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第3話:ウォズドフ古書

――次の日


 授業が終わると少年は足早に教室を出た。一刻も早くあの本屋に行きたかったのだ。少年は珍しく走った。それほどに興味深い本が沢山置いてあったのだ。

 しかし10分後、少年は自らの目を疑った。目印として覚えたはずの電柱の文字を見つけたのだが、どういう訳か本屋がないのだ。少年は辺りを歩き回って探したが、ウォズドフ古書のウの字すらも見つからない。

 落胆した少年は、肩を落として家へ向かって歩き始めた。そしていつもの癖で鞄から本を取り出して開いた。



 そして歩くこと2分、目の前には『ウォズドフ古書』と書かれた看板が現れた。引き戸に手をかけると今日は何故かスムーズに開いた。そして少年が足を踏み入れるなり元気な声が聞こえてきた。


「いらっしゃーい!!」

「あ、どうも」


 少年は声の主に挨拶をするとまず昨日の本のところに向かった。そして次に店員を呼ぶと、その値段を聞いた。


「すいませんちょっといいですか?」

「いいっすよ」

「この本っていくらですか?」

「あ~、値段ってことっすよね。え~とどうしよっかな」

「え?」

「いやいや何でも無いんすけどね。じゃあそうだな~、100円でいっすよ」

「…………え?」

「100円で」

「…………大丈夫なんですか?」

「なにがっすか?」

「その値段がです」

「あ~! はい! 沢山買って下さい」

「じゃ、じゃあそうします」


 そういうと朱春は本棚に向き直った。そしてしばらくいろいろな本を眺めていたのだが、突然後ろから声をかけられた。


「あ~、昨日も来てるんすね」

「……へ?」

「珍しいっすね、《《二日連続で来る》》人なんて」

「…………どういうことですか?」

「昨日は~、あ、ボレアスさんか」

「…………」

「…………なんすか?」

「あ、いや何でも無いです!!」


 そうは言った物の、実際のところはもの凄い気になる。特に二日連続で来る人なんてという部分が…………

 そんな風に朱春ときはるが思っていると、男の人は訊てもいない事をペラペラと話し出した。


「この店は……《《どこにでもあってどこにもない》》んすよね」

「…………ん?」

「この店はウォズドフ古書って名前なんすけどね、社長の意向でここに来れるのは本が大好きで、10秒以内に死ぬ運命にあったはずの人だけなんですよ」

「…………え?」

「だから君は2日連続で死にかけたってことっすね、アッハッハ」

「…………」


 何を言っているのか全く分からなかった。どこにでもあってどこにもない? 本が大好きな死にかけ? というか僕が死にかけてた? どういうことだ? 意味が分からない。しかし男の人はそんな朱春は無視して続けた。

 

「ほ~、昨日はどうやら道に出てきた魔物に食い殺されるところを拾ったっぽいッすね。で今日は車に轢かれそうだったので助けたと」

「ど、どういうことですか?」

「ん、いやそのままの意味っすけどね。君は本当なら死ぬはずだったのを、本が好きだったことで救われたんすよ」

「い、意味が分からないですよ! というかじゃあここはなんなんですか! それからどこにでもあってどこにもないなんておかしいでしょう!!」

「いや~、そう言われてもな~、どこにでもあるんだもんな~。…………まあ取り敢えず気にしなくてもいいっすよ」

「う~ん」

「あ、それから道を歩くときは本を読むのはやめた方がいいっすね」

「え?」

「ここには4回までしか来れないすから」

「…………わ、わかりました」

「あ、もう閉店の時間すね。その本買います?」

「あ、はい」

「じゃ100円ください……はい、まいど~、気をつけて帰って下さいね~」

「はい……」


 朱春はそう言って追い出されるように店を出た。10歩ほど歩いて振り返ると、そこには既に何もなかった。つい30秒前までそこにあったはずの『ウォズドフ古書』は跡形もなく消え去っていた。

 朱春はそのまま家に帰った。忠告通り本を読むのはやめておいた。

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