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第9話:決心

 食い入るようにその紙を見つめる朱春に向かって、父さんは扉に寄りかかりながらいった。


「まあ朱春(ときはる)の気持ち次第だから、もし色々と調べて編入学も悪くないなと思ったら編入学試験を受けてみてもいいんじゃないか?」

「うん」

「じゃあ父さんは下に戻るよ。もうそろそろお昼ご飯出来るって母さんが言ってたから呼ばれたらおいで」

「うん。…………因みにさ、なんで父さんの大学じゃないの?」

「…………アッハッハ! 父さんの大学がよかったのか? ただ父さんの大学は残念ながら付属校が無いんだよ。それに父さんは少しだけ有名だからね、違うところにいた方が勉強に集中できるんじゃないかな」

「なるほど……」


 父さんはポリポリとお尻をかきながら部屋を出て行った。朱春は父さんが出て行くとすぐにパソコンを立ち上げて、紙に書いてあった学校について調べ始める。久しぶりに自分の心が躍っているような、全身がソワソワするような気持ちになっていた。


 しばらく調べていると母さんが呼ぶ声が聞こえてくる。


「はるー! 昼ご飯出来たよー」

「今いくー」


 階段を降りながら朱春はふわふわとした気持ちを落ち着けた。一段一段踏みしめながら覚悟を決める。リビングに着くと母さんがラーメンを机に置いていた。


「今日のお昼はラーメンだよ~。伸びる前に食べちゃいな」

「あのさ、食べる前に言いたいことがあるんだ」

「どうしたの?」

「お、今日の昼はラーメンか~、いいね~…………どうしたの?」


 後から入ってきた父親が静かな二人を見て不思議そうに尋ねる。

 朱春は少しだけ躊躇ってから勢いよく言った。


「僕! 編入試験受ける!!」

「「……お、おお。いいんじゃない」」

「…………え、それだけ?」

「だって朱春なら受けるっていうと思ってたからね」

「うんうんママもそう思ってた」

「…………あ、そうなの。…………じゃあ取り敢えずそういうことで」

「試験が少し難しいらしいから勉強頑張らないといけないわね」

「まあ魔道理論やらがメインだから朱春ならなんとかなると思うよ」

「うん」


 なんとも拍子抜けしてしまうような反応が帰ってきて、朱春はなんだか気が抜けてしまった。

 次の日から、朱春は受験勉強を始めた。受験科目は6つ。魔道史、魔道理論、数学、国語、理科、そして実技だ。このうち魔道理論が全得点の半分を占めており、ここの出来が合否を左右すると言われていた。

 しかし小さな頃から魔道士に憧れつづけた魔道オタクの朱春にとって、そんな勉強は朝飯前だった。なんせ魔道の勉強をすることは趣味の延長上、というか最早趣味の一部なのだから。

 ただ朱春には一つだけ心配なことがあった。実技試験だ。あれ以来魔道の力を使っていないし、それより何より天狗が呼びかけに答えてくれないのだ。朱春はしかしそんな不安を打ち消すかのように激しく勉強し続けた。



――2ヶ月後:試験当日

 朱春は朝早くに目が覚めてしまった。まだ外は暗い。時計には「3:28」と表示されている。どうしてこんな時間に目が覚めてしまったのかといえば、その答えは恐らく緊張だろう。朱春は昨日の夜から寝て起きて、少し寝てすぐ起きてを繰り返していた。興奮なのか緊張なのか分からないが、体がソワソワして眠くならないのだ。

 しばらく目を閉じて再度寝ようと試みるが、もう眠れないことを悟ったのだろう、朱春は起き上がると机に座った。本棚にぎっしりと詰まっているの上をなぞっていく。すると一冊の本の前で指が止まった。本の背表紙には『魔道大全』とかいてある。


「そういえばまだ最初しか読んでなかったな」


 朱春(ときはる)は分厚いその本を引っ張り出すと机の上に開いた。前回どこまで読んだのかもあまり覚えていなかったから、はじめから読み直すことにした。読めば読むほど面白く、夢中になって読んだ。読んでいるうちに天狗との修行が思い出される。編入学試験を受けると決めて以来もう何度も呼びかけているのに、天狗はやはり応えてくれなかった。試しに天狗に呼びかけてみて、やはり返事が無いことを確認してから朱春は再び本に目を戻した。

 次に顔を上げると外はもう明るくなっていて、いつの間にか緊張は治まっていた。


「はるー、ご飯だよー」


 階下からそう叫ぶ母さんの声が聞こえてくる。


「はーい」


 朱春が降りていくと朝ご飯が用意されていて、父さんは先にテレビを見ながらご飯を食べていた。「おはよう」という挨拶のあとは、特に何も話さなかった。


 そして朝7時半、朱春は試験会場に向かって家を出た。



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