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第10話:編入学試験

 試験会場は大学の構内にある附属校の校舎だった。試験開始は9時40分なのだが、朱春は8時過ぎにすでに会場の前に立っていた。まだ門は開いていなかったので、周りを歩いて時間を潰す。


――8時半

 門が開いた。誘導されながら会場に向かう。案内されたのは普通の教室で、何の変哲も無い教室の机には受験番号が貼ってある。朱春の受験番号は72-019、一番前の席だった。しばらく待っていると教室は段々埋まり始め、時計の針が9時を指した頃には殆どの席が埋まっていた。


――9時20分

 試験監督の様な人が大きめの封筒を抱えてやってきた。封筒を教卓に置くとその人は黒板に文字を書き始めた。しばらくして文字を書き終えたその人はこちらに向き直って言った。


「それでは筆記用具以外をしまって下さい」


 教室にいた受験生が荷物をしまったことを確認するとその人は続けた。


「それでは黒板にも書きましたがこれから試験の説明をします。基本的にはホームページ等で調べられることなので軽く済ませてしまいますが、もし質問があれば挙手して下さい」


 そうしてごくありふれた試験の説明をした後で、その人は試験問題を配り始めた。最初の科目は魔道史だった。


「はい、試験時間は11時までです。それでは試験開始」


 一斉に紙をめくる音が聞こえてくる。朱春も同様に紙をめくり、淡々と問題を解き始めた。


――11時

「それでは試験をやめて下さい。これ以降もし許可無く試験問題および解答用紙に触れた場合、問答無用で失格とします」


 その声を合図に教室にいた全員が手を止めた。解答用紙は回収され、すぐに次の問題が配られた。


 そうして試験は進んでいき、夕方頃に筆記試験はすべて終わった。


「はい、試験やめ! これにて筆記の試験は終了です。この後は実技の試験になるので案内があるまでこの教室で待っていて下さい。お手洗い等には自由に行っていただいてかまいません」


 そう言って試験監督は出て行った。僅かに緩んだ空気が流れたが、誰も声は出さなかった。周りを見回してみると机に突っ伏していたり反対に伸びをしている子もいた。朱春も机に突っ伏した。冷たくてツルツルした机の表面が火照った頬に気持ちよい。

(結局今日も天狗と話せなかったな…………)

 しかし悪いのは朱春だ。善意で力を貸してくれた天狗に自分勝手に怒りをぶつけてしまったのだから。そんな事を考えていると扉を開けてスーツの女の人が入ってきた。


「それでは実技試験の会場に案内しますので、荷物をまとめてついてきて下さい。もうこの教室には戻ってきませんので忘れ物はしないようにして下さい」


 みんながガサガサと荷物をしまうと、女の人は次の指示を出した。


「それでは案内します。遅れないようについてきて下さい」


 そう言って歩き出した。女の人についていくとすぐに体育館のようなところに着いた。体育館の右半分ではすでに試験をしている人達がいて、羽を生やして飛んでいる人や雷を纏って凄い速さで走っている人もいた。流石は国立大の附属中学の編入試験だ。


「それではここに一列に並んで下さい」


 朱春達がその指示に従って体育館の端で1列になると、女の人は話し始めた。


「あちら側の試験が終わったらこちらの試験が始まります。実技の試験といっても皆さんの血統を判断するだけのモノですから、すぐに終わります。殆ど合否には関係ないのでリラックスしてやってください。それではもう少々お待ち下さい」


 そう言って女の人は行ってしまった。残された朱春達は体育座りで隣の試験が終わるのを待った。ボンヤリと眺めていると突然、何かの爆発するもの凄い音が鳴り響き、それに続いて強い風が吹いてきた。音のした方を見ると火柱が上がっていた。

 ザワザワとしたどよめきが広がり、ほぼ全員が不安げにその火柱を見ていた。

 すぐに何人かの係の人がその火柱に近づいて、消火器でもって吹き消した。しばらく吹きかけて火柱が消えると、火柱のあった場所には遠くからでも分かる大きな焼け焦げが出来ていた。

 炎を噴き出すような力は滅多にない才能であり、雷や水、氷などの自然の力を操る力およびその才能は総称して【原始の血統】とよばれた。風を操る力も一応は【原始の血統】の一つであったが、そよ風しか使えない朱春は自分の力を人に見せるのが嫌いだった。

 その後も度々軽めの事故が起こりながらも、隣の試験は終わった。少しすると隣から試験監督の様な人がワラワラとやってきた。一番最後の試験監督がやってくると、その人がこちらを向いて話し出した。


「それではただ今より試験を始めます。試験の結果は合否と殆ど関係ありませんのでリラックスして受けて下さい。それでは名前を呼ばれたらその試験官のところまで来て下さい」


 朱春の周りにいた人が名前を呼ばれて段々と減っていく。人がへるにつれて、それと反比例するかのように朱春の緊張度合いは上がっていった。心臓の鼓動がうるさく鳴り響き、耳も顔も緊張で熱い。手がフルフルと震えて、体が上手く動かなかい。しばらく待つととうとう朱春(ときはる)の名前が呼ばれた。


天王朱春(あもう ときはる)さん。いらっしゃいますか?」

「は、ひゃい」


 緊張で上ずった声で返事をすると、試験官に向かってカチコチと歩いて行く。試験官は40~50代くらいのおじさんだった。おじさんは柔らかく笑うと朱春に向かって言った。


「私はこの学校で教員をしている神宮(じんぐう)といいます。よろしくお願いします」

「あ、よろしくお願いします!!!」

「それではこちらへどうぞ」


 そう言って案内されたのは体育館の殆ど真ん中だった。

(どうしてこんな人目につくところで試験を受けなければならないのか、もっと端でサッサと済ませてしまいたかったのに……あぁ緊張する)

 そんな風に思いつつも試験官について行くと、かるく質問された。


「え~、天王朱春くん、受験番号72-019ですね?」

「そうです」

「どんな力が使えますか?」

「風を少しと念力が少し使えます」

「なるほど、どっちから見せていただけますか?」

「じゃ、じゃあ風からで」

「それでは的をよういするので、それに向かって風を打ってみてください」

「……はい」


 朱春はもう泣き出したいような気持ちだった。天狗がいない朱春の力なんて高が知れている。こんなに人が見ているところで扇風機の様な風しか吹かせられなかったら絶対に馬鹿にされてしまうに違いないと、そんな風に考えてもう絶望的な気分になっていた。

 しかしそんなことは試験官には関係ない。試験監督のおじさんはすぐに用意を完了するとこちらにむかって微笑んだ。


「それじゃあ始めて下さい」

「…………はい」


 朱春(ときはる)はもうヤケクソで兎に角全力でやることにした。どうせ殆ど合否と関係ないのだ。(本当かどうかは知らないが)

 開き直った朱春は掌を直系40センチ程度の的に向けて力を溜めた。

(行けえええ!!!!!)

 心の中でそう叫びながら掌に凝縮した風の塊を発射する。


――ボンッ! ビュォォオオッ シュゴォォオオオ!!!


 風の塊が的に当たると辺りに風が爆裂した。何本かの竜巻が巻き起こり、体育館の床から天井まで全て吹き飛ばした。


「…………え?」


 後ろからの視線を感じて振り返ると、教員達が展開した壁の内側から好奇や恐怖の目で朱春を見る生徒達がいた。

名目上は「血統に貴賤はない」ということになっているので、魔道の力、魔力は試験の結果に殆ど関係ないということになっています。

いきすぎた魔力至上主義を阻止するための国の方針です。

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