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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

12分18秒の無呼吸

作者: Hora

僕は今、非常に困った場面に遭遇しています。川遊びで水に潜り岩に手を突っ込んだら抜けなくなっています。


 僕の名前はりく。小学5年生です。夏休みにおじいちゃんの家に帰省しています。来たら来たで娯楽がなく、家族でおじいちゃんの家から7km程離れた川の上流に遊びに来ていました。父と母と小学3年の弟と僕の4人です。その川の水深は60cm程と小学校低学年用プール程しかありませんがところどころ流れの速いところがあります。水が非常に冷たく最近の猛暑の続く日にはうってつけの遊び場で毎年来ていました。父と母は最初30分程は一緒に川に入り遊んでいましたが、父は「あ~疲れた」と川べりに移動し座り込んでうつらうつらと眠そうにしています。母も同じタイミングで川から上がり、車から荷物を持ち出しバーベキューの準備を整え始めています。

 弟は兄である僕にちょっかいばかり掛けてくるので

鬱陶(うっとう)しいな~。ついてくんな!」

と僕は少しその場を離れました。川の中でも日陰になるとさらに涼しく水中眼鏡をつけて潜り、水中を観察していました。するとそこそこ大きな魚も泳いでおり

「手づかみでとれるかな?」

と好奇心が出てきました。しかし泳いでいる最中の魚の手づかみは難易度が高く捕獲できません。ふと、岩陰に魚が入っていくのが見え、

「追い詰めたらいけるんじゃない?」

とその岩陰に手を突っ込んでしまったのです。手を奥に奥に入れていきます。しかし魚はいませんでした。そして右手を抜こうとします。

「あれ…、ヤバい!」

右手首に岩がひっかかり抜けません。

手を回してみますが抜けません。

相当に痛みを感じるぐらい力を込めて引いてみますが抜けません。

足で岩を押してみますが抜けません。

    

今、僕は口を大きく膨らませて息を止めている状態。水面まではたった30cm程。水深の浅さが僕と親の双方の無警戒を招いてしまったのでしょう。両親のいる地点から少し離れてしまっています。TVでやっていた溺れた子供の話が脳裏に浮かびました。その番組の中ではプールの排水溝に足が挟まれて上がれなくなった子供の話でした。通常息止めを自らの意思で行うと1分~1分半程でほとんどの人がギブアップします。ギブアップできるからです。しかし今の僕のように水中で身動きできない状況に陥ってしまうと5分以上の苦しみを味わうんだそうです。パニックになって水を肺に入れてすぐ気を失う…みたいなのも生存率は意外に高いらしいと何となく聞いたことがありますが、僕はもうブラックアウトするまで生き地獄コース確定でしょう。手を抜こうともがいていたので、もう息が限界になってから少し経っています。


弟に最後に言った言葉は取り消したかったな。お父さん、お母さん、助けて、、




「どうも~」



???

え!誰!助けて!!助けて!!



「あ~、ごめんね。君の意識に直接語り掛けているから直接助けたりは難しいの。時間の猶予はあんまり無いよね?私はこの場所の地下1200kmぐらいのとこにいる、、、恥ずかしながら神様みたいな者なんだけど。君の今いるポイントで死なれると私にとってと~~っても面倒くさいことになるから助けてあげたいんだけど。」


お願いします!助けてください。苦しい苦しい…苦しい…


「でも私にできる方法が結構、いや相当に問題があって。あ、そうそう、しかもそれをしても君は手がまだ岩から抜けない状態だから、結局自力で岩から抜けないといけないし。」


苦しい!何でも良いからお願いします!!


(わら)をも(すが)るって感じね。じゃやるよ~。え~い。… うん。もういいよ。」


苦しい!何も変わってない!助けて!


「あ~。息してごらん。水中でも君は体の維持に必要な酸素を取り込むことができるよ。ただ一度水から出たら、もう一度肺での呼吸に戻るから注意してね。」


う…   あぁ…  ふぅー。 すぅー。はー。すぅー。はー。

凄い!全く地上と変わらない!うわぁぁ。ありがとう、神様!


「うん。あー、しっかり説明せずにごめんね。あまり難しいことを言っても聞いてくれないだろうし。私と話をしたくなったらまたこの場所で強く念じてみてね。ただ結構力を使っちゃったから君達の時間で1カ月は空けないとこの会話は再びできないけどね。君は必ずもう一度ここに来るだろうから。ごめんね。じゃあね。」


? …え、謝られるどころか、物凄く感謝しかないよ。神様が来てくれなかったら絶対に死んでたし。ありがとう!!


 返事はなく交信(?)は途絶えてしまったようです。それからしばらく水中でありながら呼吸を整え、冷静に手がはさまっている部分を観察してみます。右手首は血が滲んでおり少し腫れてきているのか抜くのがより困難になっているようです。もう一度、右手を回してみたり、力を入れてみるが抜けません。そうこうする内に引いてダメなら押してみろ!と。何か言葉が逆な気がするけど、右手を押し込んでみます。すると引っかかっている岩の片側がぐらぐらと動くことに気づきました。その岩を左手で更に奥に押し込むことで右手がスポッと抜けます。

やっと解放された!!!

