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第8話:守るための力

 校門を飛び出した朱春はもう無我夢中だった。呑気な天狗の声が聞こえてくるが、それが無性に腹が立った。怖くなった。


(おい小童よ、もうちぃっと感謝してもいいんだぞ)

「……まれ」

(なんじゃ?)

「うるさい!! なんであんなことしたんだ!!!」

(…………は?)

「もうほっといて!!」


 家に帰ると父親がいた。母親は買い物に行っているらしい。


「なんでこんな早いんだ朱春(ときはる)? まだ学校終わってないだろ?」

「父さん、僕、僕、大変なことをしちゃった。大変なことを!」

「落ち着け落ち着け。まずは深呼吸だ。落ち着いて話しなさい」


 柔らかい笑顔でそう言ってくれた父さんの顔を見て、突然涙が溢れてきた。嗚咽を押し殺しながらなんとか10分前の出来事を説明する。

 段々と険しくなっていく父さんの顔を見てとても申し訳ない気持ちになると同時に、自分自身のことがどうしようもなく怖くなった。

 父さんは朱春が話し終わるのを待って話し始めた。


「今から学校に行こう。朱春もついてきなさい」

「はい」


 父さんはそう言うと両手で印を結んで何か呟いた。すると目の前の空間が歪み始めて、学校の校門が見えてきた。

 父さんに続いてその歪みに入っていくと、そこはついさっき飛び出したはずの学校だった。

 スタスタと歩いて行く父さんの後を追いかけて階段を登っていく。一段上るごとに強い吐き気がこみ上げてきた。

 教室に着くと周りには生徒があつまっていて、先生達が必死に生徒を散らしていた。父さんはそんなのお構いなしに中へと入っていく。


「救急車はまだなんですか!!! 電話したんですよね!!」

「あと3分です!! それまでなるべく触らないようにと」

「全く!!!! どうしてこんなことが!!!」

「失礼します」

「ちょ、あなた誰ですか!!」

「こういう者です」


 父さんがそう言って名刺を渡すと、いじめっ子の傍で騒いでいた先生は突然黙ってしまった。正確に言えば口をパクパクとして金魚のようになっていた。父さんは倒れているいじめっ子達を見回して一番重傷な少年の傍に膝をつくと、また両手で印を結んだ。さっきより長い間ブツブツと何か唱えている。

 すると父さんの目の前に緑の火の玉が浮かび始めた。そして火の玉が7つ浮かんだとき、それは勢いよく回転し始めた。円の中に円が入っているような模様を描いて回転している。すると段々と血が少年の方へと吸い込まれ始めた。

 しばらくすると床に広がっていた少年の血はすっかり消え去り、少年の傷は塞がっていた。父さんの額からはもの凄い量の汗が垂れていた。


「これで怪我は戻せましたが、一応は病院に連れて行った方がいいでしょう。なにか問題があればその名刺に書いてある電話にかけてきて下さい」

「は、はぁ」

「いくよ朱春」


 そう言って歩き出した父さんの後をついて行くと、後ろからコソコソと囁くような声が聞こえてきた。


「あれって国立第一魔道大学の天王(あもう)教授だよね?」

「そうだよ、だってさっきのあれ『時魔法』でしょ? 私テレビで見たことある」

「え、天王教授って十大魔道士の?」

「なんでこんなとこにいるの?」


 そんなコソコソ話が生徒の間を駆け抜けていく。朱春の気持ちはそれを聞いて一層沈んだ。父さんに迷惑をかけてしまった。そんな気持ちが体中を埋め尽くしていた。

 しばらく歩いて校門を少し出ると、父さんはまた歪みを造った。


「帰るよ朱春」

「はい」


 家についてしばらく、父さんは何も言わなかった。


「朱春」

「…………」

「今まで学校であったことをちゃんと教えてくれるかい? 今日だけのことじゃなくてすべてを」

「…………うん」


 朱春はすべて話した。どういう訳か分からないが入学してすぐいじめられ始めたこと、その時思っていたこと、先生の対応や、助けてくれた星名さんのこと。

 すべての話が終わると父さんはゆっくりとこちらに向き直って言った。


「よく我慢したね」


 それだけだった。それにつづいてもう一言


「力は大切な者を守るために使いなさい」


 父さんはそれだけ言うともう何も言わなかった。涙が溢れて止まらなかった。



――1ヶ月後

 何故かあれ以来、天狗が話しかけてこなくなってしまった。しかし朱春(ときはる)としてもなんとなく顔向けできないような、気まずいような気がして呼びかけることを躊躇っていた。

 それから学校にももうしばらくいっていなかった。向こうの家族とは少しだけ話したが、あちらもイジメをしていたことがあって引け目を感じていたのだろうか、特に話すこともなく表面上はお互いが謝罪して治まった。しかしそれ以来どんな顔をして学校に行けばいいのか分からなくなってしまったし、そもそも学校に行きたくなくなってしまった。素直に今の気持ちを打ち明けると父さんも母さんも受け入れてくれたから、もう一月近く学校にはいっていなかった。

 そんなある日、父さんが部屋にやってきた。


朱春(ときはる)入ってもいいか?」

「いいよ」

「…………」


 少しの間、なんとなくむず痒い沈黙の時間があってから父さんが話し出した。


「最近は何してるんだ?」

「う~ん、散歩したり本を読んだり、あとはゲームしたりしてる」

「そうか……まだ、魔道は好きか?」

「まぁ、魔道は、好きだけど…………」

「あのな、父さん思いついたことがあるんだ」

「なに?」

「転校しないか?」

「え?」


 完全に予想外の発言に驚くと同時に、父さんから渡された紙を見て朱春の心臓は早鐘を打ち始めた。


――――――――――――――――――――

『国立第三魔道大学附属中等教育学校』


 第一学年編入学選抜のお知らせ

 当校の第一学年に編入学を希望する生徒を

募集する。詳細は以下に記す。


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~


        学校長:水神楽 京

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