼はそう言って隣の少年のような下士官の顔を見た。

 かつてヒデカツは補給艦の部隊に所属していた。オリヴァはその時からの彼の部下である。彼はどんな細かいことにも気が回り、どんな時でも適格なサポートをしてくれた。軍隊経験の全くなかったヒデカツにとっては、最も頼りになる存在である。そんなオリヴァがヒデカツの配置転換に伴って一緒についてきたことは彼にとって想像外の出来事であった。


「僕はただ先任にお仕えするだけです。先任が行くところならどこへでもついていきますよ」

「僕は誰かに尽くされるような人間じゃないと思うんだけどなあ・・・」

「とんでもないです!」


 と、オリヴァは語気を強めて言った。


「先任はとても素晴らしい方です。それにあなたには人を惹きつける何かがあります。もっと自分に自信を持っていいですよ」

「そうかなあ?」

「そうですよ。だからこそオルメス艦長の気持ちを掴んだのではないですか?」

「う~ん・・・」


 別にそんな大層な話じゃないと思うんだけどな―。そんなことを考えながら、ヒデカツはもう一度セーラの背中を見た。

 やがてしばらく歩いていると前方に大きな船影が見えてきた。

 それが、ヒデカツやセーラ達の新しい職場だった。

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