第4話:魔道といふ物
家に帰ると朱春は階段を駆け上がって自分の部屋へと走り込んだ。階下から母の「おかえりー」という声が聞こえたので無視して本の続きを読んでいると、母が部屋に入ってきた。
「あんた帰ったらただいまくらい言いなさいよ」
「ただいま」
「はいおかえり、ってあんたまたそんな本かって~、いくらしたの?」
「100円」
「100円!? その分厚さと古さで100円!? …………騙されてんじゃないの?」
「騙されてないよ」
「変な契約書とかサインしてないわよね?」
「してない」
「住所とか名前とか書いてないわよね?」
「だから書いてないってば! 今いいとこなんだから邪魔しないで!」
「もうパパ帰って来るからご飯できたって呼んだらすぐ来るのよ」
「うん」
「それから本読むときは電気つけなさい」
「分かったって!」
母親がそう言って出て行くと朱春は本を一番はじめから読み直すことにした。すると立ち読みしたときには気がつかなかった事に気がついた。この本には序章があったのだ。どうして気づかないのか不思議だったが、それでも気がつかなかったのだからしょうが無い。寧ろ読む部分が増えたことを喜ぼう。そう思って朱春はページをめくった。
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この書に書かれし言の葉、まごうことなく真なり
疑心なしに信ずれば、自ずと道は開かれん
魔道の礎、知恵なり
知恵の礎、楽なり
その身に宿し魔道の力、知恵と勇気を持つ者にのみ微笑まん
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最初のページにはそう書いてあった。
「魔道の礎が知恵か……ほ~、楽ってのは……楽しさってことかな?」
そんなことを呟きながらページをめくると驚きの文章が目に飛び込んできた。
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魔道といふ物について
・魔道といふものは、鍛錬してその身に馴染ませ、強化することによって初めて、真に魔道の力と呼ぶことが出来るモノとなる。故にこの序章では魔道の鍛え方から順を追って解説し、その後自身の血統に近しい血統の章なり頁なりをよむことで諸君の実力を――――――
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「え、魔道の鍛え方……って魔道の鍛え方!?」
求めていた答えが載っているかもしれないという興奮で、朱春の手は震えていた。もの凄い早さで、しかし一文字すらも見落とさぬよう鬼のような形相で読み進めた。そして、朱春は答えを見つけた。
「あった、……あった! そうかそうだったのか!! アッハッハッハッハ」
ひとしきり笑った後で朱春は本に書いてあることを実践した。
「まずは魔道の力についてのイメージを持つことが大切……ふむふむ、僕の場合は風と念力だからそれぞれのイメージを持てばいいんだな。それからそれを発動するための力の所在を明確に把握する…………所在は人によって違うのか…………力を使ったときに暖かいところか…………この辺か? ……それから――」
「はるーご飯よー」
「今行く」
「早く来なさーい」
「今行くって!!」
本当は行きたくなかったが、行かなかったら呼びに来ることが分かっているので大人しくリビングへと向かった。
リビングでは父さんが座ってテレビを見ていた。その向かい側に座ると父さんが話しかけてきた。
「魔道はまだ面白いか?」
「なんで?」
「いや別になんとなくだよ」
「楽しいよ」
「そうか、そりゃいいな!」
「今日もまた新しい本買ってきたんですよ」
「また買ったのか! アッハッハッハ、そろそろ床が抜けちゃうんじゃないか?」
「まだ平気だよ」
「……もし魔道士になれなくてもな、朱春ならたぶん研究者にはなれるよ。そしたら父さんの研究室に入るといい、魔道研究なら父さんの大学が日本一だ」
「それはその時考えるよ」
「まあそうだよな、まだわかんないもんな~」
「そんな事よりパパ、朱春に注意する前にパパが本を捨ててよ! こっちは冗談じゃなく床が抜けちゃうわよ!」
「アッハッハッハ!」
そんな風に話しながら夕食を終えると朱春はまた部屋に戻って続きを始めた。
「え~っと、力の出てるところを把握するんだよな。僕の場合は……たぶん胸だな。それから、ほぉ~、魔道の力は身に宿した妖魔、つまり幽世における自分が、現世の自分に心を許していないとほとんど使えない……故にまずは自らの宿した妖魔と対話をすることから始めるべし、しかし下位の妖魔では叫び声しか帰ってこないために対話は諦めるべし…………でどうすればいいの? てか幽世の自分? 妖魔が宿ってる!? てどういうこと!?」