Episode8 : 星戦の地、少女が龍と対峙す
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月が頂点に達している。風は焔魔龍の熱が影響して、生ぬるかったり熱かったりと、なんとも気持ちの悪い雰囲気だった。
灰となって崩れた大魔樹を背に、ベル、ルフトラグナ、グランツの三人が、超危険災害級の魔龍に対して武器を構える。
「ベル、さっきの一撃……まだ撃てるか?」
「うーん、まだ力は感じるけどさっきの凄いやつはムリそう……」
「初激限定能力か……。だが奴に有効打を与えられるのはベルだけだ、もう少し頑張ってもらうぞ」
「任せといて、剣使ったことないけど!」
ルフトラグナの風魔法でふわふわと浮遊するベルは、そう言って焔魔龍に突撃していく。
「使ったこともない武器で……勇気があるんだが無謀なんだか……」
グランツはそう呟きながらも笑みを浮かべていた。矢筒から一本の矢を取り出し、焔魔龍を狙う。
「補助します! 【リヒトア・エフェクト】!」
「助かる……!」
ルフトラグナの光の加護により、グランツの矢が光を纏う。輝く矢を引き、焔魔龍の大きく開いた口を狙って放つ。
エフェクトにより射速が向上。光のスピードとまではいけないが、それでも凄まじく速い一矢が焔魔龍の口内を貫く。
一瞬だが狼狽えた焔魔龍。その隙をベルは見逃さない。
「えいッ!」
一気に接近して、右後脚、左後脚を斬り付ける。そのまま股の間を抜け、巨大な尾を下から突き刺し、強引に斬り裂いていく。
『調子に────!』
「【リヒトア】ッ!」
反撃に、尾で薙ぎ払おうとする焔魔龍に、ルフトラグナは光魔法でいくつかの弾を生み出す。それはルフトラグナを取り囲み、ゆっくりと、スロースタートで回転し始め、やがて光の輪に見えるほど高速で回転する。
そして、ルフトラグナは光輪……それぞれの弾の回転を続けたまま、その輪の中心に焔魔龍を捉える。
刹那、光輪からレーザーを放った。回転して螺旋状になったレーザーは、焔魔龍の胸部を掘削するように抉る。
『こんっ、こんな……っ! こんなことがあってたまるかッ!』
焔魔龍の喉奥が赫灼し始め、鱗と鱗の間も同じく燃え上がる。至る所から炎が溢れ、周囲の温度が急上昇する。
焔魔龍はベルを睨みながら巨大な翼を大きく広げ、空へ飛翔する。暴風が浮遊するベルを襲い、吹き飛ばされて魔木の幹に叩きつけられた。
「だ、大丈夫ですか!?」
「うっ、ちょっと強くぶつかりすぎたかも……」
「回復します……! 【ハイレント】!」
ぶつかったことで背に強い衝撃が走り、激しい痛みと共に呼吸がしずらくなったベルに、ルフトラグナは治癒を施す。
「ルフちゃん、魔法使うの上手だね」
「そんなことはないです! わたしの魔法の技術なんて、覚えれば誰でも出来る程度ですから。……だから、わたしが治癒出来ないほどの大怪我はしないでくださいね?」
「うん、努力する……ッ!」
ベルは治癒を受けて痛みが引き、立ち上がる。焔魔龍が再びブレスをチャージしていた。グランツが矢を放っているが、焔魔龍は矢が突き刺さっても気にもとめず、ベルを睨み続けていた。
『ゴォォォォォ…………ッ!!!』
まるで目の前に太陽があるかのようだった。月が霞む。
「……光」
「え……?」
「ルフちゃん、グランツさんの矢にやってた……えぇっと、リヒトアエフェクト? ってやつ、私にもやってくれないかな」
「は、はい、【リヒトア・エフェクト】───でも、どうするんですか?」
「突っ込む」
「はい!?」
ルフトラグナに手を振って、ベルは太陽に突っ込んでいく。真正面から接近してきたことに驚いたのか、焔魔龍は一瞬表情を変える。
「……! ベル! 喉上部だ! 逆鱗を穿てッ!」
「はいッ!」
『──────ッ!』
グランツの言葉を聞き、ベルは真っ直ぐ剣を突き出す。その太陽のようなブレスが撃たれても、避けようとせずに。一直線に向かう。
『ハッ! そのまま焼け死ね、恨むなら星を恨めよ人間ッ! カッハハハハッ!』
太陽に呑まれたベルに、焔魔龍は笑いながらそう言った。……その油断が生死を分けるとも知らずに。
「貫く────ッ!」
『なッ!? なぜッ! ───ッぐぅぅぅぅぅ!!?』
太陽を貫き、焔魔龍の目の前に現れたベルは、速度を維持したまま喉に金色の魔剣を突き刺し、出せる力の全てを放出する。
『ア、ァアアアッ!? まさか人間に! 殺されるなんて……ッ!! ベル……ベルッ!』
焔魔龍の生命力は高く、喉にこうして致命的な一撃を与えたのにも関わらず、悠長に言葉を発する。
『お前、これから歩む道は決して楽ではないことを覚悟しておけッ! オレの目的は達成された。精々最期までそのお粗末な剣を振るってろッ!』
「目的……? 一体何を……!」
目的が何なのか聞き出そうとした瞬間、焔魔龍 《イグニアス・グ・ロードヘル》の至る所から炎が暴発する。高熱が噴射され、魔木に次々と引火していった。
『くくくっ……ああ……お前の頭蓋を見てみたかったなァ…………』
それを最後に、猛火が、まるでロウソクの火がフッと消えたかのように鎮火し……焔魔龍は消滅した。ベルが初撃に斬った角を残して。
「やっ……た……もう、疲れちゃっ…………」
ベルは地面にゆっくり降りると、金色の魔剣を落として倒れる。そんな様子に、ルフトラグナとグランツは焦りながら駆け寄ってきた。
「ベル! 大丈……! 夫……??」
「むにゃ…………」
ルフトラグナの呼びかけに、ベルはだらしない表情で答えた。ヨダレが垂れ、ゆっくりと呼吸している。
「な……なんだ、寝ているだけか……」
「あ、焦りました……」
「まぁ、もうこんな時間だ。仕方ない。……よく頑張ってくれた、ありがとう、ベル」
グランツはベルの乱れた前髪を整え、微笑みながらお礼を伝えた。本人が起きていたら気恥ずかしくて言えない言葉を、今のうちに言っておく。
「さて、このだらしない英雄を寝床に運ぶか。ルフトラグナ、手伝ってくれ」
「はい!」
「……小屋が無事だといいんだが」
「で、ですね……」
そう言って、グランツとルフトラグナは辺りの惨状を見る。炎は焔魔龍消滅と同時に一気に弱くなってもう消えたが、焦げた臭いが充満する中、魔木がほとんど燃え尽きていた。……希望はかなり薄そうだが、一先ず、こうして命あることを喜ぼう────。
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