 水中で呼吸ができるようになってから右手が抜けるまで12分程。どちらにせよ神様の助けが無ければ死んでいた時間の長さ。水から上がってしまえば呼吸は元の肺呼吸に戻ると言っていたので少し水中で楽しみたい気持ちもありましたが、すぐに上がって弟に「さっきはごめん!」そして両親に今あったことを顔を見て話したくなっていました。

ざばぁっ

水中から出ます。一瞬肺に空気を満たす瞬間に違和感はありましたが、呼吸を続けても問題は起こりません。不思議。今度神様に話す時に仕組みを聞けないかな。そして水上で呼吸をできる幸せを味わいます。そして、家族3人の待つ方へ歩き出します。


!?

父と母と弟が川べりで倒れています。


僕は水深の浅い水の中を走り急いで3人の元へ駆けつけます。

「お父さん!お母さん!あっくん!」

3人は陸上にいるにも関わらず青白い顔をしており3人とも苦悶の表情。息をしていません。

(僕と同じタイミングで溺死した!?でも何で陸にいるの?誰かが移動させた?)

訳が分からなくなりとりあえずお父さんの携帯電話を荷物から取り出し、おじいちゃんの家に電話。

(出ない。)

おじいちゃんの携帯に電話。

(出ない。)

おばあちゃんの携帯に電話。

(出ない。何で!!じゃぁ、、救急車!119…。出ない!!!110…。出ない!!!!)



誰も助けてくれない。ひたすらに泣きました。1時間程泣き少し落ち着いて

「ごめんね。お父さん、お母さん、あっくん。後で絶対戻ってくるから。」


 僕は歩いておじいちゃんの家まで帰ることを決めました。車で10分ちょっとだったから歩いてもそこまでかからないはずです。道はあまり憶えていないけど川をひたすら上がっていっただけだから帰れるはず。

 歩き始めて4分程。道路の端に一人のおばあちゃんが倒れています。僕は怖かったけど駆け寄って

「えっと…お婆ちゃん、、大丈夫!?」

と聞きますが、両親、あっくんと同じで顔が青白く、苦悶の表情。恐らく死んでいます。

「ごめんなさい…今、僕には何もできない」

僕は帰ります。また少し歩くと少し離れた田んぼの中で2人の老夫婦が倒れています。2人とも仰向けで明らかに顔がダメな色。僕は帰ります。出会う人出会う人。すべて同様に死んでいます。見かける度に全身が強張り足が止まりますが、勇気を振り絞って僕は帰ります。


2時間程は歩いたでしょうか。おじいちゃんの家に到着します。玄関を開け家の中に入るとおじいちゃんは居間で、おばあちゃんは台所で死んでいました。死の様子は同じ。青白い顔で両手は胸に。苦悶の表情を浮かべたあたかも水死してしまったかのように見えました。


1カ月後…


「やっほー。また話せて嬉しいよ。…うん。あの日何が起こったか聞きに来たんだね。話すよ。まずごめんね。私は地底の世界の秩序を優先したんだ。地底は君達の言う固体が物凄い圧力でかかっている場所なんだ。上に1200kmも岩や土が乗ってる場所だからね。だけどそうは言っても粒子や素粒子レベルで言うと隙間は結構あるから、地上の生命とは仕組みの違う生命体が存在しているんだよ。難しいかな。まぁ金属の中に暮らしている生き物がいると言えば多少イメージしやすいかな。でも、それとは違って人種(ひとしゅ)は気体の中で暮らしている種族だよね。だから人は液体の中で呼吸ができるように進化していない。あの時は緊急避難で、人種(ひとしゅ)の呼吸の方式を気体から液体に変えたんだよ。君一人を救うためにおしなべてね。私とやり取りできたのはあの時の君だけだったし急いでいたから他の人種(ひとしゅ)は驚いただろうね。陸上で急に呼吸ができなくなったんだから。あ、でもね。世界中で言うと892人があの12分18秒の無呼吸を乗り越えたんだよ。凄くない?たまたま水中にいた時に呼吸できることに気づいて、12分18秒後にまた水中で呼吸できないことに気づいて陸上に上がる。理屈は分かってなくてもこれを乗り越えた人が結構いたんだよね。でもまぁその内の700人以上がもう現時点で自殺しちゃったんだけどね。


…君はどうする?このまま世界が200人に満たない中、人類滅亡までいるかい?ライフラインや電気、インターネットがまだかろうじて生きている今なら連絡を取り合って…全員は無理だろうけど、数十人だったら合流はできるんじゃないかな。

家族がいない世界に絶望して自殺すると言うなら私は止めない。


…もう1つこちら側が出せる選択肢としては、君を地下1200kmの地底の世界に招待することができるよ。創世以来初の事だからみんなきっと歓迎してくれる。人種(ひとしゅ)の呼吸が固体の中でできるようにするから、その時点で残りの200人弱はさすがに全員死んじゃうだろうけど。」


「…りく(くん)。…どうする?」


「君はどうしたい?」


僕は…

